高橋 美帆
2004年7月24日から30日までアイルランドのモナストレヴァンで開催された。参加者はのべ100余名、毎日のスケジュールは、10時から13時まで4人の口頭発表、午後はワークショップやシンポジウム、夕食後にはコンサートや詩の朗読等の催しとなっており、まさに詩で始まり詩に終わる7日間であった。今回のテーマは‘Hopkins and Imagery'で、発表者の多くがホプキンズの作品における視覚的表象と彼のインスケイプ(inscape)の概念とを関連付けて論じ、作品としては──容易に予想されることではあるが──「カワセミが火と燃えて」(‘As Kingfishers Catch Fire')が最もよく取り上げられた。
このテーマに具体的に沿った内容としては、開催代表者である詩人 Desmond Egan の講演 ‘As Kingfishers Catch Fire - Imagery and Language' を皮切りに、たとえばMichael Woods (英) がホプキンズ作品における種々の鳥の隠喩について考察し、Gretchen Ronnow (米) がカワセミの燃える姿を文化人類学の視点からアメリカ先住民文化の神話的イメージと比較し、Sakiko Takagi (日) はホプキンズの「神学」的自然観との関わりでインスケイプと様々な比喩形象の再検討を行った。新たなホプキンズ研究の布石として評価されたのは、他の詩人たちとの比較研究である。たとえばKaren Ray (米) は17世紀の詩人 Ann Finch とホプキンズとを比較し、また筆者は、幻想の「修道女」をトポスとした Christina Rossetti との文学上の交流を論じた。また、Peter Milward 師が Norman White の著作 Hopkins in Ireland に異を唱えて反響を呼んだことも特筆に価するだろう。本学会では毎年功績のあった人物に O'Connor Literary Award という賞を授与しており、受賞者の一人 Hugh Kenner の死 (2003年11月) を悼む記念植樹が行われた。今年の受賞者は Bruno Gaurier (仏) で、ホプキンズの『詩集』を 8年かけてフランス語に翻訳し、対訳本として出版 (2003) した功績を讃えられた。こうした事情もあり、最終日のワークショップのテーマは「翻訳」で、4つのグループ(独、伊、仏、日)に分かれてホプキンズの短詩の翻訳を試みた。
この会はホプキンズを祝う祭りでもある。‘The Best Literary Festival in Ireland' と評される理由がそこにある。筆者が発表した7月28日は奇しくもホプキンズの160回目の誕生日であり、思いがけぬ偶然に心を打たれた。その夜は学会参加者に地元の詩人たちが加わり、皆で集まっての祝いとなった。帰りの道すがら、通りに沿って流れる運河に目をやると、夏の長い黄昏の弱い光の中に、翡翠(かわせみ)がその名の如く美しい輝きを見せていた。
2005年は7月23日から29日の予定である。近年のホプキンズ研究にイエズス会系の研究者たちが果たしてきた役割は大きい。しかし、ホプキンズ作品における宗教と文学の関係を考えるためにも、神学上の制約を外れた視点が重要であろう。今後はこの学会が欧米のみならず、アジア、アフリカを含めた世界の研究者が集う場になることを期待したい。
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