ケリについて
ケリ Vanellus cinereus チドリ目チドリ科
茶色い一見地味な鳥であるが、翼を開くと白と黒のコントラストが非常に美しい鳥である。観察すればするほど魅力的で素敵な鳥である。繁殖期にはけたたましい声で縄張り内への侵入者を威嚇するため、バードウオッチャーだけでなく、営農者にも認知されている鳥である。東海・近畿圏ではよく見られる鳥であるが、その他地域では少ない。環境省レッドリスト2020においては情報不足(DD)に分類されており、情報の蓄積が期待されている。田植え前の田面で営巣するため、耕起、代掻き、田植えなど営農活動の影響で繁殖成功率が低下している。
特徴
チドリ目チドリ科の中では大型の種で、雌雄同色。灰色の頭、茶色い体に黄色い長い脚と嘴を持つ。虹彩は赤く、見た目から気の強そうな鳥である。初列風切が黒く、次列風切とのほとんどが白いため飛翔時はコントラストが美しい。尾羽は白く、先端が黒いため飛翔時には黒帯が綺麗に見える。
成鳥と幼鳥の識別
【ポイント①】 幼鳥は虹彩が赤くなく暗い茶色
【ポイント②】 幼鳥は胸の黒帯がかなり薄い
【ポイント③】 幼鳥は雨覆や肩羽の羽縁が目立つ
※換羽や虹彩の色の変化については個体差がかなりあるが、翌年の春まで識別が可能。
成鳥
2021/ 6/ 2撮影 育雛中の個体
幼鳥
2021/ 6/ 12撮影 孵化後約40日
分布
世界的な繁殖地としては,中国の北東部の一部と日本の一部である.中国で繁殖する個体群はインド周辺まで渡って越冬することが分かっているが日本の個体群についての詳細は不明である.留鳥として近畿地方以北の本州に分布し,局地的に繁殖する.最近九州などでの繁殖例も多く見かける.岐阜県では,留鳥として美濃地方の水田に広く分布し,主に農地にて繁殖している.近年,幼鳥の生存率が低下しているという研究報告がある(岐阜県鳥類目録ー改定版2016-).
生態
主に農地に生息し、昆虫や両生類、貝類などを餌資源とする動物食の鳥である.「ケケケケケッ」、「キッ」など鋭く大きな声で鳴く。繁殖期はペアで行動しているが,冬季は群れでいることが多い.
ー繁殖生態ー
ケリは農耕地などで営巣するため、耕起や田植え.などの農業の影響を大きく受けながら繁殖を行う鳥である。
農耕地や草地、時には砂利の上などで営巣することもある。営巣期は3月~6月である.繁殖期は一夫一妻の繁殖形態をとり,同種他種排他的なテリトリーを形成する.セミコロニ―と呼ばれるある程度の密度で集団防衛を行う。
威嚇された場合は巣が近くにあるもしくはヒナが近くにいる可能性が高い。ヒナはしゃがんで敵が立ち去るのを耐え忍んでいるため、見つけることは困難であり、知らぬうちに踏みつぶしてしまうかもしれない。脅かしてしまうとプレッシャーでケリは無謀な移動を開始し、水路に落ちることもある。悲しいことが起こらぬよう、そっとその場を離れてほしい。
ケリは早成性であり、約28日の抱卵期間を終え、孵化すると、ヒナは次の日には自ら歩いて餌を採る。6週間ほどで飛べるようになる。
参考文献
環境省(2020)(参照 2023.11.27): 環境省レッドリスト 2020 公表について,(オンライン),入手先<https://www.env.go.jp/press/107905.html>
Lei, Y., Li, Zhu M., Kuang, Z.F., Liu, Q. (2021) : First description of migration and wintering home range of Gray-headed Lapwings (Vanellus cinereus) tracked with GPS-GSM satellite telemetry, Wilson Journal of Ornithology, 133(2), 308-314
真木広造,大西敏一,五百澤日丸(2014): 決定版 日本の野鳥 650,平凡社,222.
日本鳥学会(2012): 日本鳥類目録 改訂第 7 版,日本鳥学会
脇坂英弥,脇坂啓子,中川宗孝,江崎保男(2015): ケリの配偶システムと営巣場所への 帰還性, 山階鳥類学雑誌,47,17-23.
Takahashi, M. and Ohkawara, K. (2007) : Breeding behavior and reproductive success of Greyheaded Lapwing Vanellus cinereus on farmland in central Japan, Ornithological Science, 6(1), 1-9