2.革新的印刷プロセスの開発

革新的印刷プロセスの開発

プロセス技術から見た有機材料の最大の利点は、印刷技術をデバイス製造に適用するための最適な材料だという点にありますが、その一方で、従来の印刷技術をそのまま有機半導体や配線等の薄層パターニングに適用できるわけではないことも事実です。当チームでは、有機半導体・導電体・強誘電体等のインクを介した印刷プロセスにおいて、材料析出や溶媒蒸発等の諸現象を自在に制御することにより、素材の持つ電子的な機能を十分に発揮させるための革新的なプロセス技術の開発に取り組んでいます。

これまでの主なトピックス :

1.超微細回路を簡便・高速・大面積に印刷できる新原理の印刷技術を開発

紫外光照射でパターニングし、銀ナノ粒子を高濃度に含む銀ナノインクを表面コーティングするだけで、超高精細な銀配線パターンを製造できる画期的な印刷技術「スーパーナップ(SuPR-NaP;表面光反応性ナノメタル印刷)法」を開発しました。これにより、プラスチック基板に強く密着し、最小線幅0.8マイクロメートルの超高精細な金属配線を、真空技術を一切使うことなく、大面積基材上に簡便・高速に作製できるようになりました。

2.ミクロ液滴形状の制御と解析

親撥パターン上で濡れ広がる液滴の形状を制御する方法として、シミュレーションと実験を活用する手法を開発しました。実験的に得られた液滴形状の画像とシミュレーションを組み合わせて活用することで基板表面濡れ性の不均一性の可視化することに成功しました。また、液滴の接触線にかかる力を考慮することで、複雑な形状をもつ電極表面上で理想的な濡れを実現する電極デザインの設計指針を示すことができました。

詳しくは..
J. Appl. Phys., 114, 044905 (2013), Polyfile 51, 16 (2014)

3.マイクロ液滴の特異な混合メカニス゛ムの解明と高均質有機薄膜成長

ダブルショットインクジェット印刷法による高均質薄膜形成の原理が、膜成長前に引き起こされる化学的に異なる2液の特異な混合現象にあることを発見しました。3つの混合現象の内、「濡れ」が不均質なコーヒーリングを抑制し、均質な膜成長を促すことがわかりました。

4.低電圧で駆動する有機強誘電体メモリーの印刷製造技術を開発

低分子有機強誘電体からなる単結晶薄膜アレイの作製に成功しました。ポーリングや熱アニール処理なしにも関わらず、分極反転が5V以下で起こることが分かりました。この結果は低コストで環境に優しい強誘電体デバイスの作製技術の要になると期待されます。

5.高はっ水基板に使える有機半導体塗布製膜技術

ポリマー半導体の溶液を3層構造スタンプで圧着することで高撥水性表面上に材料ロスなく高均質製膜が可能なプッシュコート法を開発しました。これにより半導体層の薄膜結晶性を大幅に改善し、トランジスタの性能を飛躍的に向上させることに成功しました。

6.親水疎水パターン上の液滴形状シミュレーション法の開発

インクジェット印刷法などにおいて、親水疎水パターン基板上に塗布された液滴の平衡(安定)形状を高速・高精度・最小限の近似で計算するためのシミュレーション法を開発しました。

7.単結晶有機半導体薄膜のインクジェット印刷

異質な微小液滴を組み合わせて結晶化を制御する新手法により、均質性に優れた低分子系有機半導体薄膜を得るインクジェット印刷技術を開発しました。

8.分子性導体薄膜のインクジェット印刷

電気を流す有機物による電極を作製するためのダブルショット・インクジェット印刷法を開発しました。これを用いた有機トランジスタが、低電圧で鋭いスイッチングを起こすことを確認しました。

9.高移動度有機半導体における非層状薄膜の成長

ペンタセンに代表される有機半導体薄膜は、ほとんどが層状の結晶構造からなる薄膜を形成することが知られています。われわれは、有機半導体HMTTFが、プラスチック薄膜上で非層状の薄膜成長するとともに、その3次元的煉瓦積構造に由来した高い移動度( 6.9 cm2/Vs)の有機薄膜トランジスタを与えることを見出しました。

10.多結晶性有機半導体薄膜のグレインサイズ制御

有機半導体DBTTFの多結晶性薄膜において、基板となるゲート絶縁膜の撥水性を変えることにより、グレーンサイズを大きく制御できることが分りました。さらに、これらを用いた有機薄膜トランジスタの特性から、スイッチング鋭さや化学的な安定性がグレインサイズとともに大きく変わることが明らかになりました。