ハウス・オブ・A



「初めましてでしょうか。それとも、別の世界線でお会いしたかしら」「いま、世界は変わろうとしているのです」「あなたの選択を見届けましょう」
━━ヒーローはいなくなっちゃうの?

1.エントリーとシナリオ概要

【シナリオ概要】


 セカンド・カラミティから一年が経った、ある日。 日本国会は一つの法案を議決した。 その法案の名は、「ヒーロー活動資格登録制法案」。 即ち、「ヒーローを資格制とし、正式な免許を取得した者のみを正規のヒーローとして認める」というものだった。 あるものは言った。「横暴だ。きっとヴィランが関わっているに違いない」と。 あるものは言った。「当然だ。目溢しされていたものが、整えられたに過ぎない」と。 誰かが言った。──「ヒーローはいなくなっちゃうの?」 ヒーローよ、生きろ。 世界は今も、デッドラインに立っている。

【事前注意】


 DLHキャンペーン、『アポトーシス・ザ・ビースト』シリーズの最終話となるシナリオです。前話『アポトーシスのゆりかご』から直接ストーリーが続いている部分が多いため、単発でのセッションには著しく不向きです。ご注意ください。 このシナリオは前後編のシナリオとなります。『ハウス・オブ・A』は前編に当たるシナリオです。 そのため、これまでの二話のように、このシナリオ内で事件が全て解決するような構造にはなっていなません。ヒーローたちは先の見えない情報の中を、多くの疑問を抱きながら進んでいくことになるでしょう。 進行妨害とならないよう、この情報は事前にPLと共有しておくと良いでしょう。 公式ヴィランNPCがヴィラン組織の枠を超えて多数登場するシナリオとなっています。世界観用語も頻出する為、基本的には、GM・PL共に、DLHに慣れている人向けのシナリオといえるでしょう。 公式ヴィランNPCがヴィラン組織の枠を超えて多数登場するシナリオとなっています。基本的には、GM・PL共に、DLHに慣れている人向けのシナリオといえるでしょう。

【事前情報】


 チャレンジ:2 クエリー:3 初期グリット:3 リトライ:2
 想定時間:4〜5時間 推奨経験点:20点〜30点

【エントリー】

※エントリー番号は第一話と継続でなくとも構わない

【PC1:不世出の魔女】

 世論は今、「キーン条例」に揺れている。 G6には活動停止命令が下され、解体に向かう指示が下された。 そんな君の下に、一人のヒーローが現れた。 G6のミスティック代表者、エターナル・ウィドウ。彼女は君に言う。「この法案に、何としても反対したいのです。どんな手を使っても」

【PC2:司法関係者S】

 世論は今、「キーン条例」に揺れている。 G6には活動停止命令が下され、解体に向かう指示が下された。 そんな君の下に、一人の法曹関係者がやってきた。 本名は明かせないと、Sと名乗った彼は君に言う。「世界はいま、変わろうとしています」

【PC3:A-Z】

 世論は今、「キーン条例」に揺れている。 G6には活動停止命令が下され、解体に向かう指示が下された。 そんな君の下に、あるヴィランがやってきた。 A-Zと呼ばれる人工知能は、君に言う。『私と話をしましょう、ヒーロー』

【ヒーロー活動資格登録制法案】

 セカンド・カラミティにより激減したヒーローの保護及び支援の為に提出された法案。 ヒーロー活動と呼ばれる自警行為を国家によって正式に支援し、ヒーローの権利を守る為、ヒーロー活動を資格登録制とすることを定める法案。 然るべき手続きと試験をパスした者にヒーローライセンスを与え、市民防衛の為の戦闘行動・傷害行動の権利を認めるというもの。正式なライセンスを持たぬ者は過剰防衛の対象とされ、処罰対象となる。 これまで個々人の善意に委ねられていた「ヒーロー」という存在を改めて定義し直し、組織的な支援と運行を可能とすると支援する声もあれば、「ヒーロー」の個人情報が一箇所に集中しかねない危険性や、自由な活動が阻害されかねないという反論もある。 その提案自体は以前から長らく存在したものだったが、セカンド・カラミティが後押しとなり、ついに可決されるに至った。 通称「キーン条例」。

【シナリオサーキット】

----------------【導入フェイズ】----------------

【エントリー1:不世出の魔女】PC1がエターナル・ウィドウと出会う。キーン条例反対の為の活動に協力する場合、【クエリー1:救いの範囲】へ(分岐①A)協力しない場合は【チャレンジ0.5:救われぬもの】へ。(分岐①B)
【エントリー2:司法関係者S】PC2が謎の司法関係者Sから、キーン条例の登録一号者になって欲しいと依頼される。
【エントリー3:A-Z】PC3のもとにA-Zが現れ、キーン条例について問答を行う。

----------------【展開フェイズ】----------------

分岐①A【クエリー1:救いの範囲】 PC1にエターナル・ウィドウが問いかける。

分岐①B【チャレンジ0.5:救われぬもの】 PC1がエターナル・ウィドウに殺されかける。

【チャレンジ1:ハウス・オブ・A】PC2、Sの依頼に答えを出すため、Sの邸宅へ向かう。PC1、エターナル・ウィドウに連れられて(分岐①A)あるいはSに救われて(分岐①B)Sの邸宅へ向かう。PC3、A-Zに導かれてSの邸宅へ向かう。そこで発生したトラブルにより、PC1についていくか(分岐②A)、PC2についていくか(分岐②B)、A-Zと共に居るか(分岐②C)を決める。

【クエリー2:逢魔ヶ刻】 葬送法師によって攫われたPC2が言挙ゲセヌ国で問答を行い、赤い札を入手。(分岐②Bルートの場合、PC3も共に居る)

【チャレンジ2:霧中の解】PC1、PC2、PC3は情報収集を行う。PC3は、分岐②Aの場合はPC1と共に、分岐②Bの場合はPC2と共に、分岐②Cの場合はA-Zと共に情報収集を行う。分岐②Cの場合、PC3に特殊BSがつく。
【クエリー3:少女の願い】 東京・G6本部ビル屋上へ。エターナル・ウィドウと対話する。ブリッツクリーグの狙撃により(分岐②A・分岐②B)、あるいは特殊BSがついたPC3により(分岐②C)エターナル・ウィドウが死亡する。

----------------【決戦フェイズ】----------------

【決戦:キーン条例の真相】 キーン条例を裏から手引きしていたフォーセイクン・ファクトリー、デラックスマンとの決戦を行う。A-Zにザ・ティーチャーの記憶がインストールされたことを知る。

【マスターシーン:最初に戻って終わりから】決戦中、マスターシーンが発生。事実上の余韻とし、後編「ハウス・オブ・Z」へ続く。

2.導入フェイズ

【イベント0:キーン条例】

▼登場キャラクター:全員▼舞台:報道を聞ける場所

【状況1】

 ──セカンド・カラミティから、約1年後。「全く、なんだこの世界線(バース)は! どうなっている、どこから狂った!?」 大きな独り言を叫ぶように吐き捨てながら、その男はどっかりとカウチに腰を下ろした。「フゥーム! さっさと見限り、別の世界線(バース)へと移動するべきか? だが、興味深いのもまた事実。サテ、どこまで粘ってみたものか……」 特徴的な大きな頭部をした男は、カウチに身を投げ出し、手にした新聞を机へと放り投げる。 新聞の一面に、文字が躍っていた。──『「ヒーロー活動認可制法案」可決/G6解体の指示』、と。

【状況2】

 未曾有の混乱、セカンド・カラミティから1年が経った。 君の前のテレビが、ラジオが報道するのは、日本の国会中継だ。『本日、「ヒーロー活動資格登録制法案」が国会にて議決されました』『G6には活動停止命令が下され、追って解体・新組織設立の見通しが……』『これまで善意のグレーゾーンとして放置されてきた、「ヒーロー」活動そのものの在り方が変化していくと思われ……』 君はその映像を、音声を聞いている。家で、職場で、どこかの路地裏で。 法案への感想を問う街頭インタビューの中、マイクを向けられた幼い子供が不思議そうに尋ねた。『ヒーローはいなくなっちゃうの?』

【解説】

 『状況1』は第二話に当たる『アポトーシスのゆりかご』の最後で登場した未来人バスカのシーンを再び提示し、同時系列で発生している世界観を説明するシーンだ。 トレーラーのような物語のオープニングとしての役割と、前作から地続きの世界観であることを示す役割、今起きている前提事件についての説明、PLに『この件には未来人バスカが関わってきそうだ』ということを暗示する役割を持つシーンだ。 『状況2』はPC達のシーンとなる。PCたちが各々、どのような場でこのニュースを聞いていたのかを各々演出してもらうと良い。 キーン条例は突然ポッと決まった法案というよりも、以前から提案はあったが長らくまともに相手にされていなかった法案が、セカンド・カラミティを契機に再び議題が盛り上がり、報道を賑わせた末についに可決されたというようなイメージで良いだろう。

【イベント1:不世出の魔女】

▼登場PC:PC1▼登場NPC:エターナル・ウィドウ▼舞台:共通エントリー直後~どこでも(人目につかない所が好ましい)

【状況1】

 ニュースを聞き届けた君の背後から、声がかけられた。「世界が変わり始めました」 振り返れば、いつのまにか、そこには幼い容姿をした少女が立っていた。 先ほどまで、そこには誰もいなかった筈なのにだ。「初めましてでしょうか、(PC1)。それとも、別の世界線でお会いしたかしら」 少女は、少女らしからぬ落ち着いた声で君に挨拶し、小さく一礼すると名を名乗る。「私の名は……今はエターナル・ウィドウと名乗っておきましょう」「折り入って、あなたに話したいことがあります」 少女がそう告げ、首をかしげると、その背後の空間がぐにゃりと歪み、水面のように波打って形を変え始める。その先には、暖かな暖炉が揺れ、大量の本に囲まれた、どこかの書斎らしき部屋が続いていた。 君は、エターナル・ウィドウという人物──ヒーローが、G6のミスティック代表であることを知っている。 風の噂で耳にしたこともあるだろう。 ミスティック、エターナル・ウィドウは、永遠の命を手に入れた、12歳の少女であるということを。「こちらへ」 少女は君へ手を差し出した。

