(8:35頃開場,9:00 Opening)
9:10- 9:30 石川健太・小山貴士・田中嘉彦・大久保街亜・末木新 危機的な状況におけるテキストコミュニケーションの特徴
9:30- 9:50 樋口匡貴・三浦麻子・横井良典・中谷内一也 リスクコミュニケーションにおける統計情報と事例情報の効果
9:50-10:10 加藤樹里 感動を押しつけないで ー心理的リアクタンスが映像への感動に及ぼす影響ー
10:10-10:30 平山優花 精神疾患ラベルの知覚が、職務能力の評価に与える影響、およびその影響過程における、評価者の目標志向性の調整効果の検討
10:40-11:00 水野景子・清水裕士 Best-Worst 尺度法と多次元展開法を用いた消費者の価値観の可視化
11:00-11:20 吉川康太 親の期待は, 子どもに伝達されるか? -アタッチメント理論の視座から-
11:20-11:40 田﨑希実・竹橋洋毅 「あなたがいるから頑張れる」はどのように起こるのか?―日々の自己制御における、心のなかの他者の働きの解明―
11:40-12:00 武田俊之 教育研究を研究する
13:00-13:20 工藤大介・李楊 虫(蟲)の心理学
13:20-13:40 松井大 陸の比較心理学者、潮間帯を歩く
13:40-14:00 武田美亜 かわいい?かいたい?おいしそう?〜生きもの印象アンケート!〜 水族館内イベントにかこつけた来館者調査&科学コミュニケーション報告 (とイベント奮闘記)
14:10-14:30 山田泰司 報酬の変動性が学習戦略の変化に与える影響
14:30-14:50 畑佑美 新・習慣の心理学
14:50-15:10 小林勇輝 われわれは何を錯視と呼んでいるのか
15:10-15:30 長谷川大 協調運動精度と時間知覚(仮) ※オンライン
15:40-16:00 中田 星矢 文化進化学と社会心理学の接点について
16:00-16:20 岩田和也 ソーシャルメディアにおける罰の適切性に関する過大推測:メタ規範の多元的無知
16:20-16:40 池田功毅・平石界・齋籐慈子・菅さやか・山田祐樹 あなた好みの説得 AI
16:40-17:00 柏原宗一郎 意思決定モデルを用いた移民への攻撃プロセスの解明
17:10-17:30 国里愛彦 パンドラの箱を開ける:心理学におけるマテリアルの著作権問題
17:30-17:50 小林智之 差別研究の体系を概観する
17:50-18:10 金子迪大 迷子になったウェルビーイング研究:基盤に立ちかえり将来を見つめる
18:10-18:30 清水裕士 私たちは解釈している
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高自殺リスク者に対するメールやチャットなどを利用したオンライン相談では、利用者の即時の自殺リスク評価が難しい。そのため、危機的な状況におけるテキストコミュニケーションの特徴を明らかにし、その特徴から自殺リスクを評価することが必要である。本研究では、対人関係継続課題を用いて、自殺リスク要因である負担感の知覚と所属感の減弱を操作し、危機的な状況におけるテキストコミュニケーションの特徴を検討した。実験には大学生120名が参加した。実験の結果、危機的な状況において、負担感の知覚の高まりはテキストコミュニケーションにおける謝罪表現の増加を予測した。一方、所属感の減弱は謝罪表現の頻度を予測しなかった。これら結果は、危機的な状況における謝罪頻度は自殺リスク評価における行動的指標として有用であることを示唆しており、危機的状況におけるコミュニケーション行動の変化を理解するための一助となる。
リスクコミュニケーションにおいては,そのリスクを伝達するだけでなく,対処行動の有効性評価に関する情報を併せて提示することが有用だとされている(Sheeran, et al. 2014)。また,個人に焦点化した事例情報は,集団全体に関する統計情報よりも人の判断に強い影響を与えることも知られている(Schelling, 1968)。緊急地震速報を題材として取り上げたこれまでの中谷内・横井による研究では,「統計情報は事例情報に連戦連敗」という研究結果が一貫して得られ続けていた(例えば中谷内・横井・2024社心大会)。しかしリスク情報だけでなく有効性評価に関する情報を併せて提示した場合には,統計情報も事例情報と同様に影響を与える可能性がある。そこで本研究では,同じくリスクを伝達する緊急地震速報を題材にして,その有効性に関する情報を事例情報としてあるいは統計情報として加えた場合の効果を検討した。本発表では,この結果を報告するとともに,今後の展開についてみなさんと議論したいと考えている。
