ナゾトキ
━━これは英雄譚であり、推理小説ではない。
【共通エントリー】
君たちはそれぞれの方法で、ヴィラン・天球座の存在に気付きつつあるヒーローだ。 疑いはあれども確信には至らぬある日、君たちのもとに一通の招待状が届く。 差出人の名は「天球座」。その座長である「マッドスクリプト」。 内容にはこうあった。『特別公演のご案内。50年前に起きた殺人事件を再現し、舞台の中で謎を共に解き明かしましょう』 これは罠か? それとも享楽か? 君たちは雪深い山荘へ足を踏み入れる。【エントリー1】
君はヴィランの考えを理解するよう努めるヒーローだ。 彼らの動機を理解しないことには、根本的な解決に至ることはできない。共感と理解は異なるものだ。君はそう考える。 君はこの再現劇の中、『ヴィラン』の役を与えられることになる。【エントリー2】
君はヴィランの考えに関心を持たないヒーローだ。 凶悪犯との相互理解は不可能であり、無意味である。救わねばならない存在はもっと他にいるのだから、そこに労を払うべきではない。君はそう考える。 君はこの再現劇の中、『ヒーロー』の役を与えられることになる。【エントリー3】
君は迷いの中に在るヒーローだ。 ヴィランとヒーローの違い、善と悪の定義、正義とは何か。答えの出ない問いに答えるには信念が必須だが、君はその信念を未だ見出せていない。 君はこの再現劇の中、『一般人』の役を与えられることになる。【エントリーについて】
共通エントリー以外の三種類は、ヒーロー自身のヴィランに対するシナリオ開始時点の価値観となる。シナリオ内の展開に伴ってこの価値観は変わってもいいし、変わらなくても良い。選択基準も「どちらかといえばこちらに近い」というもので構わない。 だがそれぞれの価値観が強ければ強いほど、シナリオ内での状況にドラマが生まれやすく、状況を楽しみやすくなるだろう。【エントリー1:相互理解は未だ遠く】
【状況1】
ヴィランは膝を屈した。 さる中学校を舞台に繰り広げられた立て籠りと殺人。犯人はいじめの被害者であった超人種の少年であった。少年は自身をいじめていた生徒や、見て見ぬふりをしていた教師を殺害し、無関係の生徒を人質に教室へと立て篭もった。 警察の訴えとヒーローたる君の活躍により、少年は自殺寸前の所で押さえ込まれ、捕らえられた。超人種の力を悪用した彼は、社会的にはヴィランとしてカテゴライズされ、断罪されることになるだろう。 血塗れの教室の片隅で、花瓶に生けられたクレマチスの花が一輪揺れている。「僕の話なんて、誰も聞いちゃくれないよ」 警察に連れていかれる少年は、寂しげにそう呟いていた。【状況2】
陰惨な事件現場で、意味深に揺れるクレマチスの花。 君にとって、それを見るのは初めてではない。 これまでにも幾度か、同様の花を、君はさまざまな事件現場で目にしてきた。そのいずれもが、すでに犯人が罪を認め、捕らえられたものではあるのだが…。 君はこれらの事件には、何か繋がりがあるのではないかと考えている。裏で手を引く何者かが存在するのではないかと疑っているのだ。……だが、証拠がなかった。 そんな折、君のもとに一通の手紙が届いた。 差出人は『天球座』。世界的な知名度と名声を持つ旅の演劇一座だ。 手紙にはこうあった。『特別公演のご案内。50年前に起きた殺人事件を再現し、舞台の中で謎を共に解き明かしましょう』 その奇妙な招待状に君が関心を向けたのは、クレマチスの押し花が意味深に添えられていたからだろうか。【エンドチェック】
□天球座の裏の顔に君は気付きつつある□だが証拠がない□招待状を受け、現地へ向かうことにした【解説】
PC1の導入シーン。 PC1〜3の導入は便宜上事件を設定しているが、そのPC本人に天球座との因縁がある場合は、そちらを優先しても良い。むしろするべきだろう。 基本的には「疑ってはいるが、証拠がない」といった状況であることを前提としているが、PCが承知の上で再現劇に付き合ってくれるのであれば、その限りではない。【エントリー2:悪意の手はすぐ隣に】
【状況1】