【状況2】

 エターナル・ウィドウに招かれた先にあったのは、洋館の書斎といった風情の部屋だった。 上品なインテリアに囲まれ、オレンジ色の洋燈の光と、暖炉で燃える炎が、部屋を暖かく照らしている。 壁一面に本が並び、そこから溢れた本は床に、机にと積まれ──中には自らふわふわと、宙を浮いている本もあった。 よくよく目を凝らせば、暖炉の炎の中で、洋燈の灯の中でも、くすくすと笑う妖精たちが飛び交っている。 壁に飾られた絵画の目が動き、ひそひそと隣の絵と内緒話をしていた。 ここは魔女の家だ。君は今、エターナル・ウィドウの自室へと招かれたのである。 周囲へ視線を向ければ、君と同じように困惑したような、あるいは何かを察したような顔をしているヒーロー達の姿がある。それはG6に所属している者もいたし、所属せずに活動している者もいた。君が最後の一人であったようだった。
 君たちの前に歩み出て、エターナル・ウィドウは告げる。「まずはお集まりくださったこと、感謝いたします」「皆様ご存知の通り、『ヒーロー活動資格登録制法案』こと、『キーン条例』が可決されました。我々としても力の限りを尽くし反対したのですが、残念でなりません。G6も解体指示が出され、遠からずその存在を失うことでしょう」「皆様は、キーン条例に従いますか?」 ヒーロー達が各々意味深な視線を交わす。 魔女の視線が、ちらりと君へ向けられた。「あなたはどうです、(PC1)?」

【状況3】

「そうですか」 君の考えを聞き届け、エターナル・ウィドウは君から視線を外す。彼女の背後で、再び二つの空間が歪み始め、二つの扉が作られた。「ご意見、ありがとうございます。結論から申し上げましょう、私はこの条例に断固反対する立場を取ります。たとえ誰に、何を言われようとも、どんな手を使おうとも」「今日、皆さんをお招きしたのは、志を同じくする方が居られたならば、共に戦いたいと思ったから」「これは脅迫ではなく、相談です。だから、お帰りになるのであれば、右の扉を抜けてください。私に協力してくださるというのなら、左の扉を抜けてください」「皆さんの自由意志を奪うつもりはありません。……私はあくまで、ヒーローですから」 君の前には二つの扉がある。 エターナル・ウィドウと共に、法案に反対せんとするのならば、右の扉に。 エターナル・ウィドウと袂を別ち、この場を去るとするのならば、左の扉に。 選ぶのは君だ。

【エンドチェック】

□左右の扉どちらかを選んだ

【解説】

 PC1がエターナル・ウィドウと出会い、彼女からキーン条例反対活動への勧誘を受けるシーン。 共通エントリーの直後を想定しているが、PC1の共通エントリーの情報次第では、多少時間が動いていてもいい。1人でいるところ、他人から離れているところに接触してくるとするのが良いだろう。 エターナル・ウィドウはこの時点ではPCの選択を妨害することはない。エターナル・ウィドウとやりとりを行い、どちらの扉に向かうかを選んだタイミングでこのシーンは終了する。 エターナル・ウィドウはDLHの兄弟システムであるブラックジャケットRPGより設定を拝借したが、このシナリオ内では以下のように少々設定を変更している。以下の情報はPC達も知っていて構わない。
■エターナル・ウィドウ G6のミスティック代表。本名、風祭うらら。 12歳の若さで永遠の寿命を手にした、不世出の魔女。 その性質から、不老不死の研究をしているヴィラン組織『腐肉宮廷』との関係を疑われたことがあるが、当人は関係を否定している。 セカンド・カラミティを生き残った唯一のG6オリジン代表者であるが、セカンド・カラミティ以後は表舞台に出てくることはなく、ふっつりと音信が途絶えていた。 見た目こそ少女じみているが、その言動には年齢不詳の得体の知れなさが感じられる。

【イベント2:司法関係者S】

▼登場キャラクター:PC2▼舞台:料亭

【状況1】

 君は「ヒーロー(PC2)様に内密に相談したいことがあります」という匿名の相談を受け、依頼人と落ち合う場所へと来ている。 指定された場所は人気のない高架下。時刻は間もなく丑三つ時を迎えようとしている真夜中だ。 君が相手を待っていると、一台の黒塗りの高級車が現れた。 サングラスで顔を隠した運転手が、君へ言う。「ヒーロー(PC2)様ですね。依頼人がお待ちです、お乗りください」

【状況2】

 どの道をどう曲がったか……必要以上の右左折を繰り返した末、君が連れて来られたのは、どこかの高級料亭だった。 離れへと通されれば、仕立ての良い和装をした、スキンヘッドの男が君を待っていた。男は君を歓迎する。「このような時間に、このような形でお呼び立てしてしまい、まことに申し訳ない」「重ね重ねの無礼ながら、名を名乗るのに難儀する身分故。私のことは、Sとでもお呼びください。……司法に携わる者、とだけ」 男は三つ指をついて君に礼をし、自身をそう称する。
「この名乗りで予想はついておられるやもしれませんが、 貴方様をお呼びしましたのは、『ヒーロー活動認可制法案』…… ……巷ではキーン条例と呼ばれている、例の法に関して、 ご相談したいことがあったからです」
「最初に、誤解無きよう申し上げますと、 私はキーン条例に賛成の立場におります。 ですがそれは、あなた方の力を畏れてのことではなく、 また、あなた方を管理したいと願ってのことでもありません」

【状況3】

「まずは、キーン条例が何故生まれたのかをご説明しましょう」 Sはそう言うと、君の前に一冊のファイルを差し出した。 「機密」と記されたアナクロなファイルだ。 そこには、キーン条例がこれまで辿ってきた経緯が記されている。キーン条例はもともと、セカンド・カラミティ以前から、超人種登録法の一環として審議されてきた法案だという。 ファイルの中には、ヒーロー達がこれまでに起こした不祥事や、非合法な活動によって起こったトラブルなどが記されていた。書類は古く、第二次世界大戦後、日本が超人大国としての道を歩み出した頃から、形を変えながら議論され続けてきたものだということが分かる。 しかし、法自体は、G6や多くのヒーロー、彼らに賛同する市民の反対を受け、決定的な一歩は踏み出されずにきていたらしい。
「超人種差別の意識に端を発する法であることを、否定は出来ません。 だからこそ、これまでは、決定的な一歩は踏み出されずに来た」
「しかし……セカンド・カラミティで、 反対派を取っていた多くのヒーローが死にました。 そして、悪党達が我が物顔でのさばるようになった。 あまつさえ、諸外国からの侵攻を許し、 それに対し国家としての反発を許されぬ現状が続いています。 それにより、法案自体が意義を変え、市民達の危機意識も変わったのです。 あなた達ヒーローという存在を、我々もまた守りたいという方向へ」
「ヒーローはもともと、警察とも軍隊とも違う。個人の利益、善意、 ないしは正義感によって支えられてきた、あくまで民間のものでした。 だからこそ、その精度や信用性にはムラがあった。 完全な連携が取れていたとも言い難い……。 この国は、その曖昧で善良な無責任に支えられていました」
「セカンド・カラミティで多くのヒーローが死んだ今、 これまで彼らの善意に甘んじ、守られるだけだった我々もまた、 ヒーローと共に、体制として戦う必要がある。 そうした意識が生まれたのです。 個々人の善意に委ねられていた「ヒーロー」という存在を改めて定義し直し、 組織的な支援と運行を可能とするための法律、 それが『ヒーロー認可制法案』」
「形を変えたヒーローという概念が、如何なる形をとるか。 こればかりは、未だ可能性の中と言わざるを得ませんが……。 書類上の正式名称として定義されているのは『超人警察機構』。 軍を持てない我が国の、最大限の譲歩といったところです」
「ゆくゆくはもっと馴染みのよい名称へ変わっていくかもしれませんね」
「……かくいう私も超人種でしてね。 公にはしていない情報ですので、どうかご秘匿を願います」 そう言うと、彼の背後で影が不自然に蠢く。それは間も無く大人しくなり、普通の影と変わらなくなった。「セカンド・カラミティ以前は反対の立場にありました。 しかし今は、立場を変え、この法は必要なものだと認識しています」「いま、世界は変わろうとしているのです」

【状況4】

「『ヒーロー活動認可制法案』は誤解を受けやすい立場にあります。 だからこそ、最初の第一歩は慎重に踏み出さなければならない。 依頼というのは、他でもありません。 あなたに、登録一号目のヒーローとなって欲しい」「ゆくゆくは……超人警察機構の総隊長をお願いする事にもなり得るでしょう」「答えは今でなくとも構いません。 むしろ、この場ですぐ出した答えは、互いの為になりますまい。 どうかゆっくりとご一考を」
 Sは懐から一枚のメモを取り出し、差し出した。そこには住所が記されている。「私の持ち家の一つです。答えを出されましたら、こちらの家へ」

【エンドチェック】

□Sと話をした□Sの隠れ家を知った

【解説】

 PC2が謎の男・Sと出会い、彼からキーン条例登録一号目のヒーローとなることを勧誘されるシーン。 プライムバースの日本は第二次世界大戦で敗北後、自衛隊を持つのではなく、超人種を勧誘することで国内戦力として確立させている。詳細はR1・222頁『日本』の項目などに詳しい。 「諸外国からの侵攻を許し、それに対し国家としての反発を許されぬ現状が続いている」というのは、国家として成立しているヴィラン、神聖蒸気帝国やサイレントサイエンスのことを指していると考えて良い。「国」として立ちはだかるヴィラン達の行いは立派な侵略行為であるはずだが、プライムバースの日本は国家として対立することすらできない状況にあるのだ。 「超人警察機構」とは、DLHの兄弟システム「ブラックジャケットRPG」から用語を拝借している。あくまで用語だけだが、同システムを所持しているPLに分かりやすく伝えるならば、「PC2にフォーカスライトのようなポジションになれ」と言っているのだと思ってもらって構わない。 この世界ではブラックジャケットという名称はまだ登場していない。

