高見邦雄さんインタビュー
行ってみて感じた中国の環境問題の大きさ:鳥取の大仙の麓で育ち、大学に入るころには日本は高度経済成長でモノがあふれる。こんなことでいいのかという疑問を抱いた。そのころ水俣病の発生や郊外の深刻化があり、環境問題を考えるようになった。1980年代の末、中国の重慶に行くと、今年は大干ばつで川底が見えている嘉陵江が工場廃液でものすごい色に汚れて長江に合流していた。中国も工業汚染で環境問題が大きくなるのではと思った。それ以前は中国は計画経済で、不足の経済と揶揄されており、日本のような大量生産、大量消費、大量廃棄といった環境問題はなかったが、1970年代末の改革開放以降、市場経済が本格化し、水や大気の汚染も深刻化しつつあった。中国の環境問題がこれ以上悪化したら、日本も大変な影響を受ける。何か環境面での協力はできないものかと漠然と思った。
国と国がだめなら民間企業同士で協力しよう!:1992年にリオデジャネイロで最初の地球サミットがひらかれ、地球温暖化が主要テーマになったが、工業先進国と途上国との立場の違いで有効な合意に至らなかった。国と国、政府と政府で話が進まないなら、民間企業同士で相互理解、環境協力ができないかと考えた。二酸化炭素を吸収する森林が必要だとしても、日本には植えるとこが残っていない。中国は砂漠化が問題になっており、緑化が必要なのは間違いない。緑化活動から始めようと思った。
中国の現状を知らない人たちへの協力要請、難しい気候条件:中国に行ったことがある人も、見ているのは東部沿海の大都市が中心だった。中国も内陸部に行ってみると、森林がないし、それによって複合的な問題があることがわかった。大同は北緯40度、海抜1000m以上、冬は日中でも-15度。中国随一の石炭産地で、煮炊きや暖房に石炭を使うから街中が煙だらけ。とにかく緑化の必要性を感じ、自分で植えてもらい、効果を見てもらうことで活動を続けていきたいと思った。日本の環境では植えなくても木が育つが、黄土高原ではとても難しい。緑化は悪い結果はすぐ出るけど、成果が出るには時間がかかる。小学校を建設したとしても数十年後にはボロボロだけど、木はあるところまで無事に育つとその後は自分の力で伸びていく。送ってもらった写真を見ると立派に成長していて、あの時に植えておいてよかったなと思う。
現地に行かないとわからないことがある:スタディーツアーは、若者にこの土地は緑化が必要だ、続けなければならないと思ってもらうことが目的。メディアで報じられている中国の現状と現地で見るものとは全く違うことも知ってもらいたい。いまの中国は日本の高度成長とは比べものにならないほど変化が激しい。この30年間で 中国のGDPは35倍になったが、その中身については報道されない。安心安全の日本産、中国産は質が悪い、と言っているだけでは事を見誤る。隣国なのだから、お互いのことを正しく理解して協力し合う方がいい。お互いを知るためにスタディーツアーは意味があると思う。
インタビューを終えて:高見さんのお話にあった大同の風景描写や団体設立談は、現地に行ってその土地、人、文化を見た人にしかできないものだと感じた。大同の農家さんたちの熱意や、難しい気候との向き合い方、それに触れた時の感動など、高見さんだからこそ伝えられる臨場感があると思った。「現場に行かなければわからないことがある」という言葉。スマートフォンさえあればなんでも調べることができる世の中だからこそ、現地の声を聞き逃してはならないと気づかされるインタビューだった。
長坂健司さんインタビュー
森林政策学。労働環境や、地域活性など林業のあらゆる側面を研究対象とするこの分野が、長坂さんの専門である。高校時代から砂漠の緑化に興味をもち、京都大学の農業経済学科をご卒業ののち、農産物の直売所や輸送機器メーカーに勤める。その後、ドイツの大学院で学び、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科に勤めている。
