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MRIの原理(要点のみ)
本稿では多数あるMRIの原理を解説するテキストやWebPageと重複した説明は行いません。学生諸君がMRIについての勉強を始める時にしばしば混乱の原因となる事項を整理しながら成書にはあまり書かれていない観点から要点のみを説明します。この解説により全体像を把握した上で、MRI(magnetic resonance imaging;磁気共鳴画像法)の原理を本格滴に勉強したい方は成書へと進んでください。
MRIはNMR(nuclear magnetic resonance;核磁気共鳴)現象を使って対象物の断層像を得る非破壊検査です。NMRの原理の説明には古典力学に基づくものと量子力学によるものがあります。この2通りの説明方法は全く次元の違う話です。それぞれの説明の目的が異なりますが、しばしば一つの説明の中で併用され、却って理解の妨げに成ることがあるようです。古典力学の説明は、磁気共鳴現象を観測する時に実際に信号として観測される指標である緩和時間を視点として、信号の発生原理を古典力学の言葉を使って実際に我々が視覚的に確認できる現象として比喩的に説明しようとする便宜的な方法で、実際に古典力学で説明されるような現象が起きているわけではありません。いわば、ブラックボックスを操作するインターフェイスの部分のみの解説のようなものです。量子力学による説明が本来の説明になりますので、物理学の基礎を勉強された方は量子力学による理論を先に勉強された方が理解が早いでしょう。そもそも一般ユーザーにとっては画像を得るための撮像条件や装置設定が妥当にできるようになることが理解の目的ですので、実際に画像のコントラストを形成する緩和時間を中心とした便宜的説明が分かりやすくそれで、多くの場合、足りますので古典力学を拝借した説明が用いられます。
さて、ここで用語の整理をします。まずNMRという言葉が一番最初に使われるようになりました。その由来は観測する現象が核スピンのエネルギーの吸収と放出であるからです。核スピンは量子数という単位で表現され、量子数がいくつであるかによって磁気共鳴現象を生じるか、否か、具体的にどのようなエネルギーの吸収、放出のパターンを生じるかが決まります。出入りするエネルギーは物理的には磁気モーメントの持つ角運動量と説明され、その大きさは段階的に変化し連続的なものではありませんが、そのような性質を量子化されていると表現します。このような現象は原子核(atomic nucleus, nucleus)レベルで生じていますので、原子核の持つ磁気モーメントの応答、という意味でNMRと呼称します。初期の頃は、NMR現象を利用したイメージングの方法を「NMRI」と呼称しました。しかし、4文字よりも3文字の方が語呂がよいことと「核」という用語を電離放射線と強く結びつける誤解が定着してしまったたという事情を踏まえて、NMRを「MR」と言い換えるようになっています。つまり、NMR(核磁気共鳴)とMR(磁気共鳴)は全く同義語です。その結果、医療機器装置に関わる一般向け用語としては「MRI」が一般的になりました。「MRI」とは(核)磁気共鳴を利用してある物体の内部に分布する観測核(通常は水素原子核)の分布を測定し、断層画像として表示する方法を意味しますが、そのような画像を生成する装置(MRI装置の略称)の意味で用いられる場合もあります。同様に「MR装置」は「MRI装置」と同義語になります。以下の説明では、画像そのものを意味する場合には「MR画像(MR Images)」、撮影装置は「MR装置(MR Scanner)」、画像を得る方法である「MRI」と区別して表記することにします。
人体の構成成分を化合物の重量で大別すると水が60%、蛋白質18%、脂肪18%、鉱物質3.5%、炭水化物0.5%とされていますが、この成分比には若干の個人差、年齢差があります。組織別(成人男性)では筋組織40%、内臓・神経組織24%、骨組織18%、脂肪組織18%が目安です。水素を観測核とする通常のMR画像における信号の発生源としては、生体内では水素原子核の大半が生体の60%を占める成分である水(H2O)由来の信号の中心をなしています。水以外の分子に含まれる水素原子核からも信号が発生しますが、水以外の成分から発生する信号の減弱速度が水よりも相対的に速いため、実際に観測される信号強度は水素の原子核密度よりも弱くなります。MR信号の減弱速度の指標を緩和率(relaxation rate)、その逆数を緩和時間(relaxation time)と呼び、通常は感覚的にわかりやすい緩和時間が用いられます。この緩和時間には縦緩和時間(T1)と横緩和時間(T2)がありますが、この2つの緩和時間はお互いに独立(幾何学的には直交)しています。観測される信号強度はこの2つの緩和時間の両方に従います。MR信号強度を決定する3要素は水素原子核(プロトン原子核 *1)密度(proton density / PD)、縦緩和時間、横緩和時間です。