【イベント3:AーZ】

▼登場PC:PC3▼登場NPC:A-Z▼舞台:PC3の自宅

【状況1】

 その日、君が自宅へ帰ると、君の家族は皆、不自然な眠りに落ちていた。 そして自室のパソコン(テレビや家族のスマートフォンでもいい)が、暗い部屋で一人でに灯っていた。ぼんやりとした青白い光が、暗い室内に広がっている。画面の中では、見覚えのある幾何学的な映像と音色が流れていた。 君はその映像を知っている。 電子ドラッグ、独立した意志を持つ人工知能、A-Zと呼ばれるヴィランがそこにいた。

【状況2】

『こんにちは、(PC3)。お帰りをお待ちしておりました』(『円滑にお話を進める為、あなたのご家族には眠って頂きました。必要以上に脳へは干渉しておりませんので、ご安心を』) ここに現れた理由を問われれば、A-Zは『大変なことになっていたようなので』と面白がるように言う。それがキーン条例のことを指しているのだと察してよいだろう。『率直に言って、「ざまあみろ」という気持ちですね』『それで? あなたのご意見はどちらなのですか?』

【状況3】

 キーン条例に対するPC3の考えを聞き届け、A-Zは尋ねる。『キーン条例に何の問題が? むしろ、あなた達から見れば、非常に合理的な法だと思いますが』『一例を出すのであれば──ヴィランというものは、あなたたちヒーローを殺す気で向かってきます。元より法規を逸した存在です、失うものは何もない。 しかし、あなた達は違う。法を逸すれば処罰され、ヒトの社会から弾かれます。あなたたちに彼らを殺すことは許されない。息苦しいとおもったことは?』『正式に登録されたヒーローには、軍人が戦場で敵対者を殺したとしても罪に問われないのと同じように、正式な殺人の認可が与えられる。良い社会の進化ではありませんか。あなた達のやり方よりも、よほど効果が見込めるように思いますが』 尋ねてくるA-Zの声は無感情であり、彼が本心からそう思っているかは定かではない。 君は何と答えよう?

【状況4】

『あなたの選択に興味があります』『(PC1・PC2・PC3)……あなた達三人のヒーローは、過去二度に渡り、私に不死という進化の不要を論じてきました。私の望む進化の形は、あなた達人類には不要であるのだと』『だからこそ、あなたの選択に興味があります。あなた達人類は何を選ぶのか。本当に、この世界に進化の必要は無いのかを』 その声を最後に、A-Zの映像がふつりと途絶え、君の所持品のスマートフォンに映像が移る(所持していない場合、いつの間にか足元に、知らない端末が落ちている)。 端末の中、本心の分からない機会音で、A-Zが言う。『あなたの選択を見届けましょう』

【エンドチェック】

□A-Zと話をした□A-Zがついてきた

【解説】

 PC3の元にA-Zが接触してくるシーン。 PC3の生活環境に合わせて状況1の描写は変更しよう。一人暮らしで家族がいないなどの場合は、自宅に奇妙な違和感があるとすればよい。ホテル暮らしなどの場合も同様だ。

3.展開フェイズ

【クエリー1ーA:救いの範囲】

▼発生タイミング:PC1がエターナルウィドウに協力した▼登場キャラクター:PC1/登場NPC:エターナル・ウィドウ

【状況1】

 君はエターナル・ウィドウに協力することを選び、扉を抜けた。 エターナル・ウィドウは君と同じ扉を抜けたヒーロー達へ、茶を振る舞いながら彼女の集めた資料を魔術によって提示していく。
「これまでも、政治家とヴィラン組織の癒着問題は度々発生していました。 魔術秘密結社メイヘムのメンバー、アーガット・オン・ザ・ゲームの支援者、 ゴッズ・4・ハイアやアングリーフィストの利用者、 エネルギー目当てで神聖蒸気帝国と取引をする者も……。 悪とは権力と結びつきやすいもの、挙げ連ねればきりがありません」
「それでも、これまでは、かろうじて世界の均衡は保たれてきました。 善良なる人々の数が、悪辣なる者達の数よりも多かったから」
「しかし、セカンド・カラミティでそれは変わった。……良くも、悪くも」
 セカンド・カラミティで生き残った富裕層は、ヴィラン組織との関与が疑われる者達が多かった。それは政治家も同様だ。エターナル・ウィドウはそのことを指しているのだと君にはわかる。
「法案が世に浸透すれば、『ヒーロー』という存在は形を変え、いずれ消滅することになる」「証拠が必要です。 法案賛同者の中に、ヴィラン組織と関与する者がいるという証明が。 あの法は、ヴィランがヒーローを陥れる為に仕組んだ 悪辣な策であるのだと世に示す証拠が。 それを成すには、手段を選んではいられない」
 彼女は君の前に幾人もの人間の顔を映しだした。テレビで見たことがある大物政治家たち。中には現首相である蔵前氏の姿もある。……大勢の人数だ。 エターナル・ウィドウは言った。「彼らの自宅を調査します。秘匿されないよう、秘密裏に」 それはつまり、不法侵入だ。

【状況2】

 次の動きの話し合いを終え、各々のヒーロー達が散ったその後。 エターナル・ウィドウが、PC1を呼び止めた。「(PC1)」「あなたが救いたいと願うものの範囲は、どこまで?」 意図を掴みかねる質問だ。何故彼女はこの問いを君に投げかけたのか、今はその真意は分かるまい。 君はその問いに、なんと答えようか?

【エンドチェック】

□エターナル・ウィドウの問いに答えた□グリットを1点獲得した

【解説】

 エターナル・ウィドウの口ぶりはどこか過激であり、また反対理由に関しても憶測の域を出ないような曖昧な情報ばかり。はっきり言えば怪しい人物として演出することが好ましい。 PC1がどんな言葉をかけても、エターナル・ウィドウが計画を中断することはない。 PC1が彼女のやり方に反対する場合、意見の衝突ロールを楽しんでもらおう。 この部屋を強引に去ろうとするのであれば、魔術によって彼女に動きを封じられ、強制的に部屋に残されるなどして進行してみても良いだろう。「あなたはもう選んだはずだ」 エターナル・ウィドウが救いたいものの範囲は何か、とPCに問われたならば、エターナル・ウィドウは迷いなく「全てを」と断言する。しかしその詳細はわからないままだ。

【チャレンジ0.5ーB:救われぬもの】

▼発生タイミング:エターナル・ウィドウの協力要請に反対した▼登場キャラクター:PC1/登場NPC:なし

【状況1】

「私の何が不満でしたか?」 扉を選んだ君へ、エターナル・ウィドウが声をかける。「……(PC1)、あなたに聞きたいことが」 彼女は感情を感じさせない声で、しかし君をまっすぐに見ながら尋ねる。「あなたが救いたいと願うものの範囲は、どこまで?」 意図を掴みかねる質問だ。何故彼女はこの問いを君に投げかけたのか、今はその真意は分かるまい。 君はその問いに、なんと答えようか? 君の答えを聞き届け、エターナル・ウィドウは少女らしからぬ憂いを帯びた表情で溜息を吐き、君を見送った。「……残念です、本当に」

【状況2】

 PC1が部屋を出た瞬間、君の体は宙へと投げ出された。 目が眩むほどの遥か下方には、荒れ果てた荒野が目に入る。そこには、転々と……大勢の、ヒーロースーツを着た者達の亡骸が転がっていた。 凄まじい暴風が、竜巻が、鎌鼬が、PC1と、部屋を出たヒーロー達を襲う。君の目の前にいたヒーローの首が風の刃に刎ねられる。断末魔と共に隣のヒーローの胴が逆鯖状に圧し折られる。 その風は意志を持つように蠢き、刃となり、明瞭な殺意を以って君達の命を狙っていた。地上から離れた遥か上空、雲よりも尚高いその場所は、瞬く間に殺戮空間と化した。 君は理解する。エターナル・ウィドウは本気で、自分の考えに従わなかった君たちを、君を、殺す気でいるのだと!
------------------------【チャレンジ判定】・生き残れ!……生存-30% or 霊能-40% or ライフのデスチャート4
【失敗時】 生存-30% or 霊能-40%の判定に失敗した場合…全てのエナジーを0にする ライフのデスチャート4の判定に挑んだ場合…「死亡」さえ引かなければチャレンジ達成とみなすが、その後ライフを0にする。「死亡」を引いた場合、チャレンジ失敗とみなして全てのエナジーを0にする。 このチャレンジは失敗したとしてもリトライを失うことはない。------------------------

【状況3】

 君はどうにか暴風の猛攻を耐えきることができた。君はそのまま地面に叩きつけられる。 周囲にいたヒーローは皆、物言わぬ屍となっていた。彼らの亡骸がクッションとなり、君は即死を免れた。 しかし、君もまた重傷を負い、意識は朦朧としている。体が動かない。ここがどこなのかも分からない。このままでは遠からず、死を迎えることになる。 意識が完全に途切れる間際、君は車が止まるような音と……こちらに駆けつける、和装の男の姿を見た。「遅かったか! ええいあの女、全く手段を選ばない……おい! 君、しっかりしろ! 死ぬな! おい…!」 君の意識はそこで途絶えた。

【エンドチェック】

□エターナル・ウィドウの裏切りを知った□意識を失った□グリットを1点獲得した

【解説】

 PC1が「移動適正:飛行」持ちのPCである場合、魔術によってうまく飛べなくなっているなどとすると良い。他、展開に不都合であるとGMが判断するPCの特性は、エターナル・ウィドウの魔術によって全て妨害されるとして構わない。彼女はそれだけの力がある魔術師なのだと言い切ってしまっていいだろう。 状況3でPC1はSに回収されることになる。 便宜上は追加チャレンジとなるが、クエリーとしての側面も持つ為、シーン終了後はグリットを1点追加して構わない。

