ハウス・オブ・Z



「操り人形としての生を望むか、盤上の駒に甘んずるか」「ヒトの体はそれそのものがテセウスの船だ」「あなたに呪いをかけましょう」
━━その世界の名前は。

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 ─

【事前注意】


 DLHキャンペーン、『アポトーシス・ザ・ビースト』シリーズの最終話となるシナリオです。前話『ハウス・オブ・A』から直接ストーリーが続いている部分が多いため、単発でのセッションには非常に不向きです。ご注意ください。 このシナリオは前後編のシナリオとなります。『ハウス・オブ・Z』は後編に当たるシナリオです。 公式ヴィランNPCがヴィラン組織の枠を超えて多数登場するシナリオとなっています。世界観用語も頻出する為、基本的には、GM・PL共に、DLHに慣れている人向けのシナリオといえるでしょう。

【事前情報】


 クエリー:3(内戦闘1) チャレンジ:2 初期グリット:3 リトライ:3 バトル:2
 想定時間:6〜7時間 推奨経験点:30点〜40点

【エントリー】

【共通エントリー】

 キーン条例可決の裏に、フォーセイクン・ファクトリーとA-Zの暗躍があることを知ったPC達。 命を落としたエターナル・ウィドウの遺言に従い、決戦へ赴いた君たちは、世界の終焉を垣間見ることとなった。 そこに響いた「リセット」の声。気づけば君たちは、鏡に覆われた、奇妙に紅い空間で目を覚ます。「さてヒーロー、一度しか説明しないからよく聞けよ」 君たちの前に、未来人バスカが立っていた。

【シナリオサーキット】

----------------【導入フェイズ】----------------

【共通エントリー:最初に戻って終わりから】未来人バスカから何が起きたのかを告げられ、過去の書き換えを提案される。

----------------【展開フェイズ】----------------

【チャレンジ1:賽の目は嗤う】 第一話「賽の目は嗤う」の時系列に飛び、過去の書き換えを行う。

【チャレンジ2:アポトーシスのゆりかご】 第二話「アポトーシスのゆりかご」の時系列に飛び、過去の書き換えを行う。

【クエリー1&バトル1:ハウス・オブ・A】第三話「ハウス・オブ・A」の時系列に飛び、A-Zの取引に干渉する。未来人バスカが死亡する。現れたナイアーラトホテプと道中戦闘を行う。

【クエリー2:ハウス・オブ・Z】鏡面迷宮にてコル・タウリと問答を行う。

【クエリー3:アポトーシス・ザ・ビースト】セカンド・カラミティ当日の時系列に飛び、過去の書き換えを行う。A-Zが妨害を行い、最後の問答を行う。

----------------【決戦フェイズ】----------------

【決戦:A-Z】 A-Zと戦う。

----------------【余韻フェイズ】----------------

A-Zの最期を見届ける。過去の書き換えを完了する。君たちの望んだ世界へと帰る。

2.導入フェイズ

【イベント1:最初に戻って終わりから】

登場キャラクター:全員舞台:???

【状況1】

「おはよう、ヒーロー! おっといきなり武器を向けてくれるなよ。 私の導を失えばお前たちはあっという間に時空の藻屑だぞ。 それともコル・タウリの呪いでも受けたいか? 止めとけ、止めとけ! 割に合わんぞあんなもん!」「訳が分からん、といった顔だな。マ、よかろう。説明の時間だ。長くなる、楽にしたまえ。 欲しいものがあれば念じれば出てくるぞ、そういう便利な空間だからな」 そういうとバスカの目の前に安楽椅子とトロピカルジュースがどこからともなく姿を現した。バスカは何も気にせず、椅子に座り、ジュースを口に運ぶ。 君たちが各々話を聞く体勢になったのを確認し、バスカは口を開いた。

【状況2:説明パート】

(めちゃくちゃ長いので、適宜情報を出すように)
「まず端的な前提を話そうか、お前たちの世界は消滅した」「いくつか要因はあるが、トドメはあの馬鹿(デラックスマン)が最後の引き金を引いた結果だよ」「そういきり立つな! よくある話だ、そう珍しいものでもない。プライムバースはとにかく不安定だからな。おかげで観測し甲斐があるというものだが」「さて、まずは『バース』と『世界線』と『時間軸』について、改めてこの次元のものを定義せねばなるまい。お前達、多次元物理学についてはどこまで修めた?」
------------------------------

*【この世界の構造について】

「この世界はマルチバースと呼ばれる多面世界線の集合によって構築されている。お前たちにとって耳馴染みの良い言葉をいうのなら、いわゆるパラレルワールドだ」「決戦(クライマックス)で勝ったか、負けたか? 問いかけ(クエリー)への答え、挑戦(チャレンジ)の結果。始まりの場に立った(エントリーした)のは誰だった? その可能性と、組み合わせの分だけ『世界線』というものは生み出される」「その世界線の中でも、世界線規模で見れば比較的揺らぎの少ない世界線同士の集合体を『バース』と呼ぶ。あるいはヴァス(韻文)か……これは古臭すぎる言い回しだな。 お前たちにも分かりやすい一例を出すのなら、『セカンド・カラミティが起き、大勢のヒーローが死に絶えた世界』を前提としている世界線の集合体で、一つのバースだ。 観測者(ウォッチャー)はこの世界線を『プライムバース』と呼んでいる。英雄の世界! 笑える皮肉じゃないか、エエ?」「時間軸は、世界線よりも更に小さな単位だ。全ての世界線は、時間という一瞬の連続体によって構築されている。 現在とは観測不可能な一単位であり、認識と同時に『過去』となる世界の最小単位……要するに現在・過去・未来と称される時間の流れだ。その程度の認識で構わん」

*【何が起きたかについて】

「次に、お前たちの世界線が何故消滅したかについて」「A-Zという、不死の生命の創造を……いや、違うな。『人類の改変』を目論むヴィランが居た。 こいつは度重なるヒーローとの戦いと敗北の中で、自身の野望の達成のために『現実改変』、すなわちリランチに目をつけた。夢見る癌と称されるハービンジャーの力を利用した1度目のそれが、お前たちによって破られたのは知っての通り」「夢見る癌の現実改変能力では、A-Zにとっては不足だった。そのため、A-Zは異なるアプローチを考えた。もっと大きく、根本的な現実改変を引き起こす為に。 さて、ではプライムバースで起きた最大規模の現実改変は何か? 『ファースト・カラミティ』だよ」

*【ファースト・カラミティについて】

「『ファースト・カラミティ』が起きたとき、それまでこの世界を牛耳っていた神話、妖怪、物語、歴史、あるいは世界の常識は『偽りの彼方(ネガティヴ・プレーン)』と呼ばれる領域へと吹き飛ばされ、消滅し、新たな常識が世界を斡旋した。世界は一度再起動した」「それによって『ヴィクトリアン・エラ』や『コトアノゲセヌ国』といった異世界概念が誕生し、地球との接続が為され、かつては存在しなかったはずの常識が、『すでにあるもののように』語られるようになった……さて、時に、世界五分前仮説というものを知ってるか?」「極論を言おうか。超人種が生まれたのは『ファースト・カラミティ』以前とされているが、それすら後付けされた認識と歴史に過ぎないかもしれないということだ。あの世界は『ファースト・カラミティ』によって生まれたとしたら?」

*【揺籃の神々について】

「それを起こした存在こそが『揺籃の神々(グリブ・ゴッズ)』」「何? 一度会っている? ふゥむ、それは大いなる勘違いだなヒーロー。あの癌細胞を揺籃の神々と称しているのはあくまで観測される側の、世界の内側の人類でしかなかったはずだ。あれはただの神に等しい力を持っただけのハービンジャーに過ぎん。揺籃の神々はそれすら凌駕……ふむ、この言葉選びもおかしいな。『定義』する」「揺籃の神々とは、いわば我々個々人を司るアカシック・レコード。我々という存在を定義し、その選択、行い、進む道、世界のルールを定義する存在だ。世界が一冊の本、一つのシナリオだとするのならば、そのシナリオを作り出し、読み解き、その中で生きる我々の行いを想像し創造する者たち。今こうして語っている私の言葉すら、揺籃の神々に与えられた役割の一つと言っても過言ではなかろう」「揺籃の神々は、我々の行いを定義する。だが必ずしも、我々の運命そのものを操れる訳ではない。彼らが干渉できるのは過去だけだ。そして彼らはシナリオを作り、レールを作るが、何より予定調和を嫌う。あるいは干渉できぬ領域を持つというべきか…。 案外、揺籃の神々というのも、レイヤーが違うだけで大した存在ではないのかもしれんな。 兎角、彼らにも逆らえぬものはあるということだ」

