[趣旨文]
われわれは、人と人との関係性の醸成から、都市文化と空間のダイナミズムを歴史的に考察しようとし、人類が生み出してきた多様な歓待装置に目を向けることとした。聖性を帯びた宗教的歓待からはじまり、洗練された饗応の技が光る世俗の歓待にいたるまで、そこに潜在する歓待を整える人間や社会集団の心性・規範・戦略・権力の表現を「歓待インフラストラクチャー」と捉え、学際的・領域横断的にその本質にアプローチしようとしている。第二弾のラウンドテーブルでは、「古都」の歓待空間を主題にすえたい。
「古都」とは、かつて都がおかれた場所を指す一方、「古くからの都」という言葉もあるように、過去と現代とが途絶されたものではなく、過去の都としての歴史的経験、その記憶が喚起するブランドやイメージが、ある種のプライドを伴いながら人々(住民と外来者)の間に、独自の心性やアイデンティティを構築していく様をも内包する。それゆえに、「古都」には、固有の「歓待インフラストラクチャー」が生まれやすい土壌があり、そこからその都市の本質に迫れるのではないかと考えた。このラウンドテーブルでは、それぞれの都市のもつ「古都」性について議論してみたい。一般に、「古都」は、空間の面では、首都機能を失った後の公的空間や建造物の変容や転用、市街地の発展と衰退の過程で生まれた都市郊外関係が、独自の都市景観を生み出していく。また社会的な面では、既存の身分・秩序と新興層との相剋や共存、先住者と移住者との間の均衡、旅行者の受容、これらの複雑な人間関係を調整するための社交や交際の技法が成熟する。それは、都(みやこ)がストックしてきた文化的資本と往来する人材を駆動させる契機ともなり、都市文化のありようを左右する。「古都」が完成するためには、宗教的建造物や景勝地のモニュメント性と広域的なツーリズムの成立に支えられた「記憶のブランディング」が必須であり、それが日本とヨーロッパでは、近世から近代にかけて出現する。
日本において「古都」を象徴する都市が京都であることに言を俟たない。同時に、「古都」性をもつ都市は、世界中に広がってもいる。今回のラウンドテーブルでは、建築史や都市史の専門家に集まっていただき、「古都」京都のもつ特性とイマジネール(想像界)を自由に議論していただくとともに、国際的比較都市史の視点に京都を位置づける作業を行う。昨年、文化庁が移転し、文化財保存の牙城が構築されると同時に、オーバーツーリズムに悩まされる京都において、「歴史都市との対話」の最適化について落ち着いた環境で議論してみたい。
岩本馨氏(京都大学)
日向進氏(京都工芸繊維大学名誉教授)
岸泰子氏(京都府立大学)
鈴木真歩氏(岩手県立大学)
赤松加寿江氏(京都工芸繊維大学)
サントリー研究助成2023年度共同研究
「『歓待インフラストラクチャー』から読み解く近世ヨーロッパ都市文化=空間構造の比較研究」
研究代表者:坂野正則(上智大学)
共同研究者:赤松加寿江(京都工業繊維大学)
中島智章(工学院大学)