ビタミンE結合タンパク質の新しい機能 ―クロロキン毒性を抑制する—(111206)

投稿日: 2011/12/14 13:06:04

J Biol Chem (2011) in press

A novel role for α-tocopherol transfer protein (α-TTP) in protecting against chloroquine toxicity.

Mototada Shichiri, Nozomu Kono, Yuta Shimanaka, Masaki Tanito, Daisy E. Rotzoll, Yasukazu Yoshida, Yoshihisa Hagihara, Hiroshi Tamai, and Hiroyuki Arai

クロロキンは抗マラリア薬として開発され、現在では全身性エリスマトーデス等の自己免疫疾患の治療にも使用されている薬です。クロロキンには網膜症などの重篤な副作用があることが知られており、日本でもクロロキンの副作用が社会的な問題となりました。クロロキンは細胞内の酸性オルガネラに蓄積し 、酸性オルガネラを破壊します。この作用がクロロキン毒性の原因と考えられています。

今回、私たちはビタミンE結合タンパク質(α-tocopherol transfer protein:α-TTP)が細胞内のクロロキン蓄積を抑制することで、クロロキン毒性から細胞を保護するというビタミンE結合タンパク質の新しい機能を発見しました。

α-TTPは私たちの研究室で精製されたタンパク質で、細胞内でビタミンEを運ぶことにより、体内のビタミンE量の維持に重要な役割をしています。私たちは以前にクロロキンを細胞に添加すると、α-TTPが酸性オルガネラに集まってくる現象を見つけていました(Gene Cells (2003)8, 789-800)。

そこでクロロキン毒性に対するα-TTPの影響を調べたところ、α-TTPが発現している細胞ではクロロキン毒性に耐性になることを見出しました。さらに、α-TTPを欠損したマウスにクロロキンを投与すると、肝障害や網膜障害といったクロロキン毒性が顕著にみられることが分かりました。培養細胞を用いてさらに解析を行ったところ、α-TTPはクロロキンが酸性オルガネラに蓄積するのを抑制していることが明らかとなりました。このα-TTPの効果はビタミンE量とは関係しないことから、ビタミンEを輸送する機能とはまったく異なる、新しいα-TTPの機能によることも判明しました。

α-TTPの遺伝子はヒトで変異が見つかっており、家族性ビタミンE欠乏症の原因遺伝子であることが知られています。α-TTPの機能と血中のビタミンE量は相関することから、血中ビタミンE量はクロロキン毒性のリスクファクターとなることが期待されます。