ナゾカケ


──人生は芝居、人はみな役者。

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 捕らえられたマッドスクリプト。送られるはロックウェイブ島。 絶海の孤島で起こる殺人事件。手招かれるは三人のヒーロー達。 どこからが脚本の上で、どこからが舞台の上なのか? フィナーレの後、カーテンコールのその先で。 ヒーローよ、真実を見定めろ。

【事前情報】


チャレンジ:2(+リーサル:1)クエリー:3初期グリット:4リトライ:2
 想定時間:4時間 推奨経験点:20〜30点程度のPCを想定。       より経験豊富なPCがいる場合、エネミーを随時強化すること。

【シナリオについて】

 このシナリオは前後編のシナリオの後編として作成したシナリオだ。この話だけでは意味がわからない話だろう、プレイ前に前編「ナゾトキ」を遊んでほしい。

【GMに要するルールブック】


・基本ルールブック(R1)・ファインド・ウィークネス(D2) GMとPLは事前にD2記載の「天球座」の内容に目を通しておくと良い。

【エントリー】

【共通エントリー】

 君たちはマッドスクリプトを捕らえたヒーローだ。 元ヒーロー・カーテンコールの死を看取り、彼の遺言を受け取った君たちは、 ロックウェイブ島で発生した殺人事件の一報を受ける。 容疑者はマッドスクリプト。 かくして君たちは、太平洋遠洋に建つ絶海の孤島へと向かうことになる。 長きに渡るこの事件へ、本当の幕を下ろすために。

【エントリー1】

 君は死亡したヒーロー・カーテンコールの葬式に参加した。 そこで遺族と名乗る女性から、彼の拠点の鍵を預かる。 カーテンコールの拠点へと向かった君が目にしたものは、 驚くべき彼の調査記録と奇妙な手紙だった。

【エントリー2】

 君はロックウェイブ島を訪れ、囚われたヴィラン・マッドスクリプトと面会を行う。 看守と共にマッドスクリプトの牢獄へとやってきた時、 マッドスクリプトの牢の隣に収容されていた囚人が死亡しているのを発見する。 君は事件の第一発見者となったのだ。

【エントリー3】

 天球座の劇団員達は囚われ、ロックウェイブ島へと送られた。 しかし電脳執事ウィリアムだけは別だった。 彼は人ではなく、ただの道具であり、劇場ザ・シアターそのもの。 ロックウェイブ島には収容不可能と判断され、解体が決定したのである。 ウィリアムの最期の電源を落とす為、君は天球座の移動劇場「ザ・シアター」を訪れる。

【エントリーについて】

 このシナリオは、前編と同じPCを使用することを想定し、シナリオを作成している。 だが、エントリー番号に関しては、必ずしも一致する必要はない。このシナリオのクエリーはほぼ全員が同じ場に居合わせているし、導入の内容がそれぞれに個別に作用しているわけではない。
 前作時点でロストが発生するなどして継続が困難になっている場合、PLはロストPCの縁者などの事情を知っているPCを作成して、経験点を引き継いだ上でこのシナリオに参加すると良いだろう。 とはいえもちろん、GMとPLが異なる方法でゲームを進められるのであれば、自由にして構わない。

2.導入フェイズ

【エントリー1:ヒーローの葬式】

舞台:葬式登場:PC1、カーテンコールの遺族

【状況1】

 世界的名声を得ていた劇団、天球座の電撃逮捕と解体は瞬く間に世界を巡った。 同時、彼らが作り上げた虚構のヴェールが剥がれ、その下の真実が明らかとなった。それは世界を混乱させ、新たな悲しみと絶望に直面する人々が増えるのには十分な量であった。 『知りたくなかった』 ……誰かが密やかに、公に言えぬ悲しみを口にするのを、いったい誰が咎められようか。
 そうした世界の中で、君は今、元ヒーロー・カーテンコールの葬式に参加している。 参列者はわずかだ。遺族と思しき者に、G6関係者。生前故人と関係があったと思われる幾人か。 ヒーロー、カーテンコール。本名、アーサー・エルキュール。 彼は表向きには秘匿していたが、サイコメトリー能力を有したミスティックであったという。 50年前に彼が収めた山荘の事件を君は知っている。だからこそ、疑問が残る。そうした能力を持つ彼は、本当にあの事件の犯人が分からなかったのだろうか? 物言わぬ老人の死体は、今や何も語らない。

【状況2】

 葬式を終えた君の元へ、喪服に身を包んだ老女が訪れた。「ジェーン・エルキュールと申します。故人の妹です」「生前の兄は孤独な人でした。生涯を賭して貫いた『ライフワーク』のせいかもしれませんね。……ですので、彼の言葉を伝えられるのは、私以外にはおりません」「兄は言っていました。己の死を看取る者の中にヒーローが居たのであれば、これを託せと」 ジェーンは君に小さな箱を手渡した。箱の中には、アンティークな雰囲気の古い鍵が収められている。それは、どこかの家の鍵のようだった。「私は詳細を知りません。兄は何も語りませんでした。語ってくれませんでした。……私では、兄が何を考えていたのか、何も分からないのですよ」「どうか……あとはよろしくお願いします」 ジェーンは自嘲するようにそう告げ、静かに頭を垂れた。

【状況3】

 君は調査の果てに、鍵の合う家を見つける。とある田舎町の郊外、海に面した崖の上に建つ小さな家は、しばらく使われていなかった様子でひっそりと佇んでいた。 家の中へと足を踏み入れれば、異様な光景が君を出迎える。その中に張り巡らされていたのは、さまざまな事件の調査記録だ。それもよくよく確認してみれば、全て現場にクレマチスの痕跡があった──すなわち天球座絡みの事件ばかりであった。 カーテンコール自身が解決に向かったものもあれば、そうでないものもある。事前に人知れず防がれたものもあれば、未解決のまま終わった事件もあれば、君たちによって解決した事件もあった。 そこはカーテンコールが抗い続けた生涯の記録だった。 これが意味するところは一つ。やはりカーテンコールは最初から、マッドスクリプトの正体を知っていたのだ。 では何故、彼はマッドスクリプトを、かつての少年を止めなかったのだろうか? あるいは、止められなかったのだろうか。 君はデスクの一角に、たくさんの封筒が、大切そうに保管されていることに気づく。送り主の名はない。そして中に収められた、丁寧に畳まれた便箋は、どれも白紙のものばかりだった。

