セックスしないと出られない部屋
セックスしないと出られない部屋
「うぎゃぁ~~~!」
ポップは叫び声を上げながら顔を覆った。いくらイきすぎて頭が馬鹿になっていたからとはいえ、あれはない。
できれば思い出したくなかった。いや、むしろなぜあれだけのことをしておいて覚えていなかったのかと言うべきか。あまりにも酷いから頭が記憶することを拒否してしまったとしか思えない。
「ポップ……すまない……」
うんうん唸っているとヒュンケルの悲痛な声が耳殻を打った。
「オレはおまえが泣くほど嫌がっていたのに、その姿に欲情して己を律することができなかった」
指の隙間からヒュンケルの顔をのぞき込むと、悲痛のあまり今にも死にそうな顔をしている。
「オレは恋人としても兄弟子としても失格だ……」
ヒュンケルの懺悔はまだ続いた。
「あんな下劣極まりないことをしたのだ。こんなことを言う資格がないのはわかっている。おまえが望むなら一生触れなくてもいい。せめて、おまえを愛し続けることだけは許して欲しい」
「はっ?」
思わずポップの口から地の這うような声が出た。
「ふざけんなよ!」
立ち上がりヒュンケルの胸倉を掴む。
「そうだな……やはり都合がよすぎ……」
「そうじゃねえよ!」
「ポップ?」
「なんで、おまえはいっつもそうなんだよ!」
ヒュンケルという男がとことん真面目で過保護なのはわかっている。それが長所であることも。だが、それは同時にポップを対等とみていないことでもあった。
「なんで、おれの気持ちを聞いてくれないんだよ」
悔しい。庇護対象にされていることが。
「そうやって、おれのこと捨てるのかよ……」
悲しい。この男に弱いと思われていることが。
「そうではない……オレは……!」
「同じだろ! おれから離れていくんだから!」
涙は滂沱し、鼻水が垂れる。
きっと今、すごく不細工な顔をしている。
自分が平凡なのは変えられないが、すこしでもマシな顔でいたいのに。
「ポップ、頼む。泣かないでくれ……どうしていいかわからん」
「なら抱けよ!」
胸倉を引き寄せて、むりやり口唇を奪った。
ヒュンケルの肩がびくりと震え、腕を掴まれる。引き離そうとしても、そうはいかない。舌で口唇を割り開き歯列をなぞった。固い凹凸の感触を感じながら、嫌がらせに舌先で上唇の小帯のすぐ横を強く突く。口唇がぴくっと動いた。痛みを感じているのだろう。
ざまあみろ。
内心でほくそ笑みながら口唇を離して、トベルーラを発動する。ヒュンケルの足下がふわりと浮き上がったところで横抱きにする。アバンの使徒のなかで最弱を誇るポップだが、魔法を応用すれば男一人浮かせるくらい朝飯前なのだ。
そのままベッドまで移動してヒュンケルを押し倒した。抵抗される前に腹の上に馬乗りになる。こうすれば、過保護な男は動けない。起き上がればポップはバランスを崩して転倒する恐れがあるからだ。
どこまでも子供扱いしてくる男が憎くて、けれどやっぱり好きで、頭がぐちゃぐちゃになる。
「なあ、いい加減にわかれよ!」
ぼとぼとと、涙がヒュンケルの頬を打つ。
「おれはおまえと同じアバンの使徒なんだ。おまえより六つ年下だけど、でも、すぐ壊れるようなやわな人間じゃねえ!」
ヒュンケルが目を見張る。
「そりゃ確かに、おまえの前で盛らしちまって恥ずかしかったし、すげえ情けねえって思ったけど、それでも傷ついたりしてねえ。むしろ……」
言うのが恥ずかしい。怖じ気づいてなんとか言葉にせずに済む方法を考える。
「ポップ……辛いならわざわざ言う必要はない」
ヒュンケルが気遣うように、けれど恐る恐るとポップの頭を撫でた。
やはり駄目だ。ここで言わなくてはヒュンケルはずっと子供扱いをやめはしないだろう。
「だから傷ついてねえって! その、漏らして、おまえのこと汚しちまったのに、怒らねえでシてくれたのが嬉しかったし、むしろすげえ気持ち良かったんだよ! だから別れるとか言わねえで、とっとと抱け!」
言ってやった! 言ってやったぞ!
やけくその気持ちのまま腰を浮かして口唇も奪う。薄く開いた口唇の隙間から舌を侵入すると、今度はすぐに舌が絡んできた。
「んっ……ふっ……ンンッ」
鼻から甘い吐息が漏れ身体から力が抜ける。ヒュンケルの胸の上に崩れ落ちると、大きくて無骨な手で尻の肉を掴まれた。
久々に感じる掌の感触に体が震える.
もっと感じたくて尻を上げて媚びた。
それに応えるようにヒュンケルの掌がズボンの中に侵入し、中指で縦に割れた後孔の縁を撫でた。
「アッ……」
思わず口唇が離れ、口の中に溜まった唾液がヒュンケルの口唇の上に溢れた。ヒュンケルはそれを躊躇いなく舐め取り口のなかに含む。
「固いな」
「おまえが一ヶ月もほっとくからだろ」
口唇を尖らせると、
「そうだな」
ヒュンケルは自重気味に笑ってから、
「すまん」
「それはなんに対する詫びだよ?」
「おまえをみくびっていた」
優しく塞がれる口唇。マントの留め金が外され、肩当てごと毟り取られる。
「おまえが強いなんてことは、ずっと昔から知っていたのに」
身体が反転して、仰向けの状態でベッドに縫い付けられる。
ヒュンケルの顔と天井が飛び込んだ。
天井に刻まれたベッドと同じ大きさの聖なる魔法陣。いや、もっと古いものか? 魔力の流れからして、このベッドと連動しているようだ。
ヒュンケルの手が襟元に伸びて留め具を外される。
魔方陣をを囲むようになにかの術式が刻まれている。なるほど、この角度でしかあれは見えないようにできているのか。間違いない。あれがこの部屋の核だ。
露わになった首に口唇が落ちる。ちくり、と小さな痛みがして、痕をつけられたのだと気づく。
あれにメドローアを打ち込めば、あるいはこの部屋を出られるのではないだろうか。
期待で、つんと勃ちあがった乳首を人差し指で押しつぶされた。
「あっ」
甘い痺れが全身を駆け巡り、期待で後孔が疼く。
「ま、まってくれっ……」
「どうした?」
熱を孕んだ鈍色の瞳がポップを見下ろす。
ヒュンケルの美しい顔に遮られて魔方陣が見えなくなった。
「久しぶりで、ちょっとビックリしちまった」
浮かんだ可能性を、照れ笑いの奥に沈めた。