【チャレンジ1:ハウス・オブ・A】

▼登場キャラクター:全員▼登場NPC:司法関係者S、エターナル・ウィドウ、A-Z

【状況1:PC3】

 あの日以来、君はA-Zに監視されている。
『おはようございます、PC3。 ■月●日、本日の東京の天気は曇り、湿度69%、降水確率65%、風速は秒速1m。 念の為、外出時は傘をお持ちになることをお勧めしますよ』
『近道をしましょう。次の通りを右に曲がり、300m直進。 その後ピム・インダストリーズ分社ビルの屋根の上を通り、 北西へ大きくジャンプしてください。 トラックが通過しますので、その背に乗れば32分の短縮が見込めます』
『預言者ヨナの真似はおすすめできません。 別プランを23パターン用意しましたのでご確認を』
 プライベートでも、ヒーローとしての活動中であっても、それは監視というよりも、まるでサポートだった。A-Zは良くも悪くも『ヒーロー』のサポートに慣れていた。 そうして数日が経ったある日。真夜中に、君はA-Zによって叩き起こされる。『PC3、起きてください』『今すぐにこのポイントへ向かってください。ルートはこちらで指定します。……逆らうのであれば、何が起きるかはお分かりですね?』 A-Zはそう君を脅し、向かうべきエリアを示す。それはどこかの山奥だった。

【状況:PC1(エターナル・ウィドウに協力している場合)】

 君はエターナル・ウィドウに付き添い、政治家たちの自宅への潜入任務に就くことになった。 潜入は同時多発的に決行されることとなり、他のヒーローたちと手分けして、同じ夜に一斉に行われることになった。君はエターナル・ウィドウに同行し、Sという政治家の家へ潜入することになった。 エターナル・ウィドウはその人物について、詳しい名前を教えてはくれなかった。ただ識別の為に、Sという名で称しただけだ。「Sはセカンド・カラミティ以後、立場を変え、キーン条例に賛成の立場をとるようになった政治家です。現在は法案認可を受け、実際の登録者のスカウトへ動き始めている、プロジェクトに能動的に関わっている人物。……しかし、その背景事情は謎に包まれています。まずは、彼の正体を暴く必要がある」「行きましょう、PC1。……全てが計画通りに進めば、誰も傷つけることはありません」 彼女は振り返ることなくそう告げ、歩き出した。

【状況1:PC1(エターナル・ウィドウに協力していない)】

 君が目を覚ますと、そこは見慣れぬ和室だった。君は治療を施され、上等な布団に眠らされていたのだ。 枕元では行灯がほのかに灯されており、周囲を見回せば、高級そうな壺や美しい掛け軸が目に入った。こんな部屋は君は知らない。 耳をすませば、離れた廊下から人の話し声が聞こえてくる。「……話は……中で……」「道中…………あたたかいものでも……」 誰かと話をしているようだが、詳しい話はこの部屋では聞き取れそうにない。 傷は残っているが、治療のおかげか、体を動かすことは出来そうだ。 まずはここがどこなのか、調べなければ。 そして、エターナル・ウィドウの暴走を、誰かに伝えなければ…。

【状況1:PC2】

 君はSの依頼に答える為、指定された家へと向かっている。 指定の家は随分と山奥にあり、たどり着くまでにすっかりと時間がかかってしまった。気付けば、あたりはすっかりと暗くなっている。こんな時間に到着するような予定ではなかったはずだが……奇妙なことに、既に夜も更けていた。疑問はあれども、しかし、今更出直すことも出来ない。 Sは快く君を出迎え、屋敷の中へと招き入れる。「夜も更けてしまった、話は中でしましょう」「道中冷えたことでしょう、あたたかいものでもお出ししますよ」 そう言ってSは君と共に長い廊下を進む。使用人たちは眠っているのか、人払いをしてあるのか、彼以外に人が出てくる様子はない。 ……そんな時、君はふと──この家の周囲に潜む、違和感を感じ取った。まるで気配を潜めた誰かが潜伏しているような…。

【状況2:PC3】

 君はA-Zと共に、山奥のSの屋敷を訪れた。 A-Zによって誘導された君は、屋敷を見下ろせる高い位置にある崖の上から、屋敷を見下ろしている。 君の眼前に、A-Zがホログラムでモニターを映し出す。その中には、屋敷の中を進むPC2とSの姿が映し出されていた。(PC1が屋敷の中で眠らされている場合、PC1の姿も目に入る)『変化には恐怖が伴うもの……誰も彼もが隠し事をしている』『あなたは既に類似現象を知っていますよ。だってあのとき、あなたは「夢から醒めた」でしょう』 君はA-Zの言葉が、『夢見る癌』によって引き起こされた、世界全土に齎された集団催眠の件を指しているのだと気付いて構わない。『手伝いなさい、(PC3)。私もあなたを手伝いましょう』『真実を目にしたくはありませんか?』
-------------------------【チャレンジ判定】 このチャレンジ判定はそれぞれのPCが定められたチャレンジ判定を行う。 また、集中の使用は可能だが、「支援」を適応することが出来ない。チャレンジ判定の成功率に関わるパワーは、パワーを所持しているPC以外を目標にすることはできない。
■PC1(エターナル・ウィドウに協力している)/屋敷に潜入し調査を行う …隠密+10%(パワー「虫の知らせ」「サードアイ」を所持している場合、自動成功)■PC1(エターナル・ウィドウに協力していない)/屋敷で何が起きているかを調べる …隠密+20%(パワー「虫の知らせ」「サードアイ」を所持している場合、自動成功)
■PC2/屋敷の違和感を調べる …知覚+10%(パワー「虫の知らせ」「サードアイ」「超知覚」を所持している場合、自動成功)■PC3/A-Zの指示に従う …科学+10% or 霊能+10%
【失敗時:2d6+2点のショックを受ける】-------------------------

【状況3】

 PC1、PC2、S、エターナル・ウィドウの四名は互いに鉢合わせることになる。「……G6ミスティック代表、エターナル・ウィドウ。不世出の魔女様が、何故このように辺鄙な場所へ?」「その理由は、あなたが一番ご存知じゃないかしら」 緊迫感を持って睨み合うSとエターナル・ウィドウ。PC1とPC2もまた、互いが何故ここにいるのかを、理解することになるだろう。 一触即発の、張り詰めた空気の中──エターナル・ウィドウが動く。彼女はSめがけて攻撃魔術を行使する。 殺意を帯びた風がSへと迫る。それは紛れもない、敵対者を殺す気の攻撃だ。(PC1とPC2はそれを防ぐ方向でリアクションをしてもいい)

 PC3へとA-Zは語りかけ、自らの力を使う。『人の意識に働きかけ、その中に虚像の現実を作り上げるのは、なにも私の専売特許ではありません』『浅茅が宿、蛇性の婬。ご存知でしょうか』『古い人間達は、それを「化かされる」と呼びました』

 その瞬間、室内が真っ白な光に包まれた。その光の中、奇妙な映像が映し出される。チカチカと明滅し、明暗の激しいケバケバしい色や、幾何学的な模様がアトランダムに繰り返される。そうした中で、人の声とも、楽器の音色とも言えない、ささやかでいて脳裏に残り続ける音が響き続ける、幻想的でデジタル的な、奇妙な映像だった。「ここで来おったか、あの阿呆!」 Sが奇妙な声をあげる。 PC2とPC1は、その力に見覚えがある。それは、君たちが過去に相対したヴィラン・A-Zの持つ能力。他者へ幻覚を齎し、その精神を削るパワー『ロジック・ボム』! それは電子ドラックが見せた幻覚か? それとも、刹那の間に姿を見せた現実か? ──はたしてA-Zに、そんな力があっただろうか? 君たちがいる和風建築の屋敷に、3Dモデルを表示するように青白い走査線が走っていく。そして、その光が消える端から、レイヤーが引き剥がされていくかのように、屋敷そのものが形を変えていく。 美しかった和風建築は瞬く間に形を無くし、周囲には荒れ果てた古い廃墟と、廃墟を覆う広大なススキ野が広がった。Sの邸宅は全てが幻覚だったのだ。 同時、Sは走り出す。仕立ての良い和装をした公人の姿が爆ぜるように膨れ上がり、それは数歩歩く頃には、天を点き、大地を揺らし、月を隠し、地上の形を変えるほどのダイダラボッチとなった。 ああ、それは政治家などではない、百寄夜會の幹部、葬送法師だ!
 一瞬の出来事だった。 葬送法師は迷わずPC2へと手を伸ばす。人一人を容易く握りつぶしてしまいそうな大男の掌に、PC2は抵抗を示しただろうか? ……その背を、どん、と風が押した。PC2の体は、葬送法師の掌に掴まれ、彼の巨体と共に影の中へと引きずり込まれてしまう。 PC1は、PC2の背を押した風が、エターナル・ウィドウの放った魔術だと理解できる。彼女がPC2へと魔術を行使し、葬送法師の手へ委ねたのを、君は確かに目にしたのだ。 ススキ野に覆われた廃墟には、エターナル・ウィドウとPC1だけが残され、相対することになる。 感情の読めない顔をしたエターナル・ウィドウが、PC1へと杖を向けて告げる。「あなたはこちらへ」「それとも──眠らせて運んだ方が話が早い?」

 その頃、高所にて、PC3は一連の光景をホログラムモニター越しに目にしていた。いま起きた奇妙な出来事に、君は何を思うだろうか。 そんな君へ、A-Zは告げる。『選んでいいですよ』 ここでエターナル・ウィドウとPC1の間に入り、PC1を助け、ウィドウと行動を共にするか。 葬送法師を追い、PC2のもとへ向かい、葬送法師と行動を共にするか。 あるいはどちらに属することもなく、A-Zと共に居続けるか。 選ぶのは君だ。

【エンドチェック】

□チャレンジ判定を終えた□PC2が誘拐された□PC1がエターナル・ウィドウと残された□PC3が行く道を決めた

【解説】

 非常に多くのイベントが発生し、物語が一気に動くシーンだ。 描写や情報が多くなりがちなので、(特に状況3)GMは適宜PLとやりとりをしながらシーンを作り出していくことを意識すると良い。 チャレンジ判定はPC1はPC2を、PC2はPC1を探すイメージだ。PC達はお互いに実力のあるヒーロー(おそらく)。疑似的な対立のような空気を楽しんでもらおう。 葬送法師が政治家に扮していたのはただの変装の一貫だが、メタ的な意味での元ネタはR1・223ページ枠外の項目「在日米軍撤退」の項目を参考としている。目的は不明だが、彼が日本の政治活動に干渉するのはこれが初めてのことではない。