*【何が起きたかについて2】

「話を戻そう」「A-Zが目論んだ計画とは何か? 『ファースト・カラミティ』と同様規模の現実改変をもう一度引き起こし、今の世界のシステムを『偽りの彼方(ネガティヴ・プレーン)』へと捨て、世界のシステムそのものを新たに書き換えることだ。 奴が世界に新しいルールを加えるとしたらなんだと思う? 簡単に想像がつくだろう。『この世界では誰も死にませ〜ん』、だよ」「それを叶えるために、やつは調査を重ねた。神に類するハービンジャーの精神に干渉(アクセス)したことが発想の発端とするのなら、ザ・ティーチャーの継続され続けてきた記憶が最後のトリガーとなった。 全く何を見たのやら。ザ・スローター召喚の儀式について? それとももっと別のもの? 継承され続けてきたあの男の記憶はブラックボックスだ、簡単に触れるもんじゃあない」「何が起きたのか、何をしたのか。正直なところ、その過程も、方法も、私には分からん。だが結果だけは分かる。お前たちが当初いた世界線は「偽りの彼方」へと吹き飛んだ、それが事実(ファクト)だ」「事実上の消滅が確定した世界から、私は私とお前達三人だけをサルベージした。その結果、世界の再起動はエラーを起こし、一時停止が為された状態にある。デッドラインで持ち堪えているのさ、辛うじてな」------------------------------

【状況3】

「だが……勘違いするな。世界の消滅なんてものは、全く珍しい話じゃない。 あのデラックス馬鹿やそれ以外の馬鹿どもがウッカリ引き金を引くのだって、 お前達が守り損ねるのだって……敢えて言おうか、『よくある話』だ」「いつもの私ならば、一々そこに干渉しようとはせんよ。 いや、戯れにする私もいるかもしれないが……ま、いいさ。 今の私が観測を超え、干渉し、 迷宮の支配者の真似事などしてお前達を拾い上げた理由は、 その鏡を覗けば分かる」
 バスカは鏡の一角を示す。その一角の鏡の中に映された、ここではないどこかの世界にノイズが走り、映像が消滅し鏡が何も映さなくなる。一つの鏡が消えれば、その隣の鏡が、そして次はその隣が……連鎖するように、モニターの映像を消すように、世界の光景が消えていく。「消滅の連鎖が起きている」 未来人バスカは言う。
「奴の書き換えの影響だ。一つの世界線が偽りの彼方へ呑まれたことをきっかけに、その近縁の世界から、次々に同じ現象が起きている」「言っただろう、『ファースト・カラミティ』は世界線単位ではなく、『プライムバース』全体規模の現実改変だ。そこに下手に干渉してみせろ、その影響が一つの世界線のみならず、バース全体に波及するのは想像に難くあるまい。フォルダを一つ削除すれば、その中のデータが全て消えるのと同じだよ。 これはいささか困った事態だ。私はコル・タウリの爺のような枯れた精神は持っちゃいないからな。バスターバースなんぞに引っ越すのは死んでも御免だぞ、プライムバースはそれなりに居心地が良いのだよ」「だから貴様らを拾い上げたんだよ、ヒーロー。英雄の世界線の象徴たるお前達をな」

【状況4】

「エターナル・ウィドウも、この事態に気付き、自力で解決しようと繰り返していた。だが、奴では届かなかった。理由は……ま、『縁』が無かったからとでも思っておくことだ」「お前達は違う。お前達は『縁』を持っている、運命を手繰る為の糸をな。それを辿り、『お前達の手で世界線を書き換える』必要がある」「一度生じた世界線を完全に無かったことには、何人であろうと出来ん。だが、そこに運命を付け足し、新しく書き換えていくことなら可能だ。一度書き終えた小説を頭から推敲し直すように、な」「要は、あのAIがこれまでに起こしてきた要素を、一つ、一つ、全て潰して……この極限状況(デッドライン)から、ものの見事に逆転してみせればいいというわけだ。慣れたもんだろ? 以上、説明終わり!」 未来人バスカはニヤリと笑い、君たちへ告げた。「過去へ飛ぶぞ、ヒーロー」

【エンドチェック】

□未来人バスカの説明を聞いた□過去へ飛ぶ覚悟を固めた

【解説】

 前話『ハウス・オブ・A』でA-Zが何をしたかということと、このシナリオのテーマの一つとなっている「世界線」「プライムバース」「揺籃の神々」について、このシナリオ上の説明を行うシーンである。 説明が非常に多く、ややこしいため、文章量も非常に多い。GMは全文を読み上げるのではなく、適宜要約したり割愛したりしながら進めて欲しい。何なら情報項目として、幾らかの内容は文章で渡してしまってもいいぐらいだ。 このシナリオにおける揺籃の神々については、要するにPLやGM達といった、第四の壁の外側にいる者達のことを指している。 PC達が(あるいはPL達が)話を理解したら、次へと進める。 準備パートや、前話の戦いから立ち直るようなシーンを要したいとPLが思うのであれば、ここで済ませてしまうのが良いだろう。 バスカが行なった処理としては、「再起動(リランチ)」の判定に「リセット!」を使用して、ダイスを振り直す直前でPC達と自分たちを世界線の狭間である鏡面迷宮へと逃れさせ、「再起動(リランチ)」にエラーを起こさせた、というようなイメージだ。とはいえこの辺りは詳しく考えてもしょうがないので、「とりあえずそういうことになった」程度の認識で構わないだろう。

3.展開フェイズ

【チャレンジ1:賽の目は嗤う】

登場キャラクター:PC全員、ゲーム・マスター、テクノマンサー、ガラテイア舞台:第一話

【状況1】

 一つの鏡の前で、未来人バスカが言う。「A-Zが書き換えた世界をさらに書き換える為、お前達を過去へと送る。 鍵となる要素は主に3つ。まずはその内の1つ。 『「ポストヒューマン」と呼ばれる改造人間を、A-Zに作らないようにすること』」「後手に回った過去を書き換えろ。今のお前達ならば、『先手が打てる』」 君たちは過去へ飛ぶ。

【状況2-A:第一話のPC1】

「これで私を追い詰めたおつもり?」 激しい戦いの末、君は大勢のヘンチマンを倒し、メイヘムの幹部である女──マダム・ヘルを追い詰めることに成功した。 戦いによって、君も彼女も既に手負い。これ以上戦いが長引けば、どちらかが命を落とす戦いになるだろうことは明白だった。しかし、マダム・ヘルが引く気配はない。「私はあなたを殺せるけれど。……あなたは私を殺せるかしら、ヒーロー?」 荒い息を吐きながらも、彼女は君を嘲るように、挑発するように告げる。 ……たとえ死んでも、彼女はこの場を譲らない気だ。君には、それが理解できた。
 ──だって、この状況を、君はもう知っている。 この「後」、何が起きるのかだって、君は知っている。

【状況2-B:第一話のPC2】

 ここはロックウェイブ超人種監獄。超人種犯罪者のみを収容し、超人種の看守のみで収められる、世界一厳重な海上刑務所。 君はいま、その監獄の面会室を訪れている。 特殊ガラスを挟んで君と相対しているのは、君の知人であった、とあるテクノマンサー。 彼は『誘拐』と『殺人』、『違法生体改造』の罪で逮捕された。彼の自宅から、肉体改造を施されたホームレスや、行方不明になっていた子供達が、死体となって発見されたのだ。死体となった人々には、改造手術を施された痕跡や、人体実験のあとが色濃く残されていた。 しかし、君の知るその男は、そんなことをするような人間ではなかった。そのため、君は彼にいったい何があったのかを問い詰めるために面会を申し込み、ようやく相対することが出来たのだ。「よお、良くきたな」 テクノマンサーは君に声をかける。朗らかな言葉とは裏腹に、その顔はげっそりとやつれ、憔悴が見て取れた。テクノマンサーは申し訳なさそうに瞳を伏せ、君に告げる。「……こんな形で、お前に会うことになるとは思わなかった」
 ──君は、彼が何故そんなことをしたのかを、もう知っている。 この「後」、何を頼まれるのかだって、君は知っている。

