2021年5月27日

自然科学に携わる研究者からの声明

諫早湾の開門問題について和解協議で科学的な議論を


佐藤正典 元・鹿児島大学理工学域理学系教授    
髙橋 徹 元・熊本保健科学大学保健科学部教授   
堤 裕昭 熊本県立大学副学長、共通教育センター教授
(ほか、
別紙に66名と1団体の賛同者名を記載)


 諫早湾干拓の開門問題をめぐる裁判(請求異議訴訟)で、福岡高裁は4月28日に「和解協議に関する考え方」を示しました。この文書で福岡高裁は和解協議の場を設けることを提案し「紛争の統一的・総合的・抜本的解決に向け」「必要に応じて利害関係のある者の声にも配慮しつつ」「当事者双方が腹蔵なく協議・調整・譲歩することが必要」と提言しています。

 私たち、自然科学に携わる研究者は、この福岡高裁の考え方を高く評価し、さまざまな利害関係者の声はもちろん、この問題の調査研究を行ってきた研究者の声も十分に聴取された和解協議が行われることを強く希望します。

 諫早湾干拓事業の問題については、これまでに自然科学の様々な分野の学会等から干拓事業の見直しや開門調査を求める要望書が国などに提出されています。2020年に福岡高裁に提出された日本ベントス学会自然環境保全委員会の要望書では、諫早湾潮受け堤防の閉め切りが有明海の潮流に影響を与えたため赤潮の頻発や大規模な貧酸素水の発生をもたらした可能性が高いこと、また、干拓調整池からの排水が潮受け堤防外側の海域生態系に悪影響を及ぼしていることなどが指摘されています。

 このような諫早湾干拓事業と有明海の環境悪化の因果関係を検証するためには、2001年に有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会が提言したように、短期・中期・長期の開門を行い、その前後の環境の変化を比較する調査が必要です。現在、有明海・八代海の再生策を審議している有明海・八代海等総合調査評価委員会では、有明海の干潟や浅海域の保全や再生の重要性を認識しながらも、残念ながら開門調査に関する検討は行われていません。

 一方で研究者の間では、中・長期の開門調査の実施に備えて開門前のデータを蓄積する努力が続けられてきました。評価委員会の2017年報告や上記の日本ベントス学会の要望書では、諫早湾干拓事業による堤防の閉め切り以降、現在に至るまで、有明海全域の底生動物が減少を続けていて、短期開門調査が行われた2002年だけは底生動物が一時的に急増したという調査結果が紹介されています。短期開門時に一時的に漁獲が回復したという漁業者の証言も多数あり、中・長期開門は有明海の効果的な再生策として期待する漁業者も多いのです。

 むろん開門調査の実施のためには干拓地の営農者や周辺住民の理解が必要であり、準備工事や補償など課題もあります。その調整のためにも、国は開門調査を行わない方針を一旦取り下げて和解協議の席につき、広範な利害関係者の意見を聞きながら、開門調査の取り扱いについて科学的な議論を行うべきです。

 この和解協議で真摯な話し合いが行われ、開門調査の実施に向けた和解が成立することを私たちは心から期待しています。

別紙:賛同者名簿