「感動の押しつけ」とは,一部のテレビ番組などのコンテンツに対して向けられる辛辣な感想である。また,「感動必須の超大作」「涙なしには見られない」などのメディアの煽り文句に対し,反発心を覚えるという消費者の感想は少なくない。制作者側は感動をもたらすことを狙ってコンテンツを作成しているだろう。しかしコンテンツの作られ方や,プロモーションの仕方によっては逆効果となり,感動を下げてしまう可能性がある。このように,感動が押しつけと感じられる条件とはなにか。研究では心理的リアクタンスの側面から,感動することの自由,何を重要な価値と感じるかを決めることの自由の阻害が感動を低減するかを検討した。本発表ではこの研究結果の報告を含め,感動の押しつけについて自由な議論を行えたら幸いである。
精神病のレッテルは、職場における職務遂行能力の評価において否定的なバイアスを発生させることが示されている。しかし、この評価バイアスが、ストレス下にある評価者の状況によって活性化される目標焦点によってどのように調整されるかは、まだ検証されていない。この研究を実施することは、精神疾患を抱えながら働く人々が、職場で適切な評価を受けながら、自己実現可能な仕事の機会を獲得し、仕事の幅を広げ、生き生きと働くための効果的な介入の開発につながる。方法は、参加者を3条件(精神疾患レッテル/身体疾患レッテル/レッテルなし)×2群(促進重視/予防重視)に分け、職務遂行能力を職場で評価される状況を想定した判断バイアス課題を実施する。これまでの差別研究の多くは、エラーのみを差別行動の指標としてきたが、本研究ではバイアスも測定し、エラーとバイアスの2つの側面から差別を検討する。
本研究では、人々の消費に関する価値観の可視化を行った。具体的には、消費において重視することとして「値段が安いこと」「フェアトレード製品であること」などの複数の項目から最も重視するものとしないものを回答させる Best-Worst 尺度法を用いて調査を行い、多次元展開法による項目の布置を行った。本手法の利点は、項目同士の距離の近さと項目の選ばれやすさを独立して可視化できる点である。その結果、非常に強い一次元性が確認され、「値段が安いこと」や「すぐ手に入ること」といった即物的な項目と、「フェアトレード製品であること」や「動物から搾取していない製品であること」といったエシカル消費は対極に布置された。また、即物的な項目は選択されやすい一方で、エシカル消費に関する項目は選択されない傾向にあった。上記の可視化の結果に加えて、Best-Worst 尺度法とリッカート法の比較および消費に関する価値観と個人のパーソナリティの関連についても報告する。
期待は, 人の行動を理解する重要な1因である。実験者期待効果のように, 期待が人の行動に及ぼす影響は広く議論されてきた。親子関係において, 親の期待は子どもの学業成績と正の相関を示すことが示されている (Pinquart & Ebeling, 2020)。一方で, 親の期待に関する研究は, 知覚された期待を扱ったものが多く, 親の期待そのものを扱った知見は乏しい。さらに, 学業以外の社会的発達において, 親の期待を扱った研究は見当たらない。よって, 本研究では社会的発達において重要な1因であるアタッチメントに対する親の期待を質的・量的に明らかにすることを目的とする。本研究では, 日本の母親に「子どもが恐怖や不安を感じているとき, どのようなことを期待しているか?」という半構造化面接を行った。その結果, 「子どもから周りに発信してほしい」という期待が最も多く見られた。本会では, アタッチメントに対する親の期待について様々な立場からの助言をいただき, 活発な議論を行いたい。