【エンドチェック】

□カーテンコールはマッドスクリプトの正体を知っていた□カーテンコールは誰かと文通をしていたようだ

【解説】

 PC1がカーテンコールの真相の一端に触れるシーン。
 カーテンコールは、山荘の事件の折、その能力故にトマスの真実と目論見を知ってしまった。実行犯は少年ではあったが、計画したのは別の人間だったのだということ、すでにこの先に渡る長大な脚本「天球座」が完成し、動き出しているということを。 カーテンコールはトマスの作り出した劇に抗うためにヒーローとしての生涯を賭したが、巧妙に紡がれた脚本を完全に止めることはできず、その中で出会ったさまざまな謀略は彼を人間不信に陥らせた。誰がトマスの手の者か分からない、そうした不安の中で戦い続けていた。それは一度はヒーローを止めるという形でカーテンコールの心を確かに手折った。 その生涯はしかし、脚本の外からもたらされた「セカンド・カラミティ」という惨劇によって、少しだけ形を変えた。ヒーローを辞したカーテンコールはヒーローとして再起し、それが故に二度と立ち上がれぬ人となった。トマスにとっても、これほどに早いカーテンコールのクランクアップは予想外だった。獄中のトマスは未だ、カーテンコールが死亡したことを知らない。

【エントリー2:殺人第一発見者】

舞台:ロックウェイブ島登場:PC2、マッドスクリプト

【状況1】

 君はロックウェイブ島を訪れている。 目の前には、分厚い特殊ガラス越しに泰然と座る老人──マッドスクリプトの姿があった。 君は彼の尋問中だった。これまでの罪状、今も進んでいる事件は無いか、彼が手を貸した他のヴィランや悪人との繋がり……調べ上げねばならないことはいくらでもある。 マッドスクリプトはそれらに時として素直に、時として曖昧な表現を用いて言葉を重ねる。脚本家として数多の物語を綴ってきた彼の言葉は、どれも真実を言っているようでもあり、全てが嘘のようでもあった。掴みどころのない老人だったのだ。 この部屋の中、君はマッドスクリプトとどんな話をするだろう?

【状況2】

 マッドスクリプトは尋問の中で、自らの能力と動機についてこう語った。「私の持つ力、それは1%の偶然を99%の必然へと変えるもの。いわば運命を操作する力。この力を明確に認識した処女公演こそ、あの山荘での一夜だった」「あれ以来、私はドラマの魅力に取り憑かれた。様々な脚本を書き上げ、様々な悲劇を作り上げた。夢中だった。いつしかそれは伝搬し、多くの愛おしき同胞を得ることができた」「何故私がドラマを愛したか? 現実を都合よく動かし書き換え、他者を掌の上で転がす優越感が故か? ……いいや、違う。それが虚構であることを、私は誰より知っていた。だからこそ分かった。その中に、紛れもない真実が生まれ得たことを」「幼き日の私にとって、世界とは全て言いなりにできる舞台だった。第四の壁の外側に観客がいると言われたのならば、私はきっとそれを信じただろう。 だが、私が書いた脚本が、上演された舞台の中で……疑い、怯える悪党の弱さは本物だった。抗い、信じようと努める英雄の意志も本物だった。力を持たずとも、子を守らんとする両親の愛もまた本物だった。偽りの虚構の中だからこそ燦然と輝く、紛れもない、生きた人間の真実を見た」「美しかった」「だから何度でも、何度でも、書かずにはいられなかった。演じずにはいられなかった。観ずにはいられなかったのだ」 マッドスクリプトはうっとりとした顔で夢見るようにそう言った。

【状況3】

 尋問は終わり、君は看守と共にマッドスクリプトを牢へと連れていく。 囚人服に身を包んだ老人は、鼻歌を歌いながら従順についてくる。
 いかにも監獄らしく、ずらりと並ぶ鉄格子。一見ただの鉄の棒に見えるそれは、超人種犯罪者を収容する関係上、見目以上に厳重だ。 檻の中では、さまざまなヴィランたちが、それぞれの収容生活を送っている。悪意ある目を君へ向けるもの、怯えたように縮こまるもの、壁に向かって意味の分からぬ言葉を並べ立てているもの…。 その中の一角に、マッドスクリプトの牢はあった。 牢へと戻りながら、マッドスクリプトが君へと囁く。「ああ、そうだ。ちょうどよかった」「隣の部屋を覗いてごらん。きっと素敵な第二部が始まるよ」

【状況4】

 君たちがマッドスクリプトの牢の隣の牢を確認するのであれば、ベッドの上で囚人が横たわっているのが目に入った。 眠っているのかと思われたその人物の姿をよくよく確認すれば、彼は口の中にシーツを詰め込んで窒息死していた。 看守が慌てて連絡を取る。監獄内が俄かに騒がしくなる。 隣の牢から、マッドスクリプトが君を見て、小さなウインクを送っていた。

【エンドチェック】

□マッドスクリプトの隣室の囚人が死んだ□第一発見者となった

【解説】

 マッドスクリプトの能力と、彼の思想にPC2が触れるシーン。それは共感の難しい狂人の理屈であり、同時に生まれながらの能力に翻弄された超人種の末路でもある。 後にも触れるが、マッドスクリプトの能力である「1%の偶然を99%の必然に変える力」は、脚本を媒体にした運命改変能力のようなものとして扱う。メタ的にいうのであれば、「TRPGシナリオに介入し好きなようにその展開を書き換え・作り出す能力」だ。 それに当人の頭脳と、彼の理念に賛同し共謀する、天球座という劇団の力を得たことで、彼らの舞台は上演されていた。

【エントリー3:天球座の最期】

舞台:ザ・シアター登場:PC3、ウィリアム

【状況1】

 君は今、無人の劇場の中にいる。 照明は落とされ、劇場内のさまざまな仕掛けは全てオープンとなって停止し、数多の大道具や、演出用小道具は全て撤収された、空っぽの劇場の中に。 ここは「ザ・シアター」。かつては世界的名声を得ていた移動劇団・天球座の拠点である。 件の事件によってマッドスクリプトは捕らえられ、それに紐づく形で天球座の劇団員もまた、超人種旧世代の区別なくロックウェイブ島の囚人となった。 ただし、電脳執事ウィリアムだけは別だった。ザ・シアターの運営の全てを担っていたAIは、この劇場ザ・シアターそのものと言えた。それはロックウェイブ島には物理的に収容不可能だったのだ。 かくして、ザ・シアターの解体、並びにAIウィリアムの停止が決定した。 君はその作業のため(あるいはその作業を行う作業員の護衛として)、ザ・シアターを訪れている。

