膜リン脂質の脂肪酸組成変化により小胞体ストレス応答が誘導される(100520)

投稿日: 2011/12/13 8:58:39

J. Biol. Chem., 285, 22027-35 (2010) Decrease in Membrane Phospholipid Unsaturation Induces Unfolded Protein Response. Hiroyuki Ariyama, Nozomu Kono, Shinji Matsuda, Takao Inoue and Hiroyuki Arai

リン脂質は生体膜の主要な構成成分であり、リン脂質には飽和脂肪酸から高度不飽和脂肪酸まで、さまざまな脂肪酸が結合しています。生体膜リン脂質の脂肪酸組成は膜ダイナミクスや膜タンパク質の機能に重要であると考えられていますが、生体膜リン脂質の脂肪酸組成が変化したときにどのような細胞応答が起こるかはよくわかっていませんでした。

私たちは、不飽和脂肪酸合成に重要な酵素であるSCD1をHeLa細胞で発現抑制したところ、リン脂質中の飽和脂肪酸量の増加・不飽和脂肪酸の減少という脂質変化とともに小胞体ストレス応答が誘導されることを見出しました。さらにリン脂質に高度不飽和脂肪酸を導入する酵素であるMBOAT5/LPCAT3(News「生体膜リン脂質に高度不飽和脂肪酸を導入するリン脂質脂肪酸転移酵素を発見」を参照)を発現抑制すると、リン脂質中の不飽和脂肪酸含量が減少し、SCD1の発現抑制により誘導された小胞体ストレス応答が大きく増強されることがわかりました。

近年、飽和脂肪酸が細胞内に蓄積することによって起こる細胞障害(脂肪毒性)が、インスリン抵抗性、メタボリックシンドロームと密接に関わっていることが知られています。特に脂肪毒性が引き起こす病態において、飽和脂肪酸により誘導される小胞体ストレス応答の関与が非常に注目されています。今回の結果は、飽和脂肪酸により誘導される小胞体ストレス応答に膜リン脂質の脂肪酸組成の変化が関与することを示唆しており、脂肪毒性における膜リン脂質脂肪酸組成の重要性が今後さらに明らかになっていくことが期待されます。Nature Chemical BiologyのResearch Highlights(Nature Chemical Biology 6, 480–481 (2010))やNature Lipidomics Gateway(http://www.lipidmaps.org/update/2010/100701/full/lipidmaps.2010.19.html)においても本研究が大きく取り上げられています。