「ちぇ、ちょっとぐらい優しくしてくれてもいいじゃねえか。そうすりゃ……つけ込めた、の、に……」 ヴィランは最期にそう負け惜しみを吐き捨て、倒れ、動かなくなった。 WAVEを舞台に繰り広げられた、複数のスポンサー会社を巻き込んだ催眠暗示広告を巡る陰謀劇。それは君の立ち回りによって真相が明らかとなり、首謀者であった放送関係幹部の自殺という形で幕を引いた。 事件は幕を下ろした。犯人が何を思ってこの事件を引き起こしたのか、そんなものはどうでも良い。 だが君には気になることがあった。犯人であった放送関係幹部の男に犯罪歴はなく、能力も平凡。そんな人物が今回のような、緻密な事件を引き起こすことが出来るのだろうか? 証拠は全て揃っている。文句の付け所がないほどに。犯人は死んだ。これ以上の追及は不可能だ。 足元に倒れた犯人の死体を見届けながら、撮影スタジオを振り返る。 血塗れのセットの片隅で、花瓶に生けられたクレマチスの花が一輪揺れていた。【状況2】
引っ掛かりを覚える事件現場で、意味深に揺れるクレマチスの花。 君にとって、それを見るのは初めてではない。 これまでにも幾度か、同様の花を、君はさまざまな事件現場で目にしてきた。そのいずれもが、すでに決着のついた事件ではあるのだが…。 君はこれらの事件には、何か繋がりがあるのではないかと考えている。裏で手を引く何者かが存在するのではないかと疑っているのだ。……だが、証拠がなかった。 そんな折、君のもとに一通の手紙が届いた。 差出人は『天球座』。世界的な知名度と名声を持つ旅の演劇一座だ。 手紙にはこうあった。『特別公演のご案内。50年前に起きた殺人事件を再現し、舞台の中で謎を共に解き明かしましょう』 その奇妙な招待状に君が関心を向けたのは、クレマチスの押し花が意味深に添えられていたからだろう。【エンドチェック】
□天球座の裏の顔に君は気付きつつある□だが証拠がない□招待状を受け、現地へ向かうことにした【解説】
PC2の導入シーン。 解説についてはPC1の導入と同じ。【エントリー3:葛藤の最中で】
【状況1】
戦いは終わった。 愛したものとの再会を謳う死者蘇生薬は、その実、死者の尊厳を破壊し蹂躙するものに他ならなかった。けれど人は情故に死から目を背けることが出来ず、いけないと分かっていても、その奇跡に手を伸ばす。 それを煽る者がいた。君はその悪と対峙し、戦い、そして──戦いは終わった。製薬プラントは破壊されたが、それを導いていた(天球座以外の任意のヴィラン)との決着はつかなかった。 炎の中、対峙するヴィランが君へ言う。「お前の言葉は我々には届かない。何故だか分かるか?」「薄っぺらいんだよ。その場しのぎの、勢い任せの言葉だ。だから私はお前が嫌いなんだよ、ヒーロー」 眼前に立つ(天球座以外の任意のヴィラン)は、冷たい目で君を見、背を向け──その最中で立ち止まり、しばしの間の後、君にこんな言葉を残した。「近々お前に招待状が届くだろう。……精々、試されてくるがいい。それで潰れるのなら、お前はその程度だったということだ」 戦いは終わった。 ヴィランは去った。 事件は収束した。 だが君の心には、小さな蟠りが残り続けていた。【状況2】
それから幾日か経った後、君のもとに一通の手紙が届いた。 差出人は『天球座』。世界的な知名度と名声を持つ旅の演劇一座だ。 手紙にはこうあった。『特別公演のご案内。50年前に起きた殺人事件を再現し、舞台の中で謎を共に解き明かしましょう』【エンドチェック】
□君は悩んでいる□招待状を受け、現地へ向かうことにした【解説】
PC3の導入シーン。 解説についてはPC1の導入と同じ。 PC3に関しては、場合によっては天球座のことを疑っていないかもしれない。それはそれで構わない、再現劇に参加する理由づけができれば十分である。 このシーンで登場する「天球座以外の任意のヴィラン」は、PC3に因縁のあるヴィランがいて、違和感がないのであればそちらを採用した方が、後編でのドラマが生まれやすくなるだろう。特にないのであれば、PLやGMの好きなヴィランか、ザ・ティーチャーやレディ・マリスにしておくと良い。【共通エントリー:ナゾトキ】
【状況1】
君たちは招待状に応じ、とある雪山の山奥に建つ、古い廃墟の山荘を訪れた。 今はもう使われていない山荘は、随所に酷い傷みが生じ、歩くのもままならないほどだった。しかし残された調度品には過日の面影を忍ばせるものが多く、かつては登山客やスキー客で賑わった華やかな場所だったのだろうことを伺わせる。 廃墟の中の傷んだソファに腰を下ろし、一人の老人が君たちを待っていた。「こんばんは、ヒーロー諸君。よく来てくれたね。 私はマッドスクリプト。天球座の座長であり、経営者であり、主席脚本家。 そして君たちを招いた張本人だ」【状況2】
