分布拡大種アオドウガネと東日本在来コガネムシ類の個体群動態・種間相互作用に着目して研究をおこなっています。
いくつかの研究トピックがあり、論文として公開され次第ここでも紹介していきたいと思います。
近年、関東や東海では右のような虫をよく見かけます。これは、アオドウガネというコガネムシの一種です。あまりにも普通に見かけるので在来種かと思いきや、実は本来の分布域は西日本とされています。戦後急速に分布を拡大し、中日本一帯ではすっかり普通種となってしまいました。
まるまるとした可愛らしい外見から一見無害そうに見えますが、幼虫はイモや野菜の根を食べてしまうなど、農業害虫としても有名です。とくに被害が大きい沖縄県では、2019年に650万匹も捕獲するほど防除に注力しています。
アオドウガネ。成虫は植物の葉を食べます。
中日本でアオドウガネが増える一方で、近縁な在来コガネムシ類は減少している、といわれています。例えば、アオドウガネが中日本に侵入するまで普通に見られていたドウガネブイブイ(写真1枚目)は、今ではあまり見られなくなったといわれています。また、伊豆諸島に生息する固有種イズアオドウガネ(写真2枚目)は、アオドウガネの侵入以降激減しています。
では、なぜアオドウガネは増えているのに、在来コガネムシ類は減っているのでしょうか?
アオドウガネが急速に分布を拡大していることは既に述べましたが、意外にもどのような分布拡大の変遷をたどってきたかはよく分かっていませんでした。つまり、アオドウガネの分布拡大は「そういえば、最近アオドウよく見るよね」という程度の認識しかされておらず、もともとどこに分布していたのかすら曖昧だったのです。
「アオドウガネの分布拡大に伴って近縁な在来コガネムシ類が減っている」ことを研究するためには、まず「アオドウガネがいつ頃にどのあたりまで分布していたのか」を明らかにする必要があります。さらに、「アオドウガネが今後どこまで分布を拡大するか」を明らかにできれば、今後、新たな侵入先で在来コガネムシ類がどんな影響を受けるのかを観察することができます。そこで、アオドウガネの分布拡大の変遷調査と、これから分布拡大しうる地域の推定をおこないました。
【方法・結果】
アオドウガネの分布拡大の変遷については、おもに博物館や個人所有のアオドウガネ標本を直接調べました。この作業は、全国の博物館職員の方々のご協力があって成し遂げられました(本当にありがとうございました!)。文献も調査しましたが、アオドウガネと近縁種ヤマトアオドウガネは外部形態がよく似ているため、しばしば誤同定されて文献に記載されています。そのため、採集個体の写真が載っているような信頼に足る文献だけを抜き出しました。
結果としては、アオドウガネは1950年時点で近畿地方以西の地域に分布しており、1980年代には東海・関東地方の沿岸部で急速に分布を拡大していたことが分かりました。その後は内陸部および東北地方へじわじわ拡大を続け、現在は宮城県と新潟県が北限であることも分かりました。
アオドウガネが将来どこまで分布を拡大するかについては、アオドウガネの分布地点ビッグデータと多様な環境データを分布推定ソフトMaxEntで解析することで推定しました。アオドウガネと近縁コガネムシ類の分布情報は、いきものコレクションアプリ「BIOME」との共同研究として利用させていただきました。
解析の結果、アオドウガネは夏季の気温によって生息域が制限されることが分かりました。つまり、夏が寒い地域は苦手なようです。地球温暖化による今後の気温上昇がない(=今の気温のまま)と仮定すると、アオドウガネは今後、青森県や岩手県、北海道に定着するのは難しいということも分かりました。
【考察】
本研究から、アオドウガネは1950年時点で、近畿地方を起点に東の方角へ分布を拡大させていたことが分かりました。MaxEnt の解析結果によると、アオドウガネの分布域を制限する要因は夏季の気温であることから、アオドウガネの分布に不適だった地域が地球温暖化によって定着できるようになったことがアオドウの分布拡大を招いたと考えられます。一方で、一部の県ではアオドウガネが未定着の県をまたいで定着していたり、愛知県から千葉県にかけての広い範囲で同年代に定着が確認されたことから、アオドウガネの分布拡大は自力での移動分散だけではなく、苗木や積荷に紛れた人為的な分散が関与したことが強く疑われました。
