南極微生物・藻類の同定と応用
私は第61次南極地域観測隊のメンバーとして南極に行ってきました。陸上生物調査チームの一員として、プリンセス・エリザベス基地というベルギー基地に滞在しました。滞在中に、セール・ロンダーネ山地を調査し、露岩帯の土砂サンプルを採取してきました。現在、土砂サンプルの細菌群集構造を調査しています。南極大陸の異なる環境間でどのように群集構造が異なるか、環境条件とどのように関連しているかを解析しています。加えて、単離した細菌の生理活性についても調査しています。
上記とは別に、島根大学教育学部の大谷教授と共に、南極から分離された藻類の同定を行っています。形態観察では種同定が難しい株を中心に、遺伝学的手法を用いて同定しています。同定結果を基にして、南極での藻類遷移を種レベルで解析することを目指しています。
第61次南極地域観測隊の陸上生物調査チームメンバー
南極セール・ロンダーネ山地の露岩帯で土砂サンプルを採取している様子
■研究詳細:南極セール・ロンダーネ山地
島根県の宍道湖で強いカビ臭が発生し、シジミなどからもカビ臭がする事件がありました。カビ臭生産細菌を調査すると、宍道湖に常在するシアノバクテリアCoelosphaerium sp.がカビ臭のする化合物ジェオスミン(Geosmin)を作っていました。さらにジェオスミンを生産しないCoelosphaerium sp.も単離されました。生産株と非生産株を簡便に識別して計数し、宍道湖でのカビ臭発生を予測、制御する手法の開発を目的に遺伝学的な観点から研究しています。
島根県太田市の三瓶ダムでもカビ臭が問題になっています。カビ臭原因化合物がジェオスミンの時期と、2-メチルイソボルネオール(2-Methylisoborneol, 2-MIB)の時期があります。三瓶ダムでは、浅いところではシアノバクテリアが、底の部分では放線菌と呼ばれる細菌がカビ臭を生産していると推定されています。ダムでのカビ臭発生による経済的な損失を防ぐ方法の開発を目的に、主にカビ臭生産シアノバクテリアの種類や生態を研究しています。
広島県三次市の灰塚ダムではアオコが問題になっています。アオコが発生すると景観が悪化し、腐敗すると悪臭が生じます。どのような環境条件になったときにアオコを形成するシアノバクテリアが増殖するかを解明し、アオコを発生させないようにするにはどのようにダムを管理すればよいかを調査しています。
三瓶ダムでの調査の様子
■研究詳細:宍道湖でのカビ臭発生
除草剤2,4-Dおよび2,4,5-T分解細菌
自然環境には存在しない人工化合物を分解できる微生物がいます。それらの微生物はなぜこれまで触れたことのない化合物も分解できるのかという問いを解明するために、除草剤2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)と、現在は使用が禁止された2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)分解細菌の分解能力を遺伝学的観点から研究しています。長期間にわたり2,4-Dや2,4,5-Tが使用されてきた場所に分解細菌がいるだけでなく、今までに一度も2,4-Dや2,4,5-Tが散布されていない土壌からも分解細菌が分離されています。分解細菌の分解能に関与する遺伝子を同定してきました。さらに2,4-D非分解細菌の中にも、2,4-D分解能に関与する遺伝子を持っている細菌がいることが明らかになりました。どのようにして2,4-D分解能が獲得されてきたのかという進化的な機構の解明を目指して、2,4-Dと2,4,5-T分解能に関与する遺伝子を、分解細菌と非分解細菌の両面から調査しています。
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)と2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)の化学構造
■研究詳細:除草剤2,4-Dおよび2,4,5-T分解細菌