人は目標を追求している時に、ふと他者が頭に浮かぶことがある。誘惑に負けそうになった時、心のなかの他者は時に私たちを励まし、時に反骨精神をかき立てる。これは、日常でのさまざまな自己制御の局面において他者が心に立ち現れ、自己制御を強化する働きをしているといえるが、このダイナミクスはこれまで十分に検討されていない。本研究では、個人内では解消が難しい葛藤場面において、心のなかの他者が適切なタイミングで力を貸す可能性を多様な手法を用いて検討する。研究の概要としては、まず自由記述により心のなかの他者の機能を網羅的に検討した後、横断調査、経験サンプリングを用いて日常におけるダイナミクスをとらえる。今回は、研究の概要と自由記述により行う調査の結果について発表を行う。
教育実践の分析や介入において教育理論は重要ですが、体系化されていないたくさんの理論があり、同じ用語でも微妙に意味が違っていたり、用法が異なったりするので、理解するのが大変です。そこで、教育研究の論文や専門書で用いられる概念とデータ分析で使われる変数を自然言語処理の手法を使って取り出して、それらの関係を見る研究をはじめました。研究開始後にChatGPTが登場したおかげで研究計画は大きな変更を強いられましたが、長文や画像の処理や多言語データなど、可能になった分析も増えました。この報告では教育研究の研究のために用いたデータと、自然言語処理や学術情報分析の手法についてご紹介します。
前年度の爬虫類に続き今回は「虫(蟲)」である。よほどの虫嫌いでない限り,誰もが幼い頃に何かしらを飼育したり,虫捕りに興じたりしたことがあるだろう。あるいは我々の生活に害をおよぼす存在として,我々と深い関わりを持っている存在である。今回はこの昆虫,あるいは節足動物に着目をして,「虫の心理学」について皆さんと議論を行いたい。昆虫あるいは節足動物の認知能力や行動は興味深く,動物行動学や生態学の観点から研究が行われており,その中で興味深い研究をいくつか紹介していく。前年度は爬虫類における心理学研究の可能性を考えてきたが,今回は昆虫や節足動物について,心理学的あるいは行動科学的な研究の対象として落とし込めるのか,その可能性について皆さんと議論したい。ちなみに,今回の発表ではゴキブリやクモの画像・動画を登場させる予定のため,苦手とされる方は注意していただきたい。
私は比較心理学者を名乗っている。実際、所属が変わるたびに研究の対象種も変化し、扱ってきた行動もさまざまである。と、嘯いてみたものの、扱ってきた動物はすべて脊椎動物である。心理学の行動に関する諸概念が、広い動物界でどこまで通用するかには、常々興味があった。興味があると口で言うだけなら簡単だが、始めるのは中々億劫である。それに、どうせやるなら夢中になれる種を選びたい。そこで問題になるのは、私は典型的な都会っ子で、昆虫はおろかカタツムリすら触れないという弱点があることだ。しかし、水棲動物であれば意外と平気である。その中でもとりわけ、無腸動物が分類群としてもおもしろく、心を惹かれた。調べてみると、どうやら瀬戸内海の海岸に固有種がいるらしい。そういうわけで単身採取しにいき、私費で飼育・実験スペースを作ってみた。現在収集しているデータを紹介するのに加え、今後についても相談させてほしい。
2024年10月に福島県の水族館「アクアマリンふくしま」で開催された「海辺の環境教育フォーラム」の2日目プログラム「子ども海の日」の演し物の1つとして,動物に対する印象を来館者に尋ねるイベントを実施した。具体的には,カワウソ,シーラカンス,アザラシ,チンアナゴの4種について,「かわいいと思うか?」「家で飼ってみたいと思うか?」「食べてみたいと思うか?」の3問に対し,「思う」か「思わない」の二択でシールを貼って投票してもらった。ここで得られた印象「調査」の結果を報告する。併せて(というよりこちらがメインかも),あわよくばデータを取りつつ科学コミュニケーション的なこともできないかと目論んで実施した今回のイベント発案から企画実施までの経緯と顛末を紹介する。
動物が相互作用している環境は常に変化しうる。この変動性の程度に応じて,適応的な学習戦略は異なるため,今どれくらい環境が変化しやすいのかを推定し,それに応じて学習に関わる内部システムを調整する必要がある。本研究では,ヒトを対象とした選択課題において,報酬がどれくらい速く変動するかを操作し,それに応じてヒトの学習戦略がどのように変化するかを調べた。特に,反射的な意思決定につながる単純な報酬の履歴に基づいたモデルフリー学習戦略と熟慮的な意思決定につながる行動と結果の関係性を利用するモデルベース学習のバランスがどう変化するのかに着目した。結果として,報酬の変動が速すぎず遅すぎない場合に,ヒトはよりモデルベース学習戦略に偏重した意思決定をしていることが明らかになった。この結果は,報酬の変動に対して学習戦略を動的に変化させることで,より最適な意思決定をするシステムが備わっていることを示唆している。