【状況2】

『お客様、ここから先は関係者以外立入禁止でございます』 システムルームのある舞台裏へと足を踏み入れようとした時、アナウンスが響く。運び出される予定だった、梱包された鏡の中に、青白い男の姿が浮かび上がった。ウィリアムだ。『当劇団へようこそおいでくださいました。わたくし、案内人のウィリアムと申します。大変申し訳ございませんが、次の上演予定は未定となっております。……とうにご存知なのでしょうけれど』『わたくしを終わらせにいらっしゃったのですね』

【状況3】

『お客様の目には、当一座はどのように映ったのでしょうか』 ウィリアムは過日を思い起こすように呟く。 その様は人ならざるAIであるというのに、懐かしげであり、愛おしげであった。『一座の者は皆、舞台に生涯を捧げ、芝居に魂を売った者たちばかりでございます。それは我が主人も同様に。 そうした我々の正体を知った者達は、皆、さまざまな感情を見せたもの。滑稽、異様、同情、畏怖、憎悪……。 主人はそれらを『人間の真実』と呼んでいらっしゃいました』『そのいずれもが、厳密には、わたくしには存在しないものです』『ならばこそ、これより終焉の旅路につかんとする人ならざる電子人形に、冥土の土産を施しては頂けませんか。──どうか、あなた様の真実を教えて下さいませ』

【状況4】

 君がウィリアムの望みに応えるのであれば、『ありがとうございます』と礼を。応えないのであれば、『出過ぎたことを申しました』と辞退を述べ、ウィリアムはそれ以上の妨害をやめる。 君は問題なくシステムルームへたどり着き、彼のシステムを完全にダウンさせることができるだろう。 かくして、巨大移動型全天候対応劇場『ザ・シアター』は、静かに死に至る。

【エンドチェック】

□ザ・シアターが死んだ

【解説】

『非常時に備え、当劇団の全てのシステムがオフになっても、非常電源を用いて、わずかな間であれば案内が可能でございます。大したことは出来かねますが』 などなど…。
 ザ・シアターの終焉を見取り、電脳執事ウィリアムと別れを告げるシーン。 ウィリアムは前編に続き、機械然とした、少々融通の利かない、主人に忠実で人の心を理解できないある種無垢な存在、というテンプレートなAIイメージをなぞれば良い。 実際は、それはウィリアムが演じている役割上の性格である。このシナリオにおける電脳執事ウィリアムは、ヴィラン・マッドスクリプトの傍で天球座とザ・シアターの運営に携わり、同時にヴィラン・真マッドスクリプトに生前から忠義を尽くし演じ続けてきた、最大の演劇狂である。 天球座の所有物である「ザ・シアター」はこのシーンで機能を完全に停止する。だがそれはウィリアムが「ザ・シアター」という「役」を演じ終えたことを意味してもいる。電脳の演者は自由になった。

3.展開フェイズ

【クエリー1:それが問題だ】

登場:PC全員舞台:ロックウェイブ島

【状況1】

 PC2やロックウェイブ島からの連絡を受けて、あるいは独自の情報網によって、PC1とPC3もまたロックウェイブ島で発生した殺人事件とその容疑者の情報を耳にする。 かくしてヒーローたちは、遠く離れた太平洋上の孤島、ロックウェイブ島にて再び集う。

【状況2】

 マッドスクリプト本人は懲罰房へと移動され、誰とも面会を行わないよう取り図られていた。 マジックミラー越しに彼の様子を確認すれば、老人は泰然とした様子で過ごしており、その心情は推し図れない。 ロックウェイブ島の職員やPC2が面会を行った限りでは、マッドスクリプト本人は一応、犯行を否定しているらしかった。だが明らかに今の状況を楽しんでいる愉快犯じみた口ぶりや、彼自身の能力のこともあり、その証言が信用されるような状況ではなかった。 かくして、PCたちはひとまず、被害者の死因や背景、現場となった牢そのものの調査を行った。
■被害者名前:デスカレント年齢:25罪状:殺人、詐欺、傷害 エンハンスドの男性。25歳。 マッドスクリプトが収容される以前から当該の牢にいた囚人。 以前から近隣の囚人に大声で話しかける癖があり、他の牢の囚人たちから苦情が度々上がっていた評判の悪い人物。マッドスクリプトに対しても度々話しかけている様子が確認されていた。 自室のシーツを無理やり飲み込み、喉に詰まらせて窒息。 状況としては自殺に該当するが、通常では考えられない状況の為、外部からの精神干渉や物質操作の可能性が危惧される。

【状況3】

 調査を進めるPCたち。その最中、同行する看守がぽつりと零した。「この状況すらも、マッドスクリプトが作り上げた脚本なのでしょうか」「あの男の能力をPC2さんは聞きましたよね。1%の偶然を、99%の必然にする力…」「たとえば、ここで私が転んで、頭を地面に打ちつけ、当たりどころが悪くて死んでしまう。そんな可能性だって、きっと、0%ではありません。タイプライターをメチャクチャに叩くことしかできないチンパンジーが、シェイクスピアを書きあげることだって、不可能ではない。……そして奴はその奇跡的な偶然を、意図した必然に変えられる」「そんな人間を、本当に収容できるのでしょうか。いえ、いいえ、収容できたとして、その収容できたという状況すら、奴自身が脚本にそう書いただけなのでは?」 それは泣き言だった。要は、「本当に奴を収監することが出来るのか」という、ありふれた──けれどこの世界に純然と横たわる、逃げることができない問題への、弱音だった。 君たちはそうした看守に、どんな言葉を向けるだろうか?