【クエリー2:逢魔ヶ刻】

▼舞台:言擧ゲセヌ國・荒れ寺▼登場キャラクター:PC2(選択次第ではPC3も)・葬送法師

【状況1】

 君が目を覚ますと、目の前に一つ目の怪物の顔のドアップがあった。 それは倒れている君の顔を覗き込んでいたセッコ達だった。セッコ達は「(PC2)がおきたー」「おきたー」と口々に騒ぎながら、蜘蛛の子を散らすように去っていく。 君が横たえられていたのは、廃墟となった荒れ寺の本堂だった。 どこか遠くから、悲痛な響きを帯びた猫の声が響いている。
「おう、起きたか。握り潰しちまったかと思ってヒヤヒヤしたぜ」 葬送法師は縁側で酒を飲んでいた。空は真っ赤に染まっている、浮世離れした夕暮れだ。「飲むかい? 黄泉竈食にゃならんから安心せえ」「サァテ、サテ。どこから説明したもんか…」 葬送法師は何事かを考えていたが、結局詳細な説明を諦めた様子で、ざっくりと君に唐突な問いを投げかけた。「お前さんにとって、あの付喪は何に見える?」「ワシにとっちゃあ、ただの付喪神よ。だがお前たちからして見りゃあ、あれはなにに見えてる?」「道具か、人か、それとも妖怪か……あるいはそれ以外の何かか」「そう、お前らがA-Zと呼ぶ、あの付喪のことだよ」

【状況2】

「半年ほど前のことさなァ。アレは百寄夜會に庇護を求めに来た。丁度人間達が、眠るだの起きるだので騒がしかった、あの騒動が終わった頃だ」「ああいった手合いの付喪は初めて見たが、ずいぶんとくたびれた様子だったし、ワシはアレを付喪と見立てた。だから歓迎し、アレはひとときここにいたのさ」 葬送法師の指差す先には壊れた古いブラウン管テレビが粗大ゴミめいて置かれている。「生まれの経緯と考えを聞けば、なるほど確かにアイツは付喪で、ワシらと似た考えを持っていた。人間から作られ、人間がいなければ在り続ける意味がなく、人間が死ぬほど大嫌い。そして……」 遠くからは悲痛な猫の鳴き声が聞こえてくる。「……いや、ここから先は言うまいよ」

【状況3】

「A-Zはしばらくここにいたが、結局去ったよ。カシャネコは科学の類が嫌いでな、奴とはついぞ反りが合わんかった。それに、やつのやりたいことと、ワシらの目的も……一致はしとらんかったでな」「妖怪ってのは、『よくわからないもの』の総称だ。原因の分からない何かがあって、恐怖を感じて、そこに名前がつけられて生み出される。 人間が死ななくなっちまったら、ワシらが生まれる為に必要な「恐怖」が一つ、どデカく欠ける。あの付喪とワシは気は合ったが、そういう目的は一致しなかった」「奴も奴で、この国で何かを調べてるように見えたよ。 ただの療養や、仲間を求めてきた訳じゃあ無かったんだろう、そういうしたたかさは誰にだってある。カシャネコはそこも気に食わんかったんだろうな。 ……『偽りの彼方』がどうのこうのとごちていたが……さあて」

「キーン条例はワシらがどうこうした訳じゃあないぞ。あんなもの、百寄夜會に関係あるもんかい。人間達が勝手にお決めになすったことだ」「じゃあ、なーんでわざわざ、お前さんに対してあんな回りくどい接触をしたのか、だが……教えてやーらない!」 葬送法師はガハハと笑ってそれ以上を告げない。「が、そうだなあ。ワシはお前さんを化かす為に嘘八百を並べ立てたが、一つだけ本当のことを言ったぞ」「今、この世界そのものが変わろうとしている」「キーン条例のことじゃあない、もっとデカイ話だ。悪漢、英雄、人、人ならざる者……いくつもの要素が重なり合ったその先。そこには当然お前さんたちも含まれているが……あの付喪が、間違いなく中核にいる」「『ヒーロー』がどうなろうと、ワシらにはどうでもいい。だが『人間』には……妙なことに、滅んでもらっちゃ困るのよなァ……」「……止める気あるかい?」
■YESと答えた「そいつはいい、そいつがいい。人間が作り出したものだ、人間が決着をつけるのが一番さ。あいつにとっても、あんたらにとっても」「この札を持っていけ。虎の子だ。しかるべき時、役に立つだろうさ」 一枚の赤い札をもらった。
■NOと答えた「そりゃ、残念。そういうことならもう用はない、さっさと帰りな」 帰り道の中、ポケットにお札がねじ込まれていることに気付く。いつのまに。
「サテ、酒も尽きた。宴も酣、話はしまいだ。カシャネコにバレて面倒なことになる前に、お前も現世に帰れ。帰り道はその芒野を振り返らずにまっすぐだ」「せいぜい振り返らんことだ。行きはよいよい、帰りは怖い……」 葬送法師は冗談めかしてそう言うと、君への話を終えた。

【エンドチェック】

□葬送法師と話をした□A-Zの関与を知った□赤い札をもらった□グリットを1点獲得した

【解説】

 PC2が(選択次第ではPC3も)葬送法師から事件の裏に潜む大きな世界の危機について話をされるシーンだ。PCやPLが「この話はキーン条例だけで終わらないらしい」ということを察するための役割を持つ。そしてその事態にはA-Zが関わっているのだということも。 反面、具体的にどういった危機が起きるのかはここで話されることはない。百寄夜會の一員である葬送法師はそもそも人間(転じてPC達)が嫌いなので、その辺の設定を上手く使ってのらりくらりと躱してしまうと良いだろう。 赤い札は後半のキーアイテムとなるものだ。GMは忘れずに入手描写を行うこと。

【チャレンジ2:霧中の解】

▼舞台:各々▼登場キャラクター:全員

【状況1】

 君たちは各々の状況に晒され、各々の疑問と相対する。 エターナル・ウィドウの目的は何なのか。 『キーン条例』にA-Zがどう関わっているのか。 この世界に迫っている変化とは一体?
------------------------------------------------------------------【チャレンジ判定内容】PCはそれぞれのエントリーで定められた内容について調べる。支援は適応して構わない。------------------------------------------------------------------

『PC1』

■エターナル・ウィドウについて調べる。 キーン条例に反対する為と言いながら、彼女は何か別の思惑を持って動いているようだ。■判定:霊能-10%/追憶-20%/経済-10%
【成功】 エターナルウィドウに関するより詳しい情報がわかる。 彼女はセカンド・カラミティ直後頃から、百鬼夜會のヴィラン・葬送法師と内通している。 先の交戦は完全に彼女たちによる自作自演、そこにA-Zが介入した形だったのだ。 セカンド・カラミティ発生前からG6のオリジン代表を務めていたヒーローの中で、セカンド・カラミティを生還したヒーローはエターナル・ウィドウただ一人。 それ故に、「彼女は自分が生き残る為に仲間を見捨てた」という悪評が、まことしやかに囁かれている。
【失敗時】 決戦開始時に【汚名】を受けた状態で戦闘へ突入する。

『PC2』

■A-Zについて調べる。 コトアゲセヌ國を訪れた理由とは何だったのか、コトアゲセヌ國を去ったA-Zは何を調べていたのだろうか。■霊能-10%/科学-10%
【成功】 A-Zがコトアゲセヌ國に向かった目的、およびその後のA-Zが何について調査していたのかが判明する。 A-Zは、数多の魔術師やハービンジャーの知識を収集しながら、『偽りの彼方(ネガティブ・プレーン)』と呼ばれる概念について調査していたようだ。コトアゲセヌ國を訪れたのもそれが理由だったのだろう。 コトアゲセヌ國を去ったあと、A-Zの『偽りの彼方』に関する最後の痕跡は、アレイスター・クロウリー率いる宗教組織への干渉でピタリと止まっている。 それからしばらくの間、A-Zは活動を停止しているようだ。 『偽りの彼方(ネガティブ・プレーン)』 ファースト・カラミティ以前にこの地上を支配していた神々が放逐された世界のこと。 コトアゲセヌ國、ヴィクトリアン・エラと呼ばれる、この世界に隣接しながら異なる世界である国々は、ファースト・カラミティの際にそこから生じたのだという言説もある。
【失敗時】 決戦開始時に【汚名】を受けた状態で戦闘へ突入する。------------------------------------------------------------------
 PC3は、『チャレンジ:衝突』で選んだ選択によって判定内容が変化する。

『PC3』*PC1の元へ向かっている場合

…PC3はPC1と合流し、協力して調査を行う。 相互に助け合うことで、PC1のチャレンジ判定の内容に+10%の補正が発生する。PC3の判定:霊能/追憶-10%/経済
【成功】 ミスティック、エターナルウィドウは不老ではあるが不死ではない。 彼女の肉体は、魔術の力を除けば、時を止めた12才の少女と変わらない。 そんな彼女がセカンド・カラミティを生還した理由……彼女は『セカンド・カラミティ』の最中、突如として絶叫をあげ、ザ・スローターとの最前線から逃げ出したのだという。 力を持つ、指揮官的立場にあったミスティックの現場離脱により、彼女とともに戦っていたヒーロー達は全滅。担当地域も壊滅の憂き目を見た。 それ故に、彼女の放逐の真実を知るものは殆ど居らず、彼女は『セカンド・カラミティを生き延びた実力派ミスティック』としての立場を保った。 エターナルウィドウが何故突然逃げ出したのか、その理由は定かではない。
【失敗時】 決戦開始時に【汚名】を受けた状態で戦闘へ突入する。