「君たちを呼んだのは、他でもない。君たちが抱く『謎』に、私が一つの答えを贈れるのではないかと考えたためだ。人間の真実……精神の美しさと醜さを、虚構を介して現実へと顕にすることこそ、我らが本懐」 マッドスクリプトは意味深にそう告げ、PCたちを見回す。そして最後に、山荘を見上げ、静かで厳かな口調で過去に起きたと言う事件の内容を語り始めた。【状況3】
「今宵上演する演目は、それらの記録をもとに、我ら天球座が総力を挙げて届ける再現劇。過日の悲劇を有りの侭、時を止めたこの山荘へと甦らせよう。だがそのためにはキャストが必要だ。より正確な『真実』を浮き彫りにするために必要な、麗しき『主役』たちが」【解説】
PCたちがマッドスクリプトから招待の理由を明かされ、再現劇へ誘われるシーン。 シナリオ上、同意を得られないことには進行が難しい。GMはPCたちからの質問に答えるなどして、彼らが自分の意志で舞台に参加することを促そう。 50年前の事件に関しては実際に起きている事件として扱う。マッドスクリプトが語るように、さまざまな媒体で利用された事件として扱うため、PCによっては事前に事件の内容を知っているかもしれない。その場合、GMはシナリオ内のNPC情報などから、任意に事前に情報を開示して良い(おすすめは当時の山荘にいた人々の名前や経歴だけを公開し、どのタイミングで死亡したかは秘密にしておくことだ)。 PCたちの同意やPLの納得を得られ次第、次のマスターシーンへ進む。 このキャンペーンは全編にわたり、マスターシーンが多く、NPCのセリフも多い。適宜区切ったり、あえて一気に公開したりなどしながら、PLの負担にならないようシーンを進めて欲しい。【マスターシーン:幕は上がる】
【エンドチェック】
□再現劇が始まった□マッドスクリプトが死んだ□さあ、ナゾトキを始めよう!【クエリー1:種は撒かれた】
【マスターシーン:捕らえられたヴィランの法廷記録】
【状況1】
マッドスクリプトは死んだ。 胸を、壁に飾られていた飾りナイフで貫かれ、暖炉の傍らで息の根を止めていた。 これは演技なのか? それとも本当に? 君たちの困惑などお構いなしに、物語は進む。 派手な道化師の衣装に身を包んだ青年が、PC2(ヒーロー)へと掴みかかる。「てめえ! ヒーロー! やりやがったな!? ぶっ殺してやる!」 その手には、彼の獲物らしき、トランプが握られている。向けられる殺気は本物だ。君はどう対応しよう?【状況2】
道化師のヴィランを押さえ込めば、彼はPC2(ヒーロー)へと忌々しげに吐き捨てる。「俺たちがあいつを殺したわけじゃないのだから、別の誰かがやったんだ。こんな状況でそんなことができるのも、理由があるのも、お前達に決まってる。何がヒーローだ、ついに本性を顕しやがったな!」「PC1! お前だってそう思うだろ!? なあ!?」 怯えたような他の者たちの眼差しが、PC2とPC1へと向けられる。 これは劇だ。残された記録をもとに、当時の状況が再現された劇だ。 しかしマッドスクリプトは言っていた。「役名を与えられようと、君たち自身の本質を見失ってはならない」と。 君がこの場に立っていたならば、当時のヒーローやヴィランたちと同じ立場にいたならば。君たちはこうした場面で、どんな言葉を向けるだろうか?【エンドチェック】
□状況を収めた□グリットを1点獲得した【解説】
最初の被害者が出て、ヴィランとヒーローが言い争いになるシーン。そしてそれにPC1とPC2が巻き込まれるシーンだ。「このシナリオはこのように進みますよ」というチュートリアルを兼ねたシーンでもある。 多くのNPCが一同に介しているが、このシナリオに関しては、最初にNPCたちの説明を全て入れてしまうことが好ましい。その方がPLが状況把握がしやすく、劇にも乗りやすくなる。GMは冗長にならない範囲で彼らの個性を演出し、PLに伝えよう。 また、冒頭のマスターシーンで提示される客観情報に関しては、NPCたちからの扱われ方などを介して、PCたちもシーンとシーンの行間で理解していることにして良い。その方がスムーズだ。【クエリー2:信じるべきか、信じぬべきか】
