様々な動物種を対象に行動実験を行い、認知様式の進化について理解することを目指しています。これまでに、鳥類と霊長類の視覚に関する系統発生的な違い、心理物理学と脳機能イメージングを組み合わせたヒトの視聴覚統合過程の解明する研究に取り組んできました。
主な研究テーマ
視知覚の多様性
内省的プロセスの発達と進化
マウスにおける認知行動研究
視覚はヒトをはじめとする多くの動物種において主要な感覚器官です。霊長類と鳥類はおよそ3億年前に共通祖先から別れ、独自の進化を経たにもかかわらず、視覚に関して多くの機能的相似性が報告されています。これは、霊長類と鳥類の祖先が昼行性と3次元樹間生活という共通する環境要因への収斂進化によるものであると考えられています。ヒトをを含む霊長類と鳥類で視覚に関する認知機能を比較し、分類群における違いは何か、ヒトらしさは何かを解明することを目標にしています。
「全体は部分の総和とは異なる」というのは、ゲシュタルト心理学の基本概念です。ゲシュタルトとは、複数の情報が1つのまとまることで創発する特徴のことです。このゲシュタルト知覚は、たとえば、4つ呈示される線分のうち、1つだけ傾きの異なるものを探す場合、線分だけが呈示されるよりも、線分とは直接関係ない「L」という文脈とともに呈示されるほうが探索が容易になるというパターン優位性効果によって検討することが可能です。私の研究では、このパターン優位性効果がヒトをはじめとする霊長類とハトなどの鳥類の視覚処理の違いを解明する手がかりになると考え、比較研究をしています。
関連論文:
後藤和宏 (2022). マウスにおける視覚研究:ゲシュタルト知覚をめぐる展開. VISION, 34(4), 98-104. doi: https://doi.org/10.24636/vision.34.4_98
動物は餌や捕食者などの標的を、背景となる環境の中から見つけます。たとえば、多くの鳥類は昆虫を補食しますが、昆虫は周囲の背景に溶けこむような色彩や斑紋による防衛機能(カモフラージュ)を持っています。このような防衛機能に対抗し、鳥類は捕食効率を高めるために、遭遇した昆虫の知覚的特徴に基づく像(探索像)を形成し、捕食効率を高めていると考えられます。この「探索像」の解明を目標としています。
関連ページ
メタ認知とは、知識などの自分の認知状態に関する認知のことです。最近の研究では、ヒト以外の霊長類でもこのような内省的な認知があることが明らかになってきました。さらに、霊長類以外の動物種でもこれらの認知が検討されています。このような内省的プロセスの進化について複数の動物種を用いた比較研究に取り組んでいます。
Goto and Watanabe (2012)では、鳥類の中でも大きな脳を持つハシブトガラスにおいて、自分の記憶の不確かさ、回答の確信度をモニタリングできるかというメタ記憶を2つの方法で検討しました。Hataji and Goto (2024)では、マウスが視覚弁別課題中に課題難易度に応じて情報希求行動を示すか、その情報希求行動が何を手がかりとしたものかを検討しました。
関連論文:
後藤和宏 (2023). 動物の認知テストの簡便さに潜む罠 ―鏡像自己認知およびメタ認知的制御としての情報希求―. 基礎心理学研究, 42 (1), 96-102. doi: https://doi.org/10.14947/psychono.42.16
遺伝子組み換え法の開発等のため、マウスはモデル動物の中でも重要な動物種であり、その行動解析は幅広い研究分野で実施されています。マウスにおける行動解析の多くは、オープンフィールドでの探索行動を利用したものや迷路、恐怖条件づけなど、行動異常などを短期間かつ簡便なものが多いのですが、認知機能の様々な側面を詳細に解析するためには、新しく課題を考案する必要があります。当研究室では、4台のスキナー箱が稼働しています。これらの実験装置によって、様々な認知行動課題を作成し、従来検討が難しかったテーマに取り組むことを目指しています。従来のスキナー箱では、刺激として様々な周波数の音やLEDの組み合わせにより課題を作成し、ノーズポーク反応やレバー押し反応を計測します。当研究室では、前面にタッチモニターを備えつけたスキナー箱を作製し、様々な視覚刺激を用いたより柔軟な認知行動課題を作成することができます。
遅延見本合わせは、霊長類や鳥類などにおけるワーキングメモリを検討する課題として有名です。げっ歯類でもラットにおいて、脳機能や薬理効果を解明するための課題としてよく用いられます。私の研究では、マウスを対象にした遅延見本合わせ課題を作成し、1ヶ月ほどで課題が学習可能なこと、またその後少なくとも1年くらいの間は安定して行動解析が継続できることを示しました(Goto, Kurashima & Watanabe, 2010)。長期に渡る実験でも安定したデータが得られることから、加齢による行動変化なども研究の対象とすることができます。以前の実験ではレバー押し反応を用いていましたが、ノーズポーク反応に切り替えることで、当初の半分程度の時間で課題手続きの訓練が完了するようになりました。