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金光敏『大阪ミナミの子どもたち』彩流社, 2019.

難波や道頓堀など、大阪の歓楽街ミナミで働く親をもち、そこに暮らす外国ルーツの子どもたちをサポートする夜間教室Minamiが舞台。フィリピン出身のシングルマザーの子どもたちが多く通う。子どもたちが経験する貧困や暴力の壮絶さが描かれるだけではない。それを生み出したのが他ならぬ日本の移民政策であることにも切り込んで論じられている。同じく貧困や排除を経験してきた在日コリアン3世の著者だからこそ、きれいごとですまされない現実として、多文化共生の現場が描かれている。

(稲葉奈々子・IGC所員/総合グローバル学科教授)

駒井洋監修、鈴木江理子編著『東日本大震災と外国人居住者たち』明石書店, 2012.

被災時に自分はどう行動すればよいのか?「言葉の壁」による情報格差を生まないよう、東日本大震災時は様々な機関、団体がかなり早い段階から多言語での情報発信を始めた。しかし、それでも、「正しい情報」が必要とされる人に的確に届いたわけではなかった。

本書で改めて重要とされたのは、地域NPO関係者や日本人家族など地域とのつながり、そして、同国人コミュニティなど、日常的につながりを持つ人を介した情報伝達網、つまり「人による伝達」だ。

また、本書に紹介される法律相談や労働相談からは被災地で生活継続しようとする人々と支援者の苦労や困難、そして希望を知ることができる。

(小田川華子・IGC職員)

三浦綾希子『ニューカマーの子どもと移民コミュニティ—第二世代のエスニックアイデンティティ』勁草書房, 2015.

 物心つく前から片親または両親が日本に出稼ぎに行き、学齢期に日本に呼び寄せられた1.5世のフィリピン系ニューカマーの子どもたち。来日にあたり、期待や抵抗、諦めなどがありつつも、親に従い、移住を受け入れていく子どもたちの心情が語られている。

 「受けた恩は返すのが礼儀」「お互い様」という行動規範があるフィリピンに対し、日本の子どもたちの人間関係は「俺は俺、お前はお前」と「冷たい感じ」がしたという来日当初の困惑を乗り越え、子どもたちは学校、学習教室、教会などで居心地の良い場を築いていく。

 2つの文化の中で生きる子どもたちは、自分のエスニックアイデンティティをうまく切り替えながら人生のかじ取りをしているようにもうかがえ、とても興味深い。

(小田川華子・IGC職員)

毛受敏浩『限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択』朝日新書, 2017.

 日本の少子高齢社会の解決策というと外国人労働者の受け入れという話が必ず出てくる。…だが日本政府は「技能実習生」「家事労働人材」だのとネーミングするばかりで「労働者」や「移民」という言葉を使いたがらない。外国人労働者はあくまで一時的な受け入れ策とでもいうように。

本書は今の暮らしの持続と安定のために「移民の受け入れは必要」という視点から、日本という「限界国家」を脱出するプランを固める。とはいえ日本の利益のために移民受け入れを考えるのはではなく、共に生きることを真摯に考える必要があるだろう。

(栗田隆子・IGC職員)

高谷幸著『追放と抵抗のポリティクス 戦後日本の境界と非正規移民』ナカニシヤ出版, 2017.

この本のタイトルの”非正規移民”という言葉にハッとさせられた。

バブル絶頂期に中東から多くの労働者が日本にきていた1980年代後半から90年代前半、「不法労働者」という言葉がマスメディアで使われていたが、「不法」とは具体的にどういう状況なのか知る人はとても少なかったと記憶している。

しかし、この非正規という言葉は不法を意味しない。そもそも行政法の管轄の話ということ、そして外国人労働者をそのような状況に陥らせてる側の構造的な問題として私たちに迫ってくる言葉だ。その意味を噛みしめながら読むのをお勧めしたい。

(栗田隆子・IGC職員)

Migrant’s Poverty in Japan 移住連貧困プロジェクト編『移住連ブックレット4 日本で暮らす移住者の貧困』現代人文社, 2011.

00年代に入り「貧困」という概念が、いわゆる「発展途上国」のみならず、日本における社会問題として語られるようになった。とはいえそれは日本人大学卒男性が貧困層に加わるようになったからであり、女性、障害者、そして移住者の貧困は当然のものとみなされ、放置されつづけてきたのである。とはいえ移住者支援の現場においても「多様性の尊重と社会経済的な平等が緊張関係にあること」つまり「現状のままでの多様性の尊重のみの追及は、かえって移住者が置かれている不平等の克服を困難にする」という認識は明確でなかったと本書にある。本書では在日南米人、フィリピン人シングルマザー、子供たち、さらに労働法や社会保障の観点から移住者の貧困が取り上げられている。執筆者がすべて日本人であることを含め本書が重要なしかし限界を持つたたき台として、移民当事者の「貧困と困難の克服」に役立つことを祈る。

(栗田隆子・IGC職員)

志水宏吉編著『エスニシティと教育』日本図書センター, 2009.