【マスターシーン:生還したヒーローのインタビュー記録】
【状況1:登場PC2】
暖炉の前の遺体は、地下室へと安置された。 ヴィラン二名と民間人三名は、極力離れた別室へと隔離され。 君たちヒーローは、事件現場である暖炉の前で、この後の動きについて意見を交わしている所だった。「良くない状況だ。これ以上の被害を出さない為にも、見張りは厳重に行うべきだな」「……何故、あの男は死んだのだろう? ヴィラン達の仲違いか、それとも……」 この中の誰かが? 疑心暗鬼の色はヒーロー達の中にも確かにあった。ただ、一線を超える言葉を口にしないだけで。 この空気の中、君ならどんな提案をするだろうか、PC2?【状況2:登場PC1】
PC1と道化師の青年が隔離された部屋、その窓の外からは吹雪の音が響いていた。 道化師の青年は怯えた様子で膝を抱え、部屋の隅で丸くなっている。話しかけてもまともな返事は返ってこなかった。 そんな時、君たちの部屋のドアがノックされる。道化師の青年が出る様子はない。出られるのは君だけのようだ。【状況3】
部屋の扉を開ければ、そこには日本刀を手にした旧世代の男が立っていた。ヒーローの一人だ。「今から三時まで、ここで君たちの見張りをする。君たちが抵抗しないのであれば、無闇に手を出すこともない。それだけを言いに来た。……信じるかどうかは好きにしろ」 それは都合のいい言葉だろうか、それとも。 君はその言葉を信じるだろうか、信じないだろうか?【状況4:マスターシーン「二人目」】
──悲鳴が上がった。 夜も更けた頃合いだった。悲鳴は廊下からだった。 ヴィランが隔離されていた部屋の中には、PC1以外の人影がなくなっている。 何事かと現場へ向かえば、そこでは腰を抜かした道化師の青年の姿があった。その手は真っ赤な血に染まっている。「違う! 違うんだ、俺じゃない! 俺は殺してない!!」 錯乱したように叫ぶ青年の前、廊下のフローリングが血に染まっている。その先に、日本刀を手にした、首のない男の死体があった。 ごろりと転がる頭。 部屋で話をした、旧世代のヒーローの顔がそこにあった。【エンドチェック】
□問いかけに答えた□二人目の犠牲者が出た□グリットを1点獲得した【解説】
引き続き、PC1とPC2のクエリーとなる。どちらかといえばメインのクエリー対象者はPC1だ。 ヒーローとヴィラン同士の間でも疑心暗鬼が起きていたということを演出するシーンだ。 クエリーを終え次第、状況4のマスターシーンへと移行し、二人目の犠牲者が出る。【クエリー3:加速する疑心、伝染する恐怖】
【マスターシーン:生還した民間人の手記】
【状況1】
廊下は騒がしかった。 無罪を叫ぶ声、被害者の名前を呼ぶ声。惨劇がもう一度起きたのだと、蚊帳の外に置かれた君にも察せられるものだった。 部屋の中、登山服に身を包んだ裕福そうな男女が君を抱きしめる。まるで幼い子供に対しそうするように。あるいはこの日、この場にいた民間人は、本当に幼い子供であったのかもしれない。「大丈夫、大丈夫よ。父さんと母さんがついてるからね」「お前は何も心配する必要はないんだよ。きっとヒーローが、すぐに何とかしてくれる」 子供を励まさんとする両親。 その目にはしかし、隠しようのない恐怖が浮かび上がっている。 この再現劇の中、君に与えられた役割は「無力な子供」。だが、君の本質はそうではない。 君は、君がここにいたならば、この怯えた両親に何と言葉を向けていただろう?【状況2】
「……ありがとう」 君の様子に感銘を受けたのだろうか。目に涙を浮かべた両親は、君を一度強く抱きしめる。 男が覚悟を決めたように立ち上がり、女へ告げる。「どんな状況になっているか、ヒーローさんたちに確認してくる。何か手伝えることがあるかもしれないし……お前達はここで待っていなさい」「母さんをよろしくな」 父親の手が君の頭を撫でた。 君は父と共に向かっても良いし、ここで母と待っていてもよい。 さて、どうしよう?【エンドチェック】
□両親に言葉を贈った□グリットを1点獲得した【解説】
PC3のクエリーシーン。 民間人の両親はPC3のことを愛する幼い息子として扱い、接する。それはPC3がどのような見目、出自、年齢のものであっても変わらない。 だがPC3は幼い子供ではなく立派なヒーローなので、その扱いにどのように反発を示してもよい。【チャレンジ1:舞台裏にて演者は踊る】
