あなたの「性格」に合わせた、先延ばし抑制システムの設計
多くの人が抱える先延ばしという問題は、パフォーマンス低下や精神的負担に繋がりますが、既存の支援システムは個人の特性、特に自己制御能力の違いを十分に考慮していませんでした。本研究では、ユーザの自己制御能力の高低に合わせて設計した「Self-Agent(自分自身を模倣)」と「Teacher-Agent(指導教員を模倣)」という2種類のエージェントを用いることで、心理的負担を抑えつつ自律的なタスク遂行を促すことができるか、という問いに取り組みました。Slack上で動作する対話型エージェントシステムを開発し、大学院生8名を自己制御能力の高いグループと低いグループに分けて実験を行いました。参加者は、自身を客観視させることで心理的負担の軽減を目指す「Self-Agent」、監視によってタスク遂行を促す「Teacher-Agent」、そしてキャラクター性のない「Impersonal-Agent」の3条件下で3週間にわたりシステムを利用し、その際のタスク達成度や心理的印象を比較しました。得られた結果として、自己制御能力の高い群は「Teacher-Agent」による監視下で最もタスク遂行成績が向上した一方、自己制御能力の低い群は「Teacher-Agent」に大きな心理的負担を感じることが分かりました。そして、この自己制御能力が低い群に対しては「Self-Agent」が、強い心理的負担をかけることなく先延ばしを抑制する効果を示し、自律的なタスク管理への第一歩となりうる可能性が示唆されました。
あなたの「本当の欲求」を見える化して、先延ばしを乗りこなす
多くの大学生が抱える「不適応的な先延ばし」は、学業成績や精神的健康に悪影響を及ぼす問題です。先行研究から、先延ばしには自己制御能力やメタ認知能力といった個人特性が関わっており、特に先延ばし傾向のある学生は、自身の欲求や状況を考慮した合理的な判断力が欠けていることが課題として挙げられていました。本研究では、この課題に対し、ユーザがタスクを開始する際に「研究しようかな」「ゲームしようかな」といった複数の欲求を自ら選択し、その上で次の行動を決定するプロセスを支援するシステムを提案・開発しました。この手法は、ユーザ自身の欲求を客観視させ、意識的な行動決定を促すことを目的としています。提案システムを用いた実験の結果、先延ばし傾向の異なる全てのタイプの学生において、不適応的な先延ばし行動が抑制される効果が確認されました。また、本システムはユーザが先延ばし行動を自覚し、本来やるべきタスクへ復帰することを支援する効果があることも示唆されました。
高田 茉知, 武川 直樹, 東 孝文「大学生の不適応先延ばし抑制に向けた本人の欲求を代弁し意思決定を促すシステムの提案」情報処理学会論文集2025-CN-124(36),pp.1-8(2025)
初心者でも「気持ちよく」没入できる。切り絵の楽しさを引き出す難易度調整システム
切り絵などの創作活動において、初心者が自身のスキルに合わない難しい下絵を選んでしまい、失敗や挫折に繋がるという課題がありました。本研究ではこの課題に対し、HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)分野のステアリング法則を用いて、切り絵の線の細さから難易度を定量化し、難しい部分の線を自動で太くして難易度を適正化する「下絵修正システム」を開発できるか 、という問いに取り組みました。手法として、実際に初心者が使う教本の下絵の難易度をシステムで測定し、難しすぎると判定された部分の線を自動で太くして、より簡単なバージョンを生成するシステムを実装しました。初心者10名を対象とした実験で、元の難しい下絵と、システムが修正した簡単な下絵の両方で作品を制作してもらい、その際の作業精度と心理状態(フロー体験)を比較しました。得られた結果として、システムが修正した下絵を使った場合、初心者の作業精度が向上し、さらに「スキルと挑戦のバランス」というフロー体験の重要な要素が有意に向上することが確認され、ユーザ体験の改善が示唆されました。