アカオザル Cercopithecus ascanius
オレンジ色の尾と白い鼻が特徴的&個体のバリエーションが大きいため、個体識別がしやすい。アカオザルの群れどうしの争いは大変熾烈。
ブルーモンキー Cercopithecus mitis
黒と灰色の毛並みが美しい。灰色を青と言うあの感覚です。アカオザルと比べて識別が難しく、朝方の暗闇やスコールの中での追跡は泣きそうになります。
アカオザルとブルーモンキーが同じ木でグルーミング(毛づくろい)をしています。こんなふうに2種はほとんど争うことなく一緒に暮らしています。
なぜ、混ざって暮らすのだろう?
「混ざる群れ?」
混群とは読んで字のごとく、「混ざる群れ」のことで、まったく別々の動物どうしが群れをつくる現象を指します。異なる動物種どうしが混群をつくる理由は、捕食者からの防衛や採食の効率化、他種を利用した社会的学習などの利益があるためだと言われています。
アカオザルとブルーモンキーの混群
熱帯アフリカの森林部に生息するアカオザルとブルーモンキーも混群をつくります。2種はともにオナガザル属(Cercopithecus属、グエノン類とも呼ばれます)の近縁なサルで、ニッチが非常に似ています。ニッチ重複が大きい種間では競争が起こるため共存できない、というのが一般的な考え方ですが、アカオザルとブルーモンキーはなぜか、アフリカのいろんな地域で混群をつくることが確認されています。しかし、その理由はいまだに明らかになっていません。“めんどくさい”群れを考える私にとって、とても不思議で魅力的な題材です。
ウガンダの森で混群を追う
ウガンダ共和国西部のカリンズ森林では、2種の恒常的な混群を見ることができます。2020年からカリンズの混群を研究しています。現地に長期滞在し、混群に混ざって観察します。2種がどこまで混ざるのか、そして、混ざることでどんな利益を得ているのか、フィールドと実験室を行き来して調べています。
研究の舞台、ウガンダ共和国はカリンズ森林。
“あたたかい”だけではない、“ハダカのつきあい”の重要性
実は世界でひと群れだけの温泉ザル
世界的に有名な温泉に入るニホンザルですが、実は野生では長野県の地獄谷でしか見ることができません。また、ヒト以外の霊長類の温泉入浴行動として唯一報告されているのも、この地獄谷のサルたちだけです。地獄谷は豪雪地帯にある温泉地で、1963年に子ザルが旅館(後楽館)の風呂に入ったのが始まりでした。
だれかと一緒に入ることにも意味があるのではないか?
地獄谷のニホンザルが温泉に入るのは寒さをしのぐためだと考えられています。冬の地獄谷に行けば至極当然、そのように思います(私は調査で指が凍傷になりました笑)。あたたかいからサルも温泉に入る。それだけでもとても面白い話ですが、サルたちがひとつのお風呂を共有している、このことにも何か意味があるのではないかと考え、2020年からニホンザルの共同入浴に関する生態遺伝学的な研究を進めています。
ニホンザル Macaca fuscata
日本の固有種で、ヒト以外の霊長類で最も北に生息するサルです。豪雪地帯の温泉地、長野県地獄谷のサルたちは温泉に入って冬の寒さをしのぎます。
サルだけでなく、サルが共有している温泉の水も調べています。©︎南俊行さん
ジェフロイクモザル Ateles geoffroyi
日本で一番多く飼育されているクモザル。野生では中米に広く生息し、7亜種が識別されています。写真のように明るい体色から黒い体色のものまで非常に多様です。尾だけで全身を支えられるのは、特殊な尾(発達した尾の筋肉と尾紋)をもつクモザル科の特徴です。
ブラウンケナガクモザル Ateles hybridus
長く茶色い体毛と額の白い天冠が特徴。IUCNのレッドリストでは絶命危惧IA類(近絶滅種)に分類され、野生での絶滅が危惧されています。
ごちゃ混ぜな日本のクモザル、本当は何種?
複雑なクモザルの分類の歴史
クモザル類(Ateles 属)は中南米に広く生息し、霊長類の中でも多様性の高いグループです。その多様性のためにクモザルの分類は非常に難しく、これまでさまざまな分類法が提唱されてきました。現在は7種に分類する方法が主流です。日本にも150頭近いクモザルが飼育されていますが、国内での管理は古い3種分類法に則っており、7種分類に照らした場合に日本に何種のクモザルが存在するのかが不明でした。
保全遺伝学と生息域外保全
クモザル類は森林縮小による絶滅が危惧されている分類群でもあります。飼育施設等での絶滅危惧種の保全活動を生息域外保全(ex situ conservation)といい、動物園の大切なミッションのひとつでもあります。日本動物園水族館協会(JAZA)の種保存事業として、遺伝的な情報に基づいた飼育管理を実現するために、日本のクモザルほぼ全個体の遺伝解析を実施しました。結果として、日本には4種のクモザルが存在し、これまでの飼育によって多数の雑種も生まれていることが明らかになりました。本研究の結果をもとにした新たな管理計画が検討されています。
【論文】域外保全に向けた日本で飼育されているクモザル類の集団遺伝学研究
Haruka Kitayama, Atsushi Shirai, Kei Nemoto, Yuko Tawa, Koshiro Watanuki, Takashi Hayakawa. (2025). Population genetics of captive spider monkeys in Japan for ex situ conservation. Primates, 66, 375-389. DOI: https://doi.org/10.1007/s10329-025-01192-6
日本語解説:https://www2.sci.hokudai.ac.jp/dept/bio/research/4906
JAZAの種保存事業の取り組みについて
https://www.jaza.jp/about-jaza/four-objectives/protection-nature