タンパク質を精製する場合、この純度と収量(収率)が最も気になる値になります。いわば、バイトの時給とか労働時間と同じくらい気になる(一生懸命になれば気になるし、斜めから見ているくらいなら、ふーんそうかという感じ)ものなのです。
そもそも、精製(purification)というのは、混合物(まざりもの)から自分のほしい物質を純物質(単一の物質)として取り出す過程を指します。
例えば、ここに「おっとっと」が1箱あるとします。
全部取り出して数えると、
イカ 8
マグロ 8
うに 9
かに 10
クジラ 10
ヒトデ 5
だったとします(もちろん、もっと種類は多いし、数も多いです)。 合計は50個
もし、目が見えなくて、手探りで回収する場合に、どうすればヒトデが集められるか?想像してみてください。
最初の箱の状態のまま(何もしないというプロセスをとる)だと、
収量は、5個 、収率は、100% (何もしていないので)で 純度は 10% (5/50)
適当に10個集めたとすると、ヒトデの期待値は 10 x 1/10 = 1個 ですね。この場合、
収量は、1個 、収率は、20% (1/5) で 純度は 10% (1/10) になります。
手探りでできるだけヒトデっぽい形を探して10個(本当は最大5だけど、そんなことはわからない)集めたとします。
こんどは、ヒトデを5個とそれ以外5個が取れたとして
収量は、5個 、収率は、100% (5/5) で 純度は 50% (5/10) になります。
タンパク質の精製はこれに似ています。
大腸菌の主なタンパク質が200種類あって、発現させたGFPがその一つだとしましょう。
タンパク A1 A1 mg
タンパク A2 A2 mg
...
タンパク A200 A200 mg
GFP X mg
もちろん、このA1~A200 の数字はわからないですね。GFPの量(X)も工夫しないとわかりません(が、考えやすいようにイメージしてください)
今回の実験では、この大腸菌の状態(本来はこれがおっとっとの1箱)のデータはとっていないので、わかりません。
時間があれば、タンパク定量を行い、散乱をできるだけ除去した状態で吸収スペクトルを取れば トータルのタンパク量とGFPの量が推定できます(した)。
三相分配で分離した粗精製標品 ではタンパク質は100種類に減って
以下のようだったとします(細かいことはわからないけど、イメージすることが大事)。
タンパクB1 B1 mg
タンパクB2 B2 mg
...
タンパクB100 B100 mg
GFP BX mg
これを10倍に希釈した試料の吸光度を測定しましたね。 そのA280 (280nmの吸光度)が全タンパクの濃度、A395(395nmの吸光度)がGFPの濃度を示しています。
ただし、これは濃度なので、量を考える場合は、液量(ml)を考えないといけません(もちろん、十倍に薄めたことも意識しないければいけません)。
詳しく見ると 吸光度(A)=(濃度 mg/ml) X 分子吸光係数 X 光路長(1cm) (ここで、考える濃度が モル濃度か質量濃度かで分子吸光係数が変わってきます。 単位も)
だから、分子吸光係数の値がはっきりわからなかったとしても、吸光度(A)と液量(ml)をかけた値はその吸光度からから推定できる分子の”量”を反映した値になっていることがわかります。
これが A395 の値から GFPの量を見積もることができる という意味です。
更に この粗精製標品をカラムにかけて分配した時に出てくるサンプルが4つ(C,D,E,F)に分かれたとして、.
タンパクB1 C1 mg
タンパクB2 C2 mg
...
タンパクB100 C100 mg
GFP CX mg 以下、 同様(C-> D, E, F)
粗精製標品をスタート材料として考えると、カラムには粗精製標品を400ul (そこにAS4を400ul加えて、合計800ulにした)分をかけたはずです。
つまりそこに存在するGFPの全量は 粗精製標品のA395の値(実際測定した値を10倍する)が G1だとすると、
G1 x 0.4 (単位は量を反映しているということしかわからないので、書けない。あえて書くなら A395・ml)
カラムで回収した試料(C,D,E)中のA395の値を G2,G3, G4 とすると、カラム回収の液量が1mlだったので
それぞれ G2 x 1.0 , G3 x 1.0, G4 x 1.0 (1をかけるだけなので結局A395の値のまま)が回収できたGFP量を反映した値になります。
各分画の収量がこのGFP量(を反映した値)になり、これは分子吸光係数が与えられれば 通常の単位で表現できます。
また、粗精製標品のGFP量 G1X0.4 を100%とした相対値(収率)で表すこともできます(これがレポートで求めていた値)。
次に、全タンパク量を反映した A280 x 液量 の値も含めて、純度 を考えてみましょう。
例えば、GFP粗精製標品の純度(のようなもの)は、その吸収スペクトルから (A395x液量)÷ (A280 x 液量) で計算できますね。液量は同じなので、
吸光度同士を割り算すれば計算できます。ただし、ここで注意しないといけないのが、波長ごとで分子吸光係数の値は違っているということです。
GFPを100%精製した試料の吸収スペクトルがわからない状況では、出てきた数値そのものが純度(全体の中のどの程度を占めているか?)を直接表しているわけではありません。
GFPの純度を反映した値にはなっていますが これが1で100%というわけでは無いことを再確認しておいてください。
100%のGFP標品があれば、そのスペクトル情報から正確な数値を計算できます。が、通常の吸光度が280nm付近にピークを持つタンパク質の場合は、それも使えませんね。
なので、SDS-PAGEで分離して、自分のほしい活性と挙動をともにするバンドを探して、全体のバンドの染色度(CBBの結合量から推定する)の割合から純度を計算する。 というのが一般的なやり方です。 時間があれば、すべての試料をSDS-PAGEにかけて、スペクトルデータの裏付けを取ることもできました。
実験は、時間をかけて(考えて)沢山やれば その見返り分だけの事を教えてくれます。
以上