歴史的なルーツのあるマイノリティの存在に加えて、90年代以降学校現場で急増した「ニューカマー」の子どもたち。彼らを巡る教育問題は様々である。

本書は、グローバリゼーションの中で変容する日本の教育を、エスニシティという視点から、数々の論文を再考する形で描いた一冊。出版から十年経ってはいるが、「グローバル市民とは」、「文化多元主義とは」、そしてそれらの達成に向けた教育上の課題や展望を考えるにあたって、今日尚多くの示唆に富む書と言える。

(白石恵那・IGC職員)

額賀美紗子、芝野淳一、三浦紗希子編著『移民から教育を考える―子どもたちをとりまくグローバル時代の課題』ナカニシヤ出版, 2019.

「学校は日本人のための場所だった」―この言葉に集約される、同質的で"日本人"優位な教育や社会システムの機能不全に警鐘を鳴らす。この機能不全は今日の急速な多文化化で顕著になったが、歴史的で根深いものでもある。

若手研究者らによる、日本国内の移民の子供達をめぐる、網羅的かつ教科書的な書。「想像力」を養い、多文化共生への道筋を考える足掛かりとなるだろう。

(白石恵那・IGC職員)

丹野清人『外国人の人権の社会学―外国人へのまなざしと偽装査証、少年非行、LGBT、そしてヘイト』吉田書店, 2018.

誰が男で誰が女なのか、誰が誰を好きであれば許されるのか。このような問題は、日常の中にあるものにみえて、案外国家レベルの権力と強く結びついています。同性婚を合法化するのも、同性愛者を刑法で裁くのも一国の政治。「外国人へのまなざし」の先には、そのような国と国の間にある違いに翻弄され、揺れ動く人たちがいます。

(永井萌子・IGC職員)

塩原良和・稲津秀樹編著『社会的分断を越境するー他者と出会いなおす想像力』青弓社, 2017.

 新自由主義とグローバリゼーションはだんだんと私たちの想像力を弱めている?そんな時代だからこそ、他者と「出会いなおす」こと、社会を「想像しなおす」ことについて考えてみる。これがこの本の目的です。

 知らない何かにただ思いを巡らすのではなく、いまここにある現実、ここにいる誰かを探究するための知的活動、それが「想像力」なのだといいます。ただ感じること、は知識があって初めて共感になるー私ではない誰かについて学び考えることで、その人に対する感受性の限界が押し広げられる。それもまた越境ではないでしょうか。

 その越境体験が「koko ni iru日本の移民」と「出会いなおす」きっかけになれば(もちろん新しい出会いも!)・・・。どこから手をつけようかと悩んでいる方に、オススメの一冊です! 

 (永井萌子・IGC職員)

中村一成『ルポ京都朝鮮学校襲撃事件<ヘイトクライム>に抗して』 岩波書店, 2014.

 女子部JAPANというサイト上でヒップホップバンドの「ライムスター」メンバー宇多丸氏の悩み相談コーナーがある。最新回の相談は在日韓国人である相談者が最近ヘイトスピーチに怖さを覚えるようになり、日本を出たいと考えている。しかしそれは一人だけ逃げるようでもあり悩む。こんな自分はおかしいのか、という内容だった。この本にあるように子供たちは突然に暴力にさらされ、大人は子供を守れなかったと自分を責める。しかしそんな状態にしたのは一体誰なのだろう?誰が一体ほんとうにおかしいのか?このルポの中にその答えが詳細に書かれている

(栗田隆子・IGC職員)

エリン・エラン・チャン『在日外国人と市民権 移民編入の政治学』明石書店, 2012.

 

 戦後朝鮮半島から日本に渡ってきた(渡ることを強いられた)人々は植民地か帰化を選ぶはずであるとして誤った前提をもとに移民政策を打ち出した日本政府。その後1980年代在日コリアンの人々外国人登録書への指紋押捺拒否運動がおこり、さらに40年が経過している現在、日本政府の在日外国人に対する市民権に関する考え方や姿勢はどのような変遷を辿っただろうか。「市民権」を在日日本人のみならず、海外にルーツを持つ人々との共生のための「市民権」であるかどうか、「移民」という言葉さえ使いたがらない日本政府の姿勢を把握する必要があるだろう。

(栗田隆子・IGC職員)

駒井洋監修、小林真生編著『移民・ディアスポラ研究3 レイシズムと外国人嫌悪』明石書店, 2013.

 一向に改善の兆しの見えない日韓関係、相変わらずの日中関係。そうした中、定着化しているように思われるレイシズム、そして外国人嫌悪の意識。これらの顕現たるヘイトスピーチが注目を集めがちだが、近視眼的な対策だけでは根本は変わらない。

本書では、様々な分野を専門とする社会学者たちが、歴史的に背景を追う視点や、他国の状況と比較する視点を駆使し、多方面から現代の偏見の広がりを分析する。

(白石恵那・IGC職員)

岡田安弘 『数字でみる子どもの国籍と在留資格』明石書店, 2002.

"婚外子は胎児認知がなければ日本国籍を取得しない"という現行法のあり方に異議を唱える筆者が、全国的規模で行なったアンケートをもとに、子どもの国籍問題を分析する。

児童相談所など現場の困難を明らかにし、国際人権法に違反した現状を無視する日本政府への批判をも呈した一冊。いかに国籍取得のプロセスの一般的理解が進んでいないかに気づかされる。

(白石恵那・IGC職員)