太陽のような恒星が出来るとき、星に集まりきらなかったガスと塵が円盤状に星を取り巻きます。この〝のこりかす〞のような物質が集まって惑星ができるので、この円盤を原始惑星系円盤と言います。
画像は波長3.08μmの赤外線で観測した HD142527という若い星の周りに存在する原始惑星系円盤を観測したものです。中心の非常に明るい星のため、まわりの淡い原始惑星系円盤はそのままでは観測できません。そこで、コロナグラフという中心の星を”隠す”観測手法を用います。それでも明るいのでX字型の望遠鏡のスパイダー模様が残っていますが、中心を大きくリング状に淡く分布している原始惑星系円盤が検出できています。この円盤を様々な波長を観測、赤外線の「スペクトル」を調べてみたところ、波長3μmで相対的に暗くなっている事が確認できました。これはこの円盤に水の氷が存在して、それによって波長3μmの光が弱くなっていると考えられます。もしかしたら、この星の周りに形成される惑星の水は、この水の氷粒からもたらされるかもしれません。詳細はすばる望遠鏡の解説ページを見てみてください。
円盤の水氷の分布を調べる観測はまだあまり例がなく、地球型惑星への水の供給の前提条件を探る上で重要と考えています。
本研究室ではこの手法を他の天体に適用したり、偏光を利用した観測も行っています。
すばる望遠鏡搭載の中間赤外線観測装置COMICS(右写真)による中間赤外線分光観測により、惑星形成中の若い星である T Tauri型星Hen3-600Aの周りの原始惑星系円盤に、世界で初めて結晶化したケイ酸塩鉱物が存在することを突き止めました(スペクトル分析から判明)。ケイ酸塩鉱物が結晶化するには約1000度近くもの高温加熱が必要で、太陽系形成時にもこのような事が起こったということが、隕石や彗星塵の研究などから分かっており、同様の現象が他の惑星系形成時にも起こることが示唆されます。詳細はこちらのページを見てみてください。
この研究は私の修士・博士論文の一つです。自分たちの作った観測装置を用いて、世界初の成果を出すことができました。もちろん、この成果に至るまでに多くの方のサポート、様々な紆余曲折がありましたが、今では良い思い出です。
今でもこの研究をきっかけとして、原始惑星系円盤物質の熱史・物質循環・太陽系始原物質の起源に興味を持っており、遠赤外線観測や偏光観測、理論検討の議論などを進めています。また、関連する研究成果として以下のすばる望遠鏡のプレスリリースのページをご覧ください。
私はこれまで主に地上からの赤外線観測天文学、特に赤外線の中でも中間赤外線波長帯(波長3-30μm)というユニークな波長での観測を進めてきました。この赤外線は、ちょうど私たちの体温ぐらい(約300K)の物体から放射されます。身近な例ではコロナ禍でよく使われるようになったサーモグラフィに使われている波長帯です。ですので、人によっては熱赤外という人もいます。サーモグラフィで宇宙を見ると、人肌ぐらいの”あったかい”宇宙の様子が分かります。また、様々な分子の振動回転遷移輝線が見られるので、化学分析の世界では分子の指紋領域とも呼ばれています。このように、中間赤外線は可視光、近赤外、電波等とは異なった宇宙の様子を見られる「窓」なのです。私たちは、この窓にはまだまだ大きな可能性があると信じ、新しい観測装置を開発して新しい宇宙の姿を見ようとしています。そのため、すばる望遠鏡や次世代の30m望遠鏡(TMT)の将来観測装置の提案や、基礎的な技術開発を進めています。また、宇宙からの観測も含めた将来計画の検討にも参加しています。TMTの中間赤外線観測装置では、近傍の地球型惑星の検出も、挑戦的ではありますが可能であるという見積もりもあります。第2の地球に手が届くところに人類は来ているのです。