研究内容

岩石天体表層と材料物質であるコンドライトの化学組成や天体内部構造の違いに着目し、分化過程が天体の化学進化に果たした役割を明らかにすることを目指しています。

惑星形成過程における天体内部の化学進化

 地球やその他の岩石天体(月や火星など)の表層組成は異なっており、また、これらの天体の材料物質と考えられているコンドライトとも大きく異なっています。岩石天体表層にみられるこうした化学組成の多様性、そして材料物質であるコンドライトと化学組成が異なるのはなぜでしょうか?

 地球を始めとした岩石天体は形成期に大部分が溶融し、金属鉄から成る核とケイ酸塩成分から成るマントルに分化したと考えられています。私たちの研究グループでは金属核と溶融マントル間の元素分配や地球の質量の大部分を占めるマントル構成物質の融解相関係を実験的に調べ、また固相、液相の密度推定を行うことで岩石天体内部の化学進化を理解することを試みています[例えば、Kuwahara et al., 2018, PEPI]。また、最近ではマグマオーシャン中の2価鉄の電荷付近化反応によって現在よりも非常に酸化的な表層環境が形成することを明らかにしました[Kuwahara et al., 2023, Nat. Geosci.; 2023, EPSL]。

キーワード:酸化還元度、マントル、融解相関係、密度

大気や海洋の起源と進化

 地球をはじめとした岩石天体のいくつかは表層を大気に覆われており、過去には地球のみならず火星や金星にも海洋が存在していた可能性が指摘されています。こうした惑星の大気、そして海洋はどのように形成し、またその質量や組成を制御する要因はどのようなものだったのでしょうか?

 私たちの研究グループでは岩石惑星の質量の大半を占める金属核やマントル間の揮発性元素分配に着目し、大気海洋を構成する元素の量比がどのように決定されたのか、その主要因を理解することを目的とした共同研究を国内の他研究グループと行っております。

 これまでに、海洋の重要成分のひとつである塩素が惑星材料物質と考えられているコンドライトよりも枯渇している理由として、核やマントル鉱物は隠れた貯蔵層になり得ないことを実験的に明らかにし、原始大気海洋の散逸が起こった可能性を指摘しました[Kuwahara et al., 2017, G-cubed; 2019, EPSL]。また、地球生命や大気の主要構成元素である炭素について惑星形成期における核-マントル分化の際、マントルには飽和に近い量の炭素が保持され、この量が現在の地球や月マントルの推定値とかなり整合的であることを指摘してきました[Kuwahara et al., 2019, GRL; 2021, GRL]。

キーワード:核、マントル、揮発性元素分配

惑星内部構造の推定

 地球をはじめとした岩石天体の内部構造はどのようになっているのでしょうか?私たちの研究グループでは国内外の研究グループと共同で高温高圧下における様々な物質の弾性波速度測定を行い、地震波観測と比較することで岩石天体の内部構造推定を行っております。とくに惑星探査によって得られた月や火星の地震波観測からこうした天体の内部構造の推定を行い、比較惑星学的観点から地球、月、そして火星の内部構造の違い、普遍性について理解することを目指しています。最近では、液体Fe-Sとカンラン石の混合試料の弾性波速度測定を行い、月マントル最下部に見られる低速度領域が液体Fe-Sを含み、これらの層が月で枯渇した強親鉄性元素の貯蔵層になっている可能性を指摘しました[Kono et al., 2023]。

キーワード:弾性波速度

■ よく使用する実験・分析装置

マルチアンビル型高圧発生装置、走査型電子顕微鏡(SEM)、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)、ラマン分光装置