登場人物
ゆり 女性
20代後半。
大人しくお淑やか
恋愛に対して積極的ではない
何故か異性と距離を置くようにしている
皐月(さつき) 女性
20代後半。
ゆりの幼馴染
仕事一筋で責任感が強い
相手をちゃんと見ている
浩司(こうじ) 男性
20代半ば。
皐月の仕事先の後輩
馬鹿正直で真面目で素直
たまたま会ったゆりに一目惚れをした
宏人(ひろと) 男性
20代後半。
ゆりの婚約者
ゆりを溺愛している
毎日愛の言葉を伝えることを欠かさない
配役表
ゆり:
皐月:
浩司:
宏人:
ゆりM
「あの日、私の世界から愛が消えた。
消えたところで困らないのかもしれない。
けれど、心は満たされないまま、空っぽのまま生き続ける」
-目覚ましの音が鳴る-
ゆり
「(寝ぼけてる)んぅ、あと五分だけ……」
宏人
「ゆーり、朝だよ」
ゆり
「ん、宏人……?」
宏人
「(愛おしそうに笑う)寝坊助。朝食の準備してるから、そろそろ起きな」
ゆり
「んー……」
宏人
「目が覚めたら降りておいで」
ゆり
「うん」
-部屋を出ていく宏人-
-目を擦りながら布団から出て部屋を出る-
宏人
「(鼻歌をしながら朝食の準備をしてる)」
ゆり
「おはよー、宏人」
-準備をしている宏人の背中に後ろから抱き着く-
宏人
「っと、おはよう。ゆり、危ないから後ろから抱き着くのはダメ」
ゆり
「やだぁ」
宏人
「えー?可愛い顔見たいんだけどなぁ」
ゆり
「……」
-恥ずかしがりながら抱き着いてた腕を緩める-
宏人
「顔真っ赤。可愛い」
-ゆりにキスをする-
ゆり
「んっ」
宏人
「……ね、可愛い声出さないで?今日出かけられなくなっちゃうから」
ゆり
「私のせいにしないで」
宏人
「しょうがないじゃん?可愛いんだから」
ゆり
「(恥ずかしがる)」
宏人
「はぁあ、もうすぐ彼女じゃなくなるのか」
ゆり
「まだ実感ない?」
宏人
「ないよ。プロポーズ受けてくれたのも夢なんじゃないかって思ってるくらい。
けど、もうすぐゆりは俺のお嫁さんになってくれるんだなぁって思うと、すごい嬉しい」
ゆり
「私も、宏人のお嫁さんになれるの嬉しい」
宏人
「(幸せそうに)婚約指輪、楽しみだね」
ゆり
「うん。けどこれから忙しくなるね。
婚約指輪受け取ったら、結婚式場の下見にも行かなきゃだし……」
宏人
「大丈夫。ゆっくり一緒に決めていこう」
ゆり
「うん、そうだね。ありがとう宏人」
宏人
「(またキスをする)」
ゆり
「んっ、もう、なぁに?」
宏人
「ゆり、今日も可愛いよ。大好き、愛してる」
-目覚ましが鳴り響く-
ゆり
「(泣きながら起きる)はっ……宏人」
-スマホが鳴る-
ゆり
「(泣きながら)皐月ぃ」
皐月
「え、ちょ、ゆり、大丈夫だから。ゆっくり呼吸して?」
ゆり
「ん、うん」
-深呼吸する-
-少し落ち着いてきたあたりで声を掛ける-
皐月
「夢、見ちゃった?」
ゆり
「……」
皐月
「……そっか。今日のおでかけどうする?きついならやめてもいいよ」
ゆり
「ううん、行きたい」
皐月
「分かった。心配だから、家まで迎えに行くよ」
ゆり
「ありがとう」
皐月
「10分くらいで行くから、出来る範囲でいいから支度してて?」
ゆり
「うん、わかった」
-電話を切る-
-支度をしている最中、宏人の声がフラッシュバックする-
ゆり
「……支度、しないと」
宏人
「ゆり、こっちの服どう?今日は暖かいから、薄着でも大丈夫だよ。
……ぁ、髪跳ねてる。せっかくお洒落して出かけるんだから、髪もお洒落しないとね」
ゆり
「っ、宏人」
宏人
「お出かけどこ行くの?……駅前の新しく出来たカフェ?いいね、今度俺におすすめ教えて?
なんでって、今度俺と一緒にデート行った時にゆりのおすすめ食べたいから」
ゆり
「は、はぁ……宏人、宏人」
宏人
「いってらっしゃい。お迎え欲しかったら電話して?すぐ迎えに行く」
ゆり
「迎えに、来てよぉ、宏人ぉ」
-過呼吸を起こししゃがみ込む-
ゆり
「はっ、はっ」
-インターホンが鳴る-
皐月
「ゆりー、迎えに来たよー?」
ゆり
「皐、月……出ないと、ドア、開けないと……」
-部屋から出ようとするが、身体が思うように動かない-
皐月
「ゆりー?大丈夫ー?……ゆりー!合鍵使って開けるよー!」
-玄関ドアが開く音がし、バタバタと足音が部屋に近づいてくる-
-部屋のドアが開き、皐月が入ってくる-
皐月
「ゆり!大丈夫!?ゆっくり呼吸して、大丈夫。大丈夫だからね」
ゆり
「(ゆっくり呼吸する)皐、月……ごめん」
皐月
「いいって。こういう時の為に合鍵預かっててよかった」
-背中を摩りながら呼吸が落ち着くのを待つ-
皐月
「……落ち着いた?」
ゆり
「う、ん」
皐月
「支度、一緒にやろっか」
ゆり
「ごめんね」
皐月
「いいんだよ。服出すとこまで出来たなら上々」
ゆり
「宏人がね、こっちがいいって」
皐月
「そっかそっか。あいつ服のセンスいいからなぁ」
ゆり
「うん、今日はこれ着たい」
皐月
「いいじゃん。ゆりに似合う。着替えたら髪の毛纏めるから化粧しちゃいな」
ゆり
「ありがとう」
-着替え始める-
ゆり
「皐月、着替えた」
皐月
「うん、じゃあここ座って」
-ドレッサーの前に座る--
皐月
「今日はどういうアレンジにしようか」
ゆり
「皐月が思うアレンジでいいよ」
皐月
「じゃあ、服に合わせようか。ちょっとアイロン借りるね」
-宏人の言葉を思い出すゆり-
宏人
「ゆりの髪柔らかいから、いつも傷めないように慎重なんだよ」
ゆり
「私の髪って、柔らかいの?」
皐月
「うん?そうだねぇ、他の人の髪を触らないから分からないけど、私の髪と比べたらだいぶ細いし柔らかいね」
ゆり
「そうなんだ」
皐月
「そうそう。私毛量多いし髪の細さもバラバラだからさぁ」
ゆり
「学生の時に髪遊びすぎた?」
皐月
「かもしれない。よし、出来たよ」
ゆり
「ありがとう」
皐月M
「あの日から、ゆりは変わった。
あいつがいなくなって、日常生活も出来ない程に心を閉ざしてしまった。
この家にいるのもゆりの為にならないと思って引っ越しを提案したけど、拒絶された。
想い出があるから、無くしたくない。ゆりはそう泣き叫んだ。
私はもう何も言えなかった。