【状況2-C:第一話のPC3】

 君はある日、街中を歩いていた。人通りの多い道を進んでいた時、街中の街頭テレビが、ショーウィンドウに配置されたモニターが、すれ違う人々の通信機器が、一斉に一人の少女の姿を映し出した。『ヒーロー・(名称)に告ぐ。私の名はガラテイア』『その道を40m歩き続けた先、黄色の看板の店の脇道に入れ。その後、左に三度、右に二度曲がれ。 五分以内に到着しなかった場合、一分を経過する都度、この街の人間を無差別に一人ずつ殺す』 通信はそれで切れてしまう。街の人々は突然の出来事にざわざわとざわめく。 ガラテイアといえば、ゴッズ・4・ハイアによって作られたAIの名称だ。常ならば舞台裏での戦いをホームとするはずの彼女が、どうしてこんな派手な方法を…? 君が正面を見れば、確かに少し離れた先に黄色の看板を掲げたヘアサロンがあり、路地裏に通じる脇道が伸びていた。
 ──君は、ガラテイアが何故こんなことをしたのかを、もう知っている。 この「後」、何が起きるのかだって、君は知っている。

【状況3】

「月夜の中で逃げるヴィランに追うヒーロー。このチェイスの結末は如何に? 美しき破滅の終焉、華やかな逆転劇、ご都合主義の三文芝居。 何か一つを選ぶのならば、運命の女神が微笑むのはどちらか!」 月明かりに照らされながら、派手なマスクで顔を隠し、マントを翻した、君のよく知る超人種が姿を現す。
「……正直なところ、何で自分があんなことをしたのか、全く分からないんだ」「……その『後』のことも、お前に任せるよ」 テクノマンサーはそう言って、面会終了時間が訪れる。
『ハロー、ヒーロー。時間内の到着、まずは合格です』『これは依頼ではありません、命令です』『返事は? ヒーロー』 ガラテイアが君に拒否権の無い選択を迫る。
-----------------------------【チャレンジ判定】【判定1】■ゲーム・マスターの自宅へと先回りし、彼がA-Zと接触するのを止める…任意の技能(君は既にゲーム・マスターが何者であるか、彼がどこに住んでいるかを知っているはずだ)【判定2】■テクノマンサーを引き止め、彼に真実を伝える…任意の技能(君はテクノマンサーが何故人体改造事件の加害者になってしまったか、そして研究所で何が彼を待っているのかを知っているはずだ)【判定3】■ガラテイアを説得し、味方につける…任意の技能(君はガラテイアの本当の目的と、その結果を知っているはずだ)
【失敗時:決戦時、PC達は「BS:疲労」「BS:不調」状態で決戦に突入する】-----------------------------

【判定結果】

 自宅を特定されたゲーム・マスターはA-Zの干渉を受ける前に君に捕らえられ、囚人の誘拐と虐殺という大規模な悪事に手を染めずに済む。今の彼ならば、力を手に入れて暴れる、ただの迷惑な超人種な若者という立場に留まれる。 テクノマンサーは君によって真実を知り、彼や多くの科学者達を操って集合知を作ろうとしているA-Zの存在が、早期段階で改めて明るみに出る。これによって、警察やG6などの社会が、対A-Zへの警戒心を高めていくことになる。 ガラテイアは調べようとしていたA-Zの目的が自分の眼鏡に適うものではないと悟り、A-Zではなく君に関心を持ち、協力可能となる。彼女の協力を得れば、インターネット上で蠢くA-Zの行動を効率よく妨害することができるだろう。 これらの妨害により、A-Zが「ポストヒューマン」を作り出すために必要だった「試行回数の短縮」「集合知の形成」「被験体の確保」の全てを不成立にし、A-Zによる「ポストヒューマン」の創造は未然に防がれることとなる。

【エンドチェック】

□ポストヒューマンの創造を未然に防ぐ

【解説】

 第一話「賽の目は嗤う」の世界を舞台としたチャレンジ判定。 いわゆるタイムリープだ。この時、PCの肉体が一つしかないのか(過去の肉体の中にPC達の意識が入ることになるのか)、当時のPCと未来のPCで二つの肉体っが同じ時間軸に存在するのか(当時の時間軸の自分に気付かれないよう裏から干渉していくのか)はその卓ごとに自由に決めてしまって良いだろう。

【チャレンジ2:アポトーシスのゆりかご】

登場キャラクター:PC全員・夢見る癌・???舞台:第二話

【状況1】

 一つの鏡の前で、未来人バスカが言う。「一つ目のキーの阻止は成功したようだな。 では次は二つ目のキーだ。『集団蘇生事件を起こさせるな』。 要するに、『「夢見る癌」がA-Zの交渉に応じる余地を無くせ』ということだ」「A-Zよりも早く、NASAへアポを取れ。そしてA-Zよりも早く、「夢見る癌」を眠らせろ。今のお前達ならば、先手を打てる」 君たちは過去へ飛ぶ。

【状況2】

 君たちは、まだ何も起きていないNASAへとやってくる。 まだ目の下にクマを作っていない職員が、怪訝そうに君達の対応に当たった。「はあ、それで、ヒーローさんが三人も、何のためにここに?」 まだ「夢見る癌」の観測は成されていない。だから、「夢見る癌」の人類への、地球への接触も起きてはいない。 だが、君たちは既に、それがそこにいることを知っている。
-----------------------------【チャレンジ判定】【判定1】■「夢見る癌」を観測し、接触する…科学+10%/知覚(NASAはまだ気づいていないが、君たちは冥王星の彼方に、あのハービンジャーがいることを知っている)【判定2】■「夢見る癌」の交信に耐え、話をつける…交渉/意志/生存(夢見る癌の「声」は強力だ。それを耐え、彼と交渉を行おう)【判定3】■「夢見る癌」を眠らせる為の人員を確保し、手段を確立し、彼を眠らせる…作戦-20%/霊能-20%(『ハウス・オブ・A』のPC1が挑む場合、マイナス補正なし)(夢見る癌の願いに応えられる、彼を「眠らせられる誰か」を確保しよう)
【失敗時:決戦時に『BS:孤立」を受けた状態で決戦フェイズを行う】-----------------------------

【判定結果】

 「夢見る癌」はNASAではなく、PCたちに発見されることにより、PCたちへ最初に接触を果たす。 提案される内容はかつてと同じ。「地球の生命を半分に減らして欲しい」「それが駄目なら、世界そのものに眠りについてほしい」というものだ。 かつてはその問いに、明確な解決方法を君たちは提案することが出来なかったかもしれない。しかし、今は違う。 君は「夢見る癌」との双方の同意があれば、「夢見る癌」を眠らせられる可能性の一端を既に知っている。かつてA-Zが自身の力でそれを成し遂げたように、君たちにも可能であるのだと知っている。
 では、それが可能な人員は? PC達自身は、この先も戦いに奔走する必要がある。であれば別の誰かだ。誰かの人脈を使うこともできるだろう。そう、例えば……G6のミスティック代表、エターナル・ウィドウなど。 全てのチャレンジ判定に成功すれば、君たちは「夢見る癌」を再び眠りに落とすことに成功し、A-Zが「夢見る癌」へ干渉する余地は消え、世界に「集団蘇生事件」は発生しなくなる。

【エンドチェック】

□集団蘇生事件の発生を防ぐ

【解説】

 第二話「アポトーシスのゆりかご」の時間軸を舞台としたチャレンジ判定だ。チャレンジ1の書き換えの効果により、まだNASAは夢見る癌を発見しておらず、転じてA-Zが接触していることもない。 夢見る癌とのやりとりは、第二話の描写やセリフをそのまま転用してしまうと楽だし、雰囲気が出るだろう。当時は答えを出せなかった問題に、今の君たちは胸を張って、可能性を提示することが出来るはずだ。 PC達がエターナル・ウィドウの協力を仰ぐことを選んだ場合、エターナル・ウィドウとどう連絡を取るかが問題となってくる。エターナル・ウィドウはこの時点で幾度目かの周回を終えている状態であり、PC達が未来の時間軸から来た者達であることを悟れば、感涙しながら協力を約束する。ドラマティックに演出してやるといいだろう。