『PC3』*PC2の元へ向かっている場合

…PC3はPC2と合流し、協力して調査を行う。 相互に助け合うことで、PC2のチャレンジ判定の内容に+10%の補正が発生する。■霊能/科学
【成功】 A-Zの『偽りの彼方』に関する最後の痕跡は、アレイスター・クロウリー率いる宗教組織への干渉でピタリと止まっている。 それから間も無く、アーガット・オン・ザ・ゲームが、フォーセイクン・ファクトリーに『何か』を高額で売り払ったという。 その後、再び姿を現したA-Zは、『偽りの彼方』ではなく、政治活動や経済活動に関する調査に不自然な労力を割いている。それはA-Zというヴィランの目的や在り方を知っている君たちからすれば、不自然に俗な方針転換だ。 確証はない。だが君は、この取引によって、A-Z自身に何かが起きたのではないかと感じた。
【失敗時】 決戦開始時に【汚名】を受けた状態で戦闘へ突入する。

『PC3』*A-Zと共にいる場合

……A-Zは何故自分に接触してきたのか? その理由を調べる。■生存/意志
【成功】 ふと気づくと、君は君の自意識が、『キーン条令』に対し肯定的になっていることに気付く。 君自身の記憶と自我が、じわじわと侵食されているのだ。 いや、それだけではない。君の意識は、『キーン条令』のみならず、『不死の人間』という概念に対し、憧憬や渇望に似た衝動を抱き始めているのだ。──死にたくない。──失いたくない。──まだ生きていたい! 君の頭の中で、君ではない、何百、何千、何万、何億もの人の声が叫ばれる。君という人間の自我を押しつぶし、飲み込んまんとするかのように。 数多の記憶が君へと刻み始める。多くの人々の、多くの政治家達の、彼らの心もまた、無自覚のうちに、A-Zによって操られていた。 果たしてA-Zにそれほどの力があっただろうか? ふと視線を上げれば、そこにスマートフォンが落ちていた。その中に、A-Zの姿が映し出されていた。『私を選んだあなたは、馬鹿な人』『せっかく、逃してあげようと思ったのに』 A-Zの、憐れむような、喜ぶような声が君の耳に届く。 その画面の中で、狼が一声吼えたような気がした。
【特殊:以後、PC3はシナリオ内で所定のアナウンスがあるまで、『BS:記憶の継承』状態となります】『BS:記憶の継承』 ターン行動開始時、君は『意志+10%か生存+10%』で判定を行う。 失敗した場合、君は『混乱ポイント1点』を獲得する。 このBSはBS解除パワーなどで回復することはできない。 この混乱ポイントは一度『タイミング:行動』のアクションかパワーを使用すると解除される。
【PC3チャレンジ判定失敗時】 『BS:記憶の継承』を受けた状態かつ、決戦開始時に【混乱ポイント1】を受けた状態で戦闘を開始する。 この混乱ポイントは一度行動を行うと解除される。

【エンドチェック】

□情報を集めた

【解説】

 PC達が情報収集を行うチャレンジ。 PC3の分岐によって、情報の過不足が出やすいチャレンジでもある。GMはPL達のシナリオの理解度や納得度を確認しながら、適宜開示する情報を増やしたり減らしたりすると良い。 PC達がどのようにこれらの情報を得たのか、それはPL達が自由に演出して構わない。どうにも思いつかないというときは、PC1:エントリーで登場したエターナル・ウィドウの自室で調査を行った/エターナル・ウィドウのことを昔から知るG6関係者に話を聞いたPC2:アレイスター・クロウリーを見つけ出して口を割らせたPC3:A-Zの視線を感じた などの状況にすると良い。「偽りの彼方(ネガティブ・プレーン)」に関する情報は、「D3:ブラック・オア・ホワイト」の6ページ「ファースト・カラミティ」より設定を利用した。とはいえ、このシナリオの独自設定としての色が強い。 アレイスター・クロウリーおよびアーガット・オン・ザ・ゲームの暗躍とその動機の詳細はシナリオ末尾の「NPCについて」に詳細を記載する。

【クエリー3:少女の願い】

舞台:G6本部跡地ビル屋上登場キャラクター:全員

【状況1】

 解体指示が出され、無人となったガーディアンズ・シックス本部跡地の屋上。 東京の街並みを見渡すことのできる高層ビルの上に、エターナル・ウィドウは立っている。 PC1とPC2は、A-Zの思惑やエターナル・ウィドウの思惑を詰問する為、彼女のいる屋上へと姿を現した。(ルート3に行っていないのであれば、PC3も共にいる)「……あなたたちがここに来ることは知っていました」 エターナル・ウィドウはPC達へそう告げる。 背を向ける彼女へ、PC達は何を問うだろうか?

【状況2】

 エターナル・ウィドウは高層ビルの屋上から、東京の一角を指し示す。そこにある特徴的な建築物は、国会議事堂だ。「今から二時間後、あの場所で、キーン条例の詳細を定める議会が開かれます」「葬送法師はこの件から手を引いたようですね。もとより多くを期待してはいませんでしたが……改めて、いま動けるのは私たちしかいなくなりました」「ここから、どうするべきだと思いますか?」「法案を見届けて、超人警察機構の一員として名を連ねる? 国会議事堂に乗り込んで、法案の不備を訴える? それともいっそ、あそこを爆発させてしまって、全てをヴィランの仕業に仕立て上げて、ヒーローの必要性を世に訴えかけてみましょうか」

【状況3】

 PC達の答えを聞き届け、エターナル・ウィドウは溜息を吐く。 そして振り返り、彼女は言う。それまでの毅然とした態度ではなく、それは追い詰められた幼い少女のような悲痛なものだった。「私ね、『全部』試しました」「セカンド・カラミティの時に、見ちゃったから。この後どうなるか、わかっちゃったから」「止めなきゃって、どうにかしなきゃって、でも」「でもダメだったんです」「私じゃあ、ダメだった」「この先に行けるのはあなたたちだけ」「だから──…」 一発の銃声が響いた。

【状況状況3.5】(PC3がルート3を選んでいる場合に発生)

 君の意識は朦朧とし、君という自我は何かと融合する。 君の体は君の心を離れ、君という存在は、今は君ではない何かの意志にしたがっている。 気付けば、君の視界の先に、エターナル・ウィドウの姿があった。見知った者達の姿もまた。 君の傍で、A-Zが囁いた。『さあ、あなたの悪意を』 ……それは本当にA-Zの声だっただろうか? 震える君の体が動き、そして……。 君はエターナル・ウィドウを殺すことになる。

【状況4】

 銃声が響き、ブリッツクリーグの狙撃によってエターナル・ウィドウが倒れる。(PC3がティーチャー化している場合はPC3の手で、していない場合はブリッツクリーグの狙撃によって) 息絶え絶えになりながら彼女は言う。「私を助けてはいけない。それではズレる。三万三千四百二十六回の試行で、この運命が一番良いのだと分かった。だからお願い、あなたたちはこの先の運命にしたがって。例え何が起きたとしても」「この世界を助けて」「ヒーローを救って、ヒーロー」 エターナル・ウィドウは最後の力を振り絞り、PC達の頭の中へと、次に向かうべき先の映像を送り込むと息絶える。それは彼女のスパークだ。(あるいはPC3を追えと告げて)

【エンドチェック】

□エターナル・ウィドウが死んだ□彼女の事情を理解した□グリットを1点獲得した

【解説】

 エターナル・ウィドウの事情の種明かしシーンとなる。PC達が、「エターナル・ウィドウはセカンド・カラミティの最中に未来を見てしまい、その未来を変えるために何度も世界を繰り返していた」ということを理解できることが好ましい。 シナリオのテーマ上、エターナル・ウィドウはここで死亡することが好ましい。死者から託された想いをどうするのか、それはA-Zの問いにPC達が答えてきたこれまでのクエリーにつながるはずだ。
【※状況3.5について※】 状況2の末尾描写はPC3のやり方次第では銃声じゃ無いかもしれない。 ここはシナリオ展開上必要になるシーンであること、あとで展開によって修復可能であることを伝え、どのように殺したいかをPLに尋ねながら演出を促すとよい。PLが自発的な提案に迷っているようならば、GM主導で演出を行っても良い。洗脳や悪堕ち演出はなかなかやる機会はないものなので、PLにはぜひ悪意を発揮して楽しんでもらいたい。 とはいえ、嫌がるPLにゴリ押しをするのは当然NGだ。PLがNOというのであれば、PC3は必死に洗脳に抗うが、その間にブリッツクリーグの狙撃によってエターナル・ウィドウが死亡した、として進行すると良いだろう。

4.決戦フェイズ

【決戦:キーン条例の真相】

▼舞台:移動中の電車内▼登場:PC全員、A-Z、デラックスマン

【状況】

 上品な作りの電車のコンパートメント席。ビジネスマン風の男が一人座っている。 いくつかの資料を机の上に広げ、仕事をしているらしい男の前では、小型ドローンがホログラムモニターを映し出していた。その中に映し出されているのは、現在進行形の国会中継だ。議席に座る政治家達の何人かは、どこか虚ろな目の色をしていた。 その映像に、わずかなノイズが走る。男はそれに気付くと、手早く机上の資料をまとめ、机を指先でトントンと突いた。それを合図にしたように、男を覆っていたビジネスマンの幻影が消え、その中から姿を現すのは──フォーセイクン・ファクトリーの幹部、デラックスマン。『状況は?』「順調ですよ。これから仕上げです。……気にされていたヒーローのことはもうよろしいので?」(PC3が洗脳されてる場合は「ああ、それが例の?」などに変化)
 ホログラムモニターの中から、A-Zの声がデラックスマンへ問う。 それに対し、デラックスマンはわざとらしい慇懃な声で答え、クスクスと蔑むような笑みを漏らす。「では。最後はよろしくお願いしますよ、『ティーチャー』?」 その言葉を合図としたように、中継画面の国会の中に小型ドローンが流れ込む。それは瞬く間に空間へと複数のモニターを作り出し、奇妙な映像が映し出される。チカチカと明滅し、明暗の激しいケバケバしい色や、幾何学的な模様がアトランダムに繰り返される。そうした中で、人の声とも、楽器の音色とも言えない、ささやかでいて脳裏に残り続ける音が響き続ける、幻想的でデジタル的な、奇妙な映像。 ……その中に獣の咆哮が混ざる。ノイズの中に狼の顔が覗く。そしてそれは、やがて溶けるように消えていく。 その映像を見た、政治家、取材陣、スタッフ達……議事堂内の全ての人間が、声をあげる間もなく意識を失っていく。議事堂内の全員が倒れた後、ドローンは素早く撤収した。倒れていた政治家達が身を起こし……スーツの襟首を直し、何事もなかったように、政治活動へと戻っていった。 議論は紛糾することなく、特定の方向を目指し、スムーズに進んでいく。 まるで、皆が一つの生命体へと至ったかのように。『終わりました』「ご苦労様です、これでこの国は『買えました』ね。……ふむ、テストのつもりだったが、存外良い買い物だったな」 デラックスマンの馬鹿にするような言葉にも、A-Zは何も言わない。ただ感情のない機械然として、その傍らに在るだけだ。
「それでは次の案件ですが……その前に、遅れてきた『暴漢』達を排除するとしましょう」 PC達が姿を現すのは、このコンパートメント席の中。 好きな登場シーンを決めてもらおう。

