ホスファチジルセリンの逆行性輸送における重要性を解明!(110920)

投稿日: 2011/12/14 12:47:21

Proc Natl Acad Sci U S A. (2011) 108:15846-51.

Intracellular phosphatidylserine is essential for retrograde membrane traffic through endosomes.

Yasunori Uchida, Junya Hasegawa, Daniel Chinnapen, Takao Inoue, Seiji Okazaki, Ryuichi Kato, Soichi Wakatsuki, Ryo Misaki, Masato Koike, Yasuo Uchiyama, Shun-ichiro Iemura, Tohru Natsume, Ryusuke Kuwahara, Takatoshi Nakagawa, Kiyotaka Nishikawa, Kojiro Mukai, Eiji Miyoshi, Naoyuki Taniguchi, David Sheff, Wayne I. Lencer, Tomohiko Taguchi, and Hiroyuki Arai.

細胞内には様々な細胞小器官(オルガネラ)が存在しており、オルガネラ間ではタンパク質・脂質が、膜で覆われた輸送小胞によって活発に輸送されています。しかし、この細胞内輸送系において脂質がどのような機能を持っているかはほとんどわかっていません。今回、私たちは、形質膜(細胞の一番外側の膜)からゴルジ体へと至る「逆行性輸送」という輸送系において、「ホスファチジルセリン(PS)」という脂質が非常に重要な役割を持つことを発見しました。

逆行性輸送によって細胞に侵入する「コレラ毒素」を使って検討した所、コレラ毒素が形質膜から入ってきた後、「リサイクリングエンドソーム」と呼ばれるオルガネラを介してゴルジ体に運ばれることがわかりました。さらに、リサイクリングエンドソームにはPSが豊富に存在し、「evectin-2」というタンパク質が、PSとの結合を介してリサイクリングエンドソームに局在することも明らかになりました。そこで、evectin-2と逆行性輸送の関与を検討したところ、evectin-2の発現を抑制したり、evectin-2とPSとの結合を阻害すると、リサイクリングエンドソームからゴルジ体の逆行性輸送が阻害されることがわかりました。このような結果から、PSとevectin-2の結合が、ゴルジ体への逆行性輸送に非常に重要であることが明らかになりました。(モデル図参照)

PSの細胞内における機能はほとんど解明されておらず、今後もリサイクリングエンドソームを中心にPSの機能を明らかにしていきたいと考えています。また、この発見はコレラ毒素の細胞内輸送機構の一端を示したものであり、リサイクリングエンドソームを介した輸送を阻害することでコレラ毒素の毒性を減弱できる可能性を示しています。今回の発見が今後の抗毒素薬の開発に貢献することが期待されます。

この結果は、2011年9月13日発行の日本経済新聞に掲載されました。また、ウェブでも内容が詳細に紹介されています。(http://news.mynavi.jp/news/2011/09/14/008/index.html