【エンドチェック】

□看守の言葉に答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 どれだけ足掻いても、何をしても、全てが最初からそうなるよう仕組まれていたことだったら……そうした無力感や、拭いきれない不安と、君たちはどう戦うのか。これがクエリーだ。 被害者であるデスカレントに関しては、シナリオ上では大きな設定はない。もしかしたら彼もまた真マッドスクリプトの信奉者としてその命を捧げたのかもしれないし、ただ巻き込まれて利用されただけの囚人かもしれない。

【チャレンジ1:この力を今日限り捨てよう】

登場:全員舞台:ロックウェイブ島

【状況1】

 看守の意見を聞いた君たちにもまた、一抹の疑念は残る。 マッドスクリプトに何か目的があって、あえてロックウェイブ島へ収監される道を選んだという可能性はゼロではない。 狂人の思想を推し量ることは常に困難を伴う。 けれど問いを止めれば真相に至ることは永遠にない。 考え続けねばならない。君たちは真実を求め、監獄での調査を続ける。
―――――――

【チャレンジ判定】

■判定1:囚人たちから情報を収集する…〈交渉〉or〈経済〉■判定2:ロックウェイブ島の研究資料を調べる…〈科学〉or〈隠密〉■判定3:捕らえられた天球座の団員に接触する…〈心理〉失敗時:空が青いのも海が広いのも宇宙の成り立ちも全部マッドスクリプトの脚本のように思えてくる。憔悴4を受ける。———————

【状況2】

■判定1結果 囚人たちから情報を収集してみれば、マッドスクリプトが監獄の中で「誰か」を探していたということが分かる。 厳重な監視を受けていたマッドスクリプトの状況や、広いロックウェイブ島、飽和するほど多い囚人も相俟って、接触には至っていなかったようだ。
■判定2結果 ロックウェイブ島は超人種の研究施設でもある。収容された囚人たちは必ずその能力のデータを取られる。捕らえられてから時間が経っていないこともあって回数自体は乏しかったが、それはマッドスクリプトも例外ではなかった。 資料に残されていた内容は、マッドスクリプトの自供と相違はなかった。 だが君は、その資料の一部に、意図的な隠蔽と改竄が施されていることに気づく。 一体誰が、何のために?
■判定3結果 接触した天球座の元団員は、君が面会を望めばあっさりとそれを叶えるだろう。だが、常に現実を演じてきた彼らの言葉のどこまでが真実であるのかを見極めるのは一筋縄ではいかない。 そうした中で読み取れたことは、彼らは皆、自分の意志で天球座に属し、マッドスクリプトの脚本を演じていたということだ。旧世代と超人種の区別なく、彼らは狂的なまでに演劇に没入し、現実と仮想の境界を曖昧にする行いを愛していた。 だからこそ、山荘の公演に関しては、やりきったという満足感と共に、一抹の寂しさを抱いているらしかった。「あれは座長の引退公演だったのでしょう。座長は自らの人生に、自らの手で幕をおろそうとしているのです。最期にして最大のドラマから、どうして目を背けることが出来ましょう?」

【状況3】

 得られた情報をもとに、君たちは推論を組み立てる。 マッドスクリプトはなんらかの目的があり、敢えて収監された。それは「誰か」に接触する為であり、それは自身のドラマに幕を引く為の行いであるようだ。 彼の『マッドスクリプト』としての人生は、吹雪の山荘の中から始まったと当人は語った。生還したヒーローであるカーテンコールが死んだ今、残る関係者は一人だけ。そして情報が閉ざされた収容所の中では、その人物は今も50年前の真実を知らないかもしれない。 マッドスクリプトは、もう一人の生還者にも、今更な真実を伝えようとしているのではないだろうか。そうして自らを殺させようとしているのではないだろうか? だが、カーテンコールはマッドスクリプトの正体を知っていた。 残るヴィランはどうだろうか?
 全ての情報はただ一人の人物を指し示していた。 君たちは50年前の事件の生き残りであるヴィランに接触を試みる。 かつては複数のヴィラン名を用いて活動を行なっていたというその人物は、今はもっぱら、本名で呼ばれているらしかった。 そのヴィランの名は、トマス・ピム・ディラックといった。

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた□トマスへ会いに行くことにした

【解説】

 マッドスクリプトと天球座の関係や、獄中でのマッドスクリプトの行動を情報として知るチャレンジ。 また、この時点では知りようがないが、ロックウェイブ島にすでに真マッドスクリプトの介入が起きていることを示唆するシーンでもある。とはいえこれは、この時点では多くを説明しない方が良い。 天球座団員から情報を引き出すチャレンジは、実際のNPCたち(おすすめは前編に登場したグランギニョルかスタントマン)の尋問を行う形で情報を与えると、楽しいかもしれない。

【クエリー2:バラはどう呼ぼうと甘く香る】

登場:PC全員舞台:ロックウェイブ島・第25一般収容区画

【状況1】

 君たちはロックウェイブ島に収監されている元ヴィラン、トマス・ピム・ディラックと面会を果たす。 彼はロックウェイブ島の第25一般収容区画で生活を送っていた。一般収容区画とは、超人種の囚人の中でも、さほど凶悪でない者や、更正の余地がある者、能力の弱い者などが収容されている区画だ。ロックウェイブ島内に於いて、最も数の多い区画でもある。 トマスは五十年の長きにわたり、このロックウェイブ島に収容されてきた人物だった。長きに渡り模範囚としての生活を送っているという。彼の牢に向かえば、八十前後と思われる車椅子に座った老人が、若い囚人に介護されながら生活を送っていた。痴呆が始まっているのか、どこかぼんやりとした雰囲気の老人は、事前の情報がなければ、彼が元ヴィランだとは、とても思えないような人物だった。「爺さん、おーい、爺さん!」「んぇ? なんだって?」「面会! めーんーかーいー! あんたに!」「面会? もしかして、カーテンコールが来たのかい!?」 耳の遠い老人は、若い囚人の言葉に目を輝かせ、嬉しそうに君たちを振り返る。 獄中で生活を送っている彼は、カーテンコールが死亡したことを、まだ知らない。

【状況2】

「……そうか、アーサーが死んだか」「不思議なものだ。この身に枷をはめた相手でありながら、私の末期の文通相手は彼一人だった。もう手紙が届かなくなるのだと思えば……いささか、思うところもあるな」 トマスの檻の中には、使いさしの便箋と、送られてきた手紙が大切そうに保管されている。「彼は触れたものから思念を読み取ることが出来たから、私が筆を取る必要がないのが楽だった。特に最近は、細かい文字を書くのが難しくって。老いとは辛いね」「彼と対峙し、力をぶつけあったかつて、私は確かに彼を殺そうと思っていた。けれど、今は……ただ、寂しいな」「憎んでいたし、愛してもいたよ。 ……願わくば、彼からもそう思われていたと、自惚れていたいものだ」 トマス・ピム・ディラックと、カーテンコールことアーサー・エルキュールは、かつてはヒーローとヴィランとして対立していたはずだ。しかしカーテンコールのことを語るトマスの声は、驚くほど穏やかで、落ち着いたものであった。
「君たちにもそういう相手はいるかい。 それともこんな古臭い感傷は、君たちには無縁のものかな」 彼らの間にあった、何かしらの絆。 君たちはそれに対し、どんな言葉を向けるだろうか?