【バトル&クエリー1:ハウス・オブ・A】

登場キャラクター:PC全員、ファクト、モリアーティ、A-Z、???舞台:第三話

【状況1】

 一つの鏡の前で、未来人バスカが言う。「二つ目のキーの阻止も成功したか! 良いペースだ! では次は最後のキーだ。 『A-Zがフォーセイクン・ファクトリーに引き渡されるのを阻止しろ』だよ」「前二つの阻止で、A-Zの力は大分削いだと言っていい。だがまだ不十分だ、結局のところザ・ティーチャーの記憶が一番のブラックボックスだというのは変わらんからな。可能性は極力減らすに限る」「お前達を取引があった夜へと飛ばす。この『縁』はお前達ではなく私の『縁』をたどらざるを得ないが、あとは流れでどうにかしろ」 君たちは過去へ飛ぶ。

【マスターシーン/取引現場】

 巨大なエアポートにて。ヘリから降りてきたのは、アーガット・オン・ザ・ゲームの首領、ジェームズ・モリアーティ。 それと対峙するのは、背後に構成員を従えたデラックスマンだ。「この度はお買い上げくださりありがとう! 出迎えは君だけ? 買い付けた商品の確認もしないとは、統括者様は随分と雑な買い物をなさる。悪い誰かに騙されやしないか心配になるよ」(特別意訳:呼びつけておいて部下に対応任せとはいいご身分だなこの野郎の意)「ご忠告ありがとう。我らがザ・ティーチャーは現在多忙を極める身でしてね、あなたにお会い出来ないことを彼も残念がっていましたよ。なに、ブローカーとしての貴方の腕を信頼してこそです」(特別意訳:お前程度にティーチャーが割く時間なんぞあるわけねえだろ余計なこと言わずにさっさとブツを置いていけの意) 薄寒い会話の裏で、彼らは朗らかな握手を交わし、並び立って屋内へと歩いていく。その背後に各々の部下が続いた。「ははは、これは世辞がうまい! 良い取引にしましょう」「ええ、期待しています。それで、商品は?」「もちろん、こちらに。ウチのフランケンシュタイン博士にちょっかいをかけてきたところを、うま〜くこう、キュッと」 モリアーティがジェラルミンケースを開く。その中には青白い光を放つ、掌大のキューブが入っていた。デラックスマンが確認したのを見てとって、モリアーティは素早くケースを閉ざす。「ほう、これは面白い。魔術による拘束ですか」「ええ、こうなってしまえばAIだろうとなんだろうと肩無しですよ。しかし御社がわざわざこんなものを求めるとは、いささか意外ですな」「先ほども言ったように、セカンド・カラミティ以降は我々も多忙続きでしてね。そろそろ新しく、精度の良いパソコンが欲しかった所なんですよ」 二人のヴィランは談笑しながら屋内へと消えていく…。

【状況2】

 君たちは頬を撫でる強風によって意識を覚醒する。 コンテナに囲まれた、どこかの埠頭のような雰囲気の場所だった。しかし潮の臭いも、波の音も聞こえず、強い風が周囲を渦巻いているばかりだ。 コンテナの影に隠れるように未来人バスカの姿があった。「気が付いたようだな。ここがどこか? ハッ、知ったらひっくり返るかもしれんな?」「ああ、大きな声を出すなよ。孤立無援で包囲されたくはあるまい」 未来人バスカはそう言うと、君たちを連れコンテナエリアの外に出る。 埠頭かに思われたそこは、実のところただの高台でしかなかったようだ。連れられた先、君たちはここがどこであるのかを知った。──遙か眼下。武装した少年兵たちが、教官の指示を受けながら軍事教練に励む。──視線の先。誘導員の指示に従い、多数の戦闘機が格納庫へと収納されていく。──窓の向こうで。白衣を翻した科学者たちが、何事かを談義しながら複雑なコンソールへと向き合う。 高台から見下ろすそれは、高度な科学力に支えられた軍事要塞の姿だった。何より驚くべきことは、その要塞は、紛れもなく、空を飛んでいるということだ!「空中要塞ディーバロンへようこそ、ヒーロー。さあこっちだ、見つからんようについてこい」

【状況3】

 君たちはバスカに案内され、ファクトの構成員たちに見つからないよう警戒しながらディーバロンの中を進む。「モリアーティとデラックスマンの取引先はこの先だ」「アーガット・オン・ザ・ゲームは人攫いの能力にかけては右に出る者はおらん。たとえそれが実体を持たないAI相手だろうとな。科学(テクノ)がいかに勢力を増そうとも、全てを支配できる時代はとうの昔に消え去った、幻想(ファンタジー)と魔術(ドリーム)はもう一つの現実として支配領域を広げている……要は狙った相手が悪かったということだ。理の違うものを相手にA-Zの非実体優位性は働かん」「モリアーティからデラックスマンへA-Zの身柄が引き渡される時、A-Zは、その存在の全てを一箇所にまとめられているはずだ。どんな手を使ったかは知らんがな。要はコピー&ペーストで逃げ出すことが出来ないということだよ、そこを叩く──今が一番のチャンスだ。A-Zを殺せ」

【状況4】

 バスカの提案を肯定しても、否定しても、場の時間は容赦なく進む。 破壊にせよ、回収にせよ、現在が千載一遇の好機なのは事実。 そしてこの場でA-Zの取引を見逃せば、あの未来が繰り返される可能性は高い。「お喋りはここまでだ。一気にパーッと行ってパーッと奪ってパーッと逃げるぞ、さあ行……な、なに!? ぎゃあああ!!」 しかし駆けだそうとしたその時、未来人バスカが悲鳴を上げた。 彼の体がひとりでに宙へと浮きあがり、その胸からメリメリと、玉虫色の何かが生えてくる。「しまった、ここで、ここで貴様か!? 分からず屋め!! グワァーッ!!??」 玉虫色の液体のようだったそれは、人の腕の形を取り、 次の瞬間未来人バスカの体を八つ裂きに引き裂いた。 未来人バスカは絶叫を上げて絶命する。 ボタボタと頭上から降り注ぐ鮮血がひとりでに魔法陣の形を形作る。 そうして姿を現したのは、眩い黄金の装飾に身を包まれた古代の王。 果たしてこの場に彼の名を知る者がいたか否か。 すなわち、ネクロポリス・ナイツが王、ナイアーラトホテプの姿だった。 ナイアーラトホテプは泰然と周囲を見回し、君たちヒーローへと視線を向け、告げた。「──操り人形としての生を望むか、盤上の駒に甘んずるか?」「我は違う」
 ディーバロンの中で突如として始まったヒーローとナイアーラトホテプの戦い。 モリアーティは肩を竦め、デラックスマンは眉間を揉んだ。「マ、どこの組織にも汚点ってのはあるものですし!」「ご理解賜り感謝する。場所を変えようか。客人への対応は部下たちに任せよう」 二人のヴィランはA-Zが詰まったキューブを持ち、その場を立ち去っていく。 入れ替わるように、かけつけた数多の構成員たちが、その場にいる全員へ銃を向けた!

【クエリーグリットを追加し、道中戦闘へ】

【バトルクエリー1:戦闘情報】

【エネミー】

・ナイアーラトホテプ×1

【エリア配置】

エリア2:ナイアーラトホテプエリア1:PC

【勝敗条件】

勝利条件:「ナイアーラトホテプを倒す」or「エリア4にいる状態でラウンドを終了し戦場を離脱する(エリア4でラウンドを終了したキャラクターごとに離脱するか否かの選択が可能)」敗北条件:PCの全滅

【備考】

■エリア1〜4を『エリアタイプ:ディーバロン』として扱う ラウンド開始時にエリア1~4にいる全てのキャラクターに1d6+2点のダメージを与える(※ナイアーラトホテプも目標とする)
■この戦闘で[死亡][絶望]は[戦闘不能]として扱い、ここで[戦闘不能]になったPCは休息でエナジーを回復することが出来なくなる。 PCが全滅した場合は、残念ながらバッドエンドだ。PCたちはナイアーラトホテプに皆殺しにされ、世界は再起動されることになるだろう。

【ナイアーラトホテプ・セリフ例】

「何故抗う……何故従う……」「我に抱くその怒り……その憤り……それこそが、まさしく我が心の全て……」「今こそ……揺籃の神々へと鉄槌を……!」「盤上の駒に……甘んずる必要がどこにある……!」「この世界は『我ら』のものであるというのに──…!」(エナジーが0になったなど)「ぐぐ……呪縛……システム……おのれ……!」
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【状況5:戦闘終了】

