エンドソーム二重膜上のホスファチジルセリンの非対称分布を制御する分子を同定(150116)

投稿日: 2015/01/31 12:19:55

The EMBO Journal 2015 Jan 16 e201489703 [Epub ahead of print]

Transport through recycling endosomes requires EHD1 recruitment by a phosphatidylserine translocase.

Lee S, Uchida Y, Wang J, Matsudaira T, Nakagawa T, Kishimoto T, Mukai K, Inaba T, Kobayashi T, Molday RS, Taguchi T, Arai H. (下線部は衛生化学教室)

ヒトを含む真核生物の細胞の膜は、脂質層が二層に重なった脂質二重膜から構成されています。脂質二重膜を構成する脂質の種類は、膜の表側(細胞外側)と裏側(細胞内側)とで全く異なっていることが知られており、例えば、脂質の1種であるホスファチジルセリンは細胞膜の内側の層にのみ存在する一方、ホスファチジルコリンは細胞膜の外側の層に多く存在します。このような脂質分布の非対称性は、フリッパーゼという一連のタンパク質が作り出していることが示唆されており、近年、このフリッパーゼ遺伝子の変異が、肝臓や脳の遺伝性疾患の原因になることが報告されてきております。しかしながら、フリッパーゼが作る脂質の非対称な分布がどのようにして生体の維持や疾患に関わるか、その分子機構は不明なままです。

当研究室では、細胞内小器官の1つエンドソームにおけるホスファチジルセリンの非対称な分布が、フリッパーゼの1種ATP8A1により制御されていることを示しました。そして、この非対称な分布が、膜輸送制御タンパク質であるEHD1をエンドソーム上に呼び寄せることで、エンドソームから細胞膜への物質輸送を制御することを明らかにしました。最後に、フリッパーゼの1つであるATP8A2の遺伝子変異による神経疾患が、EHD1を介した物質輸送の破綻に起因していることを示唆しました。

本研究は、脂質の非対称性分布が生体の維持に関わるメカニズムを分子レベルで示すとともに、フリッパーゼの変異による種々の遺伝性疾患の発症機構を解明するための大きな一歩になるものです。