Hiroyuki YAMADA's
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愛媛大学で研究員をしている山田寛之のウェブサイトです
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現在の情報
山田 寛之(1995年 生)
ORCID ID https://orcid.org/0000-0002-8034-5687
Research map https://researchmap.jp/amenouo107yamada
Google scholar https://scholar.google.co.jp/citations?user=4fD_pCsAAAAJ&hl=ja
学位:
博士(水産科学)(2023年3月 北海道大学大学院水産科学院)
地位:
日本学術振興会特別研究員PD 2023年~2026年(予定)
所属:
愛媛大学 理工学研究科 生態学研究室(受入教員:井上 幹生 教授)研究室HP
〒790-8577 愛媛県松山市文京町2-5愛媛大学理学部生物学科生態学研究室
連絡先:
kosame107(at)gmail.com
※コサメは紀伊半島南部のアマゴの地方名、107は“イワナ”です
研究紹介(主要テーマ)
流下の選択的メカニズム「空間的選別」
河川生物の流下(流水による下流への移動)は、流されやすい性質を持つ個体でより頻繁に起こります。
流下は、上流の個体群から流れに弱い表現型を持つ個体を選択的に除去する(移動させる)進化圧として働く場合があります。
このように移動傾向に基づく進化圧は「空間的選別(spatial sorting)」と呼ばれ、自然淘汰(生存率と繁殖成功度に基づく進化圧)とは区別されます。
認知形質(眼・瞳孔)に作用する出水時の空間的選別(タカハヤ)
2024年の台風と集中豪雨に起因する濁水を伴う出水を利用して、2回の標識採捕実験を実施。
その結果、「眼」と「瞳孔」が大きい個体ほど流下回避する傾向が見つかった。
認知形質に作用する空間的選別の初の事例。
Yamada (2026) Evolutionary Ecology
https://doi.org/10.1007/s10682-025-10370-3
流下の空間的選別による分散行動の進化の示唆(タカハヤの稚魚)
愛媛県蒼社川の分断化された生息地で採集された稚魚の分散行動を水槽で比較。
狭い生息地に隔離された集団の稚魚は、下流への移動傾向が低下していた。
Yamada (2024) Journal of Fish Biology
http://doi.org/10.1111/jfb.15917
出水時の流下の空間的選別による尾部形態の進化の示唆(棚田細流のタカハヤ)
高知県嶺北地域の棚田に、細い尾柄と長い尾ビレ下葉を持つ集団を発見(写真下側)。
その性質は出水時に流下を回避する上で役立つことが示唆された。
Yamada (2024) Journal of Evolutionary Biology
https://doi.org/10.1093/jeb/voae105
平常時の流下による空間的選別の行動進化仮説(イワナの稚魚)
北海道函館周辺の小河川のダム上流域に生息する稚魚の着底行動時間が長いことを発見。
Yamada & Wada, (2023) Journal of Fish Biology
https://doi.org/10.1111/jfb.15373
着底行動は、平常時の流下を回避する上で役立つことが示唆された。
Yamada & Wada, (2024) Ecological Research
https://doi.org/10.1111/1440-1703.12455
北大プレスリリース:
増水時の流下による形態の進化(アマゴの稚魚)
紀伊半島古座川水系のダム上流域に生息する稚魚が、生まれつき高い体高を持つことを発見。
高い体高は増水時に流下を回避する上で役立つことが示唆された。
Yamada & Wada, (2021) Evolution
https://doi.org/10.1111/evo.14281
「空間的選別 」その意義や洞察について
空間的選別(spatial sorting)とは?