だから私は、あいつを紹介した責任と、ゆりの幼馴染として、傍にいるんだ」
皐月
「よし、じゃあ行こうか」
ゆり
「うん。行ってくるね、宏人」
-家を出る-
皐月
「買い物、いつものところでいい?駅前のデパート」
ゆり
「そこがいい」
皐月
「わかった。帰りにカフェ寄る?」
ゆり
「ぁ、そうだね。寄りたい、かな」
皐月
「うん、なら寄ろうか。季節限定とかあるかなー」
ゆり
「皐月は限定に弱いね」
皐月
「レア物って感じしない?限定って特別感がいいのよ」
ゆり
「宏人も、コンビニの限定商品よく買ってきてた」
皐月
「あー、そうなんだ?」
ゆり
「うん、なんか色んなコンビニはしごして、コラボ商品とかも買ってたかな」
皐月
「はは、何してんのあいつ」
ゆり
「でも、どれも美味しかった」
皐月
「よかったね」
ゆり
「うん」
-暫くしてデパートに着く-
皐月
「さて、なに買うんだっけ?」
ゆり
「えっと、ドライヤー壊れちゃったから新しいの欲しくて」
皐月
「あれ壊れちゃったの?」
ゆり
「うん、せっかくいいのくれたのにごめんね」
皐月
「いいよいいよ。大事に使ってくれてた証拠。じゃああの時よりももっといいの買おうか」
ゆり
「悪いよ」
皐月
「いいの。またプレゼントさせて」
ゆり
「……ありがとう」
皐月
「家電売り場だと二階かなぁ」
-エスカレーターで二階にあがる-
皐月
「ん?ゆりー?なに見てるの?」
ゆり
「あの服、宏人に似合いそうだなって」
皐月
「どれ?……あー、確かに。あっちのコートも良くない?」
ゆり
「ぁ、似合いそう」
皐月
「ゆりにかっこつけてる姿が思い浮かぶわ」
ゆり
「ふふっ」
皐月
「目当ての物、買いに行こうか」
ゆりM
「宏人がもうこの世にいないことは理解してる。頭では分かってる。
けど、心が事実を否定している。私が受け入れてしまえば、忘れてしまえば、本当の意味で宏人は死んでしまう。
私はまだ、宏人を失いたくない。声も、顔も、香りも、感覚も、全て覚えておきたい」
皐月
「よし、買う物買ったしカフェに行こうか」
ゆり
「うん」
-デパートを出て駅前のカフェに入る-
-空いてる席に座る-
皐月
「ゆりは何頼む?」
ゆり
「えっと、カフェラテと季節のパンケーキがいい」
皐月
「オッケー。それじゃあ私は、アップルティーとベリーたっぷりワッフルにしよう」
-店員に声をかける-
皐月
「店員さーん、注文お願いします。
カフェラテと季節のパンケーキ、アップルティーとベリーたっぷりワッフルをお願いします。
……ゆりは飲み物ホット?」
ゆり
「あ、うん」
皐月
「飲み物両方ホットで。はい、お願いします」
-注文が終わり店員が戻っていく-
ゆり
「季節限定あってよかったね」
皐月
「ほんと、ベリー好きにはたまらないよ。ゆりが頼んだのも美味しそうだった」
ゆり
「少しあげる」
皐月
「いいの?なら私も少し分けるね」
ゆり
「ありがとう」
浩司
「あれ、先輩?」
皐月
「え?」
-振り返ると男性が一人立っている-
皐月
「あんた、なんでここに?」
浩司
「打ち合わせをここのカフェでやっていたんです。って言うかすいません。オフの日に話しかけてしまって」
皐月
「いや、いいよいいよ」
-店員が飲み物を持ってくる-
皐月
「あ、ありがとうございます。カフェラテはあっちで……はい、分かりました。ありがとうございます」
ゆり
「皐月、この方は?」
皐月
「あぁ、仕事先の後輩」
ゆり
「こんにちは」
浩司
「ぁ、は、はい!こんにちは」
ゆり
「ゆりです。いつも皐月がお世話になってます」
浩司
「ぁ、こ、浩司と申します!いえ、いつも先輩にお世話になっております」
皐月
「お世話してるのは私。ゆりは私の幼馴染で親友」
浩司
「(ゆりを見つめ心ここに在らず状態)……」
皐月
「……おい」
浩司
「は、はい!」
皐月
「打ち合わせが終わったら本社に帰社!新人の頃教えただろ」
浩司
「す、すいません!」
皐月
「あと、明日話がある。昼休憩空けときな」
浩司
「分かりました。それでは失礼します」
-会釈してカフェを出ていく-
皐月
「ごめんねゆり。騒がしい奴で」
ゆり
「ううん。会社での皐月を見た感じがして嬉しかった」
皐月
「ゆりには見せたくなかったぁ」
ゆり
「ふふっ、鬼上司?」
皐月
「厳しいだけって言って?」
ゆり
「(嬉しそうに)ごめん」
皐月
「もう、最悪なとこ見られたぁ」
-店員が注文したものを持ってくる-
皐月
「あ、来た来た。はい、注文したのは以上です。はい、ありがとうございます」
ゆり
「美味しそう」
皐月
「んんん、いいね。そそられる。
……ゆり、お皿こっち寄せて。分けるから」
ゆり
「私も」
-お互いのを少し分ける-
ゆり、皐月
「いただきまーす」
皐月
「ん!美味しい」
ゆり
「うん、美味しいね」
皐月
「次来る時、ゆりが頼んだの頼もう」
ゆり
「その時まであるかな?」
皐月
「終わる前に来るの」
ゆり
「ふふっ」
皐月
「次のお出かけいつにする?」
ゆり
「皐月のスケジュールに合わせるよ」
皐月
「ちょっと待ってね。えっと、確か……」
-手帳を出して確認する-
皐月
「一週間後かなぁ。ここ最近プロジェクトの方が忙しくて中々昼休憩も外で食べれないんだよね」
ゆり
「大変だね」
皐月
「ほんと」
ゆり
「無理しないでね?」
皐月
「ん、ありがとう。ゆりもね。毎日朝と夜は連絡入れるから。
返せなかったら既読付けるだけでもいいから反応してね」
ゆり
「うん、ありがとう」
皐月M
「心配性過ぎるのはいけないと分かってる。
それでも、ゆりがあいつの後を追ってしまうかもしれないと不安になるんだ。
お互いとても深く愛し合っていたから、突然いなくなった焦燥感に駆られとんでもないことをやらかすんじゃないかって。
だから私は、毎日朝と夜に連絡を入れる。
あいつが、毎日朝と夜に愛の言葉を囁いてた頃のように……」
ゆり
「送ってくれてありがとう。皐月」
皐月
「ううん、いいよ」
ゆり
「それじゃあ、またね」
皐月
「うん、またね」
-玄関扉が閉まるのを見届ける-
皐月
「(独り言のように))ほんと、なんでゆりを置いてったんだ。バカ野郎」