【状況1】
君たちは吹雪の山荘の中、50年前の事件を追体験している。 天球座によって再現されたこの劇は、ふと気を抜けば、自分が本当に事件の中にいるのではないかと思えるほどに精巧なものだった。 ──だが、これは劇だ。劇なのだ。他ならぬ君たちを標的に据えた、天球座の招待なのだ。 マッドスクリプトは何故、この事件を再現しようとしたのだろうか? 役を与えながら、己の本質を見失うなと忠告を残したのは何故なのか? 吹雪の山荘の中、君たちは役割とは異なる、脚本にはない動きを始める。すなわち、この事件の独自の調査を。 あるいはそれすらも、脚本に記されたものであったのかもしれないが。【チャレンジ判定】
このチャレンジは一人一回判定を行う必要があり、一つの判定を複数人で試みることはできない。【判定1】山荘の中に第三者はいないかを調べる…〈生存〉or〈知覚〉【判定2】三人の生還者と六人の被害者の情報を集める…〈追憶〉 or 〈交渉〉【判定3】この山荘がどうやって再現されたのかを調べる…〈科学〉-10%失敗時:再現劇にのめり込んでいく。憔悴4を受ける。これらの判定に全て成功するまで、次のイベントに進むことが出来ない。【状況2】
君たちは共演者たちの目を盗みながら、調査を行った。 分かったことはいくつかあった。【状況3】
『お気づきになられましたか』 鏡の中から声がした。 そちらへ視線を向ければ、鏡の中に、執事のような老齢の男性が浮かび上がっていた。 その姿に、『判定2に挑んだPC』は見覚えがあった。鏡の中に浮かび上がる老齢の男は、この事件の最初の被害者、ヴィラン・キングスマンに瓜二つだったのである。『ですが上演中は座席を離れませんよう、よろしくお願い申し上げます』『わたくしの名はウィリアム、当劇場を管理するAIでございます。 すなわちここは愛しき我らの劇場。神聖なる我らの領域。 巨大移動型全天候対応劇場「ザ・シアター」』『……ご安心ください。 この劇場の中では、如何なる犯罪行為も為されてはおりません。 ここで演じられる嘘は、一切の疑い無き本物の虚構。 限りなく真実へと近づけられた仮初の舞台。 我らの誇りを掛けて、この空間は「過日の通りの姿」なのでございます』『唯一の相違は、舞台上へと姿を現した三人の客演と、始まりに命を落とした我が主人のみ』『ご堪能ください。けれどご自身を見失われませんように。 ……これは旦那様から皆様へと宛てられた、「挑戦状」でございます』 鏡の中の不気味な男は、囁くようにそれだけを告げ、ふつりと姿を消してしまった。【状況5:マスターシーン「相討ち」】
鏡の中の男・ウィリアムが姿を消すと同時、爆発音が響いた。 音が響いたのは、山荘の玄関口周辺だ。 急ぎその場へと向かえば、そこでは道化師のような装束の青年と、猫の耳を生やした女性が死んでいた。 片やヴィラン、片やヒーロー。相打ちの形で二人は死んだ。加速した疑心暗鬼の果てか、あるいは──。 残りの被害者は、あと二人。 建物の中から悲鳴が上がる。 部屋から助けを乞う声がする。【エンドチェック】
□チャレンジ判定をクリアした□ここがザ・シアターの中だと理解した【解説】
ヒーローたちが舞台の裏側に疑問を抱き、その一端を垣間見るシーン。 PCたちが「天球座の演劇の中で本当に人が死んでいるのではないか?」という疑念を抱いているのであれば、それに対して「この劇の中で死者は出ていない」という一つのアンサーを示すタイミングでもある。 PLやPCはこの時点では気付きようもないが、後編である「ナゾカケ」に繋がる情報がちらほらと出始める。 この時点では深堀りはさせず、適当なタイミングでマスターシーンを発生させ、なし崩し的に次のイベントへ進むと良いだろう。【チャレンジ2:さあ犯人はだあれ】
【マスターシーン:大切に保管された紙片】
◯爆発した玄関(早朝) 吹雪は止んでいる。 瓦礫の中で倒れているクラウン・クラウンとキャットボマー。 死亡している彼らを見下ろしている三人の生還者。 突如、屋敷の中から悲鳴が上がる。父親「助けて、助けてくれえ!」母親「いや! どうして!? 誰か、誰かーっ!」 顔を見合わせ、走り出すカーテンコールとトマス。 少年は一度振り返り、玄関を見上げてから、二人の後を追う。 玄関にかけられていたクレマチスの看板が傾き、音を立てて落下する。【状況1】