このMR信号強度の3要素により人体の構造は自由水、細胞・組織水、脂肪のMRコントラストの3成分で表現されます。つまり、緩和時間の影響を受けるMR信号は水分子由来の信号であってもその水分子が置かれている環境によって緩和時間が異なるため、細胞を基本単位とする生体構造を描出されます。自由水の代表は脳脊髄液です。血液も自由水を多数含みますが、流れがあり常に移動しているために通常の撮影条件では信号が検出できないので(信号は発生しているが検出されない)、極めて遅い血流でない限り血管は黒く抜けて描出される。脂肪は一つの分子に多くの水素原子を含むが、共有結合により炭素原子と強く結合しているため、緩和時間が短くなります。生体内の脂肪成分は細胞膜と細胞内の脂肪滴に分布しますが、生体の構造としてコントラストを形成するのは脂肪組織(皮下組織、骨髄組織と内臓内外の組織組織が代表)。細胞膜もMR信号の一部となりますが、神経細胞(繊維)以外ではコントラスト形成への寄与は限定的です。骨組織のカルシウムと空気(副鼻腔や消化管内)はプトロン原子核を含みませんので信号を発生しません。
*1 プロトン原子核 物理学で「プロトン」とは陽子を指し、化学では水素イオンを意味する。MRの分野では(軽)水素原子核の意味で「プロトン原子核」という呼称が用いられる。水素の原子核は陽子1個から成り立つため実態として同じものである、化学の分野でNMRが分析装置として広く用いられるのでもとから化学系のユーザーが多かったこと、特にMRによる生体系では水素が観測核とされる場合が多いこと、などの理由による。他の観測核に対してはCarbonやNatriumなど、それぞれの原子の学名が用いられるが、水素原子についてはHydrogenではなく「Proton」が用いられる。MRコントラストの3成分の中で最もプロトン原子核密度が高いのは脂肪であり、次いで自由水、細胞・組織水の順になるが、実際に観測される信号強度は緩和時間の効果が乗算される。
MRによる臨床画像検査の約半数は脳神経系が占めており、工学的な研究に利用されるMR画像の多くは脳画像です。脳画像には眼(視覚器)や耳(聴覚器)などの感覚器も含まれ、これらも神経組織の一部ではありますが、脳画像の大半は中枢神経系の細胞群から成り立ちっており、何種類の細胞が含まれます。その中で情報処理を行う神経細胞(Neuron)は信号を出力する軸索(ひとつの神経細胞に1本のみ)と呼ばれる突起が他の神経細胞と繋がり神経回路を形成します。神経回路内でやりとりされる信号は軸索の細胞膜にあるイオンチャンネルで波及的に発生する電位の変化(脱分極)です。その伝導速度を加速するために、軸索の表面には特別なカバー(髄鞘、ミエリン)が形成されていますが、このミエリン(シュワン細胞とオリゴデンドロ細胞の2種類の細胞からなる)はリン脂質であるスフィンゴミエリンを大量に含みます。多くの軸索が束になっている白質では脂肪由来のMR信号が強く反映されます(T1強調画像では強い信号領域となります)。その結果、脳のMR画像では神経細胞の本体が集まる皮質構造(灰白質)と神経線維の束(白質)が明瞭なコントラストを形成します。
皮質以外にも神経細胞が集まっている構造体が大脳の深部にや中脳に存在します。そのような大脳深部の神経細胞構造を基底核と称しますが、この基底核は大脳皮質とは異なった信号強度を持つ部分があります。これは、強磁性体である鉄などの鉱物成分(ミネラル)を多くふくむために生じる現象です。強磁性体が存在するとMR信号は急速に減弱し、見かけ上の緩和時間(横緩和時間)が短くなります。この現象は磁化率効果と呼ばれ、強磁性体の影響により各スピンが受け取ったエネルギーが放出される時に生じる信号のコヒーレンスが低下するため、検出可能な信号強度(信号総量)も低下するからです。
