好酸球の新機能を発見! -抗炎症性脂質メディエーターを産生し、炎症の収束を促進させる-(110225)

投稿日: 2011/12/14 9:59:19

FASEB J., 25, 561-8, (2010) Eosinophils promote resolution of acute peritonitis by producing proresolving mediators in mice.

Tomohiro Yamada, Yukako Tani, Hiroki Nakanishi, Ryo Taguchi, Makoto Arita and Hiroyuki Arai

急性炎症反応は、哺乳類の恒常性維持のために重要な生体応答であり、血管透過性が亢進し、好中球が炎症局所へ浸潤する初期過程と、好中球が消散し、マクロファージがアポトーシス細胞や組織屑を取り込みクリアランスする収束過程とに分けられます。炎症の初期過程についてはその分子機構がよく研究されてきましたが、収束過程についてはその分子機構は未だによく分かっていません。しかし、炎症の収束が適切に起こらないと、慢性炎症や組織障害を伴う病態(関節炎、動脈硬化、喘息、がんなど)へと発展してしまうと考えられており、炎症の収束機構を明らかにすることは、それらの疾患の予防・治療という点からも重要です。

私たちは、典型的な急性炎症反応のモデルであるザイモサン誘導マウス腹膜炎モデルを用いて、まず炎症の収束期にどのような細胞が存在するのかを詳細に解析しました。その結果、これまでマクロファージだと考えられていた細胞が実は2つの細胞群で構成されており、その1群が好酸球様の細胞であることを突き止めました。そこで、抗体を用いて好酸球を除去する系を確立し、その条件で炎症を誘導したところ、炎症局所に浸潤してきた好中球が消散しにくくなるという、まさに炎症の収束が遅延するフェノタイプが認められました。さらに私たちは、好酸球が除去されることでどのようなサイトカインや脂質メディエーターに変化があるかを網羅的に解析したところ、特に12/15-リポキシゲナーゼ(12/15-LOX)という酵素により生成する脂質メディエーター群が、好酸球の除去によって顕著に減少していることが明らかになりました。12/15-LOXは、アラキドン酸やEPA、DHAなどの多価不飽和脂肪酸を酸化する酵素で、例えばDHAはこの酵素により、抗炎症性脂質メディエーターのプロテクチンD1等に変換されます。実際に好酸球を除去すると、このプロテクチンD1の生成も大幅に減少していました。そこで次に、好酸球を除去したマウスにプロテクチンD1を投与したところ、好中球の消散の遅延が通常のマウス並に回復し、好酸球がプロテクチンD1などの抗炎症性メディエーターを生成することで、積極的に抗炎症作用を発揮している可能性が示唆されました。