住み慣れた家の鍵を開けるとき、右に回すか左に回すか、手に意識を向ける人はそうそういないだろう。このように、習慣はとくに意識を向けることなく行動を遂行することを可能とし、私たちの日常を支えてくれている。このような習慣像の始まりを特定することは難しいが、ウィリアム・ジェームズの時代まで遡ることができ、現代においても広く研究者間で受容されている。しかし、そこには暗黙の仮定が置かれている。例えば、「習慣とは刺激によって駆動される」や、「習慣化にともない行動が固定化されていく」といった仮定は、常識に基づいた社会的な合意であるといえる。しかし、最近の学習心理学の知見は、これらの仮定と必ずしも整合的ではない。こうした新たな知見と、従来の習慣像との乖離は、習慣をどのようなものとして捉えるべきか、私たちに再考を迫っているだろう。本発表では、心理学における習慣の歴史から最新の学習心理学における習慣の知見を紹介し、新たな習慣の描像を描くことにチャレンジする。
実験心理学において、錯視は代表的な研究テーマの一つである。錯視は多くの場合、「物理的現実と知覚表象の乖離」として定義づけられるが、この定義は適切だろうか。このような定義に基づくと人間がX線を知覚できないことも錯視ということになるが、これは一般的な「錯視」という言葉の用法と明らかにマッチしない(Todorovic, 2020)。この問題に対処するために、錯視を「感覚情報と知覚表象の乖離」と定義づけることも可能であるが、この定義のもとではマクスウェルのスポットや色立体視の現象などを錯視と呼ぶことができなくなる可能性がある。本発表では錯視の定義についての先行の議論をいくつか紹介しながらこの問題の難しさについてお話しし、オーディエンスとの活発な意見交換を行いたい。
本研究では、協調動作の精度低下が時間知覚に与える影響を検証した。2つの実験を通じ、フィードバック遅延との動きを用いて動作精度を操作し、時間評価タスクを実施した。結果では、協調動作の誤差が時間知覚の誤差に有意な影響を与えることが示された。パス分析により、動作精度の低下が時間知覚に影響を与える経路が確認された。この知見は、協調動作の正確性が時間知覚に直接影響を与えるという仮説を支持し、運動制御と時間知覚の関係性に新たな視点を提供するものである。今後、実際の協調場面での検証や運動軌道修正タイミングのモデル化など、さらなる研究が期待される。これらの成果は、リハビリテーションプログラムの改善やより直感的なHMI設計など、人間の協調行動に関わる応用分野での革新的アプローチにつながる可能性がある
文化進化学と社会心理学の接点について議論する。文化進化学は、人間の文化を進化のプロセスとして捉え、進化生物学のツールを文化の変化の研究に応用している。このアプローチは、多くの社会心理学的現象を説明し、多様な社会科学研究の橋渡しを可能とするものである。社会心理学は、経験的に検証された、同調バイアスやデモンストレータに基づくバイアスなどの文化進化の基礎となるプロセスに関する知見を提供している。さらに、伝達連鎖法や入れ替え法といった社会心理学の実験的手法は、文化の伝達と変化に関する仮説のシミュレーションと検証に用いられている。ずっと学際的な研究に従事してきた発表者が、自分の研究のアイデンティティを模索しているという話でもある。
ソーシャルメディアでは、論争性の高い話題に迂闊に触れ少しでも「不適切な」発言をすると「過剰な罰(侮辱や誹謗中傷など)」が与えられるという恐れがあり、それによって率直な意見表明や生産的な議論が抑制されていると言われている。一方で、先行研究では過剰な罰を行使・支持する人は実際には極少数であることが示されており、罰の認知に関して実態と認知とのギャップが生じている可能性がある。そこで本研究では、罰の適切性を規定するメタ規範に多元的無知が生じていると予測し、調査を実施した。調査ではX(旧Twitter)の投稿を模した刺激(「不適切」とされる発言に対して「過剰な罰」を行う投稿)を提示し、その罰に対する参加者評価、および、「ソーシャルメディア上の他者が下す適切性判断」に対する推測を測定した。その結果、「ソーシャルメディア上の他者が過剰な罰を支持する程度」が過大推測されていることが明らかとなった。
