砂場
少年は泳いだ
乳白の海を
掻き毟って
掻き毟って
泡粒を舞わせ
泳いだ
爪は削れ
指は傷つき
それでも
乾いた砂場を
深く深く
泳いだ
少年は
少女へと
砂場を
くぐっていく
その穴と
せりあがっていく山山
夕陽なのか
血なのか
染まった砂場に
突っ立つ、少女。
第二次性徴
十二才
胸がふたつに裂け膨らむ頃
慎ましく腿は閉じて
秘部に恥じらいを感じるべき
と、知った頃
脱衣所に立ちすくんだのは
妖怪だった
摂理のためだけ
身を歪める時はくる
わたし、なんて
呼んでみれば
唇から曲線をすべり落ちる
そんな言葉
似合うはずなかったのに
穴
カッターで
身を剥ぐ
カッターで
瞼に
骨を 笑う頬に 顎に
骨を
揺れる肩に
骨を切り暴く
己の手で
カッターで
身を剥ぐ
身を剥ぐ
容姿へ闇を
突き立てるほど
明らむ骨を
美と信じた
おんなよ
半月
弦月
新月
まァんまるの穴よ
くらいくらい
ところよ
選定
死
精
精死
精死
精精死
精精死
精精精死
精精精死
精精精死
精精精精死
精精精精死
精精精精精精死
精精精精精精精精精死
精精精精精精精精精精精死
精精精精精精精精精精精精精死
受―・精精精精精精精精精精精精精精精精精精精精精精精死
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精精精精死
精精死
精精死
精精精死
精精精死
精精精死
精死
精精死
精精死
精死
精
子
月と蜘蛛、わたし
ねえ、月よ
すうはあすうはあ
陽を嗜むアンタの
だらしない吐息で
夜はぼんやり明るいよ
まァるいツラして
どこを見ているのか
知らないけど
見てくれている
そんな気がするよ
ねえ、月よ
あんな細糸なのに
蜘蛛はじょうずに編んで
蝶を括り殺すのよ
わたしは三つ編みが精一杯で
この首ならじょうずに括れるよ
ねえ、
あちこちで産声がして
わたしはどんどんいらなくなる
ひとりよりふたり
ふたりより多く
大切なのは
ひとりの幸せより数の増やし方
そうでしょ、月よ
アンタくらい輝ける星が
いっぱい飛びはじめたらきっと
アンタを見あげることは少なくなる
そんな夜は来てほしくないよ
ねえ、月よ
わたしも唯一ならよかった
この世界でアアアと泣き晴らす
わたしだけが人ならよかった
月は夜にただひとつきりでいいの
蜘蛛は巣にただ一匹でいいの
わたしは
DFD2-6
宿命
おんなを宿命されたもの
断崖から身投げする
暗潮七日
その海中へ沈みゆく
裂けるほど
腫れあがる痛みが
遠のいて
まだ
宿命は尽きずに
揺り戻された身で
浜を噛んでは
断崖へと歩み始める
おんなを宿命されたもの
黒錆の月を濯ぎ落とすまで
A
洞の暗紅にて
息吹いた芽の魚
水泳のやわやわと
ふるえ舞うほど鱗はぐれ
おもての変わりさまザマ
額を胸を腫れあげ
四肢を生やし
瓢箪のごと奇異に果て
己を何かも知らないで
忘れ去って
膨れていくのみの
誰だ おまえは
切っ先は指と鼻
何処へ向かうとも知らないで
刺し裂く穴
Aを高らかに吠えながら
生まれるのだ おまえは
生誕
光へ向いて
片や背いて
ひとつ空へゆくのに
裂けては縺れて
穴×仇=
あなたは
ひとりで空へ発つの
先は音を弾き
音は線を引き
その行方の姿を
見つけるとき
=? と返される
あなたが
それを名付けていいの
新しい星
新しい土地
そこに初めて
碑を建てるように
落ちてくるあなたを
抱き受けるまでよ
わたしは
ここでお別れ
あなたは
ひとりであっても
我々の日々を束ねた
その面影
信じて恐れず行きなさい
振り返らず
あなたは空へ
ひらひらひとひら
真っしぐらに
駆け抜けた
おまえは
父も
母も
地に
影すら残さず
真っしぐらに
駆け
双手から
つぎつぎ取り零しながら
目鼻と耳から
ぐずぐず滴り零しながら
そとへ
そのそとへ
そのそとへ
駆け抜けた
おまえからの
ひらひら、と
羽ばたくあまた
蛆虫どもよ
なにが残らずとも
生きた
それのみでおまえは
繋ぐのだ
ひとひらの蛆の
羽ばたきであっても
酒宴
金の一閃ほとばしり
瞳孔のきゅと狭まる猫
朝明け
空にはぐあぐあとぼけた声して
群れるカラスが見つめる残飯
墜ちれば黒く 葉の垂涎は蟇の背に溶け
跳ねるわ 跳ねるわ 水田曼荼羅
拍子不確かに踊るあめんぼ
ちよよっちょん
ちよよっちょん
笑い上戸 泣き上戸
雲は好き好き寄ったり退いたり
朝だ 朝だ 朝明けだ
陽を酌み交わせ
その血を 息を 水を
さかずきとして
乾杯!
乾杯!
みな様々な酔態をして
生きている、それこそが宴
未知の性
怯えおびえ暮らした
未知の性は
未知であるまま
開いてしまわないこと
霧に包まれた
住処で
ひかりとかげの境目を
知りはじめてはいけない
ここは、ここ
なにとも分かりあえず
等しく未知であること
ふたつのケイ
初経
十二歳、からだ
剥きたての爽やかな皮下の汁が
漏れる茶色くずれるわたし
もひとつ穴が増えるわたし
十二歳、沼を垂れる穴が中心のからだ
処刑
果皮のうぶを割る、包丁が
実に錆びつき
ただれ擦れあう傷から
ぐじゅと流れる種
子はみな、受刑者の首の落下の如
真下へ
青さの遥か下で
殺された処女に
よく似たその首を立て
生きるのだ、おまえは
二の彩度
毀れる穴
零れる赤