君たちが悲鳴が上がった部屋、民間人たちが隔離されていた部屋の扉を開けば、天井の梁に繋がったロープと、それに吊られて揺れている男女の死体を目にするだろう。それは巻き込まれた民間人であり、役割の上であれば、PC3の両親だった存在だ。 かくして、舞台上の登場人物は君たちだけとなる。 その時、君たちの体から、影のような人型が抜け出した。それは君たちとよく似た姿から粘土のように形を変えて、異なる登場人物のシルエットを作り出す。向き合う二人の大人、それを見ている一人の子供。 PC1から抜けだしたヴィランの影が、PC2から抜けだしたヒーローの影へ言う。「私のせいにするといい」 PC2から抜け出したヒーローの影が、PC1から抜け出したヴィランの影に言う。「君のせいにさせてもらおう」 PC3から抜け出した少年の影はそれを見つめ、拍手を送る。【状況2】
これが『本来の物語』だ。 現実の事件では、それを以て、事件は収束したのだ。 だが、何故? 何故、ヒーロー・カーテンコールはヴィランを犯人だと断じたのか? 何故、名も知らぬヴィランはその糾弾を受け入れ、自ら刑に服したのか? この事件は本当に、捕らえられたヴィランが起こしたものだったのか?【チャレンジ判定】
※この判定には全員が挑み、誰か一人が成功しなければならない。判定1:我に返る…〈心理〉失敗時:劇に呑まれ、本質を見失う。サニティを6点失い、再度判定を行う(リトライを消費する必要はない)。成功するまで次の状況に進むことが出来ない。【状況3】
君は我に返る。 いいや、違う。本質は、本題は、問題は『そこではない』のだ。 これは『劇』なのだ。 この事件そのものは、すでに決着がついた過去のもの。 だから問いかけ、考えるべき疑問は、ただ一点だけだ。『何故、マッドスクリプトはこれを自分たちに見せているのか?』 マッドスクリプトは言っていた。 この物語は英雄譚であって、推理小説ではない、と。 理解すべきは舞台上の登場人物(キャスト)の心理ではない。 物語を記した脚本家(シナリオライター)の思惑だ。【チャレンジ判定】
※この判定には全員が挑み、誰か一人が成功しなければならない。判定2:マッドスクリプトの思惑を推理する…〈心理〉-10%失敗時:劇に呑まれ、本質を見失う。サニティを6点失い、再度判定を行う(リトライを消費する必要はない)。成功するまで次の状況に進むことが出来ない。【状況4】
『ここは彼らの劇場、ザ・シアターの内部である』『劇場である以上、観客がいるはずである』『演劇の目的は、観客に、この演劇を見せることである』『管理AIであるウィリアムはPC達のことを観客とは呼ばなかった』『つまり、観客はPC達ではない別の存在である』『この再現劇と過去の事件との唯一の相違点は、最初の被害者役および、生還者の役を担っているPC3人の存在である』『この物語が劇であることを理解しているPC3人が加わることで、変化したことは何か?』【チャレンジ判定】
※この判定には全員が挑み、誰か一人が成功しなければならない。判定3:真実に辿り着く…〈心理〉-20%失敗時:劇に呑まれ、本質を見失う。サニティを6点失い、再度判定を行う(リトライを消費する必要はない)。成功するまで次の状況に進むことが出来ない。【状況5】
二人のヒーローと、二人のヴィランと、二人の民間人が死んだ。 一人のヒーローと、一人のヴィランと、一人の民間人が生き残った。 生き残ったヒーローはヴィランを犯人であるとし、ヴィランはそれを受け入れ自らの罪とした。 この事件のあらすじはそうだ。 けれどマッドスクリプトがわざわざそこにメタ推理の要素を与えてまで再現劇を構築し直したのであれば、その答えは誤りなのだ。【エンドチェック】
□犯人はマッドスクリプトだ□チャレンジ判定を終えた【解説】
