石川由希(名古屋大学大学院理学研究科 講師)
2025年12月3日(水)13:15~
京都大学農学部総合館5階W-506号室
昆虫は花蜜や花粉を得るために訪花し、植物の送粉を助けている。彼らは被子植物の約9割の送粉を担っており、花と昆虫の関係は現在の陸上生態系の維持に不可欠である。ではこの花と昆虫の関係はどのように進化したのだろうか。実は、昆虫は花を咲かせる植物が出現するはるか昔から地球上に存在しており、花の出現に伴って初めて訪花行動を進化させた。この訪花性の獲得に、どのような行動や神経機構の変化が貢献したのかを知るために、私たちは訪花性のカザリショウジョウバエ(カザリ)に着目して研究している。ショウジョウバエの多くは果実や菌を食べており非訪花性であるが、カザリは非訪花性の祖先から新たに訪花行動と花に依存した生活史を新たに獲得した種である。彼らは、モデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁で、ゲノム編集や遺伝子導入が可能であり、訪花性の進化の神経機構を解明する上で良いモデルとなる。私たちは現在、野外でカザリがどのような花を何のために利用しているのか、またどのような感覚や神経機構で花を認識しているのか、その感覚機構が非訪花性の種と異なるのかを明らかにするため、野外観察や行動実験、神経系の種間比較やゲノム編集を用いた機能解析を行っている。本セミナーではこれらの成果を紹介し、昆虫の訪花性の進化をもたらした神経機構について議論したい。