【状況3】

「……かつてのカーテンコールのようなことを言う。だからここに来たのかな」「いいね。うん、とてもいい。困ったな。……私はとっても、君たちを気に入ってしまったようだ」 PCたちの答えを受け取り、トマスは嬉しそうに目を細めて笑った。

【エンドチェック】

□トマスと話した□グリットを1点獲得した

【解説】

 ヒーローとヴィランは、相入れぬ不倶戴天の敵であり、同時に表裏一体の存在でもある。そうした価値観を示すシーンだ。ヒーローによってはそれに同意を示す者もいるかもしれないし、受け入れ難いと拒絶する者もいるかもしれない。どちらもまたクエリーの答えとして成立する。 このシーンのトマスは、罪のないか弱い老人のように演出すると良い。それもまたある種の真実だ。老いてペンを持つことのできなくなった彼はこれ以上脚本を書けないし、過去に生涯の大作「天球座」を書き上げてしまったことでそれに満足し、それ以上の作品を作り出す意志を失っている。
 トマスがカーテンコールの死を知らなかったことは本当だ。なのでこのシーンに於いて彼は本心から落ち込むし、本心から悲しむ。正直、劇のことも投げ出してしまおうかとすら思っている。しかしPCたちのクエリーの答えを聞き、PCたちの中に在りし日のカーテンコールの面影を見出すことで、再起してしまう。とても迷惑なことに。

【クエリー3:この世に本物はなくなったのだ】

登場:PC全員舞台:トマスの牢

【状況1】

「本題に入ろうか。君たちが一番、疑問に思っていることの答えを告げよう」「何故、カーテンコールはあの吹雪の山荘で、最後に私を捕らえたのか? 何故、私はそれを受け入れ、五十年もの長きに渡り囚人であることを受け入れたのか?」「曖昧に誤魔化したり、使い古してきた表向きの証言を言うのはやめよう。 私はすっかり君たちを気に入ってしまった、さっきのあの、短い言葉を交わしたそれだけの間で。寄り添おうとする愛を、抗わんとする勇気を、そして迷いに向き合う弱さを……確かに君たちに感じた」「だから、ここだけの話をしてあげよう。カーテンコールとしかしたのことのない、秘密の話を」 トマスは君たちにそう切り出し、落ち着いた様子で話し始める。 だが、その様子は先程までの好々爺然とした雰囲気を保ちながら、どこか様子が変わったように思われた。 過去の遠い日を眺めていた彼の眼差しは、今はまっすぐに君たちへと向けられている。

【状況2】 

「全ては出会った時から始まっていた。 あの吹雪の山荘で、何故カーテンコールは私を断罪したのか? 何故私は彼の断罪を受け入れたのか? 50年もの歳月を、本当に顧みることが出来なかったのは果たして誰だったのか?」
「人生は芝居。男も女もみな役者。 色んな悲喜劇に出演し、出番が終われば消えるだけ」「この世は一つの世界だよ、誰もが自分の役をこなさなきゃならない舞台なのさ。 あの子は、いっとうよく出来た、いっとう物悲しい役だがね」
 舞台上でセリフを読み上げるように、朗々とした声でトマスは語る。 その様に、君たちの脳裏に、知っている別の老人の姿が重なる。 そうして、トマス・ピム・ディラック(TMAS PIM DIRAC)は、最大の謎のヴェールを明かし、囁いた。
「この物語のシナリオを書いたのは私」「──マッドスクリプトは私だ(I AM MADSCRIPT)」

【状況3】

「信じられないと言いたげな顔をしているね」 たった今、重大な打ち明けを成したとは思えないほどの自然体で、自らこそが本物のマッドスクリプトであると打ち明けたトマスは笑う。
「古い話をしよう。五十年前の始まりにして終わりの話を」「あるところに少年がいた。物語を読むのが好きで、空想を愛しただけの、ただの力無い少年だ。その子は両親に連れられ、冬の雪山にやってきた。彼らの時計はあらかじめ狂わされ、下山の為のバスはとうに山を降りていた。致し方なく彼らは、あらかじめ整えられていた山荘へ、あらかじめ建てられていた看板の導きに従って足を踏み入れた。そこには六人のヒーローとヴィランの姿があった。 そこで少年は初めて、物語を書いた。ヒーローショーを見たいと望んだ。追い詰められたヴィランは何を仕出かすか分からず、苦境に立ったヒーローは頼りなかった。盲目に考えることをやめた両親には失望すら抱いた。少年は自分の身を守る為に物語を書いた。ヒーローがヴィランを捕らえる、そうした偶然と必然が織りなすシナリオを。 『彼がそのシナリオを書くことは、あらかじめ別のシナリオに書かれていた』。 少年の物語は現実のものになった。少年はその中で目にしたドラマに夢中になった。一抹の不満足がその欲望を加速させた。もっといい物語を、もっと真に迫ったものを、もっと納得できるものを! 少年はやがて大人になり、虚構では満足できなくなった。そうして、同じ夢を抱いた仲間と共に、現実を塗り替える甘美を知り、数多のシナリオを書き上げた。 『彼らがそれらのシナリオを書くことは、あらかじめ別のシナリオに書かれていた』」
「そのシナリオこそ、50年前、私が書き上げた最高傑作。 繰り返される劇中劇。踊り続ける登場人物。入れ子構造のトゥルーマンショー。 その演目の名は『天球座(グローブシアター)』。 そして最後は──享楽が過ぎた彼ら自身の破滅で、物語は幕を下ろす」
「積み上げてきた虚構が、信じ続けてきた真実が、それよりもさらに大きな虚構だったと知った時──あの子はどんな『真実』を見せてくれるのだろうね」
「信じるも、信じないも、打ち明けるも、秘匿するも、お気に召すまま」「君たちはこの後、どうする?」
 トマスはそう種を明かすと、穏やかに笑って君たちを見ていた。 牢の中に捕らえられていながら、彼の脚本は天球座という組織を動かしていたということになる。あるいは今、この瞬間でさえも。 マッドスクリプトは捕らえられ、天球座は解体された。団員たちも捕らえられ、世界的名声を得た劇団であり、世界有数の犯罪組織であった彼らは、その活動を終えようとしている。 君たちは真実を知った。 今更な真実を知った。 それを君たちはどう扱うだろうか? 真相を打ち明け、世に突きつけることに使うのか。 あるいは胸の内に留め、誰にも語らずに墓の下まで持ち帰るのか。 選ぶのは君たちだ。