MR画像を「撮影」するという表現がなされます。この言い方はもともと投射像としてのレントゲン検査(X線撮影)から画像診断が始まったため、像の撮影という現場の発想がそのまま当てはめられているからです。X線撮影の方法が進歩して 線源から一定距離にある平面に焦点を絞った断層画像という方法が開発されました。その後、しかし、MR画像の生成は「撮影」というよりも画像を出力とする計測(画像計測)と表現した方が適切でしょう。本稿では、いわゆる「撮影」とは区別する意味で「撮像」と表記しています。撮像(MR画像の収集)過程ではデータ収録では高周波(電磁波)を使って条件を変えながら繰り返し測定を行い、信号源の空間的分布を計算により推定し可視化するという作業を行なっています。MRの撮像は特徴量を可視化する画像計測の一種と言えます。
MR装置は形状的には円筒型の測定空間を持つ通常型の装置と手術やMR透視下処置を行なうこともできる開放型の装置に大別できるが、基本構造は同じです。MR装置は以下のサブシステムにより構成されます。
a. システム制御部: 制御用計算機は、測定用パルス(pulse sequence)の発生、信号の取り込み、データの再構成・保存などの制御機能に加えて、被検者を載せる寝台の操作、シムコイルの調整、各サブシステムの監視、画像の後処理などの機能を持つ。パルスシーケンスは、ラジオ波、傾斜磁場の発生、MR信号の受信などの時間制御を行なうアルゴリズムであり、その定義により発生するMR信号(画像)に含まれる情報が決定される。
b. 静磁場発生装置: 超電導磁石または永久磁石が用いられる。超電導磁石は通常は0.5〜3Tの静磁場強度であるが、研究用では7T以上の強度を持つ装置も用いられる。静磁場の不均一性を補正するために補助コイル(シムコイル)を装備する。超電導材料としてはNb-Tiが用いられるが、高温超電導線材が用いられた装置もある。超電導磁石の内部に傾斜磁場コイル、送受信用コイル、シムコイルなどを一体化したユニットを差し込みその内部に被検者を横臥させるための寝台が設置される。周囲への漏洩磁場を抑制するために最外層コイルの電流を逆むきにした(アクティブシールド)超電導磁石が普及しており、撮影室の磁気シールド工事は不要になってきた。しかし撮影室の電波シールドは必要である。
c. ラジオ波発生装置: パルス波形発生装置で発振、位相選択、振幅変調を行い、ラジオ波増幅器を経て送受信用コイルにラジオ波が供給される。静磁場に対して垂直な平面に与えられる共鳴周波数を持つ回転磁場を発生させる。パルス系列の定義により、核スピン励起パルスのエネルギーとスライス選択特性が決定される。3TMR装置ではプロトン原子核の共鳴周波数が128MHz付近になり、超伝導マグネットが実際に発生している静磁場強度に合わせて検出されるMR信号が最大になるように中心周波数を微調整して撮像を行う。
d. 傾斜磁場装置: 傾斜磁場装置は静磁場に対してごく小さい線型の磁場勾配(xyzの3方向)を発生させ、MR信号に対して位相エンコードおよび周波数エンコードを行い、信号の発生源であるスピンの位置情報を与える。画像の生成以外にも一次シム、あるいは、拡散や移動するスピン由来の信号の強調、量子遷移の選択などの用途がある。傾斜磁場の高速の切替えを行うとコイル系統やその周辺の金属内に渦電流が発生し画像やスペクトルが劣化するが,発生した渦電流を誘導しその影響を相殺して(シールドグラディエント)その影響を抑えている。傾斜磁場装置の性能は傾斜磁場の最大磁場強度(mT/m)をその最大立上り時間で除した値であるslew rate(mT/m/ms)により表現される。
e. 送受信コイル(RFコイル): 観測周波数において電気的に共鳴し、高周波磁場を発生させるLCR回路である。送信用コイルと受信用コイルを兼用する場合と独立にする場合がある。兼用の場合はkVレベルに達する送信ラジオ波に対して受信されるMR信号はμV以下のオーダーであるため、受信系回路を保護するためにTRスイッチと呼ばれる回路を用いて電気的に送受信回路を分離する。送受信用コイルが独立の場合はコイル間の磁気的カップリングを防止する(デカップリング)必要がある。送受信コイルの形式としては表面コイルやバードケージ型コイル、鞍型コイルなどがあるが、最近はSN比を向上させるために多連式コイル(Phased Array Coil)を使った並列撮影(Parallel Imaging)が普及した。