一方で、1950年以前の分布域については本研究で明らかにすることはできませんでした。これは戦前の記録や標本の多くが戦災で失われていたため、戦前の分布域を時系列でまとめることが困難だったからです。1950年時点で分布が確認されていた近畿地方と、分布が確認されていなかった東海地方の間に気候や生物相の大きな違いは無いため、ひょっとすると、近畿地方や中国地方にもともとアオドウガネは分布しておらず、より西に位置する九州や四国から分布を拡大してきたのかもしれません。
【論文】
福谷愉海・西田有佑・笠井 敦 (2024) アオドウガネ(甲虫目:コガネムシ科)の日本における分布域の拡大過程と潜在的な生息適地の推定. 日本応用動物昆虫学会誌, 68: 97-113.(リンクはこちら)
福谷愉海・西田有佑・笠井 敦 (2025) 我が国におけるアオドウガネの分布域の拡大過程と潜在的な生息適地の推定. 植物防疫, 79: 620-626.(リンクはこちら)
工事中…
幼虫期に排他的な種間相互作用が発生していると仮定したとき、その具体的なメカニズムとして私が考えたのは、①資源競争 ②天敵による見かけの競争 ③幼虫同士の直接的な食い合い (ギルド内捕食) でした。この中で、特に私は③ギルド内捕食に着目しました。ヒメコガネやドウガネブイブイといった近縁種では、幼虫を高密度で飼育するとほとんどが共食いしてしまうことが分かっていたからです。
もし、この捕食強度が種間で異なっていたら …つまり、アオドウ幼虫がドウガネ幼虫を一方的に捕食していたら、ドウガネが一方的に減ってしまうメカニズムとして説明できるのではないか?そう思い、2種幼虫のギルド内捕食の強度を比較してみました。
【方法・結果】
実験は簡単で、腐葉土で満たしたビンに齢期(1齢, 3齢)と種(アオドウ, ドウガネ)を変えた幼虫2匹を入れ、1週間後に捕食が起きたかを確認しました。
すると、幼虫は種に関係なく、同齢間(=同じサイズ)では捕食をしませんでしたが、一方で、異齢間(=大きい個体と小さい個体)では小さい個体が大きい個体に高確率で捕食されました。また3齢幼虫同士の実験区では、各個体が体を捻らせて相手を追い出そうとする「縄張り行動」のようなものが確認されました。まとめると、
①植食性のコガネムシ幼虫のギルド内捕食が確認された
②幼虫は種に関係なく、相手のサイズによって捕食orナワバリ行動という行動のスイッチングをしていた
【考察】
1. これらの結果から、アオドウがドウガネを一方的に捕食しているという仮説は棄却されました。野外においてドウガネはアオドウより数週間早く発生するため、むしろ、虫齢の進んだドウガネが小さいアオドウを一方的に捕食する可能性が示唆されました。
2. また本研究では、「腐葉土」という周囲が見えない環境において、幼虫が相手の大きさを何らかの方法で判断し、そして「相手が自分より小さいときには捕食」「相手が自分と同じくらいのときは縄張り行動」という様に行動をスイッチングしていた、という興味深い発見がありました。この行動のスイッチングにはどのような意味があるのか考えてみると、
・相手のサイズが自分より小さい→攻撃を仕掛けても反撃されて負けるリスクがほぼゼロの状態で相手を捕食し、かつ資源を独占できる→捕食
・相手のサイズがほぼ同じ→攻撃を仕掛けても返り討ちにあうかもしれずリスクが高い→縄張り行動
といったように、リスクとリターンの塩梅で行動をスイッチングしているのかもしれません。
3. さらに本研究の興味深い点は、「異種の食植者間で、意図的なギルド内捕食が確認された」ことです。「食植者が他個体を食べる」と聞くと、違和感を感じる方もいるかもしれませんが、実は「食植者における種内の共食い」というのはありふれた行動であり、これまでに100種類以上の食植者で確認されています。一方で、「食植者における異種間のギルド内捕食」についての事例は少なく、あっても「大型哺乳類がドングリの中に寄生していたゾウムシごと食べた」というような、偶然のギルド内捕食(Coincidental IGP)が多くを占めていました。同種間では意図的に食べるのに、異種間ではほとんど食べていないのは不思議なことです。今回の事例を見る限り、我々は食植者間のギルド内捕食を過小評価しているのかもしれません。
【論文】
Fukutani, Y., Kasai, A. (2023) Effect of Larval Instar on Intraguild Predation and Cannibalization in Herbivorous Scarab Beetles. J Insect Behav., 36: 81-89. https://doi.org/10.1007/s10905-023-09823-w(リンクはこちら)
工事中…