【エンドチェック】

□真実を知った□トマス(真マッドスクリプト)の言葉に答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 トマスこと真マッドスクリプトの正体が明らかとなるシーン。 そしてヒーロー・カーテンコールが、生涯何と戦っていたのかが明らかとなるシーンだ。
 トマス改め真マッドスクリプトは、「今」は本当に何もしていない。脚本はすでに仕上げられ、すでに「天球座」という劇は勝手に動き始め、クライマックスを迎えている。真マッドスクリプトは脚本家としての役割を終え、監督にも演者にもならず、ただ上演される劇を舞台の外から眺めているだけだ。彼が介入せずとも、彼が書き上げた最高傑作は、もう彼の意志で止まることはないし、破綻することもない。 真マッドスクリプトは、少年と同じような能力を持っていた超人種だったのかもしれないし、あるいは真マッドスクリプトの能力が少年へと引き継がれたのかもしれない。あるいは能力自体は別物だが、演劇犯罪計画というアプローチだけが一致しているのかもしれない。解釈は各々の卓へ委ねる。
 デスカレントを殺したのは真マッドスクリプトだ。本当はカーテンコールを呼び出すつもりだったが、想定外のセカンド・カラミティによって致命傷を負っていた彼はロックウェイブ島を訪れることは出来ず、その代わりにPCたちが訪れた。
セリフ例:「創作者には二通りのタイプがある。 自らの作り出したものを多くの他者と共有し、喜びを分かち合うことを望むもの。 そして自らの作り出したものを胸の内にだけ秘め、ただ一人で満ち足りるもの」
「演劇には観客が必要だ。 私にとって、長い間、カーテンコールだけが唯一の観客だった。 本当は彼を招きたかった。おしゃべりな彼(デスカレント)はその手伝いをしてくれた。 あの子が捕まって、その先で死者が出れば、あいつはきっと私に会いに来てくれると思ったのだけれど……あの惨劇は、読めなかったなあ」

【チャレンジ2:人生は芝居、人はみな役者】


登場:PC全員舞台:ロックウェイブ島

【状況1】

『旦那様』 落ち着いた声が牢の中に響く。 部屋の片隅に置かれた小さな鏡、その中に青白い幽霊のような男の姿が浮かび上がる。 執事服に身を包んだ、穏やかな物腰の中年男性。 消滅したはずの電脳執事・ウィリアムの姿がそこにあった。「やあ、ウィリアム。見事なクランクアップだったね、来ると思っていたよ。長きに渡るシアター役、ご苦労だった」『いいえ、お構いなく。キングスマンよりはやり甲斐のある役でしたよ。素晴らしい真実を、特等席で、長年にわたり満喫させて頂きました』 ウィリアムの眼差しが、PC3へと向けられる。あの天球座で迎えた最期のやりとりすらも、演技の上であったのだ。 ウィリアムとトマスは笑い合って舞台裏の種を明かす。『天球座の上演は終わり、ザ・シアターは死にました。ここにいるのは聖域を離れ、長きに渡る務めを終え、本来の主人のもとへと戻ったただ一人の電脳執事でございます』「生前の全てを私への忠義に捧げ、死後も天球座という脚本を動かし続けた素晴らしい助演だ。彼に拍手をもらえるかい」

【状況2】

 どこか遠くから、地響きが聞こえてきた。 机の上に置かれたグラスが、カタカタと音を立てる。 揺れているのだ。だが──どうして?
「君たちがカーテンコールの代わりになるのか。それだけが懸念だった。 私は彼以外の英雄を愛せるのか? だが、それすらも、確かに見届けさせてもらったよ。 ──杞憂だった。君たちは素晴らしい。 愛おしく、憎たらしい、紛れもなき英雄譚を紡ぐ者。 だから、次は君たちが見届けておくれ」
 君たちは眼前の老人の異様を察し、彼を取り押さえようとしたかもしれない。 彼は抵抗しない。押さえ込まれるのであればあっさりと縛につく。けれど、それでは止まらないのだ。脚本を書いたのは彼なれど、それを動かすのは彼一人ではないのだから!
 揺れは徐々に大きくなり、ついに立っていられないほどの大地震と化していく。 グラスは地面へと叩きつけられ、机の上の便箋が紙吹雪のように室内に吹き荒れる。 遠くからは囚人達の困惑の声と、異常事態を告げるアラームが鳴り響き始めた。だがそのアラームの音は不自然に途絶える。鏡の中で、ウィリアムが静かに人差し指を口元に当てていた。
「クライマックスは過ぎ、フィナーレは見届けられた。 舞台は終わり、幕は降りた。 ではその先には何が待つ? 閉ざされた緞帳は再び上がり、全ての演者が一同に揃い、脚本家もまた姿を現す千秋楽の果て。 ──カーテンコールの始まりだ」
 一際大きな、ブザー音が響いた。 それはロックウェイブ島全体に響き渡る。 島の囚人たちがそれを聞いた。島の職員たちがそれを聞いた。島に観光に訪れていた者達がそれを聞いた。 そして──…開演を悟った者達が、動き始めた。
 君たちの足元、ただの床であったはずのそこに、突如として穴が開く。 舞台上の登場人物たちが姿を消す為の逃げ道。 ぽっかりと開いた奈落の底に、ロックウェイブ島監獄にあるはずのないその大穴に、君たちは落ちていく。

【解説】

 電脳執事ウィリアムが再びPCたちの前に姿を現し、真マッドスクリプトの語る内容に客観的な証明を与えるシーン。それと同時、真マッドスクリプトの最後の企みがロックウェイブ島を舞台に幕を開けるシーン。 PCの演出を聞いた後、マスターシーンを挟み、チャレンジ判定へと移っていこう。

