突如として世界を席巻した新型コロナウイルス感染症の全世界的な流行は,現代社会のあり方を根底から衝き動かし,それによって,これまでこの社会が抱え込んできた歪みが各所で露呈する事態が図らずも生じている.典型的なのは偏見・差別,あるいは格差といった問題で,人間がより豊かに幸せに生きることを追求した結果として形成されたはずの社会が,逆に少なくない人間を不条理に苦しめる事例が頻発している.本ユニットでは,新型コロナウイルスなど新興感染症による災禍など,事前に予測することが困難な一方で心身の健康を大きく損なう可能性のある諸問題(Unexpected Health Issues: UHI)について,特に社会の構成員たる「人間」に注目し,量と質,全体と個という対照的な観点を相互補完的に組み合わせてアプローチする.研究成果は,再び豊かさと幸福の追求を目指して「社会の平均値を動かす」ための多角的な試みとして還元される.
ユニットは,人間科学研究科(CiDER兼任)教員4名をPIとする以下のプロジェクトから構成されている.
三浦 麻子(CiDER兼任教員・人間科学研究科教授)
村上 靖彦(CiDER兼任教員・人間科学研究科教授)
平井 啓(CiDER兼任教員・人間科学研究科准教授)
杉田 映理(CiDER兼任教員・人間科学研究科教授)
八木橋 真央(CiDER特任助教)
新型コロナウイルス感染症の事例に代表されるように,UHIは社会を変えうる「状況の力」をもつ.この力がどこにどの程度及ぶのかを社会心理学的な観点から解明する。
大規模サンプルを対象とする①Web調査(パネル調査および国際比較調査)と,②SNSログ分析の2つの手法で,感染禍および心身の健康に関する人々の知識・態度・行動等を縦断的にセンシング(social sensing)する.
分担者:小林哲郎(香港城市大学准教授),山縣芽生(人間科学研究科博士後期課程院生),平石界(慶應義塾大学教授),中西大輔(広島修道大学教授),鳥海不二夫(東京大学教授),稲葉通将(電気通信大学准教授)
新型コロナウイルス感染症の患者、家族,医療従事者を始めとして、病、あるいは障害、貧困、差別といった社会的な困難に直面するさまざまな当事者や対人援助職を対象とするエスノグラフィー(聞き取り調査と参与観察)によるデータを収集し、分析する。
病や障害,社会的逆境にかかわる人たちの一人ひとりは、それぞれのスタイルとストーリーを持つ。大規模な調査によって全体の平均的傾向を掴むことは重要だが、それと同時に、苦痛や苦労やスキルは一般的な傾向性にはおさまらない個別の経験のひだのなかに表現される.それゆえ,本プロジェクトは,日本における病や逆境の経験の実際を照らすとともに,今後あるべき支援を検討するためのモデル提示の役割を担うことを目的とする。
分担者:三浦麻子(人間科学研究科教授),坂東希(人間科学研究科講師),ほんまなほ(COデザインセンター教授),久保樹里(花園大学准教授),佐藤桃子(島根大学講師)
健康心理学、臨床心理学、社会心理学などの学術の理論と、ソーシャルマーケティングなどの実践の理論を組み合わせて、UHIが起こった際、すなわち、社会、あるいは個人にとって未知のリスク(新たな開始される検診、新規のワクチン、治療法も含む)が認識された際のヘルスコミュニケーションの理論と技法の開発を行う。
UHIは、流行当初はそのリスクや治療法などが未知であるため、人々にさまざまな反応を生じさせる。一方で、その対策としては公衆衛生学的アプローチのようなマスを対象としたアプローチが必須であることから、心理的反応を含めたメカニズムを解明し、それを踏まえた対策や介入を開発する必要がある。本プロジェクトでは、対象を適切にセグメント化した上で伝え方を調整する、効果的なヘルス/リスクコミュニケーション方法の開発を目指す。
分担者:野村晴夫(人間科学研究科教授),佐々木淳(人間科学研究科准教授),管生聖子(人間科学研究科講師),八木絵香(COデザインセンター教授),石川善樹(公益財団法人Wellbieing for Planet Earth代表理事)
UHIへのレジリエンスを高めるヘルスプロモーションの場として、学校に焦点をあて、学校保健の中でも特に感染症に関連する分野について日本の現状把握と国際比較を行って比較優位の点を抽出し、提言として発信することを目的とする。加えて、国や自治体の教育・保健の行政が、COVID19 禍にヘルスプロモーションと学校保健に関連してどのように対応をしているかを把握したい。
①日本国内の学校保健の現状と分析(現地調査および文献調査)を行い、②海外の学校におけるヘルスプロモーションの現状の把握(文献調査および現地調査とオンライン調査の組み合わせ)を行った上で日本との比較・分析を実施し、③比較優位のある点を抽出して提言としてまとめ、それを国内外に情報発信していく。
分担者:山本ベバリーアン(人間科学研究科教授),小笠原理恵(人間科学研究科特任助教),山中浩司(人間科学研究科教授),モハーチ・ゲルゲイ(人間科学研究科准教授),木村友美(人間科学研究科講師),大谷順子(人間科学研究科教授),小林潤(国際学校保健コンソーシアム理事長)
三浦 麻子
村上 靖彦
平井 啓
杉田 映理
八木橋 真央
お問い合わせ:cider[at]hus.osaka-u.ac.jp