-翌日 職場-
浩司
「先輩」
皐月
「んー?」
浩司
「これ、クライアント先からの書類です」
皐月
「あぁ、ありがとう。他にはなんか言ってた?」
浩司
「別案件の発注をかけていた商品の納品が配送途中の事故で遅れているそうです。
企画書の練り直しと商品代案を提示し直すのでプロジェクト会議の日付をずらせないか、とのことです」
皐月
「あー、配送事故か……正規のプロジェクト会議が二日後だから、仕方ない。
後で私が先方に電話する。詳しく現状を把握しないと詰められないからな。ありがとう。休憩入っていいぞ」
浩司
「はい。あの、先輩。先日言ってた話っていうのは……」
皐月
「……あぁ、ちょうど昼休憩だし、いいか。
(背筋を伸ばし椅子から立ち上げる)飲み物奢るから、ちょっと話しようか」
浩司
「は、はぁ」
-休憩室-
皐月
「ほら、コーヒー」
浩司
「ありがとうございます」
-缶コーヒーを開け、飲む-
皐月
「……あんた、ゆりに惚れたでしょう」
浩司
「ぶっ!(むせる)ゲホッ、ゴホッ!」
皐月
「……はぁ、マジかぁ」
浩司
「ゲホッ。は、話ってそれですか!?」
皐月
「それ以外に何がある。あんた、バレバレなのよ」
浩司
「す、すいません」
皐月
「一目惚れ?」
浩司
「は、はい。一目惚れです」
皐月
「……新人の頃から面倒を見てきた可愛い後輩の恋を応援したいし、ゆりを好きになってくれる人が現れたのは嬉しいことだけど」
浩司
「?」
皐月
「やめときな」
浩司
「ぇ、ど、どうしてですか?」
皐月
「お互いが、しんどい思いをするだけよ」
浩司
「……先輩は、何を知ってるんですか?知ってるなら、教えてほしいです」
皐月
「教えられない。あんたの為だし、ゆりの為よ。
私は先方に連絡しなきゃいけないから、あんたはこのまま休憩に入りなさい」
-休憩室を去る-
浩司
「……なんなんだよ」
皐月M
「後輩がゆりに惚れたと気づいた時、私は応援出来ないと思った。
ゆりにあの"症状"がある限り、お互いがしんどい思いをするのは分かっていたから。
だから私は、大切な二人が苦しい思いをしないように突き放すしかないんだ」
-別の日-
-ゆりが一人で買い物をしている-
ゆり
「えっと、レシピだと材料が……ふふっ、今度皐月が来た時に何か作ってあげよう」
浩司
「あれ、ゆりさん?」
ゆり
「え?」
-振り返ると浩司が買い物カゴを下げている-
ゆり
「えっと……(思い出す)ぁ、確か皐月の仕事先の」
浩司
「あ、あの時は急いでご挨拶をしてしまいましたね。
皐月先輩の後輩で、浩司と申します」
ゆり
「改めてご丁寧に自己紹介ありがとうございます」
浩司
「いえ、お夕飯の買い出しですか?」
ゆり
「あ、今度皐月と遊んだ時にご馳走しようかなって」
浩司
「なるほど。結構買われてますけど、カゴ重くないですか?よかったら持ちますよ」
ゆり
「ぇ、でも……」
浩司
「あ、そんな面識ないのにいきなり失礼でしたよね。すいません」
ゆり
「い、いえ。少し驚いてしまっただけで……お願いできますか?」
浩司
「は、はい。喜んで持ちますよ」
-ゆりのカゴを受け取る-
ゆり
「ありがとうございます」
浩司
「いえいえ」
ゆり
「浩司さんも、料理されるんですか?」
浩司
「あはは、苦手ですけど多少は。自炊頑張ってます」
ゆり
「私も、昔は料理が苦手でしたけど、楽しいですよね」
浩司
「そうなんですよ。今まで食べてた料理がこんな大変な工程を得て作られてるんだと初めて知った時は感動と感謝でいっぱいでした」
ゆり
「ふふっ、浩司さんは優しい人なんですね。
将来は何か作りたい料理とかあるんですか?」
浩司
「和食が好きなんで、肉じゃがとかですかね。
おふくろがよく作ってくれてて、自分でも何回か挑戦したんですけど、中々同じ味が出来なくて……」
ゆり
「お母様の味……きっと、何か隠し味があるんでしょうね」
浩司
「隠し味……」
ゆり
「はい。カレーにりんごやチョコレート、卵焼きにマヨネーズや牛乳、生クリームを入れるのと同じです。
ほんの少し、味にコクを出すために入れる材料のことです。
きっとお母様も、何かしら入れていると思いますよ」
浩司
「(感嘆として)はぁあ、隠し味か……それは気づかなかったです。ゆりさんはとても料理に詳しいんですね」
ゆり
「得意なんてそんな……私も、教えてもらったんです」
浩司
「そうなんですか?その方はとても料理がお好きな方なんですね」
ゆり
「はい。とても好きで、色々な料理を作れるんです」
浩司
「すごいですね。俺もそんな風に作れるようになりたいです」
ゆり
「きっと出来ますよ」
浩司
「ありがとうございます」
ゆり
「あ、仕事先でのこと聞いていいですか?」
浩司
「はい、いいですよ」
ゆり
「皐月を先輩に持ってどうですか?」
浩司
「皐月先輩ですか?
そうですね。とても尊敬しています。俺が新人の頃に付いてくれた人だったんです。
社会人一年目の俺に、仕事の全て、同僚との関係の築き方、先方の会社との信頼関係が如何に大切か……
皐月先輩がいるこの会社に入社して、良かったと思ってます。感謝しかないですよ」
ゆり
「(嬉しそうに)そう。私の一番の親友がそんなに思われてると、嬉しい。
その言葉、皐月にもいつか言ってあげてください」
浩司
「(ゆりの優しさに見惚れる)……はい。ちゃんと伝えます」
ゆり
「(嬉しそうに笑う)ありがとう。
買いたいもの終わったから、レジに行きましょう。浩司さんはもう買う物ないですか?」
浩司
「ぁ、はい。大丈夫です。
良かったらご自宅までお送りしてもいいですか?」
ゆり
「……そう、ですね。お願いします」
浩司
「ありがとうございます」
-買い物を済み、ゆりを自宅まで送る-
浩司
「陽が落ちる前にお送り出来てよかったです」
ゆり
「いえ、荷物まで持っていただいてありがとうございました」
浩司
「俺が好きでやったことですから、気にしないでください」
ゆり
「今日はありがとうございました。それでは」
-家に入ろうとする-
浩司
「ぁ、あの!」
ゆり
「……?」
浩司
「あの、俺、会ったばかりでそんな面識もないのに失礼なことを言うのは重々承知しておりますが、言わせてください!
