天ノ海伝説
天ノ海伝説
あるとき、男と人魚が恋をした。
岩の間に尾が挟まって動けなくなった人魚を男が助けたのがきっかけだったという。
しかし、とある村人は言った。
「人魚は恐ろしい生き物だ。魚を食らうだけではなく、時には船をひっくり返す」
「人魚が寄る村で漁なんぞしたくねえ」
そのため、村人たちはある夜に青年を崖に呼び出すとそのまま突き落とした。
ごろごろ、ごろごろ。
青年はあちこちを岩にぶつけ、赤く染まって、ぴくりとも動かなくなった。村人は安堵した。これで、人魚がここに寄ってくることはないだろうと。
最初、青年の亡骸を見た人魚は、何が起きたのかわからずうろついた。青年から流れる赤い赤い液体に首を傾げ、男がきれいだといった貝殻をいくつも、いくつも、積み重ねた。
しかし、彼はもう動くことなどなかった。
人魚は理解した。もう彼は動かないのだと。すべては、あの夜。青年は、あの村人たちに殺された。
人魚は、嘆き、喘ぎ――怒った。
すると、彼女に応えるが如く、雲は厚化粧で太陽を隠し、雨は彼女の涙を誤魔化すように強く降り注いだ。海は怒りでごうごう唸り、とうとう雷様さえ走り出した。
それが、一日、一週間、一ヵ月と続くものだから、船なんぞ出せるはずもなく、そうなれば村は立ちいかなくなる。そして、とうとう飢え死にする者まで現れた。
村人たちは頭を悩ませ、そして決めたのだ。
彼らは、その日の夜、村で一番端正な顔の男を海に突き落とした。彼女の怒りを、贄で収めようとしたのだ。
すると、あれだけ荒れていた天気が嘘のように晴れた。
よかったよかった、と村人は喜んだ。
すると、ひょっこり海から顔を出す女がいた。
「もし、もし――私にも婿様をくださいな」