焼結は、多くのセラミックス製品を作る上で欠かせないプロセスとして広く知られています。しかし、高温が必要なため、設備や環境に大きな負担がかかるという課題がありました。このため、長年にわたって焼結の低温化を目指した研究が進められてきました。これまで、粒子の微細化や外力の印加、焼結助剤の添加など、多岐にわたる研究開発が行われてきましたが、エアロゾルディポジション(AD)法のような一部のプロセスを除いては、やはり高温が不可欠なままでした。その結果、「セラミックスは焼き物」という、人類の歴史が始まって以来の概念から抜け出せていないのが現状です。
本研究会では、この状況を打破するため、焼結時に熱によって起こる原子の拡散現象や、液相焼結における溶解再析出といった関連現象を室温に近い温度で起こさせることで、熱だけに頼らない新しいセラミックス焼結の概念を作り出すことを目指しています。この目標を掲げ、セラミックスの合成、成形、焼結、成膜プロセスを専門とする研究者や、現在高温プロセスを利用している研究者が一堂に会し、高温プロセス、つまり「焼き物」から極低温プロセスへの大きな転換(パラダイムシフト)を進めてまいります。
セラミックプロセスの低温化は、ファインセラミックスの創生期から現在に至るまで常に研究テーマとして掲げられ、現在も秋季シンポジウムでは多くの関連セッションが設けられています。
特に、液相プロセスによる微粒子の合成は、固相反応では実現できない特徴的な微粒子を合成できるため、新機能の創出やカーボンニュートラルの実現に貢献できる有用な手法です。しかしながら、多くのデバイスでは、これらの微粒子がそのまま利用されることは少なく、薄膜やバルクといった形状で用いられるのが一般的です。その際、焼結プロセスにおいて粒径の増大や緻密化に伴う形状変化が生じ、微粒子の特性を十分に活用できていないのが実情です。
一方で、デバイスの高精度化や多様化が進み、特にセラミックスと金属や有機材料との複合化が必須となっています。現状では、セラミックスの焼結温度以上の融点を持つ金属(ニッケルなど)との複合化や、有機材料にセラミックフィラーを配合する複合化など、プロセス温度に依存した複合材料の開発に限定されています。
もし300℃以下でセラミックスを緻密化できるプロセスが開発されれば、例えば低融点金属との複合化、有機フィラーを配合したセラミックス焼結体など、これまで考えもしなかったような新規な材料群を創出することが可能になります。
セラミックス協会内の微粒子の合成に関する複数の研究会と連携するとともに、関連するプロセスを研究する研究者が活発に議論する場を設けることを提案いたします。現状では、アプリケーションごとに研究が進められているため、低温プロセスで作製した膜やバルクが持つ性質、あるいは製造プロセス中の現象が横断的に議論されておらず、理解が十分に深まっておりません。
本研究会は、各分野のプロセス低温化に興味を持つ研究者・技術者が集結し議論することで、新たなセラミックプロセスを創出し、「セラミックスは焼き物」という固定概念から脱却することを最終的な目的とします。
さらに、当該分野の産学連携が不十分である現状を改善するため、企業への技術移転のきっかけとなるような役割も目指してまいります。