「マクロ経済学を勉強してください」と馬鹿にされる前に読む本

マクロ経済学の未修者が独学で学部中級~上級レベルのマクロ経済学の知識を身につけることを目標にする場合に、お薦めする教科書・参考書を挙げます。高等数学を使わずに学べるものに絞っています。巷にあふれる、プロパガンダ的な本、センセーショナルな売り方をしている本、あるいは「なんちゃって専門家」が書いた本を読むのではなく、以下に示すようなきちんとした教科書・参考書でじっくりとマクロ経済学の世界を堪能していただければ幸いです。

複数の本を推薦しています。新品・中古本の購入が予算的に厳しい場合や、絶版で手に入らない場合は、地元の公立図書館や大学図書館の利用をお勧めします。在学生以外でも図書館を利用できる大学は多くあります。

※本の選定に際して、大学院進学希望者は対象として想定していません。それは、所属学部で学べる内容や大学院入試(特に内部進学の試験内容)について詳しい関係者に参考書(問題集含む)や勉強法を相談する方が効率的だからです。所属するゼミ教員などの身近な経済学の教員に直接尋ねてください。


STEP1:ケインズ経済学を知る

中村勝克(2022)『基本講義 マクロ経済学 第2版』新世社

伊東光晴 (2006)『現代に生きるケインズ:モラル・サイエンスとしての経済理論』岩波新書

平口良司・稲葉大(2023)『マクロ経済学:入門の「一歩前」から応用まで 第3版』有斐閣


<コメント>

中村(2022)はアメリカ流のクラシックなケインズ経済学を初心者向けに分かりやすく説明している。まずはこうした本でケインズ経済学の基礎を身につけることが重要。ただ、ケインズ経済学はケインズ理論の解釈として正しいのかと疑うこともまた重要。この点は、伊藤(2006)を読むとよい。とても良い本なので、図書館で探してでも読むべき。

なお、平口・稲葉(2023)の序章と第1部は、現実経済についての補足情報が多いので、高校公民までの知識が怪しい場合は補足的にこの部分だけでも読むとよい。


(補足学習:金融入門)

川西諭・山崎福寿(2013)『金融のエッセンス』有斐閣

前田真一郎・西尾圭一郎・高山晃郎・宇土至心・吉川哲生(2023)『変わる時代の金融論』有斐閣


<コメント>

金融について全く分からない、イメージが湧かない、という場合は、有斐閣ストゥディアシリーズの上記の本を補足的に読むとよい。



STEP:ケインズ理論が誕生した文脈を知る

吉川洋(1995)『ケインズ:時代と経済学』ちくま新書

伊東光晴(1993)『ケインズ』 講談社学術文庫

伊藤光晴(1962)『ケインズ:“新しい経済学”の誕生』岩波新書


<コメント>

マクロ経済学は論争の学問であり、経済思想がぶつかり合う学問でもある。理論の学習のみだとあまりに表層的すぎるので、経済学史や経済思想についても目配りして学ぶことが重要。



STEPケインズ派と新古典派を対照させながら学ぶ

脇田成(2012)『マクロ経済学のナビゲーター 第3版』日本評論社

井上義朗(2016)『読むマクロ経済学』新世社

福田慎一・照山博司(2013)『演習式 マクロ経済学・入門 補訂版』有斐閣


<コメント>

脇田(2012)は、学部の初級テキストと中・上級テキストの橋渡し役として、とてもコンパクトにまとまっている。上級テキストに挑む前に、目を通しておくとスムーズ。数式が難しいときは、その箇所を読み飛ばしてもよい。井上(2016)は、成長理論の説明が詳しいたけでなく、ポスト・ケインジアンの分配理論までもを解説している貴重なテキスト。脇田(2012)のあとに、少なくともこの2つの部分だけでも読むとよい(余裕があるならば全体を読み通すことを勧める)。福田・照山(2013)は、演習問題を多く含んでいる。ここまで身につけた知識の定着を目的として、問題にチャレンジしてほしい。



STEP視野を広げる

根井雅弘(2018)『サムエルソン:『経済学』と新古典派総合』中公文庫

根井雅弘(2020)『現代経済思想史講義』人文書院

吉川洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ:有効需要とイノベーションの経済学』 ダイヤモンド社

小野善康(2007)『不況のメカニズム : ケインズ『一般理論』から新たな「不況動学」へ』中公新書


<コメント>

再び、経済学史の流れを押さえる。根井(2018,2020)は、ケインズ以降、現代に至るまでのマクロ経済学の学説の趨勢を詳しく学べる。

一方、吉川(2009)と小野(2007)は独自の観点でケインズ理論について総括し、評価を行っている。



STEP実践的な教科書

オリヴィエ・ブランシャール(2020)『ブランシャール マクロ経済学 第2版 基礎編』東洋経済新報社

オリヴィエ・ブランシャール(2020)『ブランシャール マクロ経済学 第2版 拡張編』東洋経済新報社


<コメント>

実際の政策の現場で活躍する一流経済学者が筆を執った教科書。


ひとまず、ここまで学習すれば十分なレベルです。この先は、数学的にも高度になります。

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STEP6:「ミクロ的基礎付け」と適度な距離をとる

吉川洋(2020)『マクロ経済学の再構築 : ケインズとシュンペーター』岩波書店


<コメント>

学部の上級テキストになると「ミクロ的基礎付け」が登場する。これは要するに、マクロ経済学の理論にミクロ経済学的な裏付けを行うこと。ただ、どの教科書を読んでも「ミクロ的基礎付け」自体が正しい行為なのか、と読者が立ち止まって考える余地を与えてはくれない。誰しもミクロ的基礎付けは必要不可欠な正しいことだと洗脳されてしまう。そこで、事前準備として吉川(2020)の第1章を読んで、抵抗力をつけたうえで、「ミクロ的基礎付け」と向き合おう。



STEP7学部上級テキストに挑む

齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久(2016)『マクロ経済学 新版』有斐閣