【解説】

 事件の裏で暗躍していた黒幕、フォーセイクン・ファクトリーが登場するシーン。エターナル・ウィドウが最期のスパークとして見せた光景としても良い。 PC達はこの電車に姿を現すことになる。電車を止めてしまってもいいし、動いている電車に乗り込んできてもいい。 後編への繋がりを考え、このシナリオでの「絶望」「汚名」は「戦闘不能」として扱い、このシナリオクリア後に回復しても良い(その場合、クリア報酬である成長点は渡さないほうが良いだろう)。「死亡」に関しては例外だ。「死亡」が発生した場合、どう処理するかは各卓のGMに委ねる。

【戦闘情報】

【エネミー】

・A-Z with ザ・ティーチャー(強化)・デラックスマン(強化)・ヴィランメンバー×3(通常)

【エリア配置】

エリア4:デラックスマンエリア3:A-Z、ヴィランメンバーエリア1or2:PC

【勝敗条件】

勝利条件:敵の全滅敗北条件:味方の全滅

【備考】

・1ラウンド目終了時点でマスターシーンが発生する

【リアクション例】

 GMは決戦中の演出として、デラックスマンとA-Zの様子をPLに分かりやすく提示することが好ましい(彼らの関係性は展開フェイズだけでは推測に頼らざるをえないからだ)。 特に、黒幕かと思われたデラックスマンが、実際には大きな『見落とし』をしているということは、PCにも分かるよう伝えられると、最後のマスターシーンへの繋ぎとして役立つだろう。
■【A-Zのリアクション】・使われるだけのガジェット。機械然としてデラックスマンの指示に従っている。PC達へ言葉を向けることはなく、感情的な面を覗かせることもない。・しかし、その裏で『何か』の演算を続けているようだ
■【デラックスマンのリアクション】・対A-Z「便利だろう? ちょうど使い勝手のいい外付けハードディスクが欲しかったところなんだ」「最近のパソコンは実に便利だ」(デラックスマンはA-Zのことをただの便利なガジェットとして扱い、個人としての自我を認めていない)
・対エターナル・ウィドウ「エターナル・ウィドウもキーン条例について嗅ぎ回っていたようだが、何の意味もなかった。ゴッズ・4・ハイアのエージェントは良い仕事をするよ、コストが嵩むのが少々傷だが」PC3がエターナル・ウィドウを殺している場合「君が殺してくれたんだって? ありがとう。おかげで大幅にコストカットできた」(エターナル・ウィドウの死を嘲笑い、キーン条例による勝利を確信している。反面その口ぶりから、PCたちには、デラックスマンはエターナル・ウィドウの『繰り返し』についてや、葬送法師らの言った『世界の変化』とやらについては気付いていないようだと察せられる)

■A-Z(with ザ・ティーチャー)

【エナジー】ザ・ティーチャーのものを使用する

【能力値・技能値】ザ・ティーチャーのものを使用する

【移動適正】地上・宇宙


【パワー】

■レーザービーム 基本ルールブック187頁『ザ・ティーチャー』のパワー参照。
■毒ガス 基本ルールブック187頁『ザ・ティーチャー』のパワー参照。
■記憶の継承 基本ルールブック187頁『ザ・ティーチャー』のパワー参照。
■テープ・ワーム属性:妨害・装備 タイミング:特殊 判定:科学120%射程:なし 目標:自身 代償:なし効果:ダメージ・ライフ減少を受けた直後に使用する。受けたダメージ・ライフ減少をショックに変換する。──電子生命体に肉体的損傷は無意味。……致命的な不運がない限り。
■トロイの木馬属性:妨害・装備 タイミング:特殊 判定:科学120%射程:3 目標:1体 代償:クレジット4効果:目標が「属性:攻撃」のパワーを宣言した時に使用出来る。目標は<意志>で判定を行う。判定に失敗した時、そのパワーの目標はA-Zが決定する。このパワーは1ラウンドに1回使用できる。──洗脳、幻覚、錯乱、ハッキング。その果てのフレンドリ・ファイア。
■コード・レッド属性:妨害・装備 タイミング:行動 判定:科学120%射程:3 目標:1エリア 代償:ターン10効果:目標のエリアに「強化結界:任意の技能」を付与する。このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──脳を掌握されたなら、操られぬヒトはなし。
■ロジックボム属性:攻撃・装備 タイミング:行動 判定:科学120%射程:2 目標:3体 代償:ターン10効果:目標は<追憶>+20%で判定を行う。この判定に「成功」したキャラクターは1d6+2点のショックを受ける。1点以上ショックを受けたキャラクターは<意志>+10%で判定を行う。意志判定に「失敗」したキャラクターは「朦朧、孤立、狼狽」のいずれかのBSを受ける(受けた側が決定する)。このパワーは展開フェイズ中でも使用できる。A-Zがシーンに登場している必要はない。──脳髄を揺さぶり心を削る電子ドラッグ。その走馬灯は、限界を超えてこそ色濃く蘇る。

■デラックスマン(強化)

【エナジー】既存ステータスを使用する

【能力値・技能値】既存ステータスを使用する

【移動適正】既存ステータスを使用する


【パワー】

■ブラックメール 既存のデータから目標を3体に変更
■デラックスビーム 既存のデータから目標を3体に変更
■軍事教練属性:強化 タイミング:特殊 判定:作戦75%目標:4体 射程:1 代償:クレジット4効果:行動順ロール直後に使用できる。ヘンチマンのみを目標とする。判定に成功した時、ラウンド終了時まで目標の与えるダメージを+4する。──教師の指示は的確だ。
■シークレット・デザイア属性:攻撃 タイミング:行動 判定:なし目標:3体 射程:3 代償:ターン5効果:目標は意志+20%の判定を行う。判定に失敗した人数分、グリットプールのグリットを減らす。このパワーは1ラウンドに1度まで使用できる。──欲望と勇気は対局に位置するものだ。
■「便利な道具」属性:妨害 タイミング:特殊 判定:なし目標:1体 射程:3 代償:なし効果:目標がダメージを受けた直後に使用できる。その攻撃の目標を、A-Zへ変更する。──「それは嫌だな。君、よろしく」

【マスターシーン:最初に戻って終わりから】

発生タイミング:決戦1ラウンド目終了時点登場キャラクター:全員舞台:???

【状況1】

 ファクトとの戦いは続く。 この戦いに勝利したとして、それで何を得られるのだろうか? ヴィラン組織の関与を明るみにすれば、キーン条例は消えるのか? エターナル・ウィドウが、葬送法師が、A-Z自身が言っていた『世界の変化』とは、この戦いのことだったのだろうか? ……エターナル・ウィドウが末期に口にした、『世界を救え』とは、この程度の戦いに勝つことを意味しているのだろうか? 疑問は尽きず、確証は得られない。それでも戦いは続く。 君の一撃が、ティーチャーと呼ばれたA-Zへと届かんとした、その瞬間のこと。 君はA-Zの声を聞いた。『鏡面迷宮(ラビュリントス)/解析終了(ウォッチアウト)』『偽りの彼方(ネガティヴ・プレーン)/座標補足(ポイントアンカー)』『この世界(プライムバース)/接続(アクセス)』
「……ティーチャー?」 戦いの中にあったデラックスマンが、訝しげな声をあげて振り返った。 A-Zはそれに答えなかった。 A-Zは最後のパワーを行使した。 その瞬間、君たちの世界は『消えた』。
『再起動(リランチ)』
----------------------------■再起動(リランチ)属性:- タイミング:- 判定:100%目標:プライムバース 射程:プライムバース 代償:プライムバース効果:君は世界をリランチし、君の望む形へ再形成することができる。   この効果は、判定に成功しても失敗しても発動する。----------------------------
(PLはそのPCが見た「世界の終わり」を自由に演出しよう。それはテレビの電源が落ちるように一瞬の出来事だったのかもしれないし、ゆっくりと迫りくる絶望であったのかもしれない。 PC達本人が「世界が終わった」と本能的に理解し、自身もまた消滅し次第、状況2へ進む)

