ギリシャの港町から生まれ、「ギリシャのブルース」として愛される音楽レベティコ。それは単なる旋律ではなく、激動の歴史に翻弄された人々の生き様そのものです。ユネスコ無形文化遺産にも登録されたレベティコの波乱に満ちた歴史と、マルコス・ヴァンヴァカリスら伝説のアーティスト10名を厳選してご紹介。ブズーキの音色に隠された、深く渋い「ギリシャの魂」を感じてみませんか?
レベティコを理解するには、ギリシャの激動の近代史を知る必要があります。
ルーツ(19世紀末〜): 最初は港町ピレウスなどの場末の酒場や刑務所で、社会の底辺層(マンガスと呼ばれる無頼漢たち)によって歌われていた「不良の音楽」でした。
1922年の悲劇(小アジア惨劇): トルコとの戦争に敗れ、小アジア(現在のトルコ沿岸部)から100万人以上のギリシャ人難民が流入しました。彼らが持ち込んだ東洋的な旋律(スミルナ様式)と、ギリシャ本土の荒々しいスタイルが融合し、レベティコが確立されました。
抑圧と検閲: 1930年代のメタサス独裁政権下では、歌詞の内容(麻薬や不道徳な表現)やトルコ風の音階が「不適切」として厳しく検閲されました。これにより、歌詞の内容は徐々に愛や日常の苦悩へと変化していきます。
黄金時代と復興: 第二次世界大戦後、ブズーキ(弦楽器)の巨匠たちが現れ、大衆音楽としての地位を確立。2017年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
レベティコの歴史を彩った伝説的な10人を紹介します。
アーティスト名
役割
特徴・備考
マルコス・ヴァンヴァカリス
歌・ブズーキ
「レベティコの父」。ピレウス・スタイルの創始者で、野太い声が魅力。
ヴァシリス・ツィツァニス
作曲・ブズーキ
レベティコを現代化し、ギリシャの国民的音楽にまで高めた最大の功労者。
ローザ・エスケナジ
歌
スミルナ(トルコ側)様式の女王。自由奔放な歌声で一世を風靡した。
ソティリア・ベッルー
歌
独特のハスキーボイスを持つ戦後のアイコン。彼女の歌声は「ギリシャの魂」そのもの。
リタ・アバツィ
歌
ローザ・エスケナジと並び称されるスミルナ様式の歌姫。
ヤニス・パパイオアヌ
作曲・ブズーキ
陽気なリズムを取り入れ、戦後のレベティコ人気を支えた巨匠。
アネスティス・デリアス
歌・ブズーキ
「伝説の4人組(テトラス)」の一人。麻薬で若くして亡くなった悲劇の天才。
ストラトス・パユムジス
歌
滑らかな高音を操る名歌手。多くの録音を残したレベティコの「声」。
マリカ・ニヌ
歌
ツィツァニスとのコンビで知られる。情熱的でドラマチックな歌唱が特徴。
マノリス・ヒオティス
ブズーキ
4弦ブズーキを導入した超絶技巧の革命児。レベティコをより華やかなスタイルへ変えた。
レベティコの核となる楽器は、洋梨型の弦楽器ブズーキ(Bouzouki)とその小型版のバグラマス(Baglamas)です。
歌詞の内容は、「貧乏、失恋、裏切り、刑務所、望郷」といった重たいテーマが多いのですが、それを悲劇として嘆くだけでなく、どこか開き直ったような「粋(いき)」を感じさせるのがこの音楽の醍醐味です。
まずは、マルコス・ヴァンヴァカリスの代表曲「フランゴシリアニ(Fragosyriani)」あたりから聴いてみるのがおすすめですよ!