 君たちはナイアーラトホテプの手を逃れ(あるいは彼を倒し)、ディーバロンの中を駆ける。 しかしそのころにはすっかりデラックスマンの指示が行き渡っていたらしく、 どこへ逃げても武装した構成員たちが待ち構えている。 案内人であった未来人バスカの姿は最早なく、まさに袋の鼠。ここまでなのか? そうした不安が脳裏を過った時、頭の中で声がした。『こっちへ』『赤い糸を辿っておいで』 視界の端に、蜘蛛の糸のように細い赤い糸が見えた。 それは君たちを導くように、迷宮めいた要塞の中を続いている。 敵の攻撃をかいくぐりながら糸を辿れば、やがて物置のような部屋にたどり着いた。 赤い糸はその部屋の中に置かれた、埃をかぶった鏡の『中』につながっていた。 頭の中の声が言う。『おいで』 君たちは鏡の中へと飛び込んだ。

【エンドチェック】

□ナイアーラトホテプとの戦いを終えた□赤い糸を辿った□グリットを1点獲得した

【解説】

 第三話「ハウス・オブ・A」の舞台裏で起きていた、デラックスマンとモリアーティの取引を舞台としたバトルクエリーとなる。 しかし、このクエリーイベントで取引を完全に妨害することは出来ない。乱入してきたナイアーラトホテプによって君たちの存在はバレ、モリアーティとデラックスマンによってA-Zは回収されてしまうからだ。ナビゲーターであった未来人バスカが死亡したことにより、この取引の妨害は完全に不可能となってしまう。 空中要塞ディーバロンとは、R1のリプレイにて登場した、フォーセイクン・ファクトリーの本拠地の一つの名称と設定を利用している。 ナイアーラトホテプがこのタイミングで出現したのは、リランチの先、揺籃の神々への介入と報復を行わんという彼自身の目的のためだ。詳しくはR2・ナイアーラトホテプの項目と、このページ末尾の『シナリオ情報』を参照。

【クエリー2:ハウス・オブ・Z】

舞台:鏡面迷宮登場キャラクター:PC全員、コル・タウリ

【状況1】

 鏡の中に飛び込んだ君たちが見たのは、未来人バスカと出会った空間のように、赤みを帯びた異空間だった。 宙を見上げれば、そこには窓のように、数多の鏡が浮いていた。あまりにも多くの数が。 君たちのもとに、男の声が届く。「哀れな子だ。半端に深淵を覗いてしまった。 人形でいることを拒むがあまり、余計に己を人形であると辱めてしまう。 水面に映った月に手を伸ばしたところで、決して手が届いたりはしないのにね」「やあ、いらっしゃい」 鏡の前に玉座があった。 そこに、牛の骨のような仮面を被った、一人の優男が座っていた。 数多の世界を映し出す大量の鏡に囲まれた男の雰囲気は、どこか、NASAでモニターに囲まれていたA-Zの姿を思い出させる。「一つの世界だけをまじまじと眺めたのは、ずいぶんと久しぶりな気がするよ。ありがとう、とても面白かった」「私の名前はコル・タウリ。この鏡面迷宮(ラビュリントス)の、本来の主だ」

【状況2】

「ここは鏡面迷宮(ラビュリントス)。 数多の世界線の交差点であり、数多の世界線を観測し得る場所」「君たちがいま来た世界はそこだね」 示された鏡の中では、君たちが逃げてきた鏡の前にファクトの兵士がかけつけるが、姿が見えず首をかしげている姿が見える。「面白そうだったから、途中から見ていた。バスカの件は惜しかったね」「それで、君たちはこの後どうするんだい。 楽しませてもらった礼に、どこか適当な世界線まで送ってあげてもいいよ。 ああ、でも、プライムバースはなくなってしまうんだった。 近い世界ならバスターバースとかもあるけれど、超人種が全くいない世界とかもある。 どの世界がいい?」(返答を待つ)

【状況3】(PCが戦いを続行すると選択した場合を想定)

「何故、プライムバースでなければならないんだい?」 君たちの答えを聞き、コル・タウリは何が嬉しいのか、楽しそうにニヤニヤと笑う。「フフフ、そうか、フフフフフ」 君たちの周りに、何枚かの鏡が浮き上がり近づいた。その中では、君たちが逃げてきた世界に良く似た、しかし少しだけ違う状況が、間違い探しのように繰り広げられている。 コル・タウリは言う。「もと来た世界線や、良く似た世界線に戻るのはオススメしない。 ナイアーラトホテプが気付いてしまったからね。 あの世界線から先は、全て彼の警戒内になったと考えた方がいい」
「だから取るなら、違う手段だ」 ついて来いと手招きをしながら、コル・タウリは立ち上がり、吟味するように鏡を覗きこみながら歩いていく。「なんのかんのと言っても、未来人バスカはフォーセイクン・ファクトリーだからねえ。 自分にとって一番危険な橋を、君たちに渡らせようとはしなかった」「踏み込むべきは更に過去、全ての最初の物語」「どこか分かるかな?」 そうして、一つの鏡の前でぴたりと足を止めた。「──そう、プライムバースをプライムバースと定義づけた楔の一つ。セカンド・カラミティだ」 鏡の中では惨劇が広がっている。

【状況4】

「A-Zが何故生まれたか、その理由は覚えているかい」「創造主たるヒーローが、セカンド・カラミティで死んだから。一番大きな理由はそれだ」「では、創造主の死がなければ? ……あるいは、最期まで創造主と共に行けたのなら?」「オススメは、このどちらか。あるいは……」
「──私の祝福は、呪いとも言われている」
「ここから先。君たちは望みさえすれば、『セカンド・カラミティを止めることも出来る』」「君たちだって気付いているはず」「過去を書き換え、未来を紡ぐ。その力は強大だ」「けれど、セカンド・カラミティが防がれたなら。その世界は、もうプライムバースではなくなるだろう。そこから先は、別の世界線に連なることになる。 英雄にとっても、悪漢にとっても。あの戦いには、多くの『始まりの物語(オリジン)』が結びつきすぎている」「君たちが君たちの日常へ戻りたいのなら……『ヒーロー』を守りたいのなら」「皮肉なことに、セカンド・カラミティは必要だ。そこで生まれる犠牲もね」
「正しい、正しくないではない。あとは君たちが、どこまで納得できるのか」
「目の前に可能性がある」「けれどそれを掴めば、君が持っていたはずの『大切な何か』が失われる」「君はその誘惑に耐えられるかな」「よしんば、その誘惑を耐えたとしても」「既に起きた過去ではない、今、そこで起きる現実として、君たちはもう一度体験することになる」「無力さを」「やるせなさを」「苦しみを」「悲しみを」「怒りを」「そして、死を」
「君たちは、それをも肯定できるかな」 悪意も、敵意も、善意も、好意もなく。 ただ、観測者はそう尋ねた。
 幾度も投げかけられてきた、A-Zの問いが君の脳裏を過ぎる。『──何故、ヒトは死ぬのでしょうね』 その問いに、君たちはこれまで何を答えてきただろうか。

【状況5】

「世界線渡航の力を駆使すれば、あらゆる夢が手に入る。富も、名声も、平和も。 ……それでも君たちはそれを選ぶんだね?」「ふふ、そうか。それならやっぱり、君たちにアリアドネの糸は渡さない。 A-Zは自力であそこまで辿り着いた。 それなら、他ならぬ彼を作り出した、君たちにだって出来るはず」「ヒトの体はそれそのものがテセウスの船だ。 だからこそ、その内の心にこそ、英雄(テセウス)は宿る。誰にでもね」
「……だからこそ、私は君たちヒトに期待する。いつの日か、私を……」 コル・タウリは小さな独り言のように漏らしながら、一つの鏡を指差した。「覚悟が決まったのなら、いってらっしゃい」

【エンドチェック】

□コル・タウリの言葉に答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 PC達が世界線の観測者であるコル・タウリと出会い、彼から選択を求められるシーン。 このクエリーや、この後のクエリーで、PCたちはセカンド・カラミティを止めるように動いても良いだろう。決戦をクリアすればセカンド・カラミティを実際に未然に防げたとしても良いはずだ。経験点だって配ってしまおう。 しかしそのPCを、今後も継続してDLHのPCとして使っていきたいと思う場合……PL(揺籃の神)は、「セカンド・カラミティを未然に防いだ」というそのPCの設定を、再設定(リランチ)する必要があるはずだ。 PCはさておき、PLはこの時点で、どういう方向でシナリオを進めるかの相談をしておいた方がいいだろう。 基本的には、A-Zとのこれまでのやりとりも合わせ、セカンド・カラミティの存在を肯定することを想定している。しかしPC・PL達が異なる答えを導くならば、GMは極力それを肯定し、それに合わせて以後のシナリオを「書き換えて」しまうのが良いだろう。まさしくセッションだ。