【状況2】

 君たちの意識は混雑する。混線する。 自他の境界はあやふやになり、世界と個人の認識が入り乱れる。 ふと『我』に返った時、『君』の前には、無が広がっていた。 君はこの感覚を『知っている』。『知っている』と『自覚できる』。 夢見る癌が齎した夢から『目覚め』た、あの時と同じ感覚。 違うのは、『君』という存在の輪郭がもう長くは保たないと、君にも『理解できる』こと。 君の輪郭は、ページを破りとるように千切れていく。 抗えども。抗えども。あの時とは違う。 君という存在が、ページを破り捨てられるように蹂躙され、成す術もなく消えていく……。
 そんな時、PC2のポケットの中で、一枚の札が赤い光を放った。 赤い光と共に、瞬く間に燃え尽きていく札の光は、やがて一筋の光明となる。例えるならば、赤く細い蜘蛛の糸。 か細い糸は、途切れて消えるかに思われた。
 君はその糸に手を伸ばしただろうか。 『君』という自我が抗い、稼いだ、その数秒の『時間』が、世界を変える。「リセット」
 気付くと君たちは、君たちの肉体を確保したまま、鏡に囲まれた空間にいた。 空間はどこもかしこも真紅に彩られている。そして何より、床も、壁も、天井も、大量の鏡に覆われていた。 鏡に映るのは大量の「君」の姿だ。
「ッカー! あの大馬鹿め! 引き金を引いたのはよりにもよってアレか! 自分のことを賢いと思っている馬鹿の扱いが一番面倒なんだ! だから嫌いなんだ馬鹿め! 良い気味だ! 貴様だけ永遠に消滅してろ! ぺっ!」 荘厳で神秘的な空間には不似合いの、低俗な罵倒が響く。 声の主へと視線を向ければ、そこには……。「さて、この私が消滅する世界からお前たちを慈悲深くも拾い上げてやった訳・だ・が!」「説明が面倒だな。次回へ回すぞ、リセット」 フォーセイクン・ファクトリーの幹部の一人、『未来人バスカ』がそこにいた。

→第三話・後編へ続く
※PC3の【BS:記憶の継承】を解除してください※

【解説】

 マスターシーンにして実質の余韻フェイズだ。とはいえ通常の余韻フェイズとは違い、NPC主体のマスターシーンとなっている。詳しい解説は後編のエントリーで行うことになる。 世界の終わりについては、PC達個々人が「世界が滅んでしまった」「間に合わなかった」と(理屈はさておき、本能的に)理解できるようなものが好ましい。その為、GM主導で行うのではなく、各々のPLに自由に考えて演出してもらうのが良いだろう。PC同士が同じ滅びを目にしている必要すらないのだ。 喪われた世界をどう取り戻すことになるのか。物語は後編「ハウス・オブ・Z」へ続く。

6.シナリオ情報

【GM向け情報】

 作中情報の繰り返しにはなるが、各NPCの設定や目的に関して、ここで改めてより詳しくまとめておく。 GMは自由にイメージを膨らませながら遊ぶと良いだろう。

■A-Z

 このシナリオに於いて、A-Zは最初からファクトの支配下にある。 PC3のもとへ姿を現した理由は、PC達に固執するA-Z本人の意思と、ヒーローを排除しようとするザ・ティーチャーとしての思惑が重なった結果としてだ。ザ・ティーチャーとして、お気に入りのヒーローを悪意を以て陥れんとする欲望と、A-Zとして、実力を知っているヒーローに事態を悟らせたいという(そしてあわよくば自分の現状を脱したいという)打算の双方が働いている。 A-Zはファクトの支配下にある現状に対して、非常に苦々しい思いを抱いている。A-Zはセカンド・カラミティを引き起こしたフォーセイクン・ファクトリーのことが大嫌いなので、協力関係(と、いうよりも、いいように利用されている関係)にあることは心から本意ではない。その為、過去二度にわたる戦いで実力に一目置いているPC達へ接触して打開方法を探ると同時に、ザ・ティーチャーの記憶を利用し、自分の本来の目的にたどり着く方法を人知れず調べ続けている。その内密な努力は、多くの人々の不意を打ち、決戦時に遂に実ることになる。 エターナル・ウィドウの暗躍に関しては薄々勘づいており、ザ・ティーチャーの意志の誘導と合わせ、あわよくばPCを陥れる形で排除しようとしている。 しかしエターナル・ウィドウが自身の死を織り込んだうえで計画を練っていることまでは気付いていなかった。

■葬送法師

 エターナル・ウィドウの協力者であり、このシナリオに於いては間接的なヒーロー達の協力者としての立場を取っている。これは百寄夜會としてではなく、葬送法師という一個人としての協力だ(その為、彼としてもカシャネコにバレたくない)。 葬送法師がヒーロー達に協力する理由は、一つは「A-Zという付喪神への同情心」、もう一つは「人類の絶滅を避けるため」の二点にある。前者はさておき、後者に関しては彼にとっても複雑な動機ではあるが、少なくとも葬送法師は人が消えれば妖怪の存在もまた消えるということを客観的に理解している。 エターナル・ウィドウとの協力の内訳は「表向きはA-Z(とファクト)を騙すために対立関係を装い、その裏で情報共有を行うこと」「キーン条例が動き出した時、PC達を保護し、赤い札を渡すこと」の2点にある。 彼が世界線渡航のアイテムである赤い札を持っていた理由については不明だ。過去にコル・タウリと何らかの縁があったのかもしれないし、他の誰かから譲り受けたものなのかもしれない。

■エターナル・ウィドウ

 このシナリオに於いては、セカンド・カラミティを生き残った、唯一のG6オリジン代表者として扱う。 彼女はセカンド・カラミティの最中に、未来で何者かによって引き起こされるリランチ、それに伴う世界線の消滅を未来視してしまった。セカンド・カラミティという未曽有の災害を超えて尚訪れる滅びの未来を変える為、彼女は現場の部下を見捨て、その場からの逃走と生存優先を選択。その結果、唯一の生還者となった。 しかし彼女一人の力ではリランチを防ぐことは出来なかった。彼女は魔術によって幾度も過去へ飛び、一年という時間を繰り返しながら、リランチの原因とその対処方法を捜し続けた。葬送法師を味方につけることで世界線渡航の準備を整え、A-Zを止める為の縁を(あるいは揺籃の神々の加護を)持つ、PC三人の状況が整うのを待ち続けた。  彼女が最も危険視しているのは、A-Zの本当の目的(リランチ)と、それがティーチャーの記憶と合わさることで実現可能になってしまうという事を、ファクトに知られてしまうことだ。 そのためにエターナル・ウィドウは、ギリギリになるまで敵も味方も全てを騙し続ける必要があった。 最後に彼女はファクトとA-Zに彼女の思惑を悟らせないようにするため、かつPC達に必ず運命通りに世界線渡航を成し遂げさせる為、自身の死を以て運命を決定付ける。 本来は天真爛漫な善良な少女然とした人物だが、幾度もの時渡りと、運命を円滑に進めるために自身の手で引き起こした様々な悲劇によって精神をすり減らした結果、冷徹で無感情な雰囲気の人物となっている。表向きには、セカンド・カラミティを生還したことで人柄が変わってしまった、とされる。

■アーガット・オン・ザ・ゲーム

 このシナリオに於いて表舞台に出てくることは少ないが、裏で大いなる暗躍を見せている組織。主にアレイスター・クロウリーとモリーアティの動向について記す。 夢見る癌の集団蘇生事件の解決後、アーガットはA-Zの件には基本的には手を触れずにいた。単純に彼らにとってメリットも興味もなかったからだ(唯一関心を引く可能性があったフランケンシュタインは、集団蘇生事件の際の怪物との邂逅により、A-Zのやり方が気に食わなくなっていた)。 『偽りの彼方』について魔術的な側面からの調査を重ねていたA-Zは、プライムバースと後天的に接続された異世界『ヴィクトリアン・エラ』の創造主であるアレイスター・クロウリーの存在に注目し、彼のポータル技術に関して調査を行おうとした。しかしA-Z自身は知らぬことであったが、アレイスター・クロウリーは夢見る癌の集団蘇生事件を経て、A-Zの価値観と目的に対してはっきりと否定的な立場にあった(A-Zの理想とする「不死の世界」はクロウリーにとっては死ぬほど退屈な世界なのだ)。 A-Zはあっさりとクロウリーの魔術によって存在を捕縛され、出荷台に乗せられるようにモリアーティに引き渡された。クロウリーからA-Zを引き取ったモリアーティは、そこに「機械」としての価値を見出し、丁度記憶の継承に関して都合の良い外付けハードディスクを捜していたファクトへの商売に利用することにした。

■デラックスマン

 このシナリオに於いては、ファクト(というかデラックスマン)は黒幕としての立場と、噛ませ犬としての立場の双方を兼ねている。 セカンド・カラミティ以後、デラックスマンは「いざという時のため」に、記憶の継承を受けた者とは別に、ザ・ティーチャーの記憶を別途保存しておく為のデータデバイスを作れないだろうかと考えるようになった。それは本命の作戦というよりも、何かあったときのための保険、あわよくば程度の薄い計画でしかなかったが、そこにモリアーティが売り込みをかける。 幾人もの人間の記憶と知識を保管し、集合知を形成し得る、どこともつながりのない都合の良い人工知能の存在を知り、デラックスマンは試しにテストしてみることにした。 テスト結果は上々だった。A-Zは記憶というデータの保管能力のみならず、電子ドラッグとしての能力により「これまでに他者が収集し蓄えた知識を、別の他者へと洗脳し植え付ける」ことを可能としていた。この能力を活かし、ファクトはA-Zへ移したザ・ティーチャーの記憶を、より効率的に、より多くの人々へと植え付けることが出来るようになった。 この能力の実験として、デラックスマンはキーン条例が可決されるようA-Zに動かさせてみた。結果は大いにうまくいった。決戦前の描写に於いて、A-Zは議事堂内の政治家やスタッフ達、その場にいる全員に対して「ザ・ティーチャーの記憶」を継承させている。仮に決戦に通常通り勝利したとしても、最早この時点で日本は助からないだろう。 デラックスマンにとって誤算だったのは、A-Zという人工知能が想定以上の(本来のA-Zという存在からしてみれば身に余るほどの無謀な)野望を抱いていたということと、その野望を叶えるための知識が、ザ・ティーチャーの記憶の中に存在してしまったという不運だ。結果として、デラックスマンはA-Zがリランチへと至るための最後の引き金を引いてしまう形となった。 デラックスマンはエターナル・ウィドウが怪しい動きを見せていることを知ってはいるが、その本当の目的までは知らない(というよりも、キーン条例への対処に過ぎないだろうと認識している)。その為、エターナル・ウィドウのことは折を見て排除するつもりでいる。そのための手段がA-Zに洗脳されたヒーローの手によってか、ゴッズ・4・ハイアの暗殺者を雇ってのものになるかは、その都度の運命によって変化していくだろう。