【マスターシーン:カーテンコール】


 開演のブザーは鳴った。 ウィリアムによってシステムがハックされたロックウェイブ島が揺れる。 長年の間、人知れず仕込まれ続けていた舞台装置が、今動き出す。 その開演の合図に、潜伏を続けていた演者たちは一斉に動き始めた。 勤続10年に渡る真面目な看守は職務を放棄し、地下深くで身を縮こまらせていた凶悪犯は破顔し、妻子と共に観光に訪れていた父親は表情を消して子の手を離す。通りすがりの清掃員が、モップを置き、無言で来た道を引き返していく。 秘されていた登場人物たち(フラッシュモブ)が動き始める。虚構で形作られた世界のヴェールが剥がされて、その下に真実が姿を表す。
 そのヴェールの中を、車椅子から立ち上がった老人が、歌うように何事かを呟きながら歩いていく。
「ゲンイチロー・ハラダ。45歳。 祖父、父、と二代に渡る時代劇の名優の家庭に生を受けるも、華やかさに欠けるという評価が故に、表舞台に上がれない日々が続く。 紛れもない旧世代でありながら、たゆまぬ努力によって培われた絶技の数々は、舞台をダイナミックに彩るだろう。そんな君こそ、スタントマンに相応しい。 私のスタントマンも、君との共演を楽しみにしていたよ」
 ヴィラン・スタントマンの捕らえられた牢の前に、一人の看守が現れていた。 彼は牢の鍵を開けると、手にした日本刀の一本をスタントマンの前へと転がし、自身もまた笑みと共に刀を構える。
「ジャコモ・オクタビアス。27歳。 娼婦の母とマフィアの下っ端の父との間に生まれ、ナポリを股にかけた暴れ馬。 生まれながらの頭脳を以て、ゴミ山の部品を組み上げて作り出した数々の発明品は、 型にはまらない大胆かつ芸術的な発想の舞台装置として観客の情動を新鮮に揺さぶるだろう。まさしくグランギニョル! うちの美術担当も、君に見せるに相応しいものをと腕を鳴らしていた。さあ、何人気絶するのかな?」 ヴィラン・グランギニョルの捕らえられた牢が一人でに形を変え、動き始めていた。 二つに割れた壁の奥から、一人の女性が姿を現す。彼女の背に負われた機械のアームは、グランギニョルと名乗り続けた青年と同じ作りをしていた。
「ショーン・J・ケリー、ユウスケ・タナカ、 フィリップ・ド・ヴィニョン、マイケル・デイビス、 キム・ミンギュ、クリスティアーネ・バイエルン……」 次々に名前は読み上げられる。天球座で舞台を作り上げたものたち全ての名が、エンドロールの如くに。 そうした彼らの前に、彼らと同じ力を持つ、彼らではない誰かが笑顔で立ちはだかった。よくできましたとその生涯を称えるように、今更な真実を突きつけるように。
「君たちは喜ぶかな、悲しむかな? 最初は驚くだろうけど、すぐに笑い合えるといい。 カーテンコールは皆が肩を組み合って、華やかに、そして楽しく迎えるのが一番だ」
 そうして、老人の足は、最後の牢の前で止まった。 牢の中にいるのもまた老人だ。 老人は少年の名を呼び、かつての少年はその声に顔をあげた。「こんばんは、マッドスクリプト」
【/マスターシーン】

【状況3】

 PCたちは、真っ暗闇の中で意識を取り戻す。 水の気配と汚物の臭気が漂うそこは、ロックウェイブ島の下水道にあたる処理施設のようだった。 見上げれど、君たちが落ちてきた穴はもう見えず、天井がどれだけ高いのかも定かではない。 断続的な揺れは続いている。地上部がどうなっているのか、ここからでは定かではない。だが君たちは真実を掴んだ、そしてこれから起きるだろう悲劇の予兆もまた。 止める為には動き出さねばならない。たとえここが舞台の上であろうとも、脚本の中であろうとも、それは抗わない理由にはならないはずだ! 走れ、ヒーロー!

【チャレンジ判定】

(一人のPCが複数の判定を行うことはできない)判定1:ウィリアムによるハッキングに抗え!…〈科学〉-10%判定2:道中の随所で交戦が始まっている! 止めろ!…〈白兵〉or〈射撃〉or〈霊能〉【補正:-20%】判定3:トマスの居場所を見つけ出し、そこに急げ!…〈運動〉 or 〈心理〉 or 〈作戦〉失敗時:決戦のエネミーにスタントマン・グランギニョルが参加する。

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた□マッドスクリプトたちの元へと向かった。

4.決戦フェイズ

【決戦:カーテンコールをあなたに】

舞台:舞台登場:全員

【状況1】

 PCたちがトマスの居場所、すなわちマッドスクリプトの牢へと駆けつけた時、そこには二人の老人の姿があった。
「我々の舞台は如何だったかな? 是非、君たちの感想を聞かせておくれ。 喜劇を見て笑い、悲劇を見て涙を零す。 つまるところ人間の真実とは、ただそれだけのことなのだ」
 彼らは別人だ。だが、その立ち居振る舞いには、奇妙な同一性があった。あるいは五十年の歳月が、少年を老人へと至らせたのか? 彼らの会話は既に終わっていた。その間にどのような会話が交わされたのか、彼らの間に生まれたのは絶望であったのか、狂喜であったのか。 そのいずれであったとしても、彼らが現れた君たちに目を向け、言葉を交わし合ったことは確かだ。脚本家たちは互いに顔を見合わせ、どちらともなく笑った。「私のせいにするといい」「君のせいにさせてもらおう」 君たちの背後には、いつの間にか民衆に紛れ姿を現した劇団員(フラッシュモブ)の姿もまたあった。 ロックウェイブ島のシステムが機械音を上げ、電脳執事ウィリアムが空間を支配する。 二人のマッドスクリプトが立ちはだかり、君たちと対峙した。

【戦闘情報】

【戦闘情報】

・マッドスクリプト×2・電脳執事ウィリアム(「ザ・シアター」のデータを使用)・フラッシュモブ×2・ホール・スタッフ×2

【エリア配置】

エリア4:マッドスクリプト×2、電脳執事ウィリアムエリア3:ホール・スタッフ×2、フラッシュモブ×2エリア2 or エリア1:PC

【勝敗条件】

勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:PCの全滅

【解説】

 ホール・スタッフは「幕を閉じる」を使ってエリアを暗闇にすることを優先しよう。 天球座のキャラクターたちにも全員、このエリアタイプの効果は影響を及ぼす。彼らのパワーはエリア攻撃が多いが、味方を巻き込むパワーも多い。臆すことなく使っていこう。ダイスが外れたらその時はその時だ。 フラッシュモブは極力、ホールスタッフたちを守るよう動くと良い。 マッドスクリプト二人は前編の通り、「用意された筋書き」を連発して、まずはPCたちを出来る限り多く「朦朧」状態にすることを狙おう。エリアタイプ:暗闇の効果を合わせ、2ラウンド目からは〈作戦〉-40%の成功率で「最悪の脚本」を1ラウンドに2回回避することが求められる戦場となる。 2ラウンド目に入れば、ウィリアムやフラッシュモブ、ホール・スタッフたちは、生き残っていたとしても「最悪の脚本」に巻き込まれて戦闘不能になっていくだろう。だがそれにあまりある苦しみが、ヒーローたちを襲うはずだ。頑張って欲しい。

