タッチスクリーン・チェインバー
タッチスクリーン・チェインバーにおける反応形成
前面にタッチモニターを備えつけたオペラント箱(タッチスクリーン・チェインバー)では、様々な視覚刺激を用いた課題を作成することができます。比較認知研究では、様々な動物種において、かなり前から当たり前のように用いられているタッチスクリーンですが、げっ歯類用の装置が普及するようになったのは比較的最近のことです。
当研究室では、マウス用のタッチスクリーン・チェインバーを作製し、マウスの反応形成プロトコルを確立しました(後藤・幡地, 2020)。レバーや反応キーを用いた従来型のオペラント箱での反応形成と同様、実験手続きで必要な行動系列をいくつかのステップに分割して、1つずつ反応形成をしていきます。このページでは、当研究室で確立したマウスの反応形成の手順を解説します。
手順の詳細は、以下の論文で報告しました。
https://doi.org/10.2502/janip.70.1.2
実験室への馴致
マウスは6週齢から8週齢で購入し、実験室に到着してから2週間ほどは、実験室環境に慣れてもらうために自由摂食・摂水で飼育をします。通常1ケージ4−6匹ほどで集団飼育し、毎日、体重測定を行います。実験ではペレットを強化子として用いるため、実験前日の夕方前に2-3gの給餌をし、翌日の9時過ぎにはマウスが空腹となるようにしておきます。
反応形成の手順
実験室への馴致期間が終わると、実験装置への馴致からはじめ、反応形成をしていきます。通常、以下の手順で反応形成をしていき、最終的には課題に応じた行動系列へ繋げます。実験セッションは各個体1日30分から1時間程度になるように計画し、週5日(土日はお休み)で訓練を進めていきます。
マガジントレーニング:装置内の餌箱にディスペンサーからペレットを落とし、それをマウスが消費する訓練です。ペレットの呈示は、各セッション、変動間隔(variable time: VT)90秒で20回としています。実験装置やディスペンサーの動作音への馴致も兼ねているため、3日間実施します。
自動反応形成:モニター上に白い円を10秒間呈示し、円が消えると同時にディスペンサーからエサ箱にペレットが落ちます。白い円を条件刺激(CS)、ペレットを無条件刺激(US)としたレスポンデント条件づけです(実際にはディスペンサーの動作音やフィードバック音もCSとなっているので高次条件づけになっています)。各セッションはVT250"で10試行の構成となっており、1日実施します。通常、モニターへのノーズタッチが観察されることが多いのですが、そうでない場合でもモニター上の刺激に対するサイントラッキングが生じます。
連続強化:モニター上に呈示された白い円をマウスが鼻先で触る(ノーズタッチ)と、ディスペンサーからエサ箱にペレットが落ちます。試行間間隔(intertrial interval: ITI)は20秒です。ITIは、予備実験において、ディスペンサーから餌箱にペレットを落とし、マウスがペレットを消費し終わるまでのおおよその時間(10秒程度)に多少余裕をもたせ、設定しています。各セッション30試行、実施します。
刺激呈示位置のランダマイゼーション:白い円が呈示される位置が試行ごとに入れ替わります。それ以外は連続強化と同じです。
新奇刺激の導入:白い円以外の新しい画像を導入します。画像の枚数により試行数を調整しますが、それ以外は、前段階の訓練と同じです。
スタート反応の導入:マガジンライト(エサ箱のLED)が点滅し、マウスが頭部をエサ箱に入れると試行が開始され、モニター上に刺激が呈示されます。スタート反応を導入することで、反応時間が取得できるようになります。
実験者の都合で1週間近く休みが続いてしまうこともありますが、それほど大きな問題とはならずに反応形成が進捗するようです。
動画は訓練段階6.の2日目を撮影したものです。6個体訓練して、すべての個体で同じように反応形成できています。通常、実験時には閉まっている防音箱の扉を開けて撮影をしました。動画のはじめから17秒までは背面パネル側を、18秒から終わりまでは前面パネル側を撮影した様子です。エサ箱内のLEDが点滅して、マウスのヘッドエントリーで試行が開始します。すると、全面パネルに設置されているモニター上に画像が呈示されます。これをノーズタッチすると、チャイムがなると同時に背面パネルのエサ箱のLEDが点灯し、ペレットがあることを知らせます。
弁別訓練
初期訓練が終わり次第、実験を開始します。弁別訓練では、たとえば、モニター上に2枚の画像や2種類の動画を刺激対として呈示し、どちらか一方の画像・動画へのノーズタッチを正反応とします。他方の画像・動画へのノーズタッチは誤反応とします。正反応は、ペレットにより強化されますが、誤反応は20秒のタイムアウトにより消去されます。多くの場合、このままですと、左に呈示される刺激への反応ばかりが観察されるなどの位置偏好が出てきてしまいます。通常は、課題にあわせ位置偏好が生じにくくなるような矯正試行手続きを導入していきます。