俺、ゆりさんに一目惚れしました!」
ゆり
「……」
浩司
「ゆりさんの笑顔に(惚)れました。(好)きになってしまったんです。
良ければ俺と、(付き合って)いただけませんか?」
※()の部分は、ゆりには聞こえていないので、言わないでください
ゆり
「……ごめんなさい。
送っていただいてありがとうございます。それでは、さようなら」
-家の中に入る-
浩司
「……え」
ゆり
「(ドアに寄りかかり膝から崩れ落ち泣く)……ぅ、うぅ、ごめんなさい。ごめんなさい」
ゆりM
「私は、ドアスコープを覗き、浩司さんが家の前からいなくなるのを確認してから泣いた。
私は前に進めない。宏人を置いて歩けない。ごめんなさい。ごめんなさい。
あなたの言葉を受け取れない私を許してください」
-翌日 仕事場-
浩司
「(仕事に打ち込めずぼーっとしてる)」
皐月
「浩司!」
浩司
「(吃驚)は、はい!?」
皐月
「お前、今すぐ会議室来い」
浩司
「ぇ、は、はい」
-会議室-
浩司
「あの、先輩。一体何が……いっ!」
-ネクタイを掴まれ壁に押し付けられる-
皐月
「あんた、ゆりに告白しただろ」
浩司
「ぇ、ぁ、はい」
皐月
「やめときなって言ったよな?」
浩司
「言われましたけど、先輩に俺の恋を止める義理はないと思います!」
皐月
「泣きながらゆりが私に電話してきたんだよ!」
浩司
「……ぇ」
皐月
「あんたのエゴで言った言葉は、全部ゆりに取ったら苦しいんだ!」
浩司
「け、けど!俺の告白はゆりさんに聞き入れてもらえなかったんですよ!」
皐月
「愛の言葉が聞こえないんだから告白しても受け入れてもらえるわけないだろ!」
浩司
「愛の言葉が聞こえないって……どういう意味ですか?」
皐月
「(舌打ち)ここまできたら、打ち明けるしかないか……」
-ネクタイから手を離す-
皐月
「いいか。ゆりには、婚約者がいる」
浩司
「え?でも、指輪はしてなかったですよ?」
皐月
「……出来ない理由があるんだよ。
婚約指輪を受け取りに行った時、事故に遭ったんだ」
浩司
「事故?」
皐月
「ああ。ゆりは婚約者が庇ってくれたから軽傷で済んだ」
浩司
「こ、婚約者さんの方は?」
-回想-
宏人
「婚約指輪、楽しみだね」
ゆり
「早く付けたいなぁ。ねぇ、付けたら一緒に写真撮ろう?」
宏人
「いいね。じゃあ俺も、指輪付けて嬉しそうなゆりのこと撮っちゃおうかな」
ゆり
「えー、一緒に撮ろうよ」
宏人
「ゆりの写真だけ一枚ちょうだい?待ち受けにして仕事先でも見たい」
ゆり
「(照れる)も、もう!そんなこと言われたんじゃ断れないじゃん」
宏人
「俺の写真も撮っていいから」
ゆり
「ほんと?……撮りたい」
宏人
「うん、いいよ」
ゆり
「(嬉しそうに笑う)嬉しい」
宏人
「(それを見て嬉しそうに微笑むが、表情が一変)ゆり!危ない!」
ゆり
「え?」
-ガシャンと大きな音がする-
-悲鳴とパトカー、救急車の音が響き渡る-
ゆり
「ひ、ろと……」
宏人
「ゆ、り……大、丈夫?」
ゆり
「宏人、宏人……痛い、痛いよぉ」
宏人
「大丈夫。大丈夫、だから……すぐに、助けが、くるから。泣かない、で……」
ゆり
「ひろ、と……宏人、は?」
宏人
「(微笑む)だいじょう、ぶ……俺は大丈夫、だから……だから、ほら、笑って」
-回想終了-
皐月
「歩道に突っ込んできた車から、ゆりを守ったんだ。
ゆりが言うには、あいつずっとゆりを励まし続けてたんだと。
私がゆりの両親から連絡を貰って病院に行った時には、婚約者の方はもう……」
-回想-
皐月
「ゆり!大丈夫!?」
ゆり
「皐、月……宏人、宏人は?」
皐月
「……あいつは」
ゆり
「宏人、大丈夫だって……大丈夫だからって……ねぇ皐月、宏人は?宏人はどこ?」
皐月
「……ゆり、落ち着いて聞いて。あいつは、宏人はゆりを守ってくれたんだよ」
ゆり
「……宏人、は?生きてるんだよね?」
皐月
「……」
ゆり
「ねぇ皐月!生きてるって言ってよ!」
皐月
「……ごめん」
ゆり
「……宏人、宏人……いやぁああああああああああああ!!」
皐月
「ごめん、ごめんね」
ゆり
「嘘って言ってよぉおおおお!」
-回想終了-
浩司
「……」
皐月
「あいつは、宏人はな……本当にゆりのことが大好きなんだよ。
自分の命すら投げ出して、ゆりを助けてくれたんだ。
婚約指輪は私が代理で受け取りに行ったよ。
事情を説明したら快く引き渡してくれた。
ゆりに婚約指輪を渡す時は、私も心が痛かったな」
浩司
「そう、だったんですね」
皐月
「婚約指輪を付けてないって言ってたな。
そんな思い出したくもない悲しい記憶が詰まった指輪を、付けれるか?」
浩司
「……」
皐月
「身体の傷は癒えたけど、心の傷は癒えるもんじゃない。
退院後は私がゆりの精神ケアをしていた。
新しい恋を勧めたりすることも出来なかった。
ゆりも、宏人のことが大好きだったから。
そう簡単に前に進めないのは分かってるしね。
無理強いは出来なかった」
浩司
「当たり前です。俺も皐月先輩の立場なら、そうしました」
皐月
「……あんたみたいに、ゆりに惚れる人が過去いなかった訳じゃない。
ゆりの異変に気付いたのは、そこからだった。
自分に対する好意を寄せる言葉が、ゆりには聞こえなくなってたんだ」
浩司
「だから、俺の告白も……」
皐月
「婚約者のことがあるから、無意識に脳が聞こえなくしてる防御反応だと思う。
自分の精神が壊れないようにする為の、仕方のない身体の機能だ。
今みたいに私は、ゆりに惚れた人にこの話をしたよ。
全員、耐え切れなくて去ってった」
浩司
「え……」
皐月
「そうでしょ?愛の言葉を伝えても、応えてくれないんだよ。
それが何年、何十年続くかも分からないんだ。
……それでもゆりに向き合いたいと言うなら、止めはしないよ」
浩司
「……俺は、それでもいいです」
皐月
「(驚く)」
浩司
「正直、驚いてますよ。けど、先輩からゆりさんの状況を聞いて、思ったんです。
自分の言葉が届かないのは確かに苦しいですし、悲しいですけど……それ以上に、ゆりさんが一番苦しんでるじゃないですか。
自分の感情や願望が届かないから諦めるって、そんなの俺は嫌です。
ゆりさんが応えてくれないから去るなんて、男の歪んだ欲望を満たせないから捨てたようなもんですよ。