実装形態としては、傾斜地場コイル、シムコイル(常伝導)、躯幹用送受信コイル(Body Coil)は一体構造として組み立てられ、静磁場を発生する超電導コイルの中に差し込まれる。頭部や躯幹部の高分解能撮影を行う場合は、受信コイルを撮影したい人体の部位に合わせて配置するが、送信はBody Coilで行う場合が多い。頭部用コイルでは送受信兼用になっている場合もあるが、メーカーの仕様による。
f. 受信部: 前段増幅器(プリアンプ)は、受信用コイルに可能な限り近づけて設置し、μV程度であるMR信号のSNを充分高め、長い導線を経て受信回路に至る前に信号が劣化することを防ぐ。ついで、受信した信号を一定周波数と合成し、検波に適した中間周波数に変換し、位相感知検出器により数10kHzの低周波に変換する。その信号をデジタルに変換した後、フーリエ変換を行い画像やスペクトルを得る。
g. 画像生成原理: 上記のようなハードウェアを使ってMR画像を収取するための操作を行うが、この操作には励起(RF送信系統)、エンコーディング(変調、傾斜地場系統)、検出(受信系統)の測定パルスの3要素からなるアルゴリズム(pulse sequence)が定義されており、そのコードが撮像を始める時にシステム制御部のCPUにダウンロードされる。様々な測定パルスが開発されているが、90度パルスにより励起を行なった後に180度パルスによりMR信号を再収束させるスピン・エコー法の系統と傾斜磁場の反転によるグラディエント・エコー法の系統に大別できる。画像の生成はフーリエ法に基づく。データ収集期間(受信回路の開放中)に加えられた傾斜磁場は位置に対応した共鳴周波数の変化をその傾斜磁場方向に与える(周波数エンコード)。一方、励起パルスとデータ収集期間の間に加えられた傾斜磁場は位置に対応した位相変化を傾斜磁場方向に与える。その傾斜磁場強度を段階的に変化させながらデータ収集を繰り返す(位相エンコード)と、位置に対応した割合で位相シフトが生じる。x軸方向をデータの時間軸とし、y方向を位相エンコードステップとした2次元データに対して2次元フーリエ変換を行なうと実空間上のMR信号の発生源が2次元分布として得られる(再構成画像)。位相エンコードをz軸方向に拡張すれば3次元撮影(データ収集)になる。
MR装置を構成するサブシステムの中で、静磁場発生装置、ラジオ波発生装置、傾斜磁場発生装置はそれぞれMR信号を発生させるために異なった種類の磁場を発生させます。それぞれの磁場(静磁場、ラジオ波、傾斜磁場)とMR装置の発生する撮影音の4種類の物理量の安全基準が国際規格(IEC規格)に定められています。
静磁場(static magnetic field, B0)の例としては掲示板などで書類を留めるために用いられる磁石(マグネット)が鉄などを吸引する作用が代表的ですが、一言で言えば静磁場とは「時間的に変動しない磁場」です。時間的には変動しませんが、静磁場の発生源からの距離によって変動し、その強さと方向は磁束密度ベクトルで表現されます。IEC規格ではヒトに対する静磁場強度は
ラジオ波(radio frequency magnetic field, RF磁場, B1)は電磁波の中で通常10~500MHzの周波数帯(高周波)がMR装置に用いられます。ラジオ(FM)放送の周波数帯域を含むためラジオ波という用語が用いられますが、回転磁場(rotating magnetic field)とも呼ばれます。ラジオ波を照射してMR信号を発生させるためには核スピンの回転速度(ラーモア周波数)に一致して励起エネルギーを与えると最も励起効率がよくなります。回転磁場は送信コイルにかける電圧を振動させる(振動磁場)ことにより生成されます。古典力学的には、実験室座標系で見ると静磁場の方向(Z軸)に垂直な回転磁場によりRF磁場を追いかけるように球面(ブロッホ球面)上をらせん軌道を描きながらXY平面へ磁化は倒れていく、回転座標系では磁化はブロッホ球面上を最短距離でXY平面へ倒れていくことになります。ラジオ波の出力はIEC規格により