事件の真相がチャレンジ判定によって明かされるシーン。 このシナリオはミステリー風の体裁を取ってはいるが、あくまで「風」だ。無理に推理をせずともシーンに沿ってダイス判定を成功させれば、必ず真相がわかる。DLHは推理ものを楽しむシステムではないので、無理に推理を促し、無用に時間を浪費させるのは、GMPL双方にとって大きな負担となるため避けるべきだ。PLたちが無理に推理に時間を裂こうとしているのであれば、GMはそういったコンセプトのシナリオであることをPLに伝えるべきだろう。 推理そのものよりも、その先にある犯人(ヴィラン)の悪意とどう対峙するか、というヒーローものとしての展開を重視して楽しんでもらいたい。【決戦:第四の壁の彼方から愛を】
【状況1】
「ブラーヴォ!」 鋭い掛け声と共に、拍手が湧き上がる。 最初は一人分の拍手だったそれは、やがて至る所から沸き上がり、ついには割れんばかりの喝采となった。 緞帳が上がるように、書き割りが切り替わるように、君たちの視界の中にあった世界が変わる。認識できなかった第四の壁が消え、舞台上から見下ろす観客席の姿が顕となる。その観客席に座る、一人の老人の姿もまた。 天球座の主人、マッドスクリプトの姿がそこにあった。老人はスタンディングオベーションを贈りながら、君たちと対峙する。「祝福あれ! 喝采あれ! 君たちは遂に真実へと辿り着いた」「さあ犯人はだあれ? 君は答えを知っているね。だって君の目の前で全て起こったのだから!」【状況2】
スポットライトに照らされ、マッドスクリプトは語る。 それはさながら追い詰められた犯人の自白であり、同時に目論見を成し遂げた犯人の種明かしでもあった。【状況3】
君たちの言葉を、マッドスクリプトは恍惚とした面持ちで聞き届ける。 そして最後に、指を一つ鳴らした。 舞台の照明が落ちる。劇場内に静寂が満ちる。「これから先のフィナーレだけは、神聖なるザ・シアターの中で行うことはできない……」「かつて虚構は真実と挿げ変わり、そして今再び虚構へと戻った。 この演目のフィナーレを、何物にも替え難い悲劇で彩ろう。 かつて悪漢と英雄の双方を手玉に取り、世へと放逐された少年は、現代を生きる英傑に討ち滅ぼされるのか? あるいはその英傑すらも飲み込んで、今再び世に大輪の悪の花を咲かせることになるのか?」「さあ、共に演じよう、ヒーロー。我々だけの、最高のドラマを!」【解説】
ヴィラン・マッドスクリプトの目的と、過去の事件の真実が明かされるシーン。 ヒーローを愛していた少年は、吹雪の山荘の中で偶然にも居合わせたヒーローとヴィラン、彼らの様子を特等席で見れる環境の中で、『何も起きずに朝を迎える』というつまらない展開を許せなかった。だから文字通り、最前席で、ヒーローとヴィランの戦いの様が見れるように脚本を書き、それは現実のものとなった。良質のヒーローショーを見るためであれば、少年は自分の両親すら、厭わずに舞台上のキャストとしてしまった。 だが、生き残ったヒーローとヴィランは、奇妙な形で物語に幕を下ろした。少年はその終わり方に納得できず、悪党・マッドスクリプトとして天球座を動かし、やがてかつてのヒーロー・カーテンコールの死期を悟って、かつてのヒーローショーのリメイクを図った。【戦闘情報】
【戦闘情報】
・マッドスクリプト・スタントマン・グランギニョル・大道具×3【エリア配置】
エリア4:マッドスクリプト、グランギニョルエリア3:スタントマン、大道具エリア2 or エリア1:PC【勝敗条件】
勝利条件:エネミーの全滅敗北条件:PCの全滅【解説】
マッドスクリプトは1ラウンド目は「用意された筋書き」を連発して、PC全員に「朦朧」を付与することを狙おう。その間は、スタントマンやグランギニョルによって、PCたちの相手をすると良い。 マッドスクリプトの「最悪の脚本」は、味方や自分をも巻き込む恐るべきパワーだ。だが臆すことなく、2ラウンド目の開始時点でさっさと使ってしまおう。【イベント:カーテン】
【状況1】
戦いは終わり、天球座一座は捕らえられる。 倒されたマッドスクリプトは奇妙なほど従順に捕らえられ、超人種収容所ロックウェイブ島へと送られた。 戦いを終えた君たちは、今回の事件の被害者、元ヒーロー・カーテンコールのもとへと足を向けた。【状況2】
ふと、君たちは、彼の唇が戦慄いていることに気づく。何かを必死に伝えようと、言葉を絞り出そうとするように。 生命維持装置が警告音を鳴らす。彼の体に強い負荷がかかっているのだろう。けれどもカーテンコールは必死に口を動かしていた。命と引き換えにしてでも、君たちに何かを伝えようとするように。 君たちが彼の言わんとした短い言葉を理解するのと、カーテンコールの命が潰えるのはほぼ同時だった。 心電図の音が一定へと変わる。 付き添いの医師や看護婦が慌ただしく動き始める。 その様を見届けながら、君たちの中には、一人のヒーローが最期に残した短く謎めいた遺言が渦巻いていた。【解説】
