π共役分子による2次元電子系の構築とこれらの電子/光/デバイス機能の開拓
π電子共役系を持つ分子性物質は、超伝導やモット転移をはじめ、低次元電子構造に由来する多様な量子相を発現する舞台となってきました。また、ファンデルワールス結晶に本質的に備わる極めてクリーンな電子系・界面形成能や、自在な分子設計が可能であるという特長を活かすことで、近年では無機材料を凌駕する高急峻なスイッチング動作を示す有機トランジスタが実現するなど、革新デバイスや新規物性の萌芽が現れています。
私たちは、有機半導体や分子性強誘電体など、ソフトマターに分類される機能性分子材料が示す複雑な構造形成を自在に制御し、分子性物質に固有の革新的物性の発現と新たなデバイス機能の開拓を目指しています。
現在は主として下記の研究テーマのもと、各々が試料作製からデバイス設計、物性評価までを一貫して行い、応用価値の創出につながる物質科学の基礎学理を探求しています。
Research Contents
超高急峻スイッチング有機トランジスタ開発
最近、分子性物質が形成する極めてクリーンな界面を用いることで、私たちは無機材料を凌ぐ超高急峻なスイッチングを示す有機薄膜トランジスタの開発に成功し、デバイス高度化が大きく進展しつつあります。このような優れたトランジスタ動作の鍵になる、半導体-金属界面と半導体-絶縁体界面の2つが接した3元界面に注目し、高効率キャリア輸送機構の解明と、デバイス高度化に向けた界面制御手法の確立を目指しています。
【参考文献】
[1] G. Kitahara et al., Sci. Adv. 6, eabc8847 (2020).
[2] G. Kitahara et al., Adv. Funct. Mater. 31, 2105933 (2021).
[3] K. Murata et al., Phys. Rev. Appl. 24, 024038 (2025).
[4] S. Tsuchida et al., Phys. Rev. Appl. 24, 024017 (2025).
層状有機半導体における段階的結晶構造予測
有機半導体のキャリア輸送効率は単一分子の性質だけではなく結晶構造によって大きく左右されます。そのため分子構造から結晶構造が予測できれば材料開発の大幅な加速が期待されます。一方で有機分子の分子構造の情報だけで分子結晶の結晶構造を正しく予測することはきわめて難しく、計算科学の難問として知られています。そこで私たちは有機トランジスタに適した有機半導体が示す擬二次元的な層状結晶構造に見られる特徴的な対称性に注目し、分散力補正密度汎関数法による分子間力の高精度計算を用いて段階的に結晶構造を予測する手法開発に取り組んでいます。
【参考文献】
[1] S. Tsuzuki et al., Commun. Chem. 7, 253 (2024).
[2] T. Hasegawa et al., Sci. Technol. Adv. Mater. 25, 2418282 (2024).
高次液晶相の競合と分子配列秩序の制御
有機半導体の多くは高温下や溶液中において、固相の秩序が部分的に融解した液晶相を発現することが知られています。有機半導体の結晶化の過程では分子の液晶性が顕わになり、液晶相の発現によって高秩序な薄膜形成が実現していると考えられています。私たちは分子熱力学の視点から有機半導体の相転移挙動を理解し、液晶分子が示す多彩な凝集構造に関する基礎学理に取り組んでいます。さらに液晶状態を利用することで新奇な物性を示す有機半導体の結晶構造を制御することを目指しています。
【参考文献】
[1] S. Inoue et al., Chem. Mater. 34, 72 (2022).
[2] K. Nikaido et al., Adv. Mater. Interfaces 9, 2201789 (2022).
[3] K. Nikaido et al., Phys. Rev. Mater. 8, 115601 (2024).
[4] K. Nikaido et al., Sci. Adv. 11, eadv1878 (2025).
分極ドメイン可視化と強誘電デバイス開発
分子性強誘電体は分子間でのプロトン移動や球状の極性分子の回転など、分子性材料に特有の多彩な分極反転機構によって分極ドメインを形成することが知られています。私たちは溶液プロセスを用いた分子性強誘電体の薄膜結晶を作製するとともに、電気光学効果を用いた複屈折電界変調イメージング技術を確立することで結晶中での分極ドメインの形態を明らかにしてきました。これらのイメージング技術を用い、分子性強誘電体における分極ドメイン形成と外部電場による分極反転ダイナミクスの解析に取り組んでいます。
【参考文献】
[1] Y. Uemura et al., Phys. Rev. Appl. 11, 014046 (2019).
[2] Y. Uemura et al., Phys. Rev. Appl. 14, 024060 (2020).
[3] Y. Uemura et al., Phys. Rev. Mater. 7, 035601 (2023).
[4] R. Shuto et al., Phys. Rev. Mater. 9, 094410 (2025).