みなさんにご協力いただいたゴールセットのデータから、次のような100m種目の競技タイムの予測式を求めることができました。
Y=7.32+1.72X1-0.13X2+0.56X3-1.45X4-2.37X5+1.50X6+1.53X7+2.34X8
Y:予測競技タイム
X1 : ゴールセットの18本平均タイム
X2 :年齢
X3 :主観的達成度(1~5を入力、5が全力を出し切れた)
X4 :性別(男子は1、女子は0を入力)
X5 : ゴールセット実施水路(長水路は1、短水路は0を入力)
X6 : 競技会の水路(長水路は1、短水路は0を入力)
X7 : 種目(背泳ぎは1、それ以外の種目は0を入力)
X8 : 種目(平泳ぎは1、それ以外の種目は0を入力)
この式の決定係数(どの程度説明するかという数字)は94%で、当てはまりの良い式をとなりました。
これにより、ゴールセットの全18本の平均タイムから、主観的達成度、ゴールセットや競技を実施する水路(短水路か長水路か)の違いを加味して、ゴールセットのタイムから100mの競技タイムの予測が可能です。
また、「試合タイムの予測値」に目標とするタイムを設定して逆算することで、試合での目標タイムを達成するためには「ゴールセット平均タイム」にゴールセットで出すべき目標タイムを計算することができます。
ゴールセットで出すべきタイムを設定できると、実際のゴールセットの平均タイムと比較することでゴールセットの評価が可能となります。
以下の図は、求めた予測式で算出した予測競技タイムと実際に収集した競技タイムの関係を表したものになります。両者の最大誤差は6.38秒でした。
予測式を用いるときには誤差が生じることも考慮していただ必要があります。
では実際に式を使ってみましょう。
順天はな子さんを例として取り上げ、実施したゴールセットの情報から長水路の競技タイムを予測してみましょう。ゴールセットの結果を上記の式X1~X8に代入します。
X1のゴールセット18本の平均タイムは34.5
X2の年齢は22
X3の主観的達成度は4
X4の性別は0(女性)
X5のゴールセット実施水路は0(短水路)
X6の競技会の水路は1(長水路)
X7の種目は背泳ぎではないので0
X8の種目は平泳ぎなので1
このように代入していきます。
ページ冒頭で紹介した式に、はな子さんのデータを当てはめてみると次のようになります。
はな子さんが実施したゴールセットのデータからゴールセット実施以降で最も直近に出場する長水路競技会での予測競技タイムは69.79(1分9秒79)と計算されました。
しかし予測タイムと実際の競技タイムには誤差も生じていることが判明しているため、実際の競技ではこのタイムより速くなったり遅くなったりする可能性もあります。
続いて、はな子さんの100m競技の目標タイムからゴールセットの目標タイムを計算し設定します。
100m競技の目標タイムは以下の通りです。
短水路:1分8秒00(68秒50)
長水路:1分9秒00(69秒00)
例として短水路で実施するゴールセットの目標平均タイムを計算します。
下記の回帰式は競技タイム(Y)を予測する式なので、求めるX1について変形します。
Y=7.32+1.72X1-0.13X2+0.56X3-1.45X4-2.37X5+1.50X6+1.53X7+2.34X8
X1=(7.32-0.13X2+0.56X3-1.45X4-2.37X5+1.50X6+1.53X7+2.34X8-Y)/1.72
上記の式にX1以外のY、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8を代入します。
33秒98が計算により求められました。
つまり長水路100m平泳ぎで1分9秒00を目標タイムにするはな子さんは、短水路で行う時のゴールセットの目標タイムは33.98秒に設定することが適切であるといえます。同様に長水路でのゴールセットの目標タイムを計算すると(X6を1とする)、35.36秒が適切な目標設定となります。
また、目標タイムが明確になったことで、「(ゴールセットの目標タイム÷実際のタイム)×100」をすると目標タイムに対してどの程度目標達成ができたのかを計算することもできるようになりました。
はな子さんの長水路競技会の目標タイムは1分9秒00 で、短水路でのゴールセットの目標タイムは35.56秒と計算されました。したがって、
(33.98÷34.45)×100=98(%)
と計算できました。はな子さんが実施したゴールセットの目標タイムの達成率は98%程度であるという具体的な評価もできました。
本研究で算出された重回帰式を用いることで、ゴールセットの結果から、選手ごとに競技タイムの予測、競技・ゴールセットタイムの目標設定・評価が根拠に基づいて行えるようになりました。
選手の年齢、性別、主観的達成度、ゴールセット・競技会を実施する水路や泳法、タイムを皆さんの条件に当てはまるように計算すると、練習や試合の目標設定・評価のツールとしてお役に立てるかもしれません。今回公開した予測式は、予測タイムと目標タイムの間にある程度の誤差が生じていますが、何卒ご容赦ください。データが蓄積されるほど、より精度が良く、使い勝手の良いモデルが開発できるかもしれません。まだまだ改良の余地があると考えておりますので、ぜひ使ってみてください!
ご協力いただきました選手の皆さん、コーチや先生方、スタッフの皆さんに感謝申し上げます。