この余韻フェイズは次回へ続くために必要な引きだ。 登場はPC全員となっているが、PC同士の情報共有が可能ならば3人のうち誰か一人が立ち会っていれば十分だろう。 またこの余韻フェイズの他に、各PCの個別の余韻フェイズを演出しても良い。各々のやりたいことをやりきった後、【次回予告】を読み上げよう。【次回予告】
【次回予告】
かつての少年は捕らえられ、かつての英雄は死に至った。 では、かつての悪漢は? この事件が解決した一週間後、君たちのもとに一報が入る。 ロックウェイブ島・収容所内にて殺人事件が発生。 事件の容疑者の名は──ヴィラン・マッドスクリプト。【獲得経験点】
・初期グリット:4点・クエリーグリット:3点・リマークグリット:想定3点------------------------------------------合計:10点【登場人物一覧(ネタバレ含む)】
■キングスマン
ヴィラン。一人目の被害者として最初に死亡する。マッドスクリプト本人が演じる役。 このシナリオにおいては、その名前や容姿が判明するのは「チャレンジ1」の結果を受けてとなる。 燕尾服を身に纏った紳士的な中年男性。その容姿は天球座のAI「電脳執事ウィリアム」に瓜二つである。■クラウン・クラウン
ヴィラン。三人目(四人目)の被害者となって死亡する。 霊能型のサイオン。愉快犯じみた小悪党。犯行の動機は社会に対する鬱屈。 能力はさほど高くはなく、自分よりも高い実力を持った存在の影に隠れながら、ヒーローたちを翻弄する戦法を得手とする。 道化ぶった言動は臆病の裏返しであり、不利な場面になると真っ先に逃げ出す小心者だった。この吹雪の山荘に於いては逃げ場を失い、精神を追い詰められていく三下。「こんなところに居られるか! 俺は部屋に戻るぞ!」■トマス・ディラック
PC1が演じる、生還したヴィラン。 さまざまなヴィランネームを名乗って活動していたヴィラン。捕らえられてからは本名で報じられることが多い。 PCが自発的にこの事件の知識を有していない限り、後編になるまでその名が上がることはほとんどない。 現在はロックウェイブ島に収容されている。■シルバーブシドー
ヒーロー。二人目の被害者となって死亡する。 過去に婚約者をヴィランによって殺された剣道道場の師範。 その憎しみからヴィジランテとなり、剣の技を戦いに用いるようになった。 当初はヴィラン殺害を厭わぬ過激派ヒーローだったが、数多の戦いと出会いの中で生来の落ち着きを取り戻していく。 この状況に於いても極力冷静に対応しようと努めているが、心の底に燻る憎悪は、時折不穏な言動となって表出する。「信じなければ信じてもらえない。分かってはいる。……分かってはいるさ」■キャットボマー
ヒーロー。三人目(四人目)の被害者となって死亡する。 改造され、動物のDNAを後天的に会得したエンハンスド。 猫のように見える有機的爆弾を用いて戦う。 無口な性格で、滅多に口を開かない物静かな女性。しゃべらない理由は語尾ににゃがついてしまうのが恥ずかしいから。「…………にゃ」■カーテンコール
PC2が演じる、生還したヒーロー。 このシナリオにおいては、その名前や人格が判明するのは「チャレンジ1」の結果を受けてとなる。 ヴィラン・トマスを犯人として捕らえ、少年と共にこの惨劇を生還した。 以後もヒーローとして活動を続けるが、重度の人間嫌いであり、気難しい性質のヒーローだったという。 何年か前にヒーローを引退したが、セカンド・カラミティの際に近隣住人の救助のため奔走。 生還するも重傷を負い、現在は全身不随の状態。余命数ヶ月。■民間人の家族
民間人3名。二名死亡、一名生還。この事件の最後の被害者となる。 とある裕福な家庭の家族。父、母、子の三人でこの事件に巻き込まれた。 故人に配慮され、その名は公開されていない。 息子と共に毎年恒例となっていたウィンターレジャーへと訪れた際、この吹雪と事件に巻き込まれた。「大丈夫、きっとヒーローが守ってくれるよ」