研究

[貨幣経済・暗号通貨]
- work in progress:
"A Monetary Perspective on Sectoral Growth and Inequality: - Analysis on the Mechanism of Inflation, Bubble and Boom -" (Avaialbe at SSRN)
 "Introducing Community Cryptocurrency in Sequential Fund Transfer Scheme" (joint with Jun Maekawa) 

[決済理論・決済システム]

*入門用資料 〇スライド資料:“決済資金循環問題”とは?-問題の設定・背景と具体例- 

X,Y,Zさん3人の間での金銭の貸し借りを考えます。XさんはYさんに10の借金があり、同様にYさんはZさんに、ZさんはXさんにそれぞれ10の借金があるとしましょう。3人の借金(債務)が全て返済されるには、全体でいくらの資金が必要となるでしょうか?(3(人)*10=30でしょうか?)より多人数の間の所与の債務に関して、全ての返済を完了するにはいったいどの程度の資金が必要となるでしょうか?このような問いが導く“決済の本質的課題”と拙著論文の分析手法に関して入門的説明を与えます。

Liquidity in Financial Networks    Computational Economics, January 2020, 55(1), 253-301.
(概要)
  サブプライム金融危機によって、金融機関の間の連鎖倒産の可能性が再認識された。連鎖倒産を防ぐには、各金融機関が資金を十分に保有する必要がある。では、全体として、いったいどれほどの資金が必要とされるだろうか?また、全体として必要とされる資金量は、金融機関の間の債権債務関係のネットワーク構造にいかに左右されるだろうか?本論文は、ネットワークモデルを用いて理論分析を与える。分析において、ネットワークの"ねじれ"構造が、全体として必要とされる資金量を特徴付ける重要な要素であることを明らかにした。"ねじれ”構造とは、本論文が見いだしたネットワークに関する新たな概念であり、本研究の目的においては、"ハブ"構造などよく知られた構造よりも本質的な意義を有することが示される。

Does a Central Clearing Counterparty Reduce Liquidity Needs?   Journal of Economic Interaction and Coordination, April 2018, 13(1), 9–50.
(概要)
 金融危機における金融機関の連鎖倒産の予防には、中央清算機関(CCP)の設置が有効であると議論される。その一つの理由は、CCPの流動性(必要とされる資金)の節約効果にある。すなわち、CCPが金融機関の間の債権債務を相殺(ネッティング)することで、支払に必要となる資金が節約されると考えられる。しかし、そのような議論は、ネッティングされた債権債務のみに注目した"局所的な"議論であり、債権債務のネットワークを通じた"全体として"必要とされる資金量に関する視点が欠けている。また、CCPはネッティング機能を提供する一方、CCPそれ自体も支払のために資金を必要としうることが十分に考慮されていない。これらを踏まえ、本論文は、ネット-ワークモデルを用いて、CCPの設置が"全体として"必要とされる資金量に与える効果の分析を行った。本論文の分析は、CCPの設置のもたらす効果が、ネッティングを通じた効果("ネッティング効果")とそれ自体が受け払いを行うことを通じた効果("経路効果”)の合計として把握されることを示した。かつ、それぞれの効果が負となりうる、すなわち全体として必要とされる資金を増加させる理論的な可能性を示した。

Settlement Fund Circulation Problem "決済資金循環問題" (joint with Toshimasa Ishii, Hirotaka Ono, Yushi Uno)    Discrete Applied Mathematics, July 2019, 265, 86-103.  (extended abstract: Proceedings of the 28th International Symposium on Algorithms and Computation (ISAAC 2017), December 9-12, 2017 - Phuket, Thailand, Yoshio Okamoto and Takeshi Tokuyama (Eds.) LIPICS Vol. 92)
(概要)
 金融機関の債権債務のネットワークに関して、全ての決済を完了するにはいったいどれほどの資金が(中央銀行によって)投入される必要があるだろうか。この問いは、金融危機における連鎖倒産の防止の観点から重要である。本論文は、この問いをグラフの最適化問題として定式化("決済資金循環問題: Settlement Fund Circulation Problem")し、グラフアルゴリズム・計算量の観点から分析を与える。"決済資金循環問題"は、拙著論文"Liquidity in Financial Networks"ならびに"Does a Central Clearing Counterparty Reduce Liquidity Needs?"の分析のための理論モデルとして用いられ、流動性に関する様々な分析への応用が期待できる。本論文の分析は、"決済資金循環問題"が一般の設定においてNP困難であることを明らかにする。かつ、いくつかの限定的なクラスに関して多項式時間・線形時間アルゴリズムを見いだした。とくに、スター構造に関する結果は、現実の決済ネットワークとの対応において応用可能性が高いと考えられる。

How a Liquidity Saving Mechanism Affects Bank Behavior in Interconnected Payment Networks  (Journal of Economic Interaction and Coordination, April 2024)
(概要)
 銀行間決済において、近年、流動性節約機能とよばれる債券債務のネッティングを日中において可能とする仕組みが導入されるが、それはいかなる効果を有しうるか。本論文は、支払のタイミングに関する個々の銀行の戦略的意思決定のもと、支払ネットワークを通じた相互作用の効果について分析を与える。既存研究は、支払ネットワークの構造に関してサイクル構造を想定し、流動性節約機能の可能とするネッティングが、連結している債権債務の全てを相殺する状況について分析を与えた。しかし、現実においては、流動性節約機能のもたらすネッティングは、連結している債権債務のせいぜい一部を相殺するに過ぎない。本論文は、流動性節約機能の効果を、そのような部分的な相殺の効果と位置づけて分析を与える。本論文の分析は、部分的な相殺は支払ネットワークの連結を一部立ち切ることを通じて、ネットワーク上の波及効果を遮断することを明らかにする。これを通じて、投入資金量を拡大するという負の効果を有しうることを明らかにする。本論文はとくに、支払ネットワークの構造に関して、中枢・辺縁構造のクラスに関して分析を与える。流動性節約機能の厚生に関する効果は、ネットワーク構造に関する"密度"に依存し、とくに最も"密である"とき正の効果をもたらすが、そうでない場合、連結を遮断することの効果を通して全体として負の効果を有しうることが示される。