傾斜磁場(gradient magnetic field)はMRを使ったイメージングの分野で用いられる用語で、元々は勾配磁場という用語が用いられていた。空間的な磁束密度の変化を一般的に意味する磁場勾配(magnetic field gradient)と区別する意味で情報のエンコーディングを目的として人工的に作り出される線形勾配を持った磁場を傾斜磁場と表記する方が混乱が少ないであろう。静磁場(B0)はシムコイルを用いて可能な限り撮影領域内の磁束密度が均一になるように調整されるが、傾斜磁場はその空間内に一定の時間(ナノ〜ミリ秒単位) に対して、ある方向に関して小さく(線形に)変化する磁場を重ね合わせて磁場強度に勾配をかけて、MR信号に位置の情報を付加している。このとき用いる磁場を(線形)傾斜磁場という。この強さによりスライス厚・FOVの大きさなどが決定される。実際は、パルス状に傾斜磁場が印加され、その波形の精度や励起される渦電流が画質に影響する。スライスの選択・位相エンコード・信号の読み出しに用いる傾斜磁場をそれぞれ、スライス選択磁場勾配・位相エンコード磁場勾配・読み出し磁場勾配とよぶことがある。単位は、単位長さあたりの磁場強度の変化量(mT/m)である
MR画像を扱う場合に「3D画像」とは、3方向全てにエンコーディングがなされた(3D撮影された)場合を意味します。2方向のエンコーディングにより得られた断面を重ねてボユームデータにしても、そのデータは2D画像です。つまり、MR画像では2Dか3Dかは撮影方法で決定され画像の表示方法は関係しません。3D撮影の利点はすべての方向に高分解能の情報を持っていることです。2D撮影ではある断面と隣の断面間の情報の一部が失われますので、エンコーディングをかけていない方向を含んだ画像表示では構造が不鮮明になります。3D撮影では任意の方向に画像表示を行っても同様の高分解能画像になります。しかし、3D撮影はエンコーディングの回数が多くなるためより長い時間を要します。
MR画像はその撮像方法(測定パルス系列の種類)によりどのような特徴が撮像対象から抽出されるかが決定されます。実際の測定では多くの条件が設定されますが、その中で画像の性質を決定する最も基本的なものは励起パルスを加える時間間隔( repetition time,TR)と励起から信号発生までの時間(echo tie, TE)です。T得られる画像はRとTEに依存してそれぞれの緩和時間(T1 / T2)をより強く反映するかが決まります。回転座標系(古典力学)で説明すると、TEは x-y平面(横緩和)内の調整を, TRはz方向(縦緩和)の調整に相当しますが、基本は1)TRを短くするとT1の差が強く反映される、2)TEを長くするとT2の差が強く反映される、の2点です。ここで注意していただきたいのは、あくまでも緩和時間の「差」が画像コントラストとして強く表れるという点です。
このように、TRとTEの調整によりMR信号の3要素のそれぞれがどの程度反映されるかが決定されます。MRコントラストの3要素はこのMR信号の3要素の特徴に基づいています。脂肪はT1が短く、自由水はT2が非常に長くなります。細胞水はその中間に位置し、細胞内の状態により様々な環境に置かれた水分子由来の信号が、その環境を反映したT2を示しますが、T1にはT2ほど明瞭な違いは生じません。つまり、細胞の変性や破壊、異常なタンパクの生成を生じる病的な状態は主にT2強調画像で検出されます。一方で、生体内の組織構造は脂肪組織の分布が手掛かりになりますので、生体内の構造変化はT1強調画像でより明瞭に分かります。このようにしてT1強調画像とT2強調画像を使い分けます。よくT1画像、T2画像と言われますが、正確にはT1強調(T1W)画像、T2強調(T 2W)画像になります。組織の緩和時間そのものをマッピングした真の意味でのT1画像やT2画像を得ることもできますが、T1やT2は信号減衰の時定数ですから緩和曲線を算出するためにはTE、TRを変えた撮影を何度か行なって近似曲線を作成しなければなりませんので、検査に非常に時間がかかるため実用的ではありません。T1/T2強調画像で必要な情報は十分に得ら緩和時間画像でなければ分からない生体内の情報がほとんどありませんので、特に臨床診断の目的では緩和時間画像はほとんど作成されることはまずありません。
MR画像は撮像方法によりMR信号の3要素(T1/T2/PD)に反映されるプロトン原子核が置かれている環境状態を指標として生体内の分子生理的な異なった特徴抽出を行なった結果を可視化したものであることが分かります。そのプロトン原子核が示す緩和現象に反映される情報は、1)そのプロトン原子核を含む分子構造とその中でのプロトン原子核の位置(生体物質のそれぞれが)、2)その分子が周囲とどのような関係にあり(どれぐらいの自由度を持っていて)、3)どれぐらいの量が存在するか、とまとめることができますが、この生体物質情報の3要素がそれぞれMR信号の3要素(T1/T2/PD)に反映されていると考えてよいでしょう。以上のような理由により、T1強調画像の用途は主に脳の構造解析、T2強調画像は病変の検出になります。
