ショートヘアピンDNAを利用した簡便・高感度ISH法
東邦大学医学部
解剖学講座微細形態学分野 恒岡洋右
2004年にDirksとPierceが発表したHybridization chain reaction (HCR) 法というヘアピン構造を持った核酸の自己触媒的な増幅反応 (Dirks and Pierce 2004 PNAS) を利用して、組織切片上でHCRを起こし、蛍光標識したDNAもしくはRNAを標的核酸に重合させることでmRNAを可視化するin situ Hybridization法 (Choi et al. 2010 Nat Biotec; 2014 ACS nano; 2018 Development)であり、抗体反応や酵素反応を用いないためシグナル強度には直線性があり、高いシグナルノイズ比を持っています。
ヘアピンDNAのHCR反応を開始させる配列を持った2つのプローブのハイブリダイゼーションと、その後のHCRによって蛍光標識されたDNAが標的mRNAに特異的に結合します。HCRは2つのプローブが正確な位置にハイブリダイゼーションしないと起こらないため、非特異的な反応が最小限に抑えられているという特徴があります。
in situ HCRにおいて、ヘアピンDNAはその反応の核を成す最も重要な要素になります。ヘアピンDNAを短鎖化することには様々なメリットがあります。DNAのサイズが小さくなることで、組織への浸透性が向上すると共に、1分子当たりのハイブリダイゼーションにかかる時間が減少するため、反応が早くプラトーに達します。例えば、これまでのISH法やin situ HCR法ではDNAやRNAなどの浸透性を向上させるためにタンパク質分解酵素であるProKやPepsinなどが利用されてきました。このような浸透処理は浸透性を向上させる一方で、組織へのダメージも大きく、場合によってはタンパク質の抗原性が失われることもありました。ヘアピンDNAを短鎖化することでこれまでの浸透処理は不要になり、シグナルも上昇します。実際、これまでの我々の検討ではマウス胎児のホールマウント染色においてProKなどの浸透処理を行わずに深部まで染色が可能でした。また、短鎖化することでDNA合成にかかるコストの減少と純度の向上も重要なアドバンテージとなります。
ただし、ヘアピンDNAの短鎖化はヘアピン構造の不安定性を招きます。この問題を解決するために、我々は様々な種類の配列をシミュレーションし、そこから抽出した200以上の配列を実際に試して安定的にかつ効率的にHCRが起こる短鎖ヘアピンDNA配列を見出しました 。また、蛍光標識法自体が反応効率の重要な要因となること、ヘアピンDNAの精製方法についても最適な条件があることが分かっています (Tsuneoka and Funato 2020 Front Mol Neuro)。
マウス組織におけるin situ shHCR染色
(凍結切片およびパラフィン切片)
(左上)マウス大脳皮質及び線条体。3種の神経細胞を分類。
(左下)マウス腸管。緑は空腸マーカー、赤は回腸マーカー。
(右上)マウス肝臓。肝細胞がゾーンごとに綺麗に染め分けられる。
この手法は培養細胞を含む様々な組織に適用可能で、パラフィン切片・凍結スライドガラス切片・浮遊切片・ホールマウント全てに適用可能です。生物種ごとの条件検討は必要ですが、これまでのところ、グラム陰性菌の一種、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、ウナギ、マウス、ラット、ヒトで染色実績があります。また、ProKなどの浸透処理を行う必要なく非常にマイルドな条件(最大37℃)で染色を行うことが出来るため、免疫染色との併用や、内在性のGFPなどの蛍光タンパクを保持したまま可視化することも可能です。プローブ濃度を標準プロトコルの20倍まで濃くしてもノイズは増えないほど特異性が高く、ステップ数が少ないこともあり高い再現性・定量性があるのも特徴です。
その他の実施例
(上)培養細胞のHek293aavを細胞周期遺伝子と共に染色。
(右)ゼブラフィッシュ稚魚のホールマウント染色。
(下)in situ shHCR(緑の顆粒シグナル)と通常のDIG-ISH(4枚目)との比較。同じ遺伝子を染めているが、明らかに解像度が上がっており、細胞内局在も明瞭である。
マウス全脳の染色(浮遊切片)
合計4種類のmRNAと2種類の抗体で同時に染色したものです。切片ごとに色の補正はしていませんが、再現性高く染色されていることがわかります。
in situ shHCR法を用いた文献