本当にゆりさんを好きなのか、その過去の男性達に疑問が浮かびます。
俺は、別に応えてくれなくていいです。聞こえなくていいです。
ただ俺が、好きだと伝えたいだけなんです。願わくば、届いてほしいですけどね。
でもそれ以上に俺は、ただゆりさんの傍にいたいんです。傍で、支えたいんです」
皐月
「……そう言ってくれた人は、初めてだよ。
そうか、それでいいんだな」
浩司
「はい、いいです」
皐月
「そっか……なら、もう私から言うことはないよ。応援する。
……ネクタイ、悪かったね。直してあげる」
浩司
「い、いえ!大丈夫ですよ!元はと言えば俺が事情を知らずに暴走したのがいけなかったわけですし!」
皐月
「いいんだ。流石にネクタイ掴んで壁に押し付けるのは大人げなかった」
浩司
「ぁ、あー、まぁ、仕事で怒られた時より怖かったです」
皐月
「なんだとー?」
浩司
「す、すいません」
皐月
「……ゆりのこと、頼んだよ」
浩司
「はい」
皐月
「この後13時にクライアントがロビーに来るから、迎えに行くように」
浩司
「はい、分かりました」
皐月
「それじゃあ」
-会議室に浩司を残し、出ていく-
浩司M
「先輩から言われた事実を、自分が思ってる以上に深く受け止めていた。
あの場で言ったことは俺の本心だ。嘘じゃない。嘘にしたくない。
ゆりさんの事情を聞いていなければ、俺は過去の人と同じように諦めてだろう。
けど、真実を知った今、諦めるなんて選択肢はなかった。
願うならば、叶うならば、俺の心がゆりさんに届いてほしい。
けれど、俺の気持ちを優先するよりかは、ゆりさんの気持ちに寄り添いたかった。
俺は、二番目でもいいと思った。
きっと俺は、婚約者には勝てないから。
勝てないなら、俺がやることは一つしかない。
少しでも、ゆりさんの心の拠り所を増やしたい。
あなたの落ち着ける場所を、俺にも作らせてください」
-ゆりと宏人がデートしている-
ゆり
「婚約指輪のデザイン、決まってよかったね」
宏人
「散々話し合ったからね。俺達らしいんじゃない?」
ゆり
「うん。早く付けれるの楽しみだなぁ」
宏人
「そうだね」
ゆり
「宏人、帰ろう」
宏人
「……」
-動かない宏人に首を傾げる-
ゆり
「宏人?どうしたの?」
宏人
「ううん、なんでもない」
ゆり
「なんでもなくないよ。大丈夫?なんかあった?」
宏人
「……ゆり、ゆりだけ先に帰ってて?」
ゆり
「な、なんで?一緒に帰ろうよ」
宏人
「ゆりは、いつまでもここにいちゃいけないよ」
ゆり
「え、どういう意味」
宏人
「(困ったように微笑む)ちゃんと、前に進んで?」
ゆり
「……や、だ」
宏人
「ゆり、好きだよ。大好き。愛してる」
ゆり
「(嬉しそうに)うん、好き。大好きだよ、宏人。愛してる。(悲しそうに)だから、だからそんなこと言わないで……」
宏人
「……俺以外の好意も、受け取ってあげて」
ゆり
「宏人、待って!置いていかないで!」
-目を覚ます-
ゆり
「(起きる)……なんで、宏人」
ゆりM
「涙を流しながら起きることにはもう慣れた。
何年も、こんな朝を迎えてる。
ふと携帯に目を向ければ、皐月からメッセージが入っていた。
"起きたら出ておいで。家の前にいるから"
私はパジャマのまま、涙を拭きながら玄関に向かった。
ドアを開ければ、そこには皐月がいた。
そして、皐月の後輩である浩司さんも……」
ゆり
「っ!」
浩司
「先日は申し訳ありませんでした!」
ゆりM
「咄嗟にドアを閉めようとした私の耳に届いたのは、謝罪の言葉だった。
恐る恐る顔をあげれば、浩司さんは頭を下げていた。
皐月に視線を向けたら、困ったように微笑んでいた」
皐月
「ごめん、ゆり。全部話した」
ゆり
「……なら、諦めてください。
皐月に全部聞いたなら、分かったはずです。
私には、浩司さんのお気持ちに応えることができません」
浩司
「(被らせて)それでも構いません」
ゆり
「え……」
浩司
「聞こえなくていいです。応えなくていいです」
ゆり
「なん、で……」
浩司
「自分でも分かりません。けど、諦めてくださいと言う言葉は聞けません。
ゆりさんの事情を知っても、諦めるという気持ちは消えませんでしたから」
ゆりM
「初めて、だった。
私の事情を皐月から聞いた人は、全員諦めてたから。
目の前の人は、そんな私でもいいと言った。
気持ちが聞こえなくても、応えれなくてもいいと。
今まで出会った男性と、何もかも違っていた」
ゆり
「さ、皐月……」
皐月
「ごめん、私もお手上げ。初めてだよ。話してもゆりを受け入れるって言った奴は」
ゆり
「……」
浩司
「今日一日でいいんです。俺に時間をくれませんか」
ゆり
「え」
浩司
「無理強いはしません。もしお時間をくださるならばお願いがあります。
もし、俺の好意の言葉が少しでも聞こえたならば、前向きに考えてくれませんか。
答えは出さなくていいです。今すぐ聞きたい訳じゃありません。
ゆりさんのペースに、俺も合わせていくんで」
ゆり
「……あ、の」
皐月
「どうする?私も無理にとは言わないよ」
ゆり
「……お時間、作ります」
浩司
「本当ですか?」
ゆり
「……はい」
皐月
「無理して言ってない?」
ゆり
「大丈夫。それに、今日宏人に言われたの。前に進んでって。
多分、このことなんだと思う。だから、怖いけど、進んでみる」
皐月
「……そっか」
ゆり
「皐月、お願いしていい?」
皐月
「分かった。ゆりの支度付き合うから、あんたはここで待ってな」
浩司
「はい、分かりました。ぁ、ゆっくりでいいですからね。改めて気持ちが変わったのなら、言ってください」
ゆり
「……はい、ありがとうございます」
-浩司を外に残し、皐月と共に部屋に戻る-
皐月
「すごいでしょ?あいつ」
ゆり
「……うん」
皐月
「嫌わないであげてね。あいつ馬鹿正直だし素直だから。とてもいい子だよ」
ゆり
「うん、伝わってる」
皐月
「でもそっか、宏人に言われたんだ」
ゆり
「……言われちゃった」
皐月
「大きな一歩だよ。頑張った」
ゆり
「……」
皐月
「今日は私に全部コーディネートさせて?」
ゆり
「いいよ。ありがとう」
皐月
「うん、どういたしまして」
-ゆりの支度を全てし終え、家を出る-
皐月
「お待たせー」
ゆり
「すいません。時間がかかって……」
浩司
「い、いえ!大丈夫です!
