「福井県の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会」とは?

「福井県の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会」とは?

『明日のハナコ』を書いた玉村徹(福井農林高校演劇部元顧問)、劇作家協会言論表現委員で、劇作家・演出家の鈴江俊郎、福井県下の高校演劇部顧問の有志が、<福井県高校演劇連盟>の決定に問題を感じ結成。問題はいくつもの新聞・雑誌で報道され、決定の取り消しを求めるオンライン署名は11,000名を超えたが決定は未だ取り消されていない。禁止された脚本をリーディング上演し、まさに禁止されることがふさわしいような「いけない」ものだったのか、実際に全国の人に見てもらい皆さんとともに考えるための企画を各地で展開中。

鈴江俊郎

【コメント】
私が、指絵殿に「上演してくれない?」と頼みました。鈴江俊郎です。

大問題なのです。これは、実は。日本の演劇にとって。こんな表現への抑圧がだまーって通るようになったら、もはや検閲制度は実現間近だと言ってよいのです。この事件に対して、高校教師たちの反応が実に鈍いのです。つまり、高校演劇の教員たちは、すでに前からこんなことを恐れて、筆を丸めて書いている、という様子があるのです。自粛です。自己検閲、とも言えます。

「それくらいの配慮はしながら俺だって書いてるんだぜ」と上から目線で意見してきた超有名全国大会常連校顧問劇作家もいました。「大人が書いた台本だから高校生が書いたんじゃないから私、上演運動はちょっと……」とひいていったわりと有名な演劇界の女優もいました。劇作家協会も、演出者協会も、おねがいしたのになーんの声明もだしません。…恐ろしい時代にもう入っていたのです。もはや原発を書いたら排除される、ってことを、黙認する表現者たちの「忖度」社会がここにはあったのです。私はこの運動をやっててやっと気づきました。おそいって。

いやおそくない。大人が書こうが、子どもが書こうが、それを県の権力者が「なかったことにする」のはけしからん。演劇をなめとんのか。そう言ってくれそうな熱き女優……できれば女子高生に見えそうな…思い浮かんだのが指絵殿でした。その昔、私を引っ張りだして面白い芝居がしたいからと強引に新作を書かせた強烈な美人女優。こいつしかいない。期待しています。信頼しています。絶対女子高生に見えます。見えますって。見えますってば。

鈴江俊郎
(劇作家、演出家、福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員)

【プロフィール】
大阪府生れ。京都で大学生として小劇団を旗揚げ。『ともだちが来た』第2回OMS戯曲賞、『零れる果実』(共作)第2回シアターコクーン戯曲賞、『髪をかきあげる』第40回岸田國士戯曲賞、『宇宙の旅、セミが鳴いて』文化庁芸術祭賞大賞など。2004~06年京都舞台芸術協会の理事長を務めるなど、表現環境の改善をめざす運動にも取り組む。劇作、演出、役者、照明、舞台美術を手がける。歪んだ社会状況のもと内向しがちな現代人の精神を、ユーモアと情感を織り込んだ会話劇で描く。アクションの激しい集団劇、孤独の呟きを交換する二人芝居、役者たちに取材して立体化する創作、政治状況に怒りをぶつける一人芝居など、様々な作品を産んでいる。戯曲は英語、ドイツ語、ロシア語、インドネシア語、イタリア語に翻訳され海外でも上演されている。主宰していた劇団八時半の出演者オーディションで光瀬と出会う。2010年には東京で光瀬と俳優の金子岳憲と「三匹の犬」を結成し、2人芝居『現実はきびしく私たちは若いけれど要求は唐突で 思い切るという手もあるかもしれない』を上演。オフィス白ヒ沼主宰。2017年より愛媛県西条市在住、オフィス白ヒ沼所属、上品芸術演劇団のリーダー

玉村徹

【コメント】
 こんな夢を見ました。
ハナコという女の子がいました。普通の女の子でした。 
 さて、ハナコは大きくなったので家を出て、街に行こうと思いました。街に行って、自分の力で生きていこうと思いました。
 そしたらお父さんが言いました。いやそれはやめておいたほうがいいんじゃないかなねえかあさん。「えどうして。どうして街に行ったらいけないの。みんな行くのに。」
 そしたらお母さんが言いました。あのねそのいいにくいんだけどあなたにはそのあのちょっとこまったところがあるのよねえおとうさん。「困ったところって、あたしのどこが駄目なの。何がいけないの。」
 父さんが言いました。いやそのだめとかいけないとかとうさんがそんなことをおもってるわけないだろうとうさんはおまえのことがだいすきだよねえおかあさん。「でも駄目なんでしょ。私は駄目なんでしょ。私だけ街に行けないなんて。」
 母さんが言いました。ちがうのよあたしたちはあなたのことがだいすきよでもまちのひとはあなたのことをわるくいうかもしれないのあなたのことをひなんしてひひひひぼひぼひぼひぼひぼう。「誹謗中傷でしょ、お母さん。」
 そうそれそのひぼうちゅうしょうがあるかもしれないのでもあたしたちはまもりたいのあなたをまもりたいのだからあなたはそうだよそうなんだよだからおまえをもりたいんだよだからおまえはおまえはおまえはまちにいってはいけない。
 「わかんない。あたしのどこがいけないの? ちゃんと言ってよ父さん。教えてよ母さん。」
 そんなことはいってないだろおまえはどこもわるくないしわたしたちはおまえのことをあいしているだからおまえはまちにいってはいけないんだここにじっとしているんだわたしたちのいうとおりにするんだそうすればあんぜんなんだあんぜんなのよどうしてわたしたちのきもちがわかってくれないの!
 ハナコは自分の部屋に追いやられました。ドアには鍵がかけられました。窓から遠くの街が見えました。私には何が必要なんだろう。私はこれからどうやって生きていくんだろう。誰がそれを教えてくれるんだろう。
 ハナコは窓を大きく開けました。
 ・・・ここで目が覚めたので、ハナコがこのあとどうしたのか、僕にはわかりません。街になんか行かない方がいいよね。我慢した方がいいよね。親の期待とか先生の指導とか友達の視線とかに合わせていた方が安全だよねえ。たぶん。そうだよな、そのほうが安心。社会もうまく回る。スムーズに進む。みんなハッピー。
でも、それでどこまで行けるだろう。本当に言いたいことも言えないで、したいこともしないで、自分に嘘をついて。僕はハナコには頑張って欲しいなあと思うんです。全世界のハナコさんたちに、心からのエールを。

玉村徹
(『明日のハナコ』作者、福井農林高校演劇部元顧問、福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会代表)

【プロフィール】
『明日のハナコ』作者。1961年福井県生れ。福井大学教育学部卒業後、38年間高校国語教師、2021年定年退職。高校演劇の顧問歴は長く、前福井県高等学校演劇連盟委員長。脚本は中部大会で何度も上演されており、執筆した戯曲は50本を超える。『明日のハナコ』上演時は福井農林高校部活動指導員。福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会代表。

福井県の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演委員会
公式ホームページ

ashitanohanako1108.wixsite.com/home
詳しい経緯、『明日のハナコ』戯曲もこちらでご覧いただけます。

2022年1月に大阪にて行われた上演実行委員会による『明日のハナコ』リーディング上演の様子はこちらから