博士の研究テーマ:
生成AIと教育データを用いた個別最適な数学教材作成による
相互学習支援システムの構築
単元情報の自動付与
単元は、学習する際に関連する内容や前提となる知識を定める指針となることがいわれています[Contractor et al., 2015] 。日本では、学習指導要領と呼ばれる統一基準を用いることが多く、ほとんどの学校・企業はそれを採用しています。しかし、デジタル教材の多くは単元情報を含んでいないか、独自の区分を用いています。学校・個人ごとに横串を通して体系的に分析を行うために、使用する教材・サービスに関わらず共通の情報を使用することが求められています。
教育現場において、あらゆるレイアウトでアップロードされるデジタル教材は完全な文字抽出が困難[Abekawa & Aizawa, 2016] であり、文脈解析によるアプローチでは高精度を実現することが難しいです。そこで、種々のPDF教材から抽出できる文字情報が不完全であっても正確に単元情報を自動付与できるアルゴリズムを、不完全な文章に対応可能とされているn-gramを特徴量に用いることにより構築し、91%以上の精度で単元を自動付与できることを示しました[Yamauchi et al., 2023]。
教育データと単元に基づく個別最適な類題の自動生成
現在の推薦システムは既存の教材の中からシステムが適切なものを選んで生徒に提供しますが、提供する教材の範囲が限られているため、必ずしも生徒のニーズを満たしていない場合があります。生徒の誤りに即したより個別最適な教材を、フィードバックやその理由の説明とともにリアルタイムに提供することが求められています。
博士課程の研究では、特に個別最適な類題生成に着目します。生徒が誤答を振り返ること[Heemsoth & Heinze, 2016]、特に誤答した問題の類題を作成しそれを解くことは生徒の理解を促すとされていますが、類題作成の経験に乏しい生徒には効果が薄いといわれています[Sakitani, 1996]。そこで本研究では、生徒の回答データを用いて個別最適な解説つきの類題を生成します。さらに、過去の研究で明らかとなった個性と個別最適なメッセージの対応[Yamauchi et al., 2023]をヒントに、プロンプトに生徒の成績や個性を含めることにより、それぞれの生徒に合った形式でコンテンツに対する解答や説明を提供できることを目指します。
新規教材による相互学習活性化のためのピア推薦システムの構築
特に計算課題においては生成AIが誤った出力をする[Frieder et al., 2023]ため、どのように正確性を担保するか、また誤った出力を行った場合にどのように対処するかを、教育現場実践においては考慮する必要があります。 AIが生徒の取り組みの成果に応じて生徒の知識状態を予測するモデルは多数提案されています[Vie et al., 2019]。しかし、より良い教材生成のために、生徒が他の生徒の疑問を受け取り、学習教材の改善をする過程でAIが学習することは今までにありませんでした。
そこで本研究では、上記研究において完成した問題生成システムを用いて、学習効果のある教材を他の生徒に推薦するシステムを構築します。まず、実際に生成問題に取り組んだ生徒のログやレビューを参照し、問題が推薦されるべきものであるかどうかを決定します。また、成績上位者や教員に評価を依頼する機構を作成し、問題を解く際に疑問が生じた場合に質問を可能にします。評価者は状況に応じて修正機構を用いることで、対話形式で問題を改善することができます。次に推薦されるべき問題を、似たような学習状況の異なる生徒に推薦します。評価されたデータはラベル付きデータとして、AIの学習にも利用されます。
教育現場への適用と
現場ニーズの理解
私は、研究成果を出すだけでなく、研究成果をどのように現場の教育に活かしていくかにも興味があります。そのため、現場の教育を肌で感じることができる教職課程に挑戦し、実際に教師の立場からデジタル教材を使って授業を行うことで、どのような研究成果を学校につなげることができるのかを日々考えています。
また、教師の立場で数学教育を考えるために、大学入学後も中等教育における数学の勉強を続けています。学習塾「理数舎」で小学生から高校生までの数学を幅広く指導し、生徒のつまずきやすいポイント・やる気の出し方・進路指導などを学んでいます。また、高校理系数学修了レベルとなる数検準1級を取得しました (2次満点合格)。また、現場教育を肌で学ぶために、教育実習に参加しました。現場で培った経験を研究に活かしていこうと考えております。