(ゆりの姿に見惚れるが自分の頬を叩く)い、行きましょうか!」
ゆり
「は、はい」
皐月
「もしもの為に私は少し後ろからついていくから、安心して」
ゆり
「う、うん」
浩司
「ぁ、そうだ。ゆりさん」
ゆり
「?」
浩司
「俺の言葉が聞こえなかったら、遠慮なく言ってください。
どれがゆりさんにとって聞こえない言葉なのか、理解したいので。
罪悪感とか申し訳なさとか、俺には感じなくていいです。大丈夫ですから」
ゆり
「……はい、分かりました。お気遣いありがとうございます」
浩司
「とりあえず、少し歩きましょうか。その後、ゆりさんが行きたい場所でも行きましょう」
ゆり
「はい」
-歩きだす-
-二人を見守りながら皐月も少し離れついていく-
浩司
「あの、こんな事聞くのどうかと思うんですが……嫌なら答えなくて大丈夫です」
ゆり
「?」
浩司
「……宏人さん、でしたよね。お名前。どんな方だったんですか?」
ゆり
「え……」
浩司
「ちゃんと、ゆりさんの心にいる方のことも知っておかないとと思いまして……」
ゆり
「……宏人のことを聞いてきてくれたのは、浩司さんが初めてです」
浩司
「……」
ゆり
「みんな、私に気持ちが届かないと知ると掌を返すようになりましたから」
浩司
「俺はっ、そんな奴らとは違います。ゆりさんはそのまま、宏人さんのことを想ってていいんですよ」
ゆり
「……ありがとうございます。
……宏人は、かっこいいんです。なんでも出来て、欠点なんかない人で、毎日朝と夜に愛の言葉を囁くんです」
浩司
「すごいですね」
ゆり
「皐月だけには欠点を話したみたいなんですけど、恥ずかしがって答えてくれなかったんです。
だから未だに宏人の欠点は知りません。私の中で、宏人はずっと欠点がない人なんです」
浩司
「(嬉しそうに話すゆりを見つめ微笑む)」
ゆり
「ぁ、すいません。私ばかりお話をして」
浩司
「いいんですよ。いっぱい話してください。俺も宏人さんのお話聞きたいです」
ゆり
「……私、こう見えて何も出来ないんです。
掃除も洗濯も、整理整頓も苦手で……料理も最近やっとまともに出来るようになったんですよ」
浩司
「……もしかして、ゆりさんに料理のことを教えてくれたのは宏人さんですか?」
ゆり
「はい。どうして分かったんですか?」
浩司
「あの時話してくれていたゆりさんの顔を思い出してたんです。
その時の顔と、今宏人さんのお話をしているゆりさんの笑顔が同じだったので、そうなのかなと思ったんです」
ゆり
「(照れる)私、そんな顔してたんですね。自分じゃ分からないです」
浩司
「(呟く)……可愛い」
ゆり
「え?あの、ごめんなさい。今の、聞こえなかったです」
浩司
「ぇ、あ、これは聞こえないのか。分かりました。
そうですね。ゆりさんは子猫の寝顔とか見てどう思いますか?」
ゆり
「子猫の寝顔……そうですね。とても可愛いと思いますし、癒されます」
浩司
「俺がさっき言ったのはそういう意味です」
ゆり
「(照れ笑い)!?ふふっ」
浩司
「(独り言)こうすれば、伝わるんだ。嬉しいな」
ゆり
「初めてです。そういう伝え方があるんですね」
浩司
「どんな手を使ってでも伝えますよ」
ゆり
「本当に、浩司さんは今までの人と違うんですね」
浩司
「言ったじゃないですか。諦めてくださいは聞きませんって」
ゆり
「そうでしたね」
浩司
「どこか行きたい場所ありますか?」
ゆり
「……宏人と一緒に行った場所でもいいですか?」
浩司
「大丈夫ですよ。俺には遠慮しないでください」
ゆり
「ありがとうございます」
浩司
「行きたい場所、どこですか?」
ゆり
「……海浜公園なんですけど、ちょっと遠いですか?」
浩司
「いえ、行きましょう。想い出の場所なんですよね?
逆に俺がお邪魔してもいいんですか?」
ゆり
「はい。今まで行けずにいたんです。けど、浩司さんとなら行ける気がします」
浩司
「なら、行きましょう。確かに少し遠いですけど、休憩しながら行けば問題ないですよ」
ゆりM
「浩司さんは、そう言って私をあの場所に連れて行ってくれた。
宏人がいなくなってから、行けなくなってた場所。
私が、彼女から婚約者に変わった場所」
浩司
「はぁ、海近いですね。ぁ、足元、気を付けてくださいね」
ゆり
「ありがとうございます。
……何も変わってない。この場所は、あの時のままなんです」
浩司
「宏人さんとよく来られてたんですか?」
ゆり
「……プロポーズをされた場所なんです」
-回想-
宏人
「寒くない?大丈夫?」
ゆり
「うん、大丈夫だよ」
宏人
「心配だから、俺のコート被ってて」
ゆり
「もう、心配性なんだから」
宏人
「大事な彼女だから」
ゆり
「(照れる)」
宏人
「ここの夜景、デートスポットとして人気なんだって」
ゆり
「そうなんだ。綺麗だね。ビルの明かりと、月明かりが海に反射してて輝いてる」
宏人
「どうしても、ここが良かったんだ」
ゆり
「どうして?」
宏人
「ゆり」
-目の前に小箱を出される-
ゆり
「え」
宏人
「ゆり、彼女として今まで6年俺の傍にいてくれてありがとう。
これからは、彼女じゃなくて俺のお嫁さんとして、傍にいてくれますか?」
ゆり
「(涙ぐむ)」
宏人
「ゆり、俺と結婚してください」
ゆり
「はいっ」
-回想 終了-
ゆり
「プロポーズをされた時は夜だったので、今とだいぶ違いますけど……」
浩司
「そうだったんですね」
ゆり
「ごめんなさい。こんな話をして」
浩司
「気にしてませんよ。寧ろ、もっと話してもいいですよ。
今まで言えずにいたでしょうから、自分にだけでもいいから話してください」
ゆり
「……ありがとうございます」
浩司
「プロポーズされた時は夜だったんですよね?なら、もう一度夜に来ましょう?」
ゆり
「……いいんですか?」
浩司
「せっかく来たんですから、想い出に浸ってもいいと思います」
ゆり
「……本当に、浩司さんは不思議な人ですね」
浩司
「不思議、ですか?」
ゆり
「はい」
浩司
「自分じゃ、分からないですね。けどゆりさんから見て不思議だと言うことは、俺は不思議な人なんですね」
ゆり
「ごめんなさい」
浩司
「いいんですよ。夜まで時間潰しましょうか。近くに何かないか調べますね。ちょっと待っててください」
-携帯を出し周辺を調べる-
-回想-
宏人
「んーっと、ゆりが楽しめそうな場所ないかなぁ」
ゆり
「宏人が行きたい場所でもいいんだよ?」
宏人
「やだ。せっかくならゆりが喜んでくれる場所がいいから」
ゆり
「もう、我儘」
宏人
「いいだろ。ぁ、ここ行こうか。夕飯のディナーまで時間あるから」
ゆり