空間的選別は、生息範囲を急速に拡大している侵略的外来種で発見され、2011年に提唱された新しい進化メカニズムです。
まず、侵入地点に最初の創始者個体群(コア個体群)が形成されます。
ここから範囲拡大が始まり、一部の個体がコア個体群から移出します。このとき、分散傾向を高める表現型を持つ個体に偏って移出するため、 コア個体群では高分散個体を選択的に除去する空間的選別が作用 します。
そして、分散個体がコア個体群から離れ、侵入フロントにエッジ個体群を形成します。このエッジ個体群はちょうどマラソンの先頭集団のようにコアから遠ざかり続けるため、分散傾向の低い個体はついて行けず、置いて行かれてしまいます。そのため エッジ個体群では低分散個体を選択的に除去する空間的選別が作用 するようになります。
これが範囲拡大中の生物に作用する進化圧として、最初に説明された空間的選別メカニズムです。
オーストラリアに侵入したオオヒキガエルに作用する空間的選別の概要
Shine et al. (2011) PNAS https://doi.org/10.1073/pnas.1018989108
「空間存続性」を高める機能形質
もし、流下による空間的選別が主導して形成された機能形質が存在するなら、それは上流域という 空間での個体の存続性 を高める機能形質として理解すべきでしょう。
現在、生物の機能形質はダーウィンの自然淘汰の定義に基づき、暗黙のうちに「生存率や繁殖成績を高める機能形質」として理解されています。
検証は難しいかもしれませんが、このような「ダーウィンが見落とした究極的説明」が成立する形質が、自然界のどこかでひっそりと生まれ、維持されているかも知れません。
参考:Yamada (2024) Journal of Evolutionary Biology https://doi.org/10.1093/jeb/voae105
「生態学的現象」としての空間的選別
空間的選別や自然淘汰は、その遺伝的基盤の有無にかかわらず、表現型に作用します。
生存率に基づく表現型フィルタリングは「表現型選択」と呼ばれることがあります。同様に、空間的な存続性に基づく表現型フィルタリングは、「表現型選別」と呼ぶことができるでしょう。
どのような表現型が生存し、空間的に存続するかは、生物と環境の相互作用によって決まります。したがって、「表現型選択」や「表現型選別」は、生態学的な現象として理解できます。
遺伝基盤をもたない表現型に作用する空間的選別や自然淘汰は、進化に直結しないため、軽視されがちです。しかし、それらが何らかの生態学的な波及効果をもつ状況を想定できる場合があります。
瞳孔サイズ*1 に作用する選別は、その好例と言えるかもしれません。
参考:
Svensson (2023) Evolution
https://doi.org/10.1093/evolut/qpad077
Yamada (2026) Evolutionary Ecology
https://doi.org/10.1007/s10682-025-10370-3
*1 : 硬骨魚類の瞳孔は、短期的にはサイズが固定されているが、長期的には変化することが知られている。また、瞳孔が広がるほど暗所での視覚能力が高まる。ヨーロッパブナでは、瞳孔の可塑的な拡大に伴い、活動時間帯が昼行性から夜行性へと移行した例も報告されている。
参考:Vinterstare et al. (2020) Journal of Animal Ecology https://doi.org/10.1111/1365-2656.13303
サブテーマ
イワナ稚魚(0歳魚)のあくびは着底行動時に多く、遊泳する直前に集中していた
Yamada & Wada, (2023) Journal of Ethology https://doi.org/10.1007/s10164-023-00777-2
第10回Journal of Ethology論文賞 を受賞しました!
あくびするイワナの1歳稚魚 ※実験では0歳魚を使用
北大プレスリリース:https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/01/post-1156.html
魚類のあくび?
あくびは恒温動物でよく研究されており、脳を冷却したり頭蓋循環を促進する機能があることが生理学的に示されています。このことから、あくびには脳の覚醒作用があると広く考えられています(呼吸との関連は否定されています)。
この推論と一致するように、行動学的研究では、あくびが活発な行動を開始する直前に発生することが分類群を超えて広く観察されています。
動物が活発な行動を開始する直前に覚醒度を高めるためにあくびをする、という「状態変化仮説(state-change hypothesis)」は、恒温動物では多くの検証例があります。しかし、魚類を含む外温動物での定量的な検証例は、私たちの知る限り存在せず、報告は逸話的な記載にとどまっていました。
偶然の発見
私たちは、流下回避形質としての着底行動(水底に接地して不動状態をとる行動で、偶発的に速い流れに巻き込まれるリスクを低減すると考えられる)を観察していました。その際、着底を止めて遊泳を開始する直前にあくびをすることが多いことに、偶然気づきました。
あくび行動について調べた結果、この行動パターンはあくびの「状態変化仮説」と整合していることが分かり、定量的に解析して論文として報告しました。
魚類は最初に顎を獲得した脊椎動物であり、地球上で最初にあくびをした分類群と考えられています。したがって、魚類でのあくび研究は、私たちのあくびの起源を理解する上でも重要な貢献を果たす可能性があります。