基礎物理用語の整理
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ゼーマン分裂
核スピンを有する物質に静磁場を加えるとエネルギー順位の分裂を生じ、これをゼーマン分裂という。分裂幅に等しいエネルギーの電磁波(ラジオ波)の照射によりその核は上の順位に移る。この電磁波吸収による変化を観測する方法が核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance、NMR)である。
測定パルス(パルス)
核スピンの持つ磁化方向を変えるために短時間照射する共鳴周波数(共鳴周波数近傍の周波数) の電磁波を測定パルスという。測定パルスが磁化方向を変化させる大きさをフリップアングル(flip angle、FA)という。静磁場方向 (Z軸方向、縦方向)から90度向き を変える パルスを 90度パルス、磁化を反転させるパルスを 180度パルス という。測定パルスに高周波成分を加算 するほど矩形波に近づく。パルス状の高周波の 立ち上がり、立ち下がり(ramp time)が急であるほど、パルス幅(照射時間)が短いほど中心周波数を基準として広い周波数成分を含み、化学シ フ トの異なる複数の核を同時に共鳴させる。
FID
共鳴周波数のパルス(電磁波照射)により生じた横磁化が横緩和(T1)によ り消滅する過程をFID (Free Induction Decay)と言う。信号ピークの位置はFID中の周波数成分に対応し、信号が複数含まれるとFID は各信号のFIDの重ね合わせになる。フーリエ変換により各周波数成分に分離しNMR スペクトルを得る。
NMR ロック
静磁場の安定性を見かけ上,向上させるために測定核以外の核の信号からのフィードパックを行いながらスペク トルを測定する方法をNMR ロッ クといい、液相試料では原則としてNMR ロックをかける。通常重水素(D)の信号が用いられる。
化学シフトの異方性
化学シフトは電子の磁気遮蔽により生ずるが、完全に対照的な化学結合をしている核以外は磁場と分子のなす角度に依存して化学シフトが異なる。これを化学シフ トの異方性といい、液相で観測される化学シフトはあらゆる方向を向いた分子から生じる信号の平均値 として観測される(単位:ppm)。この平均値は化学結合のわずかな差異によって も異なるが、同じ官能基は比較的近い値をとるので化学構造の決定に利用できる。
化学シフト基準
静磁場強度の絶対値はNMR スペクトルほどの精度で測定でき ないので,化学シ フト基準が必要となる。13Cや1H-NMR では TMS(テトラメチルシラ ン)の信号を用い、それを0ppmとする。スペクトルは高磁場側 (低周波数側)を左側に表示する。
緩和試薬
電子の磁気回転比は1Hの657倍であり、微量の常磁体により緩和時間は極めて短くなる。緩和時間を実用的な範囲まで短くするが線幅をそれほど広げず、かつピーク位置も変化させない常磁性物質は系の緩和時間を短縮する緩和試薬として作用する。代表はトリスアセチルアセ トナトクロムで、4級炭素の長い緩和時間を改善するために液相の13CNMRで用いられる。 緩和試薬を添加するとデカップルによるNOE が減少し、信号の定量性は向上する。
双榎子一双極子相互作用
静電気相互作用に基づいて二つの磁気双極子間に生じる直接の相互作用を双極子相互作用という。液相では分子は速いランダム運動をしているためこの相互作用の平均値が作用する。この相互作用は「距離の3乗分の1」になるので隣接核以外からの影響はほとんどどない。このような直接の双極子相互作用に対し、液相のNMRで観測されるスピン結合定数(J 、単位Hz)は2つの核スピンが共通の結合電子により影響しあう間接の 双極子相互作用であり、方向性を持たないのでランダムな分子運動の影響を受けない。直接の相互作用は核問の距離 と磁場とのなす角度で決定されるが、J は化学結合の状態で決まり外部磁場に依存しない。
NOE (Nuclear Overhauser Effect)
液相で1Hをデカップリングすると1Hとの双極子相互作用を使って1H核のエネルギーを 13C核に移行でき、このような信号増強を NOE という。通常、液相では1Hと化学結合している13Cの縦緩和は1Hとの双極子相互作用が主要因となっているのでNOE が有効である。水素核から遠い炭素や緩和試薬 を添加した系(4級炭素など)では双極子緩和機構が主要因とはならないためNOE は弱いか、働かない。
デカップリング
ある観測核と1H との双極子相互作用を消去するために1Hに強い共鳴回転磁場を照射する方法で、双極子相互作用によるカップリングを断ち切る方法をデカップリングという。核スピンは高速反転するため、デカップルしたい核周囲の局所磁場も高速反転し平均化されてゼロとなる。13C-1H間の1Hのデカップリングが代表的。液相ではデカップルに必要な出力は個体(ハイパワーデカップリ ング)に比べ2桁ほど小さい。
ゲー トつきデカップリング
デカップリングを行う時にNOE によりシグナルの定量性喪失を防ぐために磁化移行(NOE)とJ-coupling作用のタイミングが異なることを利用して、FID を取り込んでいる問のみデカップリングする方法。NOE の影響を受けないデカップルされたスペクトルになる。
MAS (Magic Angle Spinning)
液相では分子運動のため直接の双極子相互作用はゼロとなり化学シフトの異方性も平均化されるが、固体では分子の回転運動がないので両相互作用は平均化されずシグナルの線幅は著し く広がる。試料を機械的に回転させてこれらの相互作用を平均 化を試みる方法がMASである。液相のような速いランダム運動と同等の作用を実現する回転軸方向(XYZから54.7度)をマジックアングルと呼び、この方向での回転によりXY,Z各成分が平均化されて全方向での平均と等価になる。この平均化には試料の回転速度をスペク トルの広が り以上にすることが必要であり、回転速度がそれ以下の場合,シグナルの平均を中心として回転周波数の整数倍の位置にスピニングサイドバン ド(SSB)が生じる。この平均位置のピーク を含めたSSBの包絡線は試料静止時のシグナル (パウダーパターン)と同形になるのでSSBが多数現れる場合には最強のシ グナルがその核の平均位置 (化学シフト値)とは限らない。
スピンロック
90度パルスを作用 させた直後にLarmor周波数で強い回転磁場 を核スピンの方向 (静磁場と垂直な方向=X-Y平面) に照射する方法をスピンロックという。スピンロックを行うとX-Y平面において核スピン方向と回転磁場方向が常に一致する。その結果、静磁場の核スピンへの作用と等価の効果が生じ、回転磁場方向(静磁場に直角)に量子化し、与えた回転磁場強度がそのゼーマンエネルギーを決定する。この現象を利用して同じ系の別種核にエネルギーを移行させることができ る。1Hの大きな磁化を13Cなどの感度の低い核に移行させて信号強度を向上させる用途で用いられる。13Cにと比べると1Hの緩和時間は短いので、1Hの磁化が回復した時点で次の測定ができる。
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