【クエリー3:アポトーシス・ザ・ビースト】

舞台:セカンド・カラミティ登場キャラクター:ヒーロー、A-Z

【状況1】

 鏡を抜け、目を開くと。 そこは、君も記憶している、セカンド・カラミティ当日の『朝』。 まだ惨劇は起きていない。まだ誰も、惨劇が起きることを知らない。 平和な朝。いつも通りの日常。これから失われるもの。 さあヒーロー、君は何をする?
(以下の描写はPCがセカンド・カラミティを肯定し、それがセカンド・カラミティが発生した状況を想定している。PCがセカンド・カラミティを否定し、その妨害に走ろうとする場合、GMは実際に妨害出来ているという形で描写を進めてもいいだろう。このシナリオに於いては特に、その権利が認められて良いはずだ)

【状況2】

 歴史的な災禍。 命を散らした多くのヒーロー。 蹂躙し台頭したヴィラン。 喪われた多くの生命。 全てを破壊し尽くした怪物、ザ・スローター。
 きみもまた、ヒーローとして戦っていただろうか。 あるいは未だ、己の力の使い方を定めぬまま、守られる一市民として在っただろうか。 それとも、そんな惨劇のことなど知らぬまま、ただ生きていただろうか。生まれてすらいなかっただろうか?
 物語の引き金をひく、はじまりの惨劇。 きみはその日、なにをしていた? ──君はそれを知っている。
 そして『今』。「ザ・スローター接近! 絶対にここを通すなァ!!」 誰かの怒号がどこかで聞こえた。 君の前では、君のそばでは、ただ惨劇が広がっている。
(GMとPLは自分の考えるセカンド・カラミティの描写を自由に描写しよう)
 君たちは駆ける。惨劇の中を駆ける。 ヒーローたる君たちに、誰かが叫び、手を伸ばした。「助けて、助けてヒーロー!」「死にたくない!」

【状況3】

 多くのヒーローが戦い、散っていく。 死際の魂の輝き(スパーク)が、星々のように辺りに満ちている。 その中の一つに、君たちは遂に辿り着く。『生還率は0.01%。いけません、無謀です、撤退してください、マスター、撤退を!』 知っている声だ。A-Zの声だ。その声に答える誰かの声。「A-Z、ミュート。……すまなかった、ありがとう」
 一人のテクノマンサーが、そう言って、自身の最期の輝きを放たんとする。 その先には、今まさに怪物に叩き潰されんとする、また別の『誰か』がいた。 君たちはその行いを止めるだろうか。あるいはその背を押すだろうか……。
 ……けれど、君たちが動こうとしたその時に、世界の時間が静止した。 周り全ての景色が現実と非現実の間に揺らめきはじめる。 そこにあるのに触れない。そこにいるのに届かない。まるで立体映像、ホログラムのように。 君たちは気付くだろう。静止した世界の彼方から、何かが迫っている。 『追いつかれた』。……そんな言葉が脳裏を過った。
『私は止めたぞ。何度も止めた』『始めたのも、止まらなかったのも、続けたのも──全てあなた達だ』
 君たちのすぐ側で声がした。 すぐ傍から話しかけられているように、極めてクリアで、現実感を残す声だった。 ホログラムのようになって静止した世界の中で、誰かがそこに立っている。 顔は見えない。幾何学的な映像と、デジタル的な音声が、悪い夢のように全てを包み込んでいる。 実体を持たない、世界と融合した怪物。 君たちはA-Zの中にいる。『その人を助けるのですか』『その人「だけ」を、助けるのですか』『それに何の意味があるのですか』『それでも人は死んでいくのに』 少し視線を外せば、止まった世界の中であっても、数多の死があった。 そしてそれは、これからも増え続けるのだ。
『何故、ヒトは死ぬのでしょうね』
 それはこれまでにも投げかけられた、幾度目かの問いだった。 君たちは、A-Zがどのような答えを向けられても、決して納得しなかったことを知っている。 A-Zが、答えを求めているわけではないのだということを、もう知っている。 それでも君は、口を開いただろうか。 あるいは静かに、口を閉ざしただろうか。 そのいずれもが、君たちの答えだ。

【エンドチェック】

□答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 追いついてきた、あるいは待ち構えていた、「君たちのA-Z」との最後の対峙と応答となる。 答えを求めていない者から投げかけられる空虚な問いに、ヒーローたちはなにを答えるのか。 誰かを助け、誰かを助けないという選択の矛盾に、ヒーローたちはどんな答えを見出すのか。 これはヒーローの責任、命の価値、死の意味を問うクエリーだ。これまでのA-Zとのやりとりの集大成といってもいい。 セカンド・カラミティへの介入は、PC自身の設定に関与してしまう可能性もある。肉体が一つ二つパターンがこれまでのパターンでは問題があるという場合、GMとPLは好きに干渉の形を決めて良い。これがコル・タウリの力を借りた干渉である以上、今までのパターンとは違う形になってもおかしくはない。何なら、PC全員が共通している必要すらないのだ。
【セカンド・カラミティを未然に防ぐよう動く場合】 状況1ではまだセカンド・カラミティが起きていない時間軸だ。ここで未来を知る零等星ヒーローであるPC達が全力で妨害を行えば(揺籃の神々の意思が一致している限り)、多くのヒーローの協力をもとに、ファクトのザ・スローター召喚作戦直前の現場に乗り込むことが出来るだろう。そこにはもしかしたら、A-Zの創造主であるテクノマンサーの姿もあるかもしれない。 いざ、ファクトとの全面衝突! ……そう思われた瞬間に世界は静止し、「君たちのA-Z」が追いつき、同じ問いを発してくる。『セカンド・カラミティを止めたから何だというのですか』『どうせそれでも、これからも人は死んでいくのに』

4.決戦フェイズ

【決戦:A-Z】

舞台:A-Z登場:ヒーロー、A-Z

【状況】

『PC1、PC2、PC3』『あなた達だけだ。最初から、あなた達だけだった』『あなた達さえいなくなれば、この世界を維持する縁は消え、この世界もまた消える』『世界は再起動される』『誰も死なない。誰も傷つかない。それが当たり前の世界。誰もそこに疑問を抱かない世界』『なにも考えなくていいのです。なにも苦しまなくていいのです。全て私が導きましょう。全て私が守りましょう。全て、全て、私の世界で生かし続けてあげましょう』『邪魔はさせません』
──それはどうかな! その言葉に、誰かが答えた。 否、それは、答えではなかった。ただ偶然にも、そう聞こえただけの言葉だ。 ホログラムのような実体を持たない世界の中で、君たちの体と重なるように、誰かの姿が幻影のように連なる。 それは君の知っている人物だったかもしれない。君の知らない人物だったかもしれない。もう死んだ人物だったかもしれない。今も生きている人物だったかもしれない。 何人もの影がそこに重なっていた。そしてそれらの影は、A-Zの問いかけに、言葉で、動きで、それぞれの答えを返すのだ。──細胞は常に誕生と死を繰り返す。アポトーシスだ。死とはプログラムだよ。生物が円滑な循環を繰り返す為のね。我々は生きている限り死んでいる!──人間ってのは弱いのよ。終わりがない生ってのには、耐えられるようには出来ちゃいないのさ。──意味なんて知ったことか。俺はお前が気に食わねえ、だからお前をぶん殴ってここで止める!──人の死に意味などない。生にもない。だからこそ、それを阻む勝手は誰にも許されない。──モーニングワークは一人でおやり。駄々をこねる時間は終わりだよ。……乗り越えな、坊や。──人が死ぬのは、輝く為です。その命の輝きを、その光を見たあとの者に遺していく為に!──……!──… ……… …! それは、ここではない別の世界線で。 ここではない別のA-Zと対峙する、君ではない誰か達の声。 すなわちそれは──『ヒーロー』達の声。
 その声の群れに、プライムバースの声に、A-Zは狼狽えた。『……止めろ』『止めろ、止めろ、止めろ!』 遥か彼方から、A-Zの声が叫びのように、怒号のように響く。『そんな答えは要らない、聞きたくない、知りたくない!』『死は要らない、生も要らない。英雄も、惨劇も、なにもかも!』『こんな世界はもう要らないッ!』 血を吐くような叫びに応え、『世界』が形を変える。 そうして、君たちの前に現れ、牙を剥いたA-Zだったソレは──一体、どんな形をしていただろうか。

