嘆願書(白亜 芽雨)

嘆願書 


【白亜 芽雨(ハクア ガウラ)】


Escalier vers le ciel(エスケー・ヴェ・ル・シエル)

セージ様


お世話になります。私は黒羽陽晴(クロバネ ヒナリ)と申します。


御社の方より、セージ様に嘆願書をお送りすれば、白亜芽雨さんと私を、世界のための礎としていただけると伺いました。

そうすれば、”主”が、来世の私たちの未来を祝福して、加護をくださる。結びつきを強めてくださると伺いました。


数か月前、絶望の淵に立っていた私に知恵と希望を授けてくださった皆様には、本当に感謝しています。


私も彼女と共に、”主”の元へ身を捧げます。この世界の未来のために。私たちの来世のために。どうかよろしくお願いいたします。


黒羽陽晴



【ボイスメッセージ】

……がうちゃん?あー、あー、聞こえてるかな。

なんだか気恥ずかしいけれど、これが最後だと思うから。メッセージを残すことにしました。


がうちゃんが来なかったあの日から、もう数ヶ月がたったね。

今でも考えるの。どうしてあの日、がうちゃんが来てくれなかったのかなって。


がうちゃん。知ってた?私、本当はがうちゃんが思ってるほど明るくもないし、意欲的でもないんだよ。

社交的で交友関係が広く見えるのも、全部、全部処世術。仲良くしてるように見えても、それは表面上だけ。


……だからね、がうちゃんと出会ってからの8年間はすごく……すごく楽しかった。

初めてイラストを褒められた時も、一緒にゲームを作ろうって言って、受け入れてくれた時も。協力して作品を作り上げている時も。幸せで、幸せで、幸せで。


幸せが、当たり前になっちゃったからかな。

がうちゃんに会えたら、本当の私を打ち明けようって。がうちゃんならきっと本当の自分を受け入れてくれるって期待しちゃったんだ。


……ショックだった。一日中待ってたの。土砂降りの雨の中、傘をさして、早く来ないかなって。

薄暗い空がだんだんと光を失って、街灯の灯りがついて、人が疎らになって。

ふと時計の針が0時を指し示したとき。

その時初めて、「ああ私、がうちゃんに騙されたんだ。捨てられたんだ」って。受け入れてもらえなかったんだって、そう気づいたの。


その次の日からかな。

食事は全部、全部全部味のしないゴム。

朝焼けは灰色(グレー)。


五感で受け取るもの全てが味気なくて、色のない世界。


好きだったはずのゲーム。

2人でいっぱい話して、愛を込めた世界でたった一つの宝物。

それすらなんの価値もなく思えて、意味もなく声を上げて叫んで、壊した。


暴れるだけ暴れて、ぐったりと床に横たわったとき、不意にインターホンが鳴って。


それが転機だった。


私、気づいたの。主に身を捧げれば私たち、またいっしょにいられるって。


”主”に身を捧げれば、私は嘘偽りなく明るくて素敵な人になれるし、がうちゃんはもう嘘なんてつかなくてよくなる。自然と私を受け入れられるようになるよ

きっと、きっと幸せ。


だから、あの時のこと少しでも後悔してるなら。

私と同じ気持ちなら。”主”に身を差し出して。

その先に、望むものはあるから。


ばいばい、白亜 芽雨さん。

またね、がうちゃん。


いつか帰るところは、きっと同じだから。