嘆願書(柳 潤)
嘆願書
【柳 潤(ヤナギ ジュン)】
Escalier vers le ciel(エスケー・ヴェ・ル・シエル)
セージ様
お世話になります。私は柳潤の母でございます。
先日はセミナーにご招待いただきありがとうございました。御社の方より、あなた様に手紙を書けば、私の息子、潤をこの世界の礎として利用してくださると伺いました。
私はあの子を愛そうとしました。愛したかった。大切な、大切なあの人の子供だから。
夫はとても魅力的な男性です。周囲にはいつも人がいて、誰もに好かれる人。だからこそ、彼が私を選んでくれた時、本当に嬉しかった。こんな兄弟にも、家族にも疎まれる私を選んでくれたことが、何よりも嬉しかった。例えそれが気まぐれでも、実家の財産目当てだったとしても。子供さえできれば、彼も私のことを見てくれると思ったんです。
……けれどそれは間違いだった。潤が赤子の頃は、彼も笑顔で私と話してくれた気がします。ですが潤が大きくなるにつれ、彼はあれを悍ましいもののように見るようになりました。そして、夫は家を空けることが多くなりました。
当然です。潤はあまりにも「彼」に似ていない。人の顔色を伺って、表面で取り繕って媚びる不器用さは、歪なほど私にそっくり。目を背けたくなるほどに。本当に彼の子供が私のお腹に宿ったのか疑ってしまうほどに。
私たちはきっと「家族」にはなれないのでしょう。夫に愛されない私は不要で、彼に愛されない息子も不要な存在なのです。
けれど、"主"は私にたった一つ、救われる道を示してくださりました。あの子を捧げて、私も"主"の元へ身を捧げます。そうすることで少しでも罪が許されるなら。
この世界のためにあの子の命を使ってください。どうか、どうか、よろしくお願いいたします。