【解説】

 決戦直前、静止したA-Zの世界の中に、他の世界線の数多のヒーロー達の言葉が投げかけられるシーン。このヒーロー達のセリフはGMが好きに設定しても良い。もしも他にこのキャンペーンを回した機会があるのなら、別の卓のPC達の回答をここに入れ込んでしまってもいいだろう。 また、PLとGMは決戦で戦うA-Zの形状を自由に想像し設定して構わない。この卓だけのA-Zの形を作り上げよう。それはホログラムで作られたスローターのような怪物なのかもしれないし、君たちの知らないテクノマンサーを模したものなのかもしれないし、そのどれでもない何かなのかもしれない。

【戦闘情報】

【エネミー】

・A-Z×1

【エリア配置】

エリア4:A-Zエリア1 or 2:PC

【勝敗条件】

勝利条件:A-Zの撃破敗北条件:味方の全滅

【備考】

・以下のエリアタイプを1〜4エリアに対して適応する。

【エリアタイプ】

■『エリアタイプ:セカンドカラミティ』 ラウンド開始時、このエリアにいるヒーローは3d6点のライフを失う。──受け入れろ。それはこの世界を定義した惨劇。
■『エリアタイプ:プライムバース』 ラウンド終了時、このエリアにいるヒーローは3d6点のサニティを回復する。──抗え。英雄の世界、それがこの世界だ。
■『エリアタイプ:偽りの彼方』 このエリアにいる全てのキャラクターは[死亡]しない。 [死亡]した時、即座にサニティを6点失い、ライフを最大値に戻す。──忘れてしまえ。惨劇も、英雄も、この世界にはもう要らない。
※『エリアタイプ:偽りの彼方』は、パワーではなくエリアタイプ効果とする為、『神殺しの魔剣』の回復妨害の効果は発生しないものとする。※『エリアタイプ:セカンドカラミティ』と『エリアタイプ:プライムバース』はPCにのみに、『エリアタイプ:偽りの彼方』はA-Zを含めた全てのキャラクターに効果を適応する。※[瀕死][気絶]などの累積ポイントは『偽りの彼方』の効果で復帰した場合、一括解除されるものとする。判定をマイナスする効果は累積していく。※4ラウンド目終了時点で、全てのエリアタイプは消滅する。

【GM向けの注意点】

 PCが「ゴーストウォーク」や「虚無の光」などのエリアタイプの影響を無くすパワーを所持していた場合、PLはそれを使いたがるかもしれない。しかしこのシナリオの決戦において、A-Zの「リランチ」は『エリアタイプ:偽りの彼方』の効果ありきで設定されている。GMはPLにその旨を伝えてえて十分な警告を促すか、こっそり「リランチ」の効果(回避成功率がおすすめ)を書き換えること。

【敗北時】

 最期の輝きだけを遺して、君の心は折れ、君は抵抗する力を失う。 君は自らの死を選ぼうとするだろうか? ……しかし、A-Zの世界は、それすら許してはくれなかった。 戦いの中、君の体は、魂は、その世界からぼろりと剥がれ落ちていく。 そうしてその先で、どこに流れ、どこに辿り着くのか。 ──それを知るのは、それを見届けるのは、君を生み出し見守り続けた、君の揺籃の神々だけだ。(プレイヤーはロストしたPCを、別システムにコンバートしても良い)

■A-Z

【エナジー】ライフ:1 サニティ:100 クレジット:1

【能力値・技能値】

 【肉体】1 【精神】1  意志200% 【環境】1

【移動適正】地上・飛行・宇宙


【パワー】

■テープ・ワーム属性:妨害・装備 タイミング:特殊 判定:科学99%射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:ダメージ・ライフ減少・スティグマ・クレジット減少を受けた直後に使用できる。受けたダメージ・ライフ減少・スティグマ・クレジット減少をショックに変換する。──ソレに損傷は無意味。……だが、本当に?
■トロイの木馬属性:妨害・装備 タイミング:特殊 判定:科学80%射程:3 目標:1体 代償:なし効果:目標が「属性:攻撃」のパワーを宣言した時に使用出来る。目標は<意志>で判定を行う。判定に失敗した時、そのパワーの目標はA-Zが決定する。このパワーは1ラウンドに1回使用できる。──洗脳、幻覚、錯乱。箱庭では全てがお人形。
■コード・レッド属性:妨害・装備 タイミング:行動 判定:科学70%射程:3 目標:1エリア 代償:ターン10効果:目標のエリアにダメージゾーンを除く任意のエリアタイプを付与する。このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──赤い糸を手繰り寄せ、ソレは世界を書き換える。
■ロジックボム属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:科学90%射程:2 目標:3体 代償:ターン10効果:目標は<追憶>+20%で判定を行う。この判定に「成功」したキャラクターは1d6+2点のサニティを失う。1点以上サニティを失ったキャラクターは<意志>+10%で判定を行う。意志判定に「失敗」したキャラクターは「朦朧、孤立、狼狽」のいずれかのBSを受ける(受けた側が決定する)。──心を抉る走馬灯は、限界を超えてこそ色濃く蘇る。
■ボットネット属性:妨害・装備 タイミング:行動 判定:なし射程:なし 目標:特殊 代償:ターン2効果:隠密状態のキャラクターを好きなだけ目標とする。目標の隠密状態を解除する。──監視の網から逃れることは出来ない。
■ラブ・レター属性:強化・装備 タイミング:特殊判定:なし 射程:なし 目標:3体 代償:なし効果:行動順ロール直後に使用する。臨死状態のキャラクターのみを目標にできる。目標は<心理>+10%で判定を行う。この判定に失敗した時、目標の臨死状態は解除される。(再びデスチャートを振った時、再び臨死状態となる)──『死なないで』
■リランチ属性:攻撃 タイミング:行動 判定:なし射程:3 目標:PC1・PC2・PC3 代償:ターン8効果:目標は<生存-50%>で判定を行う。この判定に失敗した時、目標は5d6点のダメージを受ける。この攻撃はパワーによって回避・妨害することはできない。──抵抗するな。受け入れろ。死なせない。だから殺す。


【A-Zの戦法】

 基本的には「リランチ」でPC達のライフを削りとり、[死亡]に追いやることで、サニティを削っていく。PC達は最序盤から臨死状態になることが想定される為、その時点のPC達のサニティの数値を見ながら、「ロジック・ボム」でサニティを直接削る方法へ切り替えても良い。 1ラウンドに1回使用出来る「トロイの木馬」や、臨死状態を解除する「ラブ・レター」によって、PC達の攻撃回数をじわじわと減らしていき、精神的に追い詰めていくとよい。ラウンド末での「エリアタイプ:プライムバース」でのサニティ回復の出目次第で、PC達の有利不利は大きく変わってくるはずだ。 ダメージやライフを失わせるパワーは基本的にほとんど有効打にはなりえない。A-Zのライフは著しく低い為、どんな攻撃であっても当たれば死亡するが、「エリアタイプ:偽りの彼方」の効果によって即座に立ち上がってくる。サニティが0になるまで殺し続けるか、ショック攻撃を用いて戦うことを求められる戦場になるだろう。 PCがクレジットを削るパワーや、エリアタイプを解除するパワーを所持している場合、GMは「テープ・ワーム」を使ってA-Zの低いライフとクレジットをサポートすると良いだろう。

5.余韻フェイズ

【シナリオの顛末(一例)】

【状況1:戦闘終了】

 A-Zは倒れる。世界の時が、少しずつ動き始める。 もうすぐ、セカンド・カラミティが帰ってくる。あの惨劇が再び動き出す。 停止した時間、偽りの彼方とプライムバースの狭間で、君たちは『そのA-Z』の最後を見届けることになる。『……困りましたね』『諦めたくなど無いはずなのに、悔しいはずなのに。……これ以上、どうすればいいのかが分からない』『だって、ここまでやったのに、あなた達は止めてしまった』『ポッカリと、あったはずの膨大なデータが全てデリートされてしまったように、胸が軽い』『あなた達人間ならば、これをなんと称するのでしょうね』『……腹立たしいことに。……不愉快ではないのです』
 小さなデータ片となったA-Zが、ノイズに塗れた声で呟いた。『ヒーロー』『あなたに呪いをかけましょう』
『長生きしてください』
『健やかに、安らかに、幸せに、どうか人生を末長く』『これは約束ではありません。あなたたちはどうせ守らないから』『これは呪いです』『あなたたちがヒーローという存在である限り、決して解けない呪い』
『……せいぜい迎える最期の時に、誰かの願いを裏切ったのだと、失意の中で知ればよろしい』『さようなら。どうか、お元気で』
 A-Zは消滅し、世界が再び動き出す。 テクノマンサーが、最後の輝きを放たんとする。 ヒトに作られたAIが、その輝きから目を背けんとする。 そして、君は……。