「どこ?」
宏人
「夜の水族館。俺のお嫁さんになったゆりと、初めてのデート」
ゆり
「そう言われると、恥ずかしい」
宏人
「ははっ」
-回想 終了-
浩司
「あ、水族館に行きませんか?」
ゆり
「え……」
浩司
「すぐ近くに水族館あるらしいんですよ。俺は行ったことないんですが、ゆりさんが良かったら一緒に……」
ゆり
「(泣いている)」
浩司
「ぇ、え?ど、どうしました?水族館嫌でしたか?」
ゆり
「(泣きながら)違うんです。宏人と、同じことを浩司さんが言ってくれたから……宏人が目の前にいるように感じて、嬉しかったんです」
浩司
「えっと、えー、どうしよう……ゆりさん、すいません。背中少し触りますね」
-ゆりの背中を優しくさする-
浩司
「落ち着くまで、こうしてますから」
ゆり
「ありがとうございます」
浩司
「……えっと、すごい皐月先輩からの視線が痛いです」
ゆり
「(泣き笑い)ごめんなさい。私が泣いてるから」
浩司
「だ、大丈夫です。明日の仕事内容が怖いですけど」
ゆり
「私からも、後で皐月に言っておきますから」
浩司
「ありがとうございます」
-落ち着いてくる-
ゆり
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
浩司
「いえ。水族館、どうしますか?嫌なら無理に行かなくても大丈夫ですよ?」
ゆり
「行きましょう。連れてってください」
浩司
「(ちょっと嬉しそうに)はい。行きましょう、ゆりさん」
-水族館に向かう-
浩司
「こういうところに来たのは初めてです」
ゆり
「そうなんですか?」
浩司
「はい。恥ずかしいんですけど、女性とこういうところに来た経験がないんです。
俺、恋愛には疎いんですよ。初めて好きになった人に告白する前に、俺は逃げてしまいました。
勇気を出して告白しようと決めた時には、既にその人には恋人がいて……ぁ、すいません。勝手に話をして」
ゆり
「いいえ。話してください」
浩司
「……勝手に自分の中で答えを出して、何も行動せずに諦めるなんて逃げだなって思ったんです」
ゆり
「……」
浩司
「だから、逃げずにゆりさんと向き合おうと決めました」
ゆり
「ありがとうございます」
浩司
「自分の話をして申し訳ありません。今は水族館、楽しみましょうか」
ゆり
「はい」
-館内を見て周る-
-回想-
宏人
「あ、美味しそう」
ゆり
「(笑いながら)魚見て美味しそうって言うのやめて?」
宏人
「えー、美味しそうだったから。あ、明日の夕飯アクアパッツァにしようか」
ゆり
「タイ?」
宏人
「勿論。後はアサリも」
ゆり
「美味しそう。いいね」
宏人
「決まり。帰りにスーパー寄ってから帰ろうか」
-回想終了-
ゆり
「(独り言のように)宏人が……」
浩司
「はい」
ゆり
「ここで泳いでる魚達を見て"美味しそう"って言ったんです」
浩司
「あー、たまにそういう方いますよね?」
ゆり
「それで夕飯のメニューが決まったことがありました」
浩司
「宏人さんは発想力が飛び抜けている方なんですね」
ゆり
「そうだと思います。突然突拍子もないことを言い出したりするんです。
けど、そこが彼の素敵なところなんです」
浩司
「他にも教えてください。宏人さんとの想い出」
ゆり
「浩司さんには、自然と宏人との話をしてしまいます」
浩司
「それは良かったです。ゆりさんのペースに合わせますから、ゆっくり見て回りましょうか」
-館内を周る-
-回想-
宏人
「あ、珍しい。触れ合いコーナーだって」
ゆり
「触れ合いコーナー?」
宏人
「うん。ここの浅瀬の水槽覗いてみな?」
ゆり
「わぁ、ヒトデ。あ、あれウニとナマコ?」
宏人
「そうだね。触ってみる?」
ゆり
「うん!」
-回想終了-
ゆり
「ここの水族館、珍しく触れ合いコーナーがあるんですよ」
浩司
「触れ合いコーナーですか?」
ゆり
「ヒトデとか触れるんですよ」
浩司
「へぇ、触ったことないから触りたいなぁ」
ゆり
「ふふっ、せっかくだから触りましょう」
浩司
「はい。ゆりさんも一緒に」
-回想-
ゆり
「見て見て宏人!クラゲの水槽!」
宏人
「ライトで青く照らしてるからなんだろけど、落ち着くね」
ゆり
「私、クラゲ見てるの好き」
宏人
「分かる。なんかこのゆったり泳いでるのが癖になる」
ゆり
「クラゲの水槽背景に写真撮らない?」
宏人
「いいよ」
-回想終了-
浩司
「うわ、全面クラゲの水槽なんですね」
ゆり
「宏人と、ここで写真を撮ったんです。
実はここ、リニューアルがあったらしくて写真はリニューアル前なんですけどね」
浩司
「なら、また今度撮りに来ましょう。俺と二人でとは言いません。
皐月先輩も一緒にきて、三人で撮りましょう」
ゆり
「そうですね」
浩司M
「館内を周りながら、宏人さんとの想い出を語るゆりさん。
普通、好きになった女性が婚約者の話をしてるところなんて聞きたくないはずだ。
でも、苦じゃなかった。本当に心の底から、もっと聞きたいと思った。
俺は宏人さんの想いも抱えて行きたいと思った。
同じ女性を好きになった男として……」
-水族館から出る-
浩司
「すっかり陽が落ちてしまいましたね」
ゆり
「長居しすぎてしまって申し訳ありません」
浩司
「いえ、いいんですよ。
それじゃあ、戻りましょうか。ゆりさんの想い出の場所へ」
浩司M
「水族館から出ると、辺りは暗くなっていた。
俺は約束通り、ゆりさんを連れて夜の海浜公園に戻った。
着いた頃には夜景が水面に映し出され、夜の街を街灯が照らしている。
確かに、綺麗だ。ゆりさんがここに来たかった理由が、分かった気がする」
-海浜公園 夜-
ゆり
「やっぱり、ここの夜景は変わってない。
あの時から、あの瞬間から、一度も……」
浩司
「こうして夜景をじっくり眺めたことがないですが、綺麗なのは分かります」
ゆり
「……ここで、プロポーズされたんです」
浩司
「はい」
ゆり
「この夜景を背に、宏人が小さい箱を持ってたんです。
それだけで、次に宏人が何を言うか分かってしまいました。
実際、その言葉を言われた時、涙が溢れました。
あぁ、私この人のお嫁さんになれるんだって、嬉しかったんです」
浩司
「……はい」
ゆり
「小さい箱に入ってたの、指輪じゃなかったんですよ?」
浩司
「え?(皐月の話を思い出し)あ……」
ゆり
「ネックレスだったんです。婚約指輪は一緒にデザインを選びたいからって宏人が」
浩司
「いいじゃないですか」
ゆり
「デザインが出来て、やっと受け取れるって思ったんです。
指輪を受け取ったら後は式場の下見をして、式を待つだけだったんですよ?
