設計の方法は論文に書いてある内容を参考にしてください(不親切ですが)。というよりも、ヘアピンの設計はお勧めできません。なぜなら、ショートヘアピンは安定性に欠けるため、安定性の高い配列を探索するために10000以上の配列セットをシミュレーションし、そこから選抜された約1000の配列セットを生物種に適応させるためにBlast検索で相同性を持つ配列を排除し、さらにそこから実際に約200種類のDNAを合成・精製してマウス用に実用化できたヘアピンが約20個しかありませんでした。もう二度とやりたくない作業です。。。
なお、マウス用のヘアピンの一部が他の生物種にも適用可能であることが分かっています。
作ってもらうこと自体は可能ですが、今までお願いしてみた数社で実用レベルのクオリティのヘアピンは出来ませんでした(純度が低いためです)。論文に書いてある内容と同じ精製作業をすればDIYで作ることは可能です。これも慣れるまでは実用的な純度の高いヘアピンを精製することは難しいのでお勧めはしません。
ネッパジーン株式会社に技術移転し販売中ですので、そちらをお待ちいただくか共同研究として蛍光ヘアピンの分与は可能です。
論文を(以下略)。しいて言えばUTR領域はシグナルが落ちる傾向にあるので避けてください。また、相同性の高い領域は避けた方が良いでしょう。こちらもネッパジーン株式会社が設計を代行してくれます。
相同性に関しては1つのターゲット領域約50塩基に対して50%以下であれば全く問題ありません。これまで複数の遺伝子で70%の相同性はクリアできています。
※条件を絞り込むことで50塩基中3塩基の違いを検出できたこともありますが、配列に依存すると思います
意地悪しているわけではなくて、本当にそれ以上のノウハウがないのです。逆に言えば論文に記載の内容さえ気を付ければ、基本的な分子生物学の知識がある人ならば設計は難しくありません。論文にも設計済みの配列が全て公開されていますので、そちらも参考にしてみてください。
できます!これまで学生にDIGシステムのISHを教えてきましたが、技術の習得には早くても1ヶ月くらいかかっていました。この技術の場合、ほとんどのケースで1回目で染色に成功しています。
一般的な試薬のほかに、プローブと蛍光ヘアピンDNAが必要です。備品としては、37℃インキュベーターと、可能であれば25℃になる冷蔵可能なインキュベーターがあると理想的です。HCR反応は室温で進行しますが、30℃くらいの温度でノイズが増えることが分かっています。また、20℃くらいだとシグナルが減少します。
脳や肝臓のような実質がある組織では可能な限り還流固定をおすすめします。また、血球は強い自家蛍光を発しますので、血を抜くという意味でも還流固定が良いです。血球が残る場合には固定液を還流する前にヘパリンの入ったPBSなどで一度還流しておくと良いです。また、固定液がしっかり冷えていることが還流固定を成功させる秘訣です。
浸漬固定でもシグナルは出ないことはないのですが、4%PFAや10%中性ホルマリンで浸漬固定した場合に、表層から約0.5mmほどで明らかなシグナル減衰が見られました。タンパクの検出などでは特に問題がないようですので、固定液が浸透する前に比較的短時間でmRNAが分解しているものと思われます。RNAlaterなどを還流する手法もありますが、組織へのダメージが強いのであまりおすすめはできません。
もし還流固定ができない場合には、なるべく小さな組織ブロックに切り出してから浸漬すると良いかもしれません。もしくは迅速凍結生切片を作成直後に固定処理をするのも有効でしょう。試したことはありませんが、固定液の浸透圧をあえて高くすることで浸透が改善する可能性もあります。
また、切片作成においては基本的には常温で放置する時間は限りなく短くし、スクロース置換の時間も置換後なるべく早く凍結してください(私は2日以内にしています)。凍結切片の場合、特に気をつけたいのが貼付け後の乾燥時間です。37度で1時間ほど乾燥させた場合にもシグナルの明らかな減少が見られました。パラフィン切片の場合も切片作成以後は常温で放置せず、冷凍庫などでの保存をおすすめします。
最短6時間ですが、感度は落ちるので2日間かけてやることをお勧めします。
ステップ数はかなり少ないです。ここがis shHCR法の最大の長所かもしれません。時々、実験が上手くいかない場合に様々な処理(例えばアセチル化など)を追加してみる人もいますが、たいていは逆効果なので原因は別にあるとお考え下さい(下記参照)。
色々なやり方がありますが、基本的にはプローブの特異性を証明すれば良いので、P1プローブ、もしくはP2プローブのみでシグナルが出ないことを確認するのが最も簡単です。なお、原理的にも実際の試行でもP2プローブのほうが比較的ノイズが出やすいです。他に、異なる遺伝子のP1、P2を混ぜるなどの方法もあります。
言い始めるとキリが無いのですが、RT-PCRなどでも確認できればベストです。