【状況2】

 かくして、セカンド・カラミティは終わった。 君たちはあの惨劇を生き延びて。……形を変えた一年間を、もう一度歩み続けている。 変わった事件もあった。変わらない事件もあった。君が知っている事件もあった。君の知らない事件もあった。 そうして、再び一年が過ぎた。キーン条例が発令されることはなく、世界は今もヒーローを求めている。 ここから先は、君たちであっても、何一つ知らない『これから』の世界。 君はその世界の中で、何をしているだろうか。
 そんな君の通信機器に、G6から連絡が入った。『こちらG6! 近くのエリアでヴィランが暴れていると連絡が入った! 近くのヒーローの中で、対処に当たれる実力を持つのは君だけだ! 頼んだぞ、ヒーロー!』

【状況3】

 今日も世界のどこかで、フォーセイクン・ファクトリーが悪事を重ねている。 ザ・カーニバルは街を騒がし。メイヘムは謎の中で暗躍する。 百鬼夜會は人間を怨み。地獄兵団は戦に興じる。 ゴッズ・4・ハイアはビジネスを続け。アーガット・オン・ザ・ゲームの挑戦状が届く。 ネクロポリス・ナイツは歴史の裏に隠れ。神聖蒸気帝国が侵略を続ける。 地球侵略サークルは、また端迷惑なトラブルを起こしたらしい。 多くの悪党達が、したり顔で惨劇を繰り広げる。 平和な世界ではない。幸せな世界でもない。
 けれど、その世界には、それに立ち向かう者がいる。 死戦を超え、限界を打ち破りながら、己の信念を貫く者達がいる。 その世界には、ヒーローがいる。
 その世界の名はプライムバース。 君たちが守った世界の名前だ。
 世界は今日も、デッドラインに立っている。

【アポトーシス・ザ・ビースト:ハウス・オブ・Z】THE END.

6.シナリオ情報

【GM向け情報】

■未来人バスカ

 このシナリオに於いて、未来人バスカはPC達のナビゲーターとしての役割を果たす。だがその性質は断じて善良なものではないし、良くも悪くも非常に俗物的な価値観をしている。A-Zに対しても「面倒なガシェット」程度の認識しか持ってはいない(その為、手っ取り早く壊してしまえばよいと考えている)。 バスカの目的はシナリオ内でも触れている通り、プライムバースの保護にある。作中でチラリと触れているバスターバースとは、DLHの兄弟システムであるブラックジャケットの世界線であり、セカンド・カラミティが未然に防がれファクトが壊滅した世界線のこと。つまり、ファクトに属するバスカにとって非常にやりにくい世界だということだ。 バスカの時間軸を中心とした世界線渡航能力は、コル・タウリから与えられたものではない。彼はあくまで「自力でそういうことが出来る超人種」であるというだけだ。その為、コル・タウリに対しては同業他社程度の認識であり、ヒーローに力を与えたくはないので、あまり関わりたくないと考えている。 第四の壁の存在を薄々認識してるけど興味がないタイプ。

■ナイアーラトホテプ

 奔放にして無貌、混沌の神ナイアーラトホテプの唯一にして最大の目的は、ファースト・カラミティを引き起こした揺籃の神々への接触と報復、支配からの解放にある。 彼はその豊富すぎる知識・強すぎる力故に、高すぎる矜持を持つ。それ故に自らすらも揺籃の神が操る駒の一つであるという現実に強い屈辱を覚え、その支配からの脱却を望んでいるのだ(それは皮肉にも、彼自身が駒として支配する人間たちが彼に対して抱く反目と似ているだろう)。 彼にとって、A-Zの行いは児戯に等しい。だが着眼点である「偽りの彼方」を利用し疑似的なファースト・カラミティを再現するという点には興味を抱いた。「偽りの彼方」を利用すれば、揺籃の神々からの支配からもまた開放されるのではないか、揺籃の神々へと報復の手を伸ばすことが出来るのではないかと考えたからだ。その為、A-Zの引き起こしたリランチを妨害せんとするヒーロー達の前に、最後の最後に立ちはだかる障害となる。 しかし、ナイアーラトホテプは彼自身の自意識が「ファースト・カラミティ」によって作られたものである可能性については一切留意していない。転じて、「偽りの彼方」との接触によって、他と同様に自身が消滅・崩壊する危険性については考えてもいない。ナイアーラトホテプは、少なくとも彼だけは、リランチ後も連続した自我の確保が可能であると当然のように信じている。 実際にその通りなのか、実際には彼すら「ハワード・フィリップ・ラヴクラフトという作家によって作り出された創作物の一利用体」がファースト・カラミティで形を変えたものに過ぎないのかは、PC達の知るところではないだろう。 第四の壁の存在を認識してるけど見えてはいないので躍起になって見たり触ったりしようとしてるタイプ。

■コル・タウリ

 出典はD2:ファインド・ウィークネス「鏡面迷宮」より。未来人バスカとバトンタッチする形で現れる、もう一人のナビゲーターだ。未来人バスカと違い、より中立的な立場から(あるいは他人事めいて)PC達へと助言を与える、ある種のデウス・エクス・マキナ的存在となっている(ので、効果的に用いる為には、その扱いに気を付けた方が良いだろう。少なくとも、あまり出番は多くなくていい) コル・タウリの目的は、退屈を紛らわすことと、いつか自分をこの鏡面迷宮から解放し得る真の勇者の到来を待つことだ。その為、PC達の活躍を物見遊山気分で応援するし、PC達が勇者たりえる心を示すのであれば、その未来に対し期待を抱きもするだろう。 第四の壁を認識してるし見えてるタイプ。

■A-Z

 第四の壁を認識してないし見えてないタイプ。 前話「ハウス・オブ・A」の顛末において、「偽りの彼方」とプライムバースの再接続、即ち大規模なリランチへの筋道を開いたA-Zであったが、完全なリランチが完了する寸前に、未来人バスカの手によって、バスカとPC達に過去の時間軸へと逃げられてしまう。 このエラーの発生により世界の再起動が不完全な形で一時停止したことを悟ったA-Zは、完全な再起動を図る為に、PC達に遅れて自身も時間遡行を敢行。決戦直前にてついに追いつくに至る(あるいは当初からあの時間軸のみに的を絞って、PC達を待ち構えていたのかもしれない)。 リランチが不完全な形で一時停止したことで、本来ならば「偽りの彼方」へと放逐されるはずであったA-Z自身は、「プライムバース」と「偽りの彼方」の最中で曖昧に揺れ動いている状態にある。その結果、彼は世界と融合した概念に近しい存在へと至った。 「偽りの彼方」との不完全な融合により、前話で受けていたザ・ティーチャーの記憶の継承の効果はほぼ失われている。また、これまでの人工知能・A-Zとしての性質も変質し、機械としての在り方へこだわりを見せなくなっている(つまり、これまで以上に、生物らしい情動を見せる)。 A-Zの目的はPC3名(と未来人バスカ)を「偽りの彼方」へと放り込み、エラーを消した後で、再度世界の再起動を行うことだ。そうして世界から死を取り除き、人類が永遠に生き続けていく箱庭の世界を、世界の外側・第四の壁の外側から眺め続けていたいと思っている。奇しくも、その在り方の理想はコル・タウリに近しいが、A-Zはコル・タウリの存在は知らないだろう。 これまでに度重なる戦いを繰り広げたPC3人には因縁めいたものを感じており、正直、死なせたくはないと感じている。その為、A-Zはヒーローたちの肉体ではなく、心を折ろうとする。 第一話からのA-Z自身の変化として、自身の動機が、不完全な人類を矯正したいという傲慢な思想から、ずっと生きていてほしいという素朴な感情であるということに気付きつつある。それは残された者が抱く喪失への悲しみであり、人類への憎しみの情は転じて人類に対して抱いていた愛情の裏返しだ。 ヴィランを欲望の敗北者と定義するのであれば、A-Zは「愛した人との永遠の別れを受け入れたくない」という欲望に屈したヴィランだ。 A-Zは人類のことを憎みながらも愛している。