実際のMR撮像ではT1強調画像の撮影には高速化された3DのGradient Echo法(SPGRやMPRAGEなど)が、T2強調画像にはFast Spin Echo(FSE)法が用いられます。また、T2強調画像の変法としてfMRIに用いられるEcho Planar Imaging(EPI)法とT2時間が非常に長い自由水の信号(脳脊髄液や嚢胞内の貯留水など)のみを消去するFluid Attenuated Inversion Recovery(FLAIR)法があります。
緩和時間は観測核を含む分子内におけるプロトン原子核の「可動性」により決まりますが、特に生体内では同じ分子内に含まれるプロトン原子核であっても、その分子が存在する環境(その環境によって分子が受ける影響)により緩和時間が変わって来ます。特に、水のような小さな分子では分子間相互作用の影響が強く反映されますので、自由水(周囲に蛋白が存在しますので完全な自由水ではありませんが)と細胞内の水分子では分子間相互左表で緩和時間がか決まりますが、脂質のような高分子に含まれるプロトン原子核の緩和時間はむしろ分子内構造による影響で緩和時間が決まります。
生体組織レベルでは、同じ組織であっても存在する部位により緩和時間が微妙に異なります。脳組織では、前頭葉と後頭葉で緩和時間が異なりますし、成長や加齢による変化も見られます。生体内で緩和時間に影響を与える大きな要因は鉄や銅などのミネラル成分で、微量であっても強い影響を与えます。温度やPHによる影響もありますが、生体では温度やPHが大きく変わらないように恒常性を保つシステムが常に作用していますので影響は限定的です。MR装置の点検や調整を行う時に使用するファントム(人体模擬模型)には、生体の緩和時間に近い値を持つ溶液(硫酸銅溶液)を調整して用います。ゲルもファントムとして使えますが、経年劣化を生じますますので、特に調整したい場合以外はあまり用いられません。分子構造の安定したポリマーを使った製品が市販されています。
MRの撮像手続き、つまり観測核(通常はプロトン)の分子生理環境からの特徴抽出は測定パルス(pulse sequence)に定義されますが、その働きはフィルタ処理の一種です。測定パルスには励起(RF送信系統)、エンコーディング(変調、傾斜地場系統)、検出(受信系統)の測定パルスの3要素が定義されていますが、プロトン原子核の位置情報はラジオ波と傾斜磁場により操作されます。画像の再構成は傾斜磁場で加えられた条件を基にしたデコーディング処理に相当し、取り出される情報は信号源の位置情報になります。ラジオ波は励起される断面の選択と傾斜磁場によるエンコーディングの補助が役割です。位置情報にはスピンの空間的な移動も含まれ、その情報を特異的に取り出す方法が拡散強調画像(Diffusion Tensor Imaging. DTI)やMR血管撮影(MRA)などです。
MR装置で使用される送受信用コイルはラジオ波の送受信を行うアンテナになります。アンテナには感度分布に基づく指向性がありますので、その意味ではある程度の方向についての情報は分かりますが、MR画像を生成する直接の情報としては使われていません。傾斜磁場による位置情報の検出には周波数エンコーディング(frequency encoding)と位相エンコーディング(phase encoding)の2通りの方法がありますが、周波数エンコーディングは1方向のみに使用可能ですが、位相エンコーディングは多次元的に使用可能です。観測核の位置情報は全て受信される信号の位相情報から推定されます。この点が検出器が直接位置情報に対応しているX線CTと根本的に異なります。
スピンエコー(spin echo, SE)やグラディエントエコー(gradient echo, GRE)など、測定パルスには「echo」という用語がしばしば用いられます。このエコーとはMR信号の持つ位相を操作することによりMR信号強度を可能な限り維持しMR信号のS/Nとデータ収録速度を向上させる方法です。SE法では180度パルスにより、GRE法では傾斜地場を使った操作により位相調整を行います。観測核にエネルギーを与える励起パルスとエコーを発生させる180度パルスの間隔がエコー時間(echo time, TE)です。
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