インバータ制御車のトルク制御の例を見てみよう
インバータ車のトルク制御の例を見る
電車を動かすためには、電動機が使用されています。電動機はモーターのことで、これは単体で使うことはできず、制御が必須です。
電動機の種類によって制御方式は異なり、三相誘導電動機を用いた電車ではVVVFインバータを用いて電動機を制御します。
電動機制御は速度に応じて以下の領域に分けて制御します。
定トルク領域
定出力領域
特性領域
これらの制御は速度で切り替えていきます。電動機電流でどれくらいトルクを発生できるか、すなわち電車の加速力を発生できるかはある程度把握することができるため
トルク制御を行うために、電流値を目標に、すべり周波数と電圧を可変させ、制御を行います(後述)
※トルク…モーターの生み出す回転力のこと。回転力はギヤで拡大され車輪を回します。bveではモーター車一両分の車輪を回すトルクを性能テーブルに入力します。
公式
トルク=定数×(電源電圧÷電源周波数)^2×すべり周波数
※電源電圧…モーターにかかる電圧のこと。三相交流1100[V](線間電圧)を目標としている場合が多い。
※電源周波数…回転子周波数とすべり周波数の和。回転子周波数はモーターの回転軸の周波数で、車輪の回転数に比例します。
回転子周波数はモーター軸毎分回転数×(120÷極数)で求めることができます。極数はたいてい4です。6の場合もあります。車両技術、技報などで確認できます。
※すべり周波数…電源周波数と回転子周波数の差。誘導電動機ではトルクを生み出して加速させるために、回転子周波数よりも少しだけ高めに周波数を与えないといけません。この差をすべり周波数と呼びます。
周波数が一定の場合、電源電圧の2乗にトルクは比例します。電源電圧と電源周波数が常に同じ比の場合、すべり周波数にトルクは比例します。
速度とそれぞれの関係
左の図は速度と主電動機電圧、電流(4倍)、トルク、すべり周波数の関係を表したものです。すべり周波数は右の縦軸を読みます。
トルクはモーター回転軸のトルクで、車輪一軸のトルクではありません。図の便宜上、電流は4倍しています。
すべり周波数の上限は誘導電動機の特性で決まっていることが多く、その上限は例では3.2[Hz]としています。
関係図
上の図は50[km\h]まで定トルク領域50[km/h]を超えて80[km\h]までが定出力領域でそれ以降の速度は特性領域になります。トルクは定トルク領域は固定された値、定出力領域は速度に反比例、特性領域は速度の2乗に反比例する特性になります。
定トルク領域は可変電圧可変周波数制御の通り、回転子周波数+すべり周波数+外乱補正分を電源周波数として与え、電圧を速度に比例させるよう増大させています。
極低速域ではモーターの内部抵抗による電圧降下が無視できないことと、周波数が低すぎると電流が歪みトルクが定まらないため目的の電流になるようすべり周波数を固定で電圧を制御し、目標の電流値(すべり周波数)になるようにします。
定出力領域ではすべり周波数を速度に比例させるよう増加させています。その結果中速域では電圧×電流は一定になり、定出力になります。
特性領域ではすべり周波数を増大せず固定にし、端子電圧も固定でモーターの特性にまかせたトルクになります。
これはあくまで最大ノッチの加速の話で、中間ノッチ(2ノッチなど)では、定トルク域→特性領域など定出力域がない場合もあります。
また、フルノッチ時、電流がこのような挙動をする車両以外にも
電圧が最大に達した後も定トルクを維持する。
電圧が最大になる前に定トルク域を中断する。
があります。つまり、電圧以外でもインバータがすべり周波数を制御することができれば、いろいろな電流値とトルクにすることもできます。
すべり周波数とトルクの関係
すべり周波数とトルク
右の図は同じ速度で、電圧が最大に達する速度も同じ50[km/h]としています。定トルク領域のすべり周波数を2[Hz]から2.5[Hz]にし、トルクを増やしています。2.5[Hz]からの上昇となるため、すべり周波数上限になる速度が低くなっています(特性領域に入る速度がひくい)
すべり周波数は応荷重制御で、車重が増したとき常に同じ加速度を維持するためすべり周波数を増して起動加速度を一定にします。
引張力の制御タイプ
①電流一定で特性領域まで
左の図は電圧が最大に達した後は定出力領域に入り、すべり周波数限界まで達すると特性領域に入る車両です。
②定トルク領域を拡大する
左の図は電圧が最大に達した後も定トルク領域を継続する場合です。すべり周波数を速度のほぼ2乗比例で増加させていくと、電流が増加し定トルクを保つことができます。ただし、上の電流を一定に保つトルク特性とは違い、速度に対して多くすべり周波数を増加させていることから、限界すべり周波数に達する速度は遅くなるため、低い速度で特性領域に移行することになります。増すべり周波数限界よりも余裕をもたせると、定出力領域を経由することになります。
③定出力領域を拡大する
左の図は電圧が最大に達する前に定トルク領域から定出力領域に移行する場合です。すべり周波数を電圧が最大になる前に速度にほぼ反比例で減少させます。そうすると電圧は増大していますが、電流が減少していることからトルクは速度に反比例するようになります。電圧が最大になった後すべり周波数を増し始めるすべり周波数が低くなるので、定出力領域が広く取れます。
上の図では定トルク域をすべて同じトルクと過程しましたが、これを仮にトルクをどうなるでしょうか?
③定出力領域を拡大する
左の図は電圧が最大に達する前に定トルク領域から定出力領域に移行する場合です。すべり周波数を電圧が最大になる前に速度にほぼ反比例で減少させます。そうすると電圧は増大していますが、電流が減少していることからトルクは速度に反比例するようになります。電圧が最大になった後すべり周波数を増し始めるすべり周波数が低くなるので、定出力領域が広く取れます。