やっと、この人と結婚できるって思っていたのに……」
浩司
「……ゆりさんは、皐月先輩が笑顔でいると嬉しいですか?」
ゆり
「え?」
浩司
「俺は、皐月先輩が笑顔でいると嬉しいです。
あの人が落ち込んでるところ、想像出来ないですが……」
ゆり
「……皐月が笑顔なのは、嬉しいです。
落ち込んでても、皐月が傍にいてくれると元気が出ます」
浩司
「俺もそうです」
ゆり
「えっと、どうしていきなり皐月のことを?」
浩司
「気づいてませんか?ゆりさん、今とても悲しい表情してるんです」
ゆり
「え?」
浩司
「皐月先輩が笑顔でいてくれるのは嬉しいって言いましたよね?元気が出るって。
ゆりさんが皐月先輩に対して思ってることを、俺はゆりさんに対して思ってます」
ゆり
「で、でも、浩司さんは皐月のことを尊敬してるって言ってましたよね?」
浩司
「はい、言いました」
ゆり
「皐月に対して思ってることと、私に対して思ってることは違うんじゃないですか?」
浩司
「ゆりさんに対しても同じように思ってますよ?」
ゆり
「ど、どうしてですか?皐月のことを尊敬するのは、仕事とかで分かるんですけど、私なんて……」
浩司
「そうですね。なるべくゆりさんに聞こえるように話しますが、もし聞こえなかったからすいません」
ゆり
「だ、大丈夫です」
浩司
「綺麗な人だなって思ったんです」
ゆり
「綺麗?」
浩司
「はい。それは勿論、見た目だけじゃなくて心も綺麗な人だなって、皐月先輩からゆりさんの過去を聞いて改めて思いました」
ゆり
「……私は、綺麗じゃないですよ」
浩司
「いいえ、俺はそうは思いません。ゆりさんの口から宏人さんのお話を聞く度に思ってたんです。
本当に宏人さんのことを大切にしてたんだな。したかったんだな。
俺は宏人さんとは話せませんが、宏人さんはいなくなってなくて、ちゃんとゆりさんの中に生きてるんだ。
心が他の人の言葉を拒絶するくらい、宏人さんのことを一番にゆりさんは思ってるんだなって、ずっと思ってました」
ゆり
「ッ……」
浩司
「俺は、一番にはなれません。二番にもなれません。二番目は皐月先輩だと俺は勝手に思ってます。
ゆりさん。叶うのならば、皐月先輩と同じように貴女のことを支えさせてほしいです」
ゆり
「……浩司さんの、気持ちに、今すぐはお応えはできません」
浩司
「(被らせて)最初にも言いましたけど、そのままのゆりさんでいいんです」
ゆり
「でも、それは流石にっ……」
浩司
「俺、今とても幸せなんです」
ゆり
「ど、どうしてですか?」
浩司
「だって、ちゃんと俺の言葉、通じてたじゃないですか」
ゆり
「そ、それは……浩司さんが、伝え方を工夫してくれたから」
浩司
「はい。工夫しました。めちゃくちゃ考えました。
俺、ゆりさんの一番になろうとは思ってないんです。
宏人さんには勝てません。勝とうとも思ってません。
でもいつか、ゆりさんの二番目の男として隣に立ちたいです」
ゆり
「……もし、そうなったとしても、私は宏人を忘れられないです。
宏人のことを思い出して過呼吸になったり、宏人の話をして浩司さんを困らせてしまうかもしれません」
浩司
「俺、宏人さんの話されて困ってるように見えましたか?」
ゆり
「見え、なかったです」
浩司
「それでもいいって言ったじゃないですか。宏人さんが一番でいいんです。
宏人さんのことを思い出していいですよ。過呼吸になっても俺や皐月先輩がいます。
宏人さんのお話も沢山してください。今日みたいに聞きますから。
ゆりさんの宏人さんに対する気持ちを否定はしません。
忘れてほしいとも思っていません。そのまま抱えてていいんです。
俺も、忘れません。宏人さんのゆりさんに対する想いを抱えて生きていきたい。
そういうのも全部含めて、皐月先輩と一緒に支えていきたいって言ったんですよ?俺」
ゆり
「(泣く)浩司、さん」
浩司
「(おどおどする)ぇ、え?ど、どうしました?」
ゆり
「(泣きながら)宏人のことを忘れなくていいって言ってくれたのは、浩司さんだけでした。
過去に私に好意を向けてくれた方は、宏人のことを忘れさせようとしてきたんです。
いつまでもいない人に縛られてても意味ないよって。でも私は忘れたくなかった。宏人を、宏人との想い出を忘れたくなかった。
でも浩司さんは、それでもいいって。こんな私でもいいって。
浩司さんの気持ちが嬉しかったんです。
聞こえないって思ってた好意の言葉も、浩司さんは別の言葉で伝えてくれました。
それが、嬉しかったんです。ありがとうございます」
浩司
「……ゆりさん。また、こうして俺と会ってくれるなら、今から言う言葉に応えてくれますか?」
ゆり
「?」
浩司
「また俺と、お出かけしてくれますか?」
ゆり
「(微笑む)……はい、またお出かけしましょう」
浩司
「ほ、本当ですか?よ、よかった」
ゆり
「ごめんなさい。涙が止まらなくて……」
浩司
「いえ。無理に泣き止まなくても大丈夫です」
ゆり
「でも……」
浩司
「えっと、あー、泣かないでください。俺、ゆりさんの泣き顔ダメです。どうしていいか分からなくなってしまいます」
ゆり
「ご、ごめんなさい」
浩司
「さ、皐月先輩!助けてください!」
-後ろから付いてきてた皐月を呼ぶ-
皐月
「過呼吸になることはなかったけど、何回ゆりのこと泣かしてるのあんたは」
浩司
「す、すいません。どうしていいか分かんなくなってしまいました」
皐月
「ゆりの泣き顔に弱いの、宏人と同じだねぇ」
ゆり
「え?」
皐月
「宏人が私にだけ言った弱点。ゆり、あんたの泣き顔に弱かったのよ。あいつは」
ゆり
「私の……」
皐月
「そりゃ本人には言えないわよね。やっと、ゆりに伝えられた」
ゆり
「皐月」
皐月
「宏人は、泣いてる顔なんて望んでないよ。出来るなら、笑ってやってほしい」
ゆり
「(微笑む)……うん。ありがとう皐月」
浩司M
「ゆりさんに俺の想いが、言葉が通じたその日、不思議な夢を見た。
ゆりさんと見たことがない男性が手を繋いで仲良く歩いていた。
宏人さんだと理解するまで、そんなに時間はかからなかった。
仲睦まじく歩いている二人を遠くから見てるだけだったけど、俺は幸せだった。
ふと、ゆりさんを先に行かせた宏人さんが、突然俺の方を見てきた」
宏人
「ありがとう」
浩司
「え」
宏人
「これで、ゆりは俺に縛られなくなった。
本当は、俺のことを忘れて幸せに生きてほしいけどね。
でも、ゆりも君も、俺の想いを抱えて生きていくと言ってくれた。
とても、嬉しかったよ」
浩司
「いや……俺の方こそ、ありがとうございます。
宏人さんが守ってくれたから、今のゆりさんがあるんです」
宏人
「……ゆりのこと、頼んだよ」
浩司
「(色々な思いを抱え返事をする)……はい、任せてください」
宏人
「(嬉しそうに悲しそうに)……あぁ、これで安心して逝ける」
浩司M
「目が覚めた時、俺は涙を流していた。
不思議な夢の内容は、徐々に記憶から消えていった。
それでも、胸にあるこの冷めることない熱い想いは、確かだろう。
宏人さんの想いも抱えて、俺はゆりさんの傍にいよう。支え続けよう。
いつか、本当の言葉で愛を伝えられるその時まで……彼女の世界に、愛が戻るまで……」
浩司
「ゆりさん」
宏人
「ゆり」
ゆり
「(嬉しそうに)はい。なんですか?」
浩司
「好きです。大好きです。愛しています」
宏人
「幸せになってね」
ゆり
「……はい、私も好きです。大好きです。愛してます」
幕
2023/02/17 「世界から愛が消えた日」 公開
2023/06/12 キャラ設定、セリフ加筆