旅行で行けないようなところに行けるらしい!:GENとの関りは20年以上前。大学の学部生時代に、昔から興味のあった中国へのワーキングツアーがあるということで参加したことがきっかけ。言語や交通の便を考えると行くことが難しい場所へのツアーはGENならではのもの。当時の雑然とした中国の姿や、GENの先生方のお話に興味をひかれ、GENとのかかわりができた。学生の立場から見てGENの研究者の先生方は、どんなことにも詳しく、ユニークな経歴を持っていた。またワーキングツアーには他大学の生徒や、労働組合の方なども参加しており、そのような人とのつながりに面白みを感じた。今は世話人として、コロナ渦でGENができる活動を提案している。
林業を学ぶならヨーロッパ:プログラムの幅広さや入学できる可能性を考えると、林業を学ぶなら、アメリカよりもヨーロッパ。もともと今の林業も、ヨーロッパで長い伝統があってそれがアメリカや日本に伝わったもの。長坂さんもEUが主催するプログラムを利用してドイツの大学で学んだ。
これからのGENの活動:新しいバックグラウンドを持った人に参加してもらい、仲間を増やしたい。モチベーションのある人たちが集まっているから面白い学びがたくさんある場所だと思う。黄土高原との関りはつなげなければいけない。森林の維持管理のことを考えると、一つの森をつくるのに100年はかかる。今30年たっているが、木としては30年分育っているが、生態系や割の地域住民とのかかわりを考えるとまだまだ。50年、100年たってその森をどう育てていくのかということが今後のGENの課題になる。森林にかかわる人が長い目で森を見るように、GENと日中関係を長い目で見る必要性を感じている。何かプラスアルファで活動を増やすとするなら、中国以外でも木について興味をもってもらう、正しい知識を得てもらう、という活動がしたい。情報を判断できるような考え方や、基礎知識を学んでもらいたい。自然に親しむ会、なんでも勉強会、スタディーツアーがその役割を担っていると思う。そういうことに貢献したい。
インタビューを終えて:林業について複数の側面から研究している長坂さんは、緑化についても長期的な考え方をされていた。木を育てるということ、環境問題を解決するということは一筋縄ではいかない。一つのアクションがもつ複合的な影響についても考える必要があるということを、GENの活動を例に知ることができた。
藤沼潤一さんインタビュー
藤沼さんの専門はマクロ生態学。生き物同士のかかわりや、生き物と環境との関わりについて研究する分野。学生当時、環境保全の意識が世界的に高まる中、環境に直接かかわる分野かも、との期待からこの分野を専攻するようになった。GENのワーキングツアーで、黄土高原の厳しい生活、社会に大きなショックを受けたことが、現在の経歴につながっているという。現在GENでは将来ワーキンググループで活動のアイデアを提案している。
GENとのつながり:19歳で参加したGENのワーキングツアー以降、日本におけるGENの活動に関わり、様々なイベントや勉強会に参加する中でアカデミックな世界に興味を持つようになった。北海道、沖縄、ヨーロッパとGENとは遠距離な関係が続いているが、細く長く世話人を務めながらGENとのつながりを深めてきた。
黄土高原にどんな森を再生するか:現在の専門分野とGENの活動はかなりかけ離れているが、自分の分野の視点でGENをサポートできたらと思っている。GENによる自然再生事業の評価、つまり再生された自然環境とそれに費やしたエフォートという視点で、GENの実績を再評価し、今後の活動につなげたい。黄土高原では森林が消失してから非常に長い年月が経っているので、再生する森林のモデルとなるものがない状態。そこが黄土高原の自然再生の面白さとも難しさともいえる。一度再生した森林を後から修正するのではなく、再生事業の最初の段階から最終的な森林生態系のあり方を想像して、気候変動も考慮しつつ、中国黄土高原にふさわしい森林が再生できたらと思う。
A.M