メッセージ

Message

大学で学ぶということ【学問とは、科学とは何か】

高校までの教育において答えがあることを勉強するということと、大学で学ぶということは、どう違うのか。まず、その根本的な違いについて講義する。まだ答えがないことに挑戦する、あるいは新たな問い自体を創り出す上で大前提となる、学問とは何か、科学とは何かについて議論する。 

昆虫学者から見た「人間とは何か」

自然主義の誤謬問題について、学生との対話を通じて深掘りする回 

フィールドからの授業

あらゆる科学的発見の背景には、その科学者の直観というものがある。いかなる技術を駆使しようと、いかなる書物を読みあさろうと、その直観抜きにして新たなブレイクスルーをもたらすことは不可能である。そして研究教育(研究者の育成)において最も難しいのは直感力の伝授であり、それは芸術やスポーツの世界でも同じであろう。

生態学の直観を支えているものは、その生物の生き様を、まさにその現場に踏み入って自分の目で見て、自分の頭で問うことである。全身をその世界に没入させることである。科学的直感力はきわめてオネストに現場で研究対象と向き合った時間に比例する。行動解析をしようと、化学分析をしようと、ゲノム解析をしようと、数理モデルを組み立てようと、それはあくまでも我々にとってツールであって、問いを生み出すのは現場で何を見たか、そこから何を直観したかである。ゆえに、フィールドに自ら足を運ばなくなった、あるいは運べなくなった時が、生態学者の科学者としての寿命が尽きる時だと、私は思っている。

勧めない読書のススメ

若者に限らず、「読書離れ」「活字離れ」を嘆く文章をよく見かける。文部科学省から、読書の重要性とその指導の必要性が指摘されているほどだ。あまりに滑稽である。

本を読む習慣、本を通じて物事を調べる習慣を、子どもの時期から確立していくことの重要性が、あらためて認識される。また、そのためには、学校教育においても、家庭や地域と連携しながら、読書の習慣付けを図る効果的な指導を展開していく必要があり、とりわけ学校図書館がその機能を十全に発揮していくことが求められる。

私は美味いからラーメンを食べるということはあるが、ラーメンを食べることの重要性を指摘されて食べたことはない。もし若者がラーメンを食べなくなったら、文部科学省はラーメンを食べる習慣づけの効果的な指導を展開するのであろうか。むしろ食べなさいと言われるほど、食べたくなくなるというのが本当ではなかろうか。逆に、「あの本だけは絶対に読んではいけない」と言われる方が、隠れてでも読みたくなるものである。澁澤やバタイユなど、若者は絶対に読んではいけない。ヘーゲルなどは論外である。

ただ、学生からどんな本がお勧めかとよく聞かれるので、あのラーメン屋が美味しかったよ程度の意味で、下にリストしてみた。本は何かのためになると思って読むものではない。目的的な読書ほどつまらぬものはない。振り返れば、結果として自分の血となり肉となってしまっているようなもの。その時々の大いなる誤読でいい。むしろ、すべての翻訳が誤訳であるように、すべての読書は誤読である。目安としての読解難易度を5段階★★★★★で示してあるが、松浦の個人的見解に過ぎない。


職業としての学問 マックス・ウェーバー 尾高邦雄訳 岩波文庫 ★★

人間の建設 小林秀雄・岡潔 新潮文庫 ★★

寝ながら学べる構造主義 内田樹 文藝春秋 ★

デカルト入門講義 冨田恭彦 ちくま学芸文庫 ★

哲学と科学 澤瀉久敬 NHKブックス ★★

ヘーゲル 城塚登 講談社学術文庫 ★★★

機械と神 生態学的危機の歴史的根源 ホワイト 青木靖三訳 みすず書房 ★★

生きるよすがとしての神話 ジューゼフ・キャンベル 角川書店 ★★

外的世界と内的世界 湯川秀樹 岩波書店 ★★

犬・島守 中勘助 岩波文庫 ★

創造活動の理論(上)アーサー・ケストラー ラテイス刊 ★★

空海の風景(上・下)司馬遼太郎 中公文庫 ★

自然学の提唱 今西錦司 講談社学術文庫 ★★

悪党的思考 中沢新一 平凡社 ★★

夜と霧 ヴィクトール・フランクル みすず書房 ★

実存主義とは何か サルトル 人文書院 ★★

野生の思考 レヴィ=ストロース みすず書房 ★★★

ラッセル幸福論 安藤貞雄 岩波文庫 ★★

死してなお踊れ:一遍上人伝 栗原康  河出文庫  ★

柿の種 寺田寅彦 岩波文庫 ★

サピエンス全史(上・下)ハラリ 河出書房新社 ★★

プリンシプルのない日本 白洲次郎 新潮文庫 ★★

ヘーゲル・大人のなりかた 西研 NHKブックス ★

完全解読ヘーゲル「精神現象学」竹田青嗣・西研 講談社選書 ★★

侏儒の言葉・西方の人 芥川龍之介 新潮文庫 ★

ハーモニー  伊藤 計劃 ハヤカワ文庫 ★

快楽主義の哲学 澁澤 龍彦 文春文庫 ★

高丘親王航海記 澁澤 龍彦 文藝春秋 ★

茶の本 岡倉覚三 岩波文庫 ★

直観を磨くもの 小林秀雄 新潮文庫 ★★

人間とロボット ベルタランフィ みずず書房 ★★

家守綺譚 梨木香歩  新潮文庫 ★

ことばの途上 岩瀬崇 あわ居 ★

死に至る病 キルケゴール 岩波文庫 ★★★★

ガダラの豚 I・II 中島らも 集英社文庫 ★

額田女王 井上靖 新潮文庫 ★

罪と罰〈上・下〉ドストエフスキー 新潮文庫 ★★

哲学の教科書 中島義道 講談社学術文庫 ★★

エロティシズム ジョルジュ・バタイユ  澁澤龍彦 訳  二見書房 ★★★

意味の深みへ 井筒俊彦 岩波文庫 ★★★★

これからの正義の話をしよう マイケル・サンデル ハヤカワ文庫 ★★

きりぎりす 太宰治 新潮文庫 ★

正統と異端のあいだ 武田清子 東京大学出版会 ★★

きみが自分で感じ、きみの魂から迫り出て、聞く人みなの心を

根強い興味で打ち負かすのでなければ

きみの思うことを遂げることはできないだろう。

まあ、せいぜいこしかけて、にかわでつなぎ合わせたり、

他人のごちそうのごった煮をこしらえたり、

きみの灰の山の中から

とぼしい炎でも吹き起こしていたまえ!

子どもやサルを感嘆させることはできよう。

それがきみの口に合うならば。

だが、きみはけっして心から心に働きかけることはできないよ、

本当にきみの心から出たものでなければ。


ゲーテ「ファウスト」より