5.リーサル・イベント

【リーサル:お前の光は、今、何処にある】

登場:PC全員舞台:舞台
■リーサルイベント ブラックジャケットに登場する、リトライを消費して挑み直すことの出来ない判定イベントのこと。 グリットによる成功率上昇や振り直し、チャレンジ判定に使用できるパワーの適応は可能とする。

【状況1】

 戦いは終わった。 50年前から、あるいはそれよりも以前から続いていた、マッドスクリプト(最悪の脚本)という名の犯罪計画はついに幕を下ろす。 激しい戦いによって、ロックウェイブ島の随所は痛み、倒壊を始めていた。「ブラーヴォ、君たちの勝利だ」「素敵なドラマを、ありがとう」 その時だった。君たちと彼との間に亀裂が走り、彼が立つ足場が、海へ向かって落ちていく。 君たちは咄嗟に手を伸ばしたかもしれない。彼のもとへ向かったかもしれない。だがそれを瓦礫が遮り、伸ばした手はほんのわずか届かない。 それは偶然が引き起こした悲劇か、はたまた、はじまりのマッドスクリプトに記された、予定調和の幕引きか?
 かくして老人は目を伏せ、海の底へと姿を消す──かに、思われた。 風が吹いた。 明らかに自然に吹いたものではない、雪山からもたらされたような、強く冷たい風だった。 その不可思議な風に乗り、大量の紙が崩れかけたロックウェイブ島の中から飛び出していく。それは崩れかけた建物に絡みつき、まとわりついて、動きを鈍らせていく。助けようとしているようにも、確実に逃さないよう動きを封じているようにも見えた。 それは便箋だった。敵に、友に、そのどちらでもあり、どちらでもない人物へと充てられた、そして残され続けていた、文通の手紙だった。 その手紙一つ一つに込められ続けた、最後の魔術だった。 吹雪のように吹き荒れる便箋の紙吹雪の中で、君たちは一瞬、そこにはいない誰かの姿を垣間見た。けれどその人物は、瞬きをする頃には姿を消していた。
 カーテンコールが何を思ってその魔術を仕掛けていたのか。 それは報復か。 それは親愛か。 カーテンコールは果たして、はじまりのマッドスクリプトに何を思っていたのか。 ……ナゾカケの答えは、永遠に謎の中。
 だから、ここで手を伸ばすか、見届けるのかは。 それは君たち自身の判断で決めるといい、ヒーロー。

【リーサル判定】

※これは判定に参加したいと望むPCだけが参加でき、放棄することもできる。判定:マッドスクリプトを助ける…〈生存〉+20%失敗時:トマス・ピム・ディラックは死亡する。ただそれだけ。(決戦フェイズで「朦朧」を受けている場合、その効果は「休息」を挟むまでイベントをまたいで継続することに留意すること)

【エンドチェック】

□リーサル判定を終えた(放棄した)

【解説】

 真マッドスクリプトとの戦いに本当に決着がつくシーン。 悪党の死を見届け全てを終えるのか、悪党すらも助けて用意された筋書きを破壊するのか。最後の選択はヒーローたちに委ねられる。 どちらの選択となったとしても、真マッドスクリプトはいかにも予想外といった顔をして散って/助けられていくと良いだろう。悪い奴にちゃんとぎゃふんと言わせるのはスッキリするために大切だ。 助けられれば、真マッドスクリプトはもう、これ以上の悪行を働くことはない。もうペンを持てない彼はこれ以上の物語を紡げないし、その意味を見出すこともないだろう。虚構によって作られたドラマではない、今更すぎる真実の世界を、彼はこれからの生涯の中、ただ一人で過ごすことになる。
 生還した場合のセリフ例:「あいつのいない、脚本も終わった、この退屈になった世界で生きていけと? ……きみは随分、ひどいことを言うなあ」

6.余韻フェイズ

【シナリオの結末(一例)】

【PC1】

 戦いは終わった。 ロックウェイブ島で起きた一連の事件は、表向きに報道されることはなかった。ただでさえ天球座のシナリオが明らかとなったことで、世界は混乱している。これ以上の混乱を避ける為にと、各国のロックウェイブ島運営上層部にて決定した内容だった。 マッドスクリプトと呼ばれた老人たちの心を、君が理解できたか否か。あるいは、する必要があったのか──全ては君の心の内に。 一応、世界は少しだけ、平和になった。そのはずだ。 君はそのことを退屈に思うだろうか。喜ばしく思うだろうか。

【PC2】

 戦いは終わった。 もう、クレマチスの花が、世界の裏側を支配することはない。 そんな折、街中を行く君の耳に、誰かの話し声が留まる。「クレマチスの花言葉には怖い意味があると思われていますが、実際にはそうでもないんですよ。というよりも、たいていの花言葉には、良い意味と悪い意味の双方があるものです」 その言葉に咄嗟に振り返れば、ただ、花屋の店員が、客に花言葉の説明をしているだけだった。 一応、世界は少しだけ、平和になった。そのはずだ。 君はそれを信じられるだろうか。それとも……。
(クレマチスの花言葉……「旅人の喜び」「精神の美」「創意工夫」「策略」など)

【PC3】

 戦いは終わった。 君は再び、ヒーローとしての戦いに身を投じている。 君の前にはあの(天球座以外の任意のヴィラン)の姿があった。ヴィランは君を見て鼻を鳴らす。「ふん、うまくやったようじゃないか。おかげでこちらも大忙しだ」「だが……悪くない顔をするようになった。それでこそ、潰し甲斐がある」 戦いが終われば、新たな戦いが始まる。 だがそれでも、世界は少しだけ、平和になった。そのはずだ。 対峙するヴィランへと、君は何を告げようか、ヒーロー?

〈The End.〉

【獲得経験点】

・初期グリット:4点・クエリーグリット:3点・リマークグリット:想定3点------------------------------------------合計:10点