深層学習心理学?なにそれ?おいしいの?と思っているみなさんに誰得なお知らせです。陰謀論者の信念も、大規模言語モデル (LLM) と個々別々に対話してもらうと、説得を通じて変えることができることが分かりました (Costello, Pennycook, & Rand, 2024. Science)。というわけで、うちでもプレレジ追試から、トピックの一般化、説得文ベクトル幾何学の調査、個別性の理論化など、色々やる皮算用中。さらには業界での応用先から民主主義の危機まで、机上の大風呂敷で議論します。
本研究は、脅威下において人々がなぜ移民に対して攻撃行動するのかを、攻撃の実験ゲームを用いて検討する。先行研究の先制攻撃ゲーム (Simunovic et al., 2013) をベースに、利得構造をシンプルにした新たな攻撃ゲームを作成した。このゲームでは、お互い攻撃しないことが最大の利得を得られる状況であるが、相手から攻撃されるかもしれないという脅威を感じると攻撃に及ぶ。本研究では、移民に対して攻撃が生じるのかの検討を行う。さらに、実験操作による攻撃動機の切り分けと、Ackerman et al. (2016)を元に意思決定モデルを導出し、脅威とスパイト動機どちらによって攻撃に及ぶのか明らかにする。
心理学では,質問紙,認知課題,生理指標など多種多様なマテリアルが開発され研究に用いられている。研究の発展を考えると,先行研究で用いられたマテリアルを用いて後続の研究が行われたり,さらにマテリアルの洗練化がなされる循環が期待できる。しかし,著作権者がマテリアルについての著作権(に関連する各種権利)を主張した場合に,これらの循環が瓦解する可能性もある。本発表では,心理学におけるマテリアルの著作権問題について整理したうえで,今後心理学において醸成していけるとよいであろう文化について議論したい。
本発表では、心理学領域における差別研究を、書誌情報分析に基づいて整理した結果を報告する。差別は古くから多くの関心を集めており、心理学、社会学、経済学、医学、哲学など多領域で注目される。しかし、研究においては、差別、偏見、ステレオタイプ、スティグマといった異なる用語が領域ごとにばらばらに用いられ、一貫性がない。また、近年では社会的あるいは学術的な関連の高まりとともに、マイクロアグレッションや構造的差別といった新たな概念も出現している。このような多様化する研究に対応するため、いまいちど研究体系を整理する。ここでは、米国心理学会と関連団体に関わる論文データベースのAPA PsycArticlesを用いて、包括的に書誌情報を収集した。
近年ウェルビーイングやポジティブ心理学という言葉を日本においてもよく聞くようになった。心理学においてウェルビーイングは40年前から、ポジティブ心理学は25年前から研究が行われてきた。また哲学においては2000年以上前から研究が続く古くて新しいトピックである。過去数十年間で欧米を中心に多数の研究者が参加し、実証研究が数多く行われてきた。一方、「ウェルビーイングとは何か」という定義に関しては必ずしも合意が取れておらず、各研究者が自分の考えるウェルビーイング概念を提唱し測定している。そのため「ウェルビーイングが高い/低い」というときの情報量は少なく、混乱をもたらしている。このような研究慣行に対しては度々批判が行われているものの、ウェルビーイングとは何かという適切性の実証研究は難航している。本発表ではこの課題の現状について説明したうえで、解決するための糸口について参加者とともに議論したい。
共同性基盤意味論について当日までになにか思いつくだろうと思ったのだけど、小粋なアイディアは出てこなかった。その代わり、心理学、とくに命題的態度を扱う心理学がどのように心を考えているのかについてあーだこーだと考えることとなった。社会心理学をはじめとする命題的態度を扱う心理学は、実験によって行動のメカニズムを明らかにしてきたが、それは本当に心の法則性なのだろうか。本発表では命題的態度の消去主義という哲学的立場を紹介し、命題的態度を使う心理学が行っているのは解釈主義的アプローチであることを論じる。そして、「これもとても美しいことだと思う」と言いたい。