ゼブラフィッシュ20時間胚(蛍光標識した細胞を移植されている)
メダカ胚(孵化酵素により卵膜を除去)
武田研の特長は、自分の興味に基づいた基礎研究を自由にどこまでも進めていけるところです。武田研では、発生過程の美しさを実際に目で見て感じ取り、いろいろな疑問をもって仮説を立て、実験でその仮説を検証し、また新しい疑問が生まれ、その繰り返しでだんだんと研究が進んでいくという、基礎研究の真髄ともいえる過程を好きなだけ味わうことができます。その代わり、研究のクオリティに関しては高いものが求められます。それに応えるためには、それなりの時間をかけて論文を読んで勉強し、たくさんの実験をしなければなりません。最初は大変かもしれませんが、助け合って楽しく研究室生活を進めていけます。
脊椎動物は一見左右対称な受精卵から発生するが、からだの中に配置されている心臓や消化管といった器官には明らかな左右非対称性が見られる。こうした左右非対称性が発生過程でどのように形成されるかは過去30年間にわたって多くの発生学者を惹きつけてきた難問であり、依然としてその仕組みの全容は明らかでない。当研究室では、初期胚において左右非対称性な遺伝子発現を誘導するとされるシグナル因子の胚の中での挙動を可視化、操作することにより、新しい左右非対称性形成のメカニズムの発見を目指している(Ikeda et al., Dev. Growth Differ., 2023)。また、ゲノム編集技術やイメージング技術を駆使し、シグナル分子の細胞外動態を制御する細胞外基質の探索も進めている。
メダカ9体節期胚に存在するクッペル胞(矢じり)
クッペル胞構成細胞がGFP標識されたゼブラフィッシュ遺伝子組換系統(dand5:EGFP)
ゼブラフィッシュ22体節期胚におけるspaw遺伝子の左側特異的発現
ha変異体は国内で得られたメダカ自然変異体の一種であり、耳胞内部に存在する耳石が作られなくなるという興味深い表現型を示す。当研究室の先行研究から、ha変異体の原因遺伝子はPolyketide synthase 1 (Pks1) であることが明らかになった(Hojo et al., Zool. Lett., 2015)。Pks1はポリケチドと呼ばれる有機化合物群の合成酵素であり、この酵素がどのように耳石形成を引き起こすかを解明することは、発生生物学にとどまらず、新しい炭酸固定技術の開発にもつながる重要な課題である。しかし、メダカPks1がどのようなポリケチド化合物を生成するかは未同定であり、さらにPks1の生成物がどのような仕組みで耳石形成を促進するかは全く不明である。本研究では、質量分析などの生化学的手法を用いてメダカPks1生成物の同定を目指すほか、耳胞細胞における遺伝子発現解析により、Pks1とともに耳石形成に関与する新規遺伝子を探索している。
脊椎動物初期胚に存在する体節組織は、一定の時間間隔で同じ大きさの分節構造を生み出すという性質から、多くの発生研究者の注目を集めてきた。また、体節は発生後期に骨格筋や外骨格など多種多様な細胞種を生み出すという興味深い性質も持つ。当研究室では初期体節の分節機構と、分節後の体節における細胞分化のメカニズムを研究してきた。特に、真骨魚類において、従来神経堤細胞由来とされてきた鱗(外骨格の一種)が体節に由来することを示した研究は、動物の骨格系の進化過程に関する定説に一石を投じる結果となった(Shimada et al., Nat. Commun., 2013)。本研究では、トラザメ(軟骨魚類)やヤツメウナギ(円口類)といった脊椎動物の系統上より基部に位置する動物種の胚を用い、細胞移植や一細胞トランスクリプトーム解析といった手法を駆使して各動物種における体節細胞の分化能を比較解明することを目指している。
脊椎動物のからだをつくる細胞はすべて同じ遺伝情報を持ちながら、組織ごとに異なる特徴を示す。未分化な細胞が発生の過程で多様な細胞へと分化していく際には、クロマチン構造やヒストン修飾といったエピジェネティックな変化が重要な役割を果たすと考えられている。メダカはゲノムサイズが約800 Mbと小さく(ヒトの約4分の1)、ゲノムやエピゲノム解析に適したモデル生物である。また、発生中の生きた胚から分化多能性をもつ細胞を大量に得られるという利点もある。私たちはこれらの特性を活かし、メダカゲノムのリソースを整備するとともに、メダカ初期胚におけるゲノムの3次元構造やヒストン修飾が遺伝子発現に与える影響を解析している。
ヒストン修飾と遺伝子の活性化