異なる方法でも一貫した結果が出ることがmRNAの存在の証左になりますので、コストは掛かりますが異なるヘアピン、異なるプローブを用いて同じ遺伝子を染めた場合にシグナルが同じように出ていれば特異的なシグナルであるとも言えるでしょう。以下の図(上)はin situ shHCR原著 (Tsuneoka and Funato 2020)で示した方法で、Cのようにプローブ設計及び発色を行い、そのシグナルがどのようにイメージングできたかを示しています。逆に相同性の高い事がわかっている別のmRNAに対するプローブを設計し、発現パターンが異なることを示すという方法もあります(図・下)。ここでは、Tacr1とTacr3に70%の相同性がある配列に対してプローブを設計した例です。同所的に分布していますが、明らかに発現パターンが異なることがわかります。
まず、ポジコンでも見えないかどうかを確認してください。また、本当にその組織に発現しているかどうかの確証も必要です。
それでも見えない多くの場合、原因は5つです。
・サンプル調製が不適切である。
固定やサンプル保存はmRNAの質に大きく影響します。上記のFAQを参考にして固定法を検討してみてください。固定液に入れている間はさほど心配する必要はないと思いますが、固定液から出してなんらかの処理をする際や切片作成後は可能な限りRNAse freeで冷凍するか、スクロース置換などの処理時間を短くしてください。
・手順や濃度を間違えている。
ヘアピンは絶対に組織にかける直前まで増感バッファーと混ぜないでください。ヘアピンDNA同士を混ぜるのも厳禁です。また、各ヘアピンの最終濃度は60nMです。
冷蔵保存の溶液も含め、保存状態によっては液中で成分が分離してしまいますので全ての試薬はよく混ぜて均一にしてから使ってください(vortex 3秒×3回)。HCRの発色液を調整した後もしっかり混ぜてください。このよく混ぜるという作業が盲点だったりします。切片に発色液をかけた後も均一に馴染むまで数分はスライドガラスを傾けるなどの作業がきれいな染色には重要です。
・イメージング環境が悪い。
最も難しいのがイメージングの最適化です。下の図を参照してください。共焦点顕微鏡で1コピーを検出するためには高いNA値のレンズ(勘違いされがちですが、倍率ではなくNA値がレンズの性能に直結します。NA0.7以上推奨、40倍のレンズは各社あまり性能が良くないのでお勧めしませんが、油浸もしくは水浸レンズでは良い結果が出ます)で長めの露光時間(1波長当たり6 us/pixel以上推奨ですが、高解像度で見る場合にはより遅いスピードでイメージングしてください)、強いレーザーで検出することから始めてください。一方、アベレージングはあまり影響はありませんので最低限の回数で構いません(私はアベレージングは行っていません)。
・自家蛍光が強い。
シグナル以上に自家蛍光が強いとシグナルは見えません。自家蛍光を落とす処理をしてください。もしくは一般的に自家蛍光が少ない近赤外の波長でまずは試してみてください。もし全体に見えるような自家蛍光であれば切片の厚みを減らす、60倍以上の油浸レンズで観察することである程度は改善します。
・プローブの配列が不適切である。
上記を考慮した上でもシグナルが見えない場合、可能性としては低いですが、mRNAに対するプローブ結合領域を増やすもしくは変更してみてください。そもそもプローブのターゲット数が少ない場合にはシグナルが弱くなります(最低10個以上を推奨)。
私自身は比較したことはありませんが、RNAscopeなどを利用している共同研究者の先生からの情報では、RNAscopeなどと遜色ない染色強度であるとのことでした。下記にもある通り、イメージングにはコツがありますのでお気を付けください。この手法の利点としては、プロトコルがシンプル(かつ安い)であるということになるかと思います。
もしシグナルに不満がある場合には、4℃で一晩蛍光ヘアピンを反応させると、シグナルは上がります(が、ヘアピンの種類によってはノイズもある程度上がりますのでSNは改善しない場合もあります)。
あまりお勧めはしませんが、一つの方法として検討してみるのも良いかもしれません。
プローブの配列を変えるとうまく行く可能性もあります。未知の要因で、同様に設計したプロ―ブでもシグナルが強めに出るものとそうでないものがあります。多くの場合、20ヶ所以上の標識をしていれば問題はあまりありません。
ヘアピンやプロ―ブの希釈がプロトコルよりも薄くなっていないかどうかも確認してください。
実験系が上手くいっているという前提でシグナルが弱い(と感じる)場合について説明します。
シグナルは一般的に以下の要素が反映されます。
A. 自家蛍光などの組織由来のバックグラウンド
B. プローブや抗体の非特異的結合に由来するシグナル
C. 標的物質に対する特異的結合に由来するシグナル
概念的にはシグナルの総量はA+B+Cであり、シグナルノイズ比はC/(A+B)というイメージになります。
A+B+Cが検出限界以下であればシグナルは見えません。また、A+Bが非常に大きいとシグナルとノイズの区別がつかないということになります。in situ shHCRではBの非特異的結合に由来するシグナルを可能な限り抑えているのが大きな特徴です。
これまでのDIG-ISHなどで得られたシグナルよりもin situ shHCRのシグナルが弱い(物足りない)と感じる場合には、一つの説明としては非特異的結合が少ないからということが考えられます。また、DIG-ISHなどではmRNA量に対して直線的にシグナルが増加しないという性質や、細胞内にシグナルが拡散する性質があり、それもin situ shHCRのシグナルに違和感を抱く原因かもしれません。
当たり前ですが特異的結合に由来するシグナルが少ない場合にシグナルは弱く感じます。プローブの標的配列を増やすことが出来る場合にはシグナルを上げることが出来ます。それでも弱いと感じる場合にはそのシグナルの強さが実際のmRNAの発現量を反映しているか、自家蛍光が強すぎて区別がつかないか、のどちらかが最も可能性が高いです。
発現量の低いmRNAは細胞に数コピーしかないため、低倍率もしくは低NAの対物レンズでは検出できない場合があります。1コピーレベルのイメージングを行う場合には、NA値の大きい(1.3程度)油浸レンズの利用を推奨します。レンズ側の解像度を反映するNA値が高くない場合にはカメラ(検出器)の解像度を上げても実質的な解像度は上がりません。
P1プローブのみ、P2プローブのみでシグナルが見える場合には大きく分けて3つの原因が考えられます。
・自家蛍光
何も処理していないサンプルで自家蛍光がないかどうかの確認をしてください。組織の種類によってはまるでシグナルのように見える自家蛍光が見えることがあります。対策としては(1)自家蛍光をTiYOなどで消光する(2)利用する色素の波長を変更する(自家蛍光が見える波長帯を使用しない)(3)露光条件を変更する、になります。(3)については、自家蛍光は通常の蛍光色素とは異なる最大励起及び蛍光波長を持つことがあるため、488レーザーで近赤外に蛍光が見えることがあります。そのような場合には共焦点ならシークエンシャルスキャンなどを用いると改善します(が、多くの場合根本的な解決とはなりません)。
・プローブの非特異的反応
・ヘアピンの非特異的反応
上記2つの対策としては同じですが、予想していないプローブの非特異的吸着と隣接するイニシエーター配列の一部が結果的にイニシエーターとして機能してしまう場合、もしくは内在性mRNAやmiRNAなどの配列が完全なイニシエーター配列として機能して反応が起こる場合があります。プローブの非特異的吸着に起因すると思われる問題はほとんど起こりませんが、これまでに約200のプローブにおいて2例プローブの非特異的吸着によるノイズが見えました。それでもP1P2プローブ両方使った場合と比べて低いシグナルになれば区別は付きますので問題はありません。また、スプリットプローブは原理的にほとんどの非特異的反応を抑制できますが、200nM以上のプローブ濃度では徐々にノイズが上がってきます。プローブの洗浄条件を検討することでシグナルが改善された例もあります。
いずれにせよ、プローブ濃度が適正であるにも関わらず、あたかも特異的なパターンでネガティブコントロールにシグナルが見える場合には異なるヘアピンを使用するのが根本的な解決になります。
いまのところ原因は不明ですが、未精製のプローブで濃いめにハイブリダイゼーション液にプローブを入れた場合に、このようなことが起こることが稀にあるようです。配列依存的な問題もあるかもしれませんし、未精製のプローブであれば不純物が悪影響を及ぼしている可能性もあります。手技に問題がなければ、まずはプローブ濃度を減らすなどの検討をしてみてください。それでも解決しない場合にはご相談ください。核内で特に発現量が高いmRNAなどもありますので、慎重に判断する必要があります。
なお、DAPIやHoechstなどの核染色素への光照射や染色が強すぎてブリードスルーが起きている場合もあります。
必要です。界面活性剤による浸透処理ではシグナルの大幅な低下が見られることから、少なくともなんらかの有機溶媒である必要がありそうです。稀にメタノール処理でGFPなどの蛍光が消えてしまうのでメタノール処理をしたくないというお話を聞きますが、少なくとも私の検討ではメタノール処理でGFPやmCherryなどの蛍光が消えたことはありません。
1コピーが1個の顆粒として見えるので、原理的には絶対定量が可能です。1コピーが見えないほど発現量が高い遺伝子に関してもかなり幅広いダイナミックレンジでRT-PCRに近い精度で定量ができます。
まずは反応温度が高すぎないか確認してください。
慣れた人ほどやりがちですが、混合するヘアピンDNAは必ずチップを変えてから増感バッファーに入れてください。チップ内部であっても高濃度のヘアピンが接触するとノイズの原因になります。また、反応時間は最大で2時間ですが、ヘアピン溶液を混ぜてから時間が経つとノイズの原因になります。
1コピーレベルでの検出精度を上げる目的でノイズを減らしたい場合には、反応時間を45分と短くするのは効果的です。ただしシグナルは減弱します。反応溶液量をケチると乾燥による影響が大きく、バッファー組成が変わってしまうためにノイズが乗りやすいようですが、詳細は不明です。ハイブリ時のバッファー乾燥も関係あるのかもしれません。原因は不明ですが、乾燥すると近赤外色素(Atto650など)でノイズが出るようです。
染色由来のノイズなのかどうかの確認は必要です。未染色切片を検鏡することで自家蛍光の把握ができます。自家蛍光由来のノイズの場合はTiYOの使用をお勧めします。
シンプルにSN比を上げるにはプローブとして用いる塩基配列を増やすのが最も効果的です。また、4℃で一晩蛍光ヘアピンを反応させると、シグナルは多少は上がります(が、ヘアピンの種類によってはノイズもある程度上がりますのでSNは改善しない場合もあります)。
基本的にはRNAseフリーであることが望ましいですが、決して必須ではありません。私は全く気にせずに実験しています。サンプルの保存はRNAseフリーであることが重要です。また、サンプルの固定状況は大きくシグナルを変化させます。実験中はコンタミに気を付けるよりも、迅速にハイブリダイゼーションまで終わらせること、常温以上の温度で長時間置かないことがRNAの分解には最も効果的でした。
可能ですが、お勧めはしていません。ステップ数は増えてしまいますのでis shHCRの利点があまり無くなってしまいます。また、1コピーレベルの検出を行う場合には、シグナルが非常に小さい点になってしまうので工夫が必要です。
基本的にはホルマリンやPFA固定の標準的なサンプルで構いません。染色開始まではRNAseに十分気を付けてください。また、過固定はシグナル減弱の原因となります。これまでのところ、ブロック作成から5年以上経過したパラフィンブロックや凍結ブロックから作った切片でも問題なく検出は出来ています。
注意点として、薄い組織であってもPFA固定の場合には灌流固定を行ってください。PFAは組織への浸透性が悪いためです。実際にマウス消化管などでPFA浸漬固定したサンプルはmRNAの分解が疑われる染色像が見えたことがあります。分解が起こると、検出は出来てもシグナルが弱い、同一遺伝子に対する2種のプローブ+ヘアピン色素の組み合わせで染色した場合にシグナルがマージしないということが起こります。もし灌流固定した組織中に赤血球が多く見られるようだと、灌流がうまくいっていないです。固定液が十分に冷えていないとこのようなことが起こりやすいようです。
脱パラ処理を行えば全く同じプロトコルでできます。ただし、切片作成後は乾燥・低温保存が必須です。
見えます。ただし、蛍光ですので相応のイメージング装置が必要です。
残念ながら、今のところ対応していません。SNP検出できるように、目下研究開発を行っています。
少しプローブに工夫が必要だったり、miRNAの固定法に工夫が必要なこと、条件検討する気概と多少のノイズさえ我慢できるなら現段階でも検出は可能です。ご相談ください。
共同研究としてお互いに研究内容を理解し、必要性があれば大歓迎です。多くの共同研究を行っていますので、場合によってはすぐに対応はできません。
これまで、透明化処理をして問題なかったのはSeeDBですが、あまり検討はしていません。SeeDBの仕様においては、試薬作成の過程でNaClを可能な限り入れてください。塩が入っていないとシグナルが徐々に消えてしまいます。
ScaleやCubicなどの透明化試薬に入っていることが多い尿素がHCR産物との相性が悪くシグナルが消失するので、そのような試薬を使う場合には染色後に固定処理などを行えば可能かもしれません。HCR産物が分解する可能性は考慮してください。
アプリケーションにもよるので一概には言えませんが、安くはありません。ただし、高くもないと思います。蛍光免疫染色と同じくらいのコスト(1次抗体と2次抗体 × 標的の種類)だと思ってもらえれば分かりやすいと思います。
現状のプロトコルは変更されて、より低ノイズで高感度なものに変わっています。反応バッファーの組成なども変わっていますので個別にご相談ください。
できます。1回目のISHでハイブリしたプロ―ブを高温低塩濃度のバッファーで剥がすか、蛍光色素をブリーチングしてことなるヘアピンで発色させることで何度も同じ切片を使ってISHが可能です(Tsuneoka et al. Front Mol Neurosci